テイピアファンガイアとの戦いから数日後。
リディアンの学園祭開催が後少しまで迫っている日の夜。
直人は、翼に電話をしていた。
「もしもし、翼。直人だけど」
『直人?どうしたの?』
「リディアンの学園祭が近いけど、準備は順調?」
『うん、皆で頑張っているから大丈夫』
「翼のクラスには絶対に行くからね」
『嬉しいけど・・・ちょっと恥ずかしいな』
「翼もクラスの出し物に出るとなると、カメラが必須かな」
『あ、あまり撮らないで・・・』
「それは無理だね。翼のかわいい所をいっぱい撮るからさ」
『いじわる・・・』
「ごめん。所で、翼は次の日曜日は空いてる?」
『えぇ、大丈夫。その日は仕事も休みだけど・・・』
「その日に、一緒に行きたいところがあるんだ。翼にプレゼントがあるからね」
『プレゼント・・・?』
「当日のお楽しみだよ。じゃあ、お休み」
『う、うん・・・』
通話を切ると、クリスが出て来て、ジト目で直人の前に立ちふさがる。どうやら、先程の話を聞いていたようだ。
「・・・」
ほっぺを膨らませて拗ねている、それでいて何かを期待しているような、そんな感じである。
直人はクリスが何を思っているのかを少し考えて、言った。
「クリス、学園祭は一緒に行こう。他の人達とも回ることになるだろうけど、クリスと一緒に行く時間も作るから」
そう言うと、クリスは嬉しそうな笑顔になり、それに気付いて慌てて顔を背ける。
「しょ、しょうがねぇな・・・そういう事なら学園祭は一緒に回るぜ・・・一緒に、な」
顔を背けているが、真っ赤なのが丸わかりだ。直人は学園祭当日は楽しくなる事を予感していた。
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日曜日。直人は翼と一緒にその場所を訪れていた。
ちなみに、直人から動きやすい服装で来てほしいという事でTシャツと長ズボンを着ていた。
そこは、素晴らしき青空の会の研究所、青空工学研究所だった。
「ここは・・・」
「青空の会が保有する施設。プレゼントはここにあるよ・・・啓介さん!」
「二人とも、来てくれてありがとう」
「こんにちわ。それで直人、渡したい物って・・・」
「俺が案内する、付いてきなさい」
直人と翼は啓介に付いていき、施設内を進む。
進む内に、とある部屋の前に着いた。そこに入ると、内部は広いガレージのような所だ。
周囲に様々な機材が置いてあり、数人の職員がいた。
そして、部屋の中央には一台のバイクが置かれていた。
メタリックブルーのバイクであり、形はイクサが乗るイクサリオンに似ている。しかし、ボディの一部にはマシンキバーのようなゴシックテイストな意表が施されている。
「これは・・・!」
「これだよ、翼にプレゼントしたかったのは」
「このバイクは、青空の会の技術と直人君が使っているマシンキバーの技術を組み合わせて作られた、スーパーマシンだ」
このバイクは、青空工学研究所の技術者とマシンキバーを開発したキバット族の一人、モトバット16世が共同で開発したのだ。
「翼、バイクが好きでしょ?それに無茶な運転ばかりして正直不安でさ。
それで、翼の全力の運転に耐えられる・・・翼専用のバイクを用意することにしたんだ」
「私専用!?」
「うん、これが翼へのプレゼント」
翼は目をキラキラと輝かせてバイクを見る。
すると、翼の前にキバットともう一体のキバットが現れた。
「サンキューなモト君!」
「お安いご用ス~、僕の芸術に不可能は無いノノネ」
もう一体のキバットは、キバットと似ているが目はタレ気味で丸っこいデザインだ。
「おう翼!モト君連れてきたぜ」
「こんにちわッス、モトバット16世ッス~、よろしくナノネ~」
「あ、あぁ・・・バイクをありがとう・・・」
「いえいえいえ~。お気になさらずずずいっと~」
モトバット16世は、キバット族の中でも優れた技術者であり工芸家なのだが、喋り方が変という癖を持つ。
モトバット16世の変な喋り方に戸惑いながらも、何とか返事できた。まぁ、翼もこんな喋り方の者に初めて出会ったのだから仕方ない。
「このバイクの名前は、マシンウインガーですッスネ~」
啓介はポケットからマシンウインガーの鍵を取り出して、翼に渡す。
「試運転用のサーキットがある。運転してみるか?」
「はい!もちろんです!」
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サーキット内。翼はヘルメットをかぶり、マシンウインガーを発進させた。
(凄い・・・!今までのバイクとは比べ物にならない!)
翼は運転しながら、マシンウインガーの性能の良さに驚いていた。
内心で興奮しながらも、運転をしてコツを掴んでいく。
そして、運転を終えて直人達の所へ戻ってきた。
「どうだった?」
「・・・凄い。本当にそれしか言えません」
「気に入ってもらえた様で良かった。これからも使い続けてほしい。そうすれば研究所の皆も喜ぶ」
「はい!」
啓介の言葉に頷く翼。翼は愛機を手に入れたのだった。
喜ぶ翼だが、その喜びの時間を壊す者が現れた。
ブオオォォォォン!!とバイクのエンジン音が響き、サーキット内部に侵入者が現れた。
「見つけたぜ、閃紅の魔皇!」
「見つけたあぁぁ!」
その侵入者は、長身の男二人だ。黒い革ジャンを着てサングラスをかけていた。
二人の男は顔にステンドグラスの模様を浮かべて、ファンガイアへと姿を変えた。
ビーストクラス、猪の性質を持つボアファンガイアだ。
しかも、二人とも同じ姿だ。
二人とも同じ姿と力を得て生まれたのだ。その事を知った二人は意気投合してコンビを組んで様々な事をしてきた。
二人のボアは革命団の一員であり、上層部からキバの捜索と討伐を依頼されたのだ。
バイクに乗って探していたが、先程発見してここまで来たのだ。
直後、ファンガイアの侵入を知らせる警報とアナウンスが響き、慌ただしくなる。
「しかもイクサ・・・"白騎士"に"蒼剣の歌姫"までいやがる!」
翼達は、共存反対派のファンガイアによって装者にも二つ名が付けられている事は知っており、これまでにも何回か呼ばれた事がある。
「お前ら全員を倒せば幹部昇進!とゆーわけで増援召喚だ!」
ボアAは魔術を使い、再生態を二十体召喚した。
「閃紅の魔皇!てめーの相手は俺達だ!俺達の走りについてこれるか!?」
ボアBがバイクのアクセルを吹かし、挑発する。
「再生態は俺が引き受ける。直人君はバイクに乗ったファンガイアを相手してくれ」
「わかりました。キバット!」
「おうよ!キバって行くぜぇ!」
「変身・・・」
キバに変身した直人。自動操縦でやって来たマシンキバーに乗り、二人のボアと対峙する。
すると、翼も天ノ羽々斬のシンフォギアを纏い、マシンウインガーに乗って直人の隣についた。
「一緒に戦う」
「わかった」
短く言葉を交わし、にらみ会う両者。
「あいつを呼んどくか」
「そうしよう」
キバットの言葉に直人は頷き、金色の像のフエッスルを取り出してキバットに吹かせる。
《ブロンブースター!》
メロディが響き、キャッスルドランから大きな像が射出されると直人の元へ瞬間移動してやって来た。
黄金の魔像、ブロンだ。ブロンは二つに別れてマシンキバーを挟む様に合体した。
ブロンは様々な物質に合体・融合し、秘められた魔皇力によって合体・融合した物の性能を大きく向上させるという能力を持っている。
ブロンをマシンキバーに合体させる事でブロンブースターとなり、マシンキバーの性能を大きく上げた。
「そんな物まで作ったの・・・ファンガイアというのは・・・」
「ファンガイアの技術力は本当に凄いから」
そして、皆の準備が整った所で・・・バイクに乗った四人は一気に加速してサーキット上を出て行く。
「さて」
啓介は二十体のファンガイア再生態に囲まれているが、全く動じていない。
ベルトを巻いて、イクサナックルを構える。
《レ・デ・ィ》
「変身!」
《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》
イクサに変身した啓介は、一つのフエッスルを取り出す。
それは、今までのとは違う、白と金色のフエッスルだ。
「試験では使ったが、実戦で使うのは初めてだ」
イクサの新装備を呼び出すフエッスルだ。啓介はフエッスルをベルトに入れて読み込ませた。
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ボア二体と、直人と翼は道路を猛スピードで走り抜ける。途中で高速道路に入り、一般道路以上のスピードで走る。
先を走っていたボアBが銃を生成して、後ろの二人に向けて発砲する。
直人と翼はかわしていくが、ボアAが剣を生成して方向転換、翼に向けて速度を維持したまま斬りかかる。
翼は横に動いてかわすが、二人は引き離されてしまう。
しかし、直人も翼も慌てていない。
お互いに大丈夫だと信じているから。
翼はボアAと、直人はボアBと走り出す。
直人はブロンブースターの火をふかせて更に加速。その時速はかなりのものだ。
ボアの運転するバイクも改造がされている為か、かなりのスピードが出ている。
ボアBは再び発砲。直人はかわすが、ボアBが空いている左手から魔術による炎弾を放つ。
それは大きく、道路に当たった途端に大きな爆発を起こす。しかし、直人はそれを物ともせず突っ切って遂にボアBを追い越した。
「俺の前を走るなあぁぁぁぁ!!」
ボアBは追い抜かれた事に怒り、銃を乱射する。
直人は更に加速して、ある程度引き離してから百八十度回転してボアBと向き合い、アクセルを最大にしてボアBのバイクに急速接近。
ボアBも負けずと加速。直人とボアBは衝突するのではなく、直人が少し右によって衝突を避ける。
そして、すれ違い様にキバは左足のキックをボアBに当てる。
キックを受けてバイクから落ちて倒れるボアB。
バイクはよろけて横の壁にぶつかり転倒、爆発した。
「ぐああぁぁ・・・」
痛みでうめくボアB。直人はマシンキバーを止めて降り、歩いて接近する。
そして、ウェイクアップフエッスルを吹かし、ダークネスムーンブレイクを発動。
三日月浮かぶ夜となり、ジャンプキックを放つ。
ボアBは銃を連射して直人に抵抗するが意味をなさず、そのままキックが直撃。
増幅された魔皇力を一気に流し込まれ体が爆散した。
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時間は少し戻る。マシンウインガーを駆る翼は、アームドギアを持ってボアAを追いかける。
ボアAも剣を持ったまま走る。
「お前も悪しきファンガイアならば、防人として貴様を倒す!」
「んだとぉ!?」
翼は歌を歌いながらマシンウインガーに搭乗した状態で前方に脚部のブレードを巨大な刃状に展開して結合し、突進を繰り出した。
《騎刃ノ一閃》
ボアAも剣を構えて突進をするが、翼のマシンウインガーの方がボアAのバイクを切り裂いた。
ボアAは爆発する前にバイクから飛び降りた。道路に倒れたが何とか無事のようだ。
バイクは真っ二つに斬られ、少ししてから爆発した。
「くそぉ・・・」
「・・・終わりにしよう」
翼が意識を集中すると、アームドギアの刀に紅い光が纏われる。
これは、魔皇力だ。紅色であるから、直人の魔皇力である。
以前のフィーネとの決戦の時に、翼と響とクリスは直人と繋いだ手を通して魔皇力を注ぎ込んで技を放った。
その際に、三人に魔皇力のパスが繋がったのだ。
パスを通して直人から魔皇力を分けてもらう事が可能になっており、魔皇力を注げばシンフォギアでファンガイアにダメージを与え、倒すことも可能になったのだ。
翼は直人の魔皇力を分けてもらい、アームドギアに纏わせたのだ。
人間も魔族の一種である故に、人間にも魔皇力は宿っており使うことも出来る。
人間でも素質や才能があり、なおかつ相応の訓練を積めばパスが無くても自分自身の魔皇力を操り使うことが可能になる。
しかし、三人はまだその域に達していない為、直人から魔皇力を借りるしかないのだ。
翼のアームドギアに、魔皇力を纏わせて構える。ボアAも力を溜めて、雄叫びを上げて走る。
翼は神経を集中し、襲いかかるボアAを見据え・・・・・・。
すれ違い様に一閃!翼の一閃がボアAに命中し、ダメージを受けてよろける。体に傷も出来ていた。
翼はすぐに体を回転させてボアAの方を向いて、アームドギアで数回斬りつける。そして・・・。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「がはぁっ!?」
アームドギアで、ボアAの腹を貫いた。刀身が腹を貫通し、突き出ている。
「ば、かな・・・人間、ごときに・・・!?」
「罪無き人々の命を奪い、そして・・・直人を、私の大切な人を殺そうとした報いだ」
「この結末が、お前の裁きの刻だ」
翼が直人の台詞を言い、アームドギアを抜いた。
ボアAの体は砕け散り、ステンドグラスの体組織が散らばる。
シンフォギア装者が、悪のファンガイアを倒した初めての瞬間だった。
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「翼!」
「直人!」
翼が倒してすぐにマシンキバー(ブロンブースター合体済)に乗って直人も合流。
変身を解いた直人は、散らばるステンドグラスを見て、察した。
「そっか、翼がもう一体を倒したんだね」
「やったじゃねぇか、翼!シンフォギア装者初の快挙だ!」
「あぁ。ありがとう直人、キバット」
翼は少し考えて、自分の思いを語る。
「直人、私・・・ファンガイアを初めて倒したの。でも、いくら共存反対派の一員で人を襲い続ける悪であっても・・・命ある者を殺した様で、良くない気持ちになった」
「・・・僕も初めてキバに変身してファンガイアを倒したとき、同じような気持ちになった。翼はどうする?もう嫌になった?」
「・・・ううん、私はこれからもファンガイアと戦う。これが罪だというなら、私はその罪を背負ってそれでも前に進む」
ハッキリと断言する翼。その強さを認めた直人とキバットは頷いた。
「わかった。でも、無理はしないでね。もし辛く感じる時が来たら、遠慮なく頼って甘えてほしいな」
「直人だけじゃあ無いぜ、タッちゃんに響にクリス、二課の皆もいるからな。もちろん、このイケメンなキバット様もな!
あ、翼。何なら今日の夜は、俺を抱き枕にして寝ても良いぜ。良い夢見心地をプレゼントだ!」
「ふふ・・・キバットは体が固そうだから、抱き枕には向かないな」
「ガビーン・・・」
陽気に話すキバットに、直人も翼も笑顔になった。
ここで、直人は啓介に電話をかけた。啓介はもう戦いを終えていると思ったからだ。
「もしもし、直人です。終わってますよね」
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「ふ、当然だろう」
啓介はイクサに変身したままスマホで直人と通話していた。周囲には倒された再生態二十体、全ての体組織が散らばっていた。
そして・・・啓介の変身するイクサはセーブモードでもバーストモードでもライジングでもない、「新たな姿」となっていた。
「新しい力の訓練に丁度良かったぞ」
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「そうですか・・・ありがとうございました。僕達もそちらに戻ります」
通話を終えた直人は、翼と向き合う。
「一緒に帰ろう」
「うん」
二人は変身を解いて、マシンキバー(ブロンは離れて戻っていった)とマシンウインガーに乗って研究所へ戻っていった。
夕暮れの光が、並んで走る二人を優しく照らしていた。
次回予告
遂に始まる、リディアンの学園祭。そこには様々な者が集う。そして、一人の少女が己の気持ちを歌にする。
第九話 始まる祭り、歌われる想い
日常の中で芽生えた想いは、尊く儚い。だからこそ、暖かくて大切なのだ。
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イクサの新しい姿の詳細はまだ秘密です。次回で原作の話が進みます。
学園祭では、直人とヒロイン皆の交流を書きたいと思っています。