紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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第十話 狂気の理想、甦る異形の遺産

文化祭ステージが終了した後。

 

湾岸エリアの倉庫からは、極秘に上陸した米国特殊部隊が巻き起こした爆発による黒煙が上がっていた。

 

その爆発音は倉庫内とはいえ外に漏れており、その爆発音を聞きつけた野球少年ら三人が、そこを様子を見に訪れた。

 

 

野球少年の一人が危険を感じとり、早くその場を去ろうと提案した矢先に聞こえた絶叫と悲鳴が飛び交う。

 

少年たちが目の前を見ると、特殊部隊の服を着た男が二足歩行型ノイズとともに炭素となって消えていく場面だった。

 

その様子を呆然と見ていた少年らのもとに、先までその手に持つソロモンの杖でノイズたちを操り、米国特殊部隊全員を全滅させたウェルが現れる。

 

「おやおや?見られてしまいましたね。まぁ、こういう時は口封じが定番ですよね?」

 

「待てよ、ドクター」

「んん!?」

 

「ちょっと腹減ってんだ」

 

ウェルの近くにいたファンガイアが吸命牙を複数出して、恐怖で固まっていた野球少年全員のライフエナジーを吸い尽くしてしまう。

 

「ごっそさんっと。さて、来るかねぇキバは。ドクター、はしゃぎすぎんなよ。

 

ソロモンの杖を持っているからって油断は禁物だ」

 

「わかってますよ・・・。しかし、ソロモンの杖は本当に便利です。ノイズを召喚し放題操り放題!」

 

「・・・」

ファンガイアとしては、食料となる人間を減らすことしかできないノイズに良い印象は持てない。

 

それは護衛として付いてきた、金髪をツンツンにしている少年ファンガイアも例外ではない。

 

小さくため息をつきながら、ウェルの後に付いていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

特異災害対策機動部二課・仮設本部指令室。指令室に鳴り響く警報音。

 

 

「ノイズの発生パターンを検知!位置特定・・・ここは!!」

 

「どうした!?」

 

 

朔也の驚愕の反応に、弦十郎は先を促す。

 

 

「東京番外地・・・特別指定封鎖区域!!」

 

 

朔也のその場所を示す名称が述べられる内に直人も響も翼もクリスも、その場所がどこであるのかを察した。

 

 

「カ・ディンギル址地だとっ!!?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

―東京番外地・特別指定封鎖区域 カ・ディンギル址地―

 

 

 

かつてリディアン音楽院とその地下にあった二課の本部は、本部に通ずるエレベーターシャフトを模して造られた天貫く塔“カ・ディンギル”の屹立によって崩壊した。

 

その後、ククルカンの自爆によって破壊されたカ・ディンギルの残骸が残り、黙示録の赤き竜となったフィーネとの戦いでその周囲は荒野と化した。

 

そこかつての決戦の場に再び訪れた装者八人。

 

 

八人はカ・ディンギルの周囲を囲う隔壁の前まで迫る。

 

「ここが二課の本部跡地・・・。フィーネとの決戦の舞台だった所ね」

 

「凄い有り様・・・」

 

フィーネとの決戦時にはいなかったマリア、セレナ、調、切歌は周囲を興味深そうに見回す。

 

「デェス・・・お化けとか出ないデスよね?」

「・・・お化けはわからないけど、人がいるよ」

 

調の見る先に、人がいた。その場にいた人物は長身のもの一つだけだった。近寄ると・・・。

 

 

「お久しぶりの方はお久しぶり、そして初めましての方は初めましてぇ。

 

地球が誇る、てぇんさい科学者にして英雄となる男、ウェルですよおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

ソロモンの杖をその手に持つウェル、その人だった。

 

 

 

「ウェル博士、何を企てている!?」

 

「企てる?人聞きの悪い事を言わないで下さいよ。我々が望むのは、人類の救済!」

 

そうしてウェルが指さしたのは、自身の欠片によって土星と同じ、小惑星軍を輪のようにして纏った月だった。

 

 

 

「月の落下にて損なわれる無辜の命を、可能な限り救い出すことだ!!」

 

 

 

「月の落下!?」

 

「月の公転軌道は、各国機関が三ヶ月前から計測中!“落下”などと結果が出たら黙っている訳が」

 

 

「黙ってるに決まってるじゃないですかぁ?」

 

翼の言葉をウェルが遮り、事実を述べ立てる。

 

 

「対処方法の見つからない極大災厄など、更なる混乱を招くだけです。

 

不都合な真実を隠蔽する事は、どこにでもいくらでもあるのですよ!」

 

 

 

「・・・あぁぁぁぁぁ!!聞いててムシャクシャしやがる!!」

 

「キバット!?」

 

大声を上げて飛び出したのはキバット。目がつり上がっていて、怒っているのは明確だ。

 

 

 

「やいやいやい!黙って聞いてりゃあ下らねぇ事をゴチャゴチャと言いやがって変態ドクター!

 

しかも、そのゴチャゴチャした事を・・・"俺と同じ声"で言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

「はぁぁぁん!?同じ声ですってぇ?それはこっちの台詞だコウモリもどき!

 

僕もお前の声を聞いた瞬間・・・僕と全く同じで虫酸が走ったんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

 

 

キバットとウェル以外の者達は、二人の言葉にポカンとしてしまう。

 

 

そして、ポカンとなっている面々を無視してキバットとウェルが戦いを始めた。

 

キバットは飛び回りながら攻撃し、ウェルはソロモンの杖を武器にして振り回す。

 

 

 

「えぇい、ちょこまかと鬱陶しい!いい加減殺られろ!杉○ボイスは僕一人で十分だぁ!」

 

「うるせぇ!っていうか、メタ発言はやめなさい噛みつきぃ!」

 

「イタタタ!英雄となる僕を噛むとは、何て罰当たりな!」

 

「お前もソロモンの杖で殴るな地味に痛い!」

 

 

「こうなったら、ファンガイアの連中がしつこく僕に押し付けてきた、この武器を使うしかない!」

「ゲェーッ、洞○湖と彫られた木刀じゃねぇか!」

 

「更に甘ーいお菓子よ!僕に元気を分けてくれ!」

「ゲェーッ、お菓子を食べてエネルギーをチャージしているぅ!」

 

 

「これで僕は世界を救う英雄となる力を手に入れた!まずはお前から倒してやる!」

 

「上等だ!キバット様の力を見せてやるぜ!くらえ、エク○ペンタブル○ライド!!」

 

「舐めるなぁ!クラッ・・・じゃなくて木刀ヴォ○イ!」

 

 

 

キバットとウェル、全く同じ声をしている二人の戦いは余りにも低レベル。

 

装者八人、モニターしている二課の面々、全員がポカンとしていた。

 

ただ、隠れて見ている護衛として付いてきた少年ファンガイアは・・・。

 

「ブワッハハハハハハッハハハッハハハハハ!!」

大爆笑していた。

 

 

 

「「ギャーギャー!」」

言い争いながら戦い続ける両者だが、実力は拮抗していて、中々決着がつかない。

 

 

「・・・・・・いい加減にしろバカヤロー共があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

《MEGA DETH PARTY》

 

「「ギャアアアアアア!!」」

 

 

しかし、いち早く正気を取り戻したシンフォギア界のツッコミ役の一人、クリスがMEGA DETH PARTYでミサイルを放つ。

 

ミサイル全弾が一人と一匹に命中。黒焦げになって倒れた。

しかし、黒焦げになってはいるが無事だった。

 

 

「真面目にやれ」

「「はい・・・・・・」」

 

クリスの威圧感たっぷりの言葉に、キバットとウェルは了承するしかなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

数秒後。

 

 

「この世界では、今も人々は暮らしている。月の落下によってそれが全て失われているというならば、それを助ける!それが出来るのは、英雄となる僕だけだぁぁぁ!」

 

 

「何事も無かったかのように語り始めた」

「とんでもない切り替えの早さデス」

 

ジト目の調と切歌の言葉をスルーして、ウェルは語り続ける。

 

 

「英雄、英雄、英雄・・・あぁ、そうだ。僕は英雄となり人々を束ね正しき未来へ導く為に生まれたんだ。その為に僕は・・・」

 

ウェルはソロモンの杖を高々と掲げて、それを装者達に見せびらかすように掲げる。

 

 

「あらゆる物を使う!ソロモンの杖によるノイズを操る力を!僕自身が持つ科学の才能を!」

 

 

 

そこまで言ったウェルはソロモンの杖を使い、ノイズを何体も召喚した。更に隣に、金髪の少年が現れた。

 

 

「おうドクター。見てるだけっていうのも退屈だから、俺も混ぜてくれよ」

「あなたですか。まぁ良いですよ」

 

 

「サンキュー。・・・さて、久しぶりだな紅。お前が美穂と初めて戦った時以来かね」

 

「・・・あぁ。あの時、君が彼女を落ち着かせて撤退させたんだっけ」

 

「だってよぉ、あのまま放っておいたら火の海の出来上がりってくらい美穂が激しかったし。

 

まぁ、今時は肉食系女子っていうのが多いみたいだし・・・あ、違うか」

 

 

少年は笑みを浮かべながら当時の事を思い出していた。

その姿は人間らしいが、ただ者ではないのは確かだ。

 

 

「まぁいいや。初めましての奴もいるから、自己紹介っと。

 

俺は、轟木 零士(とどろき れいじ)。終焉の革命団幹部。まぁよろしくな。シンフォギア装者の、かわい子ちゃん達」

 

 

優雅に一礼した零士。しかし、頭を上げた直後、ファンガイア態へと変わった。

 

 

頭に二本のクワガタムシの角が前向きに生えている。肩や足にもクワガタムシの角の形をしたパーツが付いていて、全体的に刺々しい。

 

両手には、銃口が縦に二つ付いている形の銃を持っている。これが彼の武器だ。

 

 

 

共存反対派、終焉の革命団幹部の一人、轟木 零士。

 

クワガタムシの性質を持つ、インセクトクラス、スタッグファンガイアだ。

 

 

「更に更に、今回はスペシャルゲストも来ているぜ!」

 

零士が指を鳴らすと、魔術で作られた異空間が開く。それはどんどん大きくなり、その中から一体の怪物が姿を現した。それは・・・。

 

 

「「「「ネフィリム!?」」」」

 

マリア、セレナ、調、切歌が驚きの声を上げた。しかし、無理もない。

 

現れたのは六年前、直人によって倒されたハズの生物型完全聖遺物、ネフィリムなのだから。

 

「どうしてネフィリムが!?直人が倒してくれた筈なのに・・・!」

 

「再生したんですよ!ネフィリムが倒されたとき、心臓となるコアは残っていました。それをファンガイアが回収して再生。

 

聖遺物を食べさせながら成長させたんですよ。こいつも必要な存在ですからね!」

 

ウェルが語る間も、唸り声を上げて装者達に威嚇するネフィリム。

 

 

すると、この場にエンジン音が響く。

「何だ?」

 

 

その方を見ると、二台のバイクがやって来た。停車し降りてきたのは、名護 啓介と登 大牙だ。

 

 

「啓介さん!兄さんも!」

「弦十郎さんから協力要請を受けて、駆けつけてきた」

 

『任務を伝えた時から嫌な予感がしたからな。協力を二人にお願いした』

 

弦十郎が通信で伝えてくる。

 

「俺達も加勢する、共に戦おう」

「ありがとうございます、心強いです」

 

 

「現キング、"裁きの蛇"に"白騎士"まで・・・いいな、盛り上がってきた!」

 

「僕が英雄になることを邪魔する奴は、許さないぞおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ガアァァァァァァァァァァ!!」

 

 

零士は興奮し、ウェルは叫び、ネフィリムは雄叫びを上げた。ノイズも戦うのを待っているようだ。

 

 

「僕達も・・・。キバット!」

「おう、キバって行くぜ!」

 

「大牙さん、俺達も戦うぞ」

 

「もちろんだ・・・サガーク!」

「○◇△□!(ボク、ガンバル!)」

 

直人はキバットを、啓介はイクサナックルを、大牙はサガークを巻いてジャコーダーを手にして・・・。

 

 

「「「変身!!」」」

 

 

キバ、イクサ、サガに変身した!

 

 

「裁きの刻だ!」

「その命、神に返しなさい!」

「王の判決を言い渡す、死だ!」

 

「皆さん、私達も!!」

「「「はい!(えぇ!)(おう!)」」」

 

 

瞬間、それぞれが戦う組み合わせに瞬時に別れた。

 

 

直人、啓介、大牙 VS 零士

 

装者七人 VS ネフィリム、ウェル。

 

 

そして、皆が一斉に動きだし、激突した。

 

 




次回予告


それぞれが、それぞれの思いを胸に戦う。相容れない者同士は力をぶつけ合う事しか出来ない。


第十一話 熾烈な戦、激突する力(前編)


力と力がぶつかって、言葉と言葉がぶつかって。それは何も生まないと、わかっているのに。


ーーーーーーーーーー

中の人が同じ、キバットとウェル博士の戦いは書いてて面白かったです。チャンスがあれば、また書きたいですね。


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