紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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お待たせいたしました。

忙しくて中々更新できませんでした。




第十二話 幹部襲撃、貫く拳

「どうして・・・?」

 

 

数年前、一人の少女は、大切なものを失った。

 

それは、少女に絶望と・・・暗い決意を与えることになった。

 

 

 

 

 

 

響と未来の和解から二日後。

 

今日この時は、翼が退院出来る日である。

 

最後のメディカルチェックで問題ないと、医者からも許可が出たため、退院が認められた。

 

装者として戦い、ステージに立って歌うことは大丈夫になったのだ。

 

検査の後。

翼は今、病院服からリディアンの制服に着替えている途中である。

 

 

 

(やっと退院・・・これでまた歌える、戦える。そして・・・)

 

 

翼の脳裏に、直人の姿が浮かぶ。

 

(直人と一緒に・・・)

 

ある程度考えた所で、顔を赤くしながら首を横にふる。

 

 

(だ、だめ・・・こんな、はしたないこと・・・!)

 

一体何を考えたのか、顔が更に真っ赤になった。

 

 

翼も、直人に恋する女の子。好きな人で妄想をするのも当たり前である。

 

すると、ドアのノックの後、看護師の声が聞こえた。

 

 

「あの・・・風鳴さん?着替えに時間がかかってるみたいですけど、大丈夫ですか?」

 

 

「あ・・・すみません!」

 

ドア越しに返事した翼は、自分の姿がまだ下着姿であると確認。慌てて制服を着て部屋を出た。

 

 

看護師と少し話をして、病室を出る。

荷物は既に住んでいるところに送っているため、最低限の荷物だけで済む。

 

 

廊下に出ると、翼を待っていた人物がいた。

 

 

「翼」

直人だ。直人は翼を笑顔で迎え入れた。

 

翼の側まで来て、そっと手を握る。

 

 

「おかえりなさい」

「あ・・・」

 

直人が翼にかけた言葉。それは、再会したときとは逆であった。

しかし、直人からそう言ってもらえたことが嬉しくて・・・。

 

 

「うん、ただいま」

微笑んだまま、翼は直人に言ったのであった。

 

 

 

 

同時刻。カフェ「マム・ダムール」内。

 

ここで、啓介と恵と嶋の三人が話し合っていた。

 

三人の表情は、とても険しい物だった。

 

原因は、嶋の持ってきた資料。そこに記載されている人物についてだ。写真もついている。

 

 

「共存反対派の幹部・・・その内の一人が本格的に動き出したのですか・・・」

 

 

「あぁ。会員が掴んだ、確かな情報だ」

恵が資料についている写真を見ながら、静かに呟く。

 

 

「この幹部は、確か、十ヶ月前に・・・」

「そう。十ヶ月前、発足したばかりの共存反対派の一員として現れて、直人君が戦っても倒せなかった、強敵だ」

 

 

嶋はうなずき、二人に告げる。

 

 

「このファンガイアは、複数いる共存反対派の幹部・・・その中で唯一顔と名前が判明している。

逆に言うと、こいつ以外の幹部の詳細は一切不明だ」

 

 

「気をつけないといけませんね。このファンガイアの強さは、かなりのものですから」

 

「それに、動いている目的も不明なままです」

 

 

「あぁ。二人には、最新の注意を払って欲しい。もし動き出したら、すぐ動ける様にして欲しい」

 

「はい!」

 

「丁度、青空の会が開発した、『エネミーファンガイアサーチャー』・・・通称『EFS』がありますからね」

 

啓介と恵が、スマホサイズの銀色の四角い端末を取り出した。

 

 

エネミーファンガイアサーチャー・・・EFSは、青空の会が開発した、人間を襲うファンガイアの反応を感知し、知らせてくれる機能がついている。

 

更に、害意を持つ者のみに反応し、善良なファンガイアには反応しない、というご都合主g・・・もとい、便利な機能となっている。

 

ファンガイア以外の種族に関しては、共存に賛成していて人間を襲っていないため、他の魔族の感知機能は除外している。

 

共存を受け入れてくれた魔族達を信用してこそである。

 

「とにかく、現状は幹部の動きに注意して、いつでも行けるようにします」

 

「あぁ。頼んだ。・・・・・・だが」

 

「どうかしましたか?」

渋顔になる嶋に、恵が訪ねると、こう言った。

 

 

「このファンガイアを見ていると、何かを感じる。

これは、そう・・・まるで、無理をしている子供を見ているような」

 

そう語る嶋の目には、「まだ幼さの残る」幹部の姿が映っていた。

 

 

 

 

翼と直人は二人で一緒に街中の公園に来ていた。

崖の上に作られていて、街を一望できる所である。

 

 

崖の上、そこにある木で作られた椅子とテーブルの一式があるところまで来た。

 

直人はバイオリンケースからバイオリンを取り出した。

 

それを見た翼は、少し驚いた。そのバイオリンは、翼もよく知っている物だからだ。

 

 

「直人、そのバイオリン・・・もしかして、直人の父の・・・」

「うん、ブラッディ・ローズ。お父さんの形見」

 

 

それは、ブラッディ・ローズ。直人の父親、紅 音也が作り出した、世界最高のバイオリン。

 

 

「翼には、今の僕に出来る、最高の音楽を聞いて欲しい。だから、これを持ってきた」

 

「・・・直人、ありがとう」

 

 

翼はお礼を言うと、目をつむった。

 

寝ているのではなく、翼は直人の演奏を聞くときは、聞くことに集中するため目を閉じるのだ。

 

 

そして、直人はゆっくりと演奏を始めた。

 

 

その音色は、二年前よりも上手くなっており、自然と心に響いてくる。

 

翼は再び直人の演奏を聞けたことを・・・そして、直人が帰って来た事を実感し、心の底から喜んでいた。

 

 

ポン♪

 

弦の弾く音で、最後の演奏が終わる。

 

翼は目を開き、感想を述べた。

 

 

「・・・とても、とても良かった。

二年前よりもずっと上手くなってて、すごく・・・感動したわ」

 

「お褒めくださり、ありがとうございます」

 

優雅に一礼する直人。翼も微笑んでいると、横から知った声がかけられる。

 

 

「あ、直人さん!さっきの演奏は直人さんの・・・わ、翼さん!?退院出来たんですね!」

 

「こんにちわ」

 

「響ちゃん、未来ちゃん」

 

声をかけたのは、響と未来だ。しかも、来ているのはそれだけではない。

 

 

「え、うそ!そこにいるのって、もしかして風鳴 翼さん!?まじで本人!?しかもイケメンもいる!」

 

「うそー、まさかビッキーについていったら超有名人に会っちゃった。そして確かにイケメンだ」

 

「立花さん、小日向さん。このお二方とお知り合いなんですか?」

 

 

響と未来の後ろから、三人の女子が姿を見せた。

 

リディアンの制服を着ていることから、二人の友人らしい。

 

三人が直人と翼に自己紹介を始めた。

 

 

「初めまして!私は板場 弓美!

好きなものはマンガ&アニメ。好きな歌はアニソン全般!よろしくお願いしまーす!」

 

 

「安藤 創世です。くりよ、です。変わった名前ですけど、ビッキーとヒナの友達です。よろしくお願いします」

 

 

「立花さんと小日向さんの友達、寺島 詩織と申します。よろしくお願いいたします」

 

 

直人と翼も自己紹介したあと、七人での話になる。

 

翼が、二人きりの時間が終わってしまった事を残念に思いつつ、話に加わる。

 

 

「さっき聞こえた演奏は、紅さんだったんですか」

「いやー、どうせなら私もちゃんと聞きたかったですよ」

 

 

「あはは・・・じゃあ、時間のあるときに、君たちに小さなコンサートでも開こうかな」

 

「え!?いいんですか!?」

「うん。仕事もあるからすぐには無理だけど。いつかは、ね」

 

「やったー!ありがとうございます!」

 

「いやーしかし、あの風鳴さんと面識が持てるとは!」

 

 

「・・・私、自分で思ってる以上に有名なのか?」

 

「翼さんは超有名人ですよ!ファンの一人である私が言うんだから、間違いありません!」

 

「響はCDを初回限定盤で全部揃えてますから」

「勿論、僕もね」

 

「そうか・・・ありがとう」

 

七人で話をしていく内に、あっという間に時間が過ぎる。

すると、弓美が腕時計を見た。もう一時間以上過ぎている。

 

 

「あ、ヤバイ。そろそろ帰らないと!」

「本当だ!すみません、私たちはこの辺で・・・」

 

「お話ししてくれて、ありがとうございました」

「私はもう少し話がしたいから残るよ。未来は?」

 

「うん。私も・・・残ろうかな」

 

弓美、創世、詩織は帰るが、響と未来は残ると宣言。

もっと話したいというのは確かに本音なのだが・・・。

 

(折角直人さんに会えたし、もっと一緒にいたいなぁ)

 

(直人さんと、もっとお話ししたいな・・・)

 

 

好きな人ともっと一緒にいたいという、乙女心であった。

 

三人娘が帰ったあと、四人で同じ時間を過ごす・・・はずだった。

 

 

しかし、それは叶わなくなる。

 

 

 

「ハーレムね、閃紅の魔皇」

 

「君には、そう見えるのかい」

 

 

 

突然、少女の声が聞こえたかと思うと、直人に向かって炎の玉が放たれた。

 

直人は腕を鋭く振るって炎の玉をかき消した。

手から煙がたつが、すぐに消えた。

 

ブラッディ・ローズが音を出すが、直人が手を軽くかざすと、音は鳴り止んだ。

 

 

炎の玉が飛んできた方向を見ると、そこには声の主である、一人の女の子がいた。

 

ラフなTシャツにプリーツスカートをはいていて、長い黒髪に青いリボンを着けている、響、未来と同い年位の美少女。

 

しかし、その目付きは鋭く、手から炎を上げている所を見ると、明らかに普通ではない。

 

 

直人は、この少女を知っていた。

 

十ヶ月前、共存が決まったばかりの時。直人と戦い、決着がつかなかった時から、全く会わなかったが・・・。

 

 

「久し振りね。あんたを殺しに来たわ・・・紅 直人」

 

「久しぶりだね、浅間 美穂(あさま みほ)」

 

 

共存反対派の幹部の一人・・・「浅間 美穂」は、殺伐とした台詞を平然と吐き、直人を睨む。

 

 

同時に強い殺気も放たれる。その強さに、響と翼はとっさにシンフォギアのペンダントを掴む。

 

未来は響の後ろに隠れるように下がる。

直人は少女達を庇うように前に出る。

 

 

「な・・・直人さん。あの女の子は・・・?」

 

 

「共存反対派の幹部。すごく強いよ。僕でも勝てなかった位だから」

 

 

「えぇ!?直人さんでも!?」

「・・・っ!?」

「う・・・嘘・・・」

 

未来の問いに答えた直人。

その答えに、三人は驚きを隠せなかった。

 

 

三人とも、共存に反対し人を襲うファンガイアを倒してきた、直人の強さを知っている。

 

だからこそ、直人でも勝てない敵がいることに驚いてしまう。

 

油断なくにらみ会う両者。しかし、すぐに状況は変わる。

少女は全身から炎を上げる。

 

 

ステンドグラスのような、虹色の炎を。

 

 

「止めて!何で人間を襲うの!?」

とっさに叫ぶ響を。、美穂はキッと睨む。

 

「うるさいな・・・。人間を襲ってライフエナジーを奪うのは、ファンガイアとして当然の事。それを禁止されて、受け入れられるもんじゃあないわよ!」

 

そう言った少女だが、響は・・・そして直人も気付いた。

 

 

美穂の目が、わずかにだが揺らいでいることに。

 

その目を見た響は、過去の自分・・・父が居なくなり、周りから痛みを与えられ辛い思いを無理矢理封じ込めていた時の自分自身と、重なった気がした・・・。

 

 

「・・・何見てんのよ!」

 

響に見られるのを不快に思った美穂が炎を放ったが・・・。

 

 

その炎は、銃弾とエネルギー弾によって打ち消されてしまう。

 

 

「すまない、遅くなった!」

 

「ったく、私も混ぜろよな!」

 

「直人、待たせたな!」

 

 

イクサリオンに乗る名護 啓介。

 

イチイバルを纏い、炎を相殺した雪音 クリス。

 

そして、キバットの三人だ。

 

 

「啓介さん!クリスも・・・」

 

 

「EFSに反応があったから、急いで駆けつけたのだ」

 

「キバットが飛び出していくから追いかけて、んでこの人に出会ったからついでに乗せてもらったんだよ。

 

んで・・・あいつが敵か?」

 

「共存反対派の幹部だ。とても強い」

 

「あぁ、確かにヤバそうだ」

 

 

アームドギアを構えるクリス。

 

美穂は軽く舌打ちしながら、直人の方を向く。

 

 

「今回、私はあんたを殺すために来たわ。他の奴から許可はもらってるし・・・再戦といきましょうか」

 

「・・・ここで戦う気かい?」

「拒んだら、全員消し炭よ」

 

「そうか・・・仕方ない」

「待ってください!」

 

直人がそう言ったその時、響が直人を止めて前に出て、美穂に語りかける。

 

 

「もう、人を襲うのはやめて欲しいの・・・。

でも・・・何か、人間を嫌いになる事情があるのは、わかってるつもりだよ」

 

「だったら、もうしゃべらないでくれる?不愉快なんだけど」

 

 

「うん、そうだよね。私がやめてって言っても、言葉だけでは届かないよね・・・」

 

「・・・?」

 

 

「だからこそ、あなたと戦う!」

響は、美穂に向かって、戦うと断言した。

 

 

「本当は、、戦いたくない。でも、それでも戦わないと止まってくれない相手が出たときは・・・嫌だけど、戦う。

 

私は、そう決めたんだ」

 

 

胸元を握りしめ、真っ直ぐな瞳で断言する。

 

「口では戦いたくないって言っておきながら戦う・・・矛盾してるよね、わかってるよ」

 

「だったら!」

 

「それでもね、やらないといけないなら、戦うしかないなら・・・私は前に進む!!」

 

 

響の決意に呼応する様に、胸元のガングニールが光り、聖唱を歌ってないのに、ガングニールのシンフォギアが纏われる。

 

そして、己の拳を真っ直ぐ少女に向ける。

 

 

「矛盾していても、命を救いたいという決意のために止まらない!

もちろん、その中にあなたも含まれているから!」

 

 

「な・・・!?」

 

「そんなに、悲しい目をしているあなたを、救うことが出来なくても、せめて・・・私の『こう思ってるよ』っていう気持ちを、届けたい!それが、救われるきっかけになるならば・・・。

 

そのために戦いが必要なら、私は・・・立花 響は戦う!」

 

 

響の真っ直ぐな答えに、美穂は動揺を隠せずに後ずさる。

 

特に動揺したのが、「美穂を救う」「悲しい目をしている」と指摘されたことだ。

 

 

 

『わたしは、あなたを・・・』

 

 

 

一瞬、過去の記憶がフラッシュバックして・・・。

 

 

「ああああああああああああああああっっ!!!」

 

 

過去の記憶を吹き飛ばす様に、響の言葉を否定する様に大声で叫んで、美穂は己の姿をファンガイアに変えた。

 

 

その姿の中で、最も目を引くのは、大きな尻尾が生えている事だ。

 

中央に一本、左右に二本ずつの計五本が、扇の様に広がっている、

 

その尻尾と、尖ったような顔と耳で、響達にも何のファンガイアかわかった。

 

 

 

浅間 美穂。共存反対派の幹部であり、ビーストクラス。

 

狐の性質を持つ、フォックスファンガイア。

 

 

反対派の幹部が、ついに本格的に動き出した!

 

「・・・私は、かーなーり、強い!」

 

美穂は、挑発するように言い、両手に炎を集中させる。

 

翼は聖唱を歌い、天ノ羽々斬を纏いアームドギアを構える。

 

「ガブッ!」

《レ・ディ・イ》

 

 

「「変身!」」

《フィ・ス・ト・オ・ン》

 

直人と啓介は、キバに、イクサに変身した。

 

 

「・・・これが、イクサ・・・青空の会が所有する、ライダーシステム」

「聞いてたけど、本当に白いな・・・」

 

 

翼とクリスは、事前に話は聞いていたものの、初めて見るイクサを興味深そうに見ていた。

 

しかし、すぐに気持ちを切り替えて美穂の方を見る。

 

美穂は、両手の炎を放つと同時に、キバ達に向かって走り出す。

イクサがイクサカリバーで、翼がアームドギアで炎を切り裂き、響とキバが走って殴りかかる。

 

クリスが銃弾を連射し、美穂が防御した隙を突いて二人が殴る。

 

 

しかし、美穂は二人のパンチを尻尾で防いでそのまま尻尾を振るって弾くように二人を飛ばす。

 

イクサと翼はジャンプして上空から切りつけるが、美穂は両手で剣を掴んで止めて、二人を地面にたたきつけて横にジャンプする。

 

 

クリスの撃つ銃弾の雨を避けつつ、美穂も炎を弾丸の様に飛ばす。

 

クリスが避けると同時に、美穂は高速で動き、クリスを蹴飛ばし、キバとイクサに炎を放って牽制。

 

斬りかかってきた翼には、尻尾のビンタをお見舞い。

 

 

 

全員で挑んでも全てに対応し、的確に反撃する。

 

幹部の座についていることは、決して嘘でもない、お飾りでもない。

 

 

「共存反対派の幹部・・・ただ者じゃない!」

 

冷や汗を流しながら、翼が呟く。

クリスも、言葉に出さなくても同じ事を考えていた。

 

しかし、響は・・・。

 

 

「はあぁっ!」

 

響が再び拳を振るう。

 

その拳は、攻撃の隙を突いた為か、体にクリーンヒット。

 

ガングニールのエネルギーを溜めて、パンチを当てると同時にそのエネルギーを一気に解き放つ。

 

 

その強さに、美穂にもダメージが通り、うめき声を上げながら後退。

 

 

「はあああああっ!!」

「っ!?」

 

しかし、響の攻撃は、それだけでは終わらない。

 

再び接近し、美穂の目の前まで接近する。

 

 

 

そして、美穂の腕を掴んで・・・。

 

 

 

「美穂ちゃああああああんっ!!」

 

美穂の名前を叫びながら、響はエネルギーを溜めた拳で殴る!

 

「がっ・・・!?」

 

 

「痛いよね!殴られれば痛い、当たり前だよ!

あなた達共存反対派は、沢山の人達のライフエナジーを吸って、殺した!

 

その人達も、きっと痛くて辛い思いをしているよ!それがわからないの!?」

 

 

「・・・うるさいっっ!!」

美穂も響を殴り、負けじと叫び返す。

 

 

「ただ生きるためだけじゃない、人間を嫌い、嫌悪しているからこそ、共存を受け入れない者はたくさんいる!

 

私だってそうだ!人間なんて・・・大っ嫌いだ!!」

 

 

「あなたの言う通りだよ!人間は、悪い人がいっぱいだ!私も、悪意をいっぱい受けてきた!

 

でもそれ以上に・・・暖かくて優しい人もたくさんいた!!」

 

 

殴り合い、叫び合う。

 

シンフォギアを纏っていて体も頑丈になっているとはいえ、ファンガイアの力で殴られれば、当然痛い。

 

 

しかし、響は痛みを感じながらも、一歩も引かない。

目は、輝きを一切失っていない。

 

 

キバ、イクサ、翼、クリス、未来は響と美穂の戦いの壮絶さに飲まれ、口出しも手出しも出来ず、ただ見ている事しか出来ない。

 

 

「人間は悪い人も、いい人もたくさんいる!

でも、その全てが・・・『命』だ!!」

 

右ストレートパンチが決まり、よろめく美穂。

 

響の予想以上の攻撃に驚き、ここで美穂はようやく、響への認識を改めた。

 

 

この女は、侮れない、と。

 

 

「命を守る為に、救う為に!ファンガイアと、わかり合う為に!

最速で、最短で、真っ直ぐに!!」

 

そして、右手にエネルギーのほとんどを収束し・・・。

 

 

 

 

 

「これが私の、一直線だあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

美穂に向けて、渾身のパンチを叩き込んだ!

 

 

「がは・・・・・・っ」

 

 

美穂は後ろへよろめき、膝をついた。

 

意識は残っている。体も壊れるどころか、ヒビ1つも入っていない。

 

しかし、ダメージは受けていた。キバでもない、人間の手で。

 

響は美穂の所まで歩き・・・そっと、手を差し出す。

 

 

 

「美穂ちゃん、ちゃんと謝って罪を償って・・・そしたら、私が人間のいいところを、いっぱい見せてあげる。

 

例え、今すぐは無理でも、きっとわかり合えるって思うから・・・」

 

 

美穂は顔を上げて、その手を・・・

 

 

 

 

 

無言で、払い、拒絶した。

 

 

 

 

そのまま後ろへジャンプし、両手を上に上げて、大きな炎の塊を作り出す。

 

 

「美穂ちゃん!?」

 

「消えろ消えろ消えろぉ!!」

 

叫びながら炎の塊を響に向けて投げたが・・・。

 

 

 

《イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ》

 

「バッシャー・バイト!」

 

「ちょせいっ!」

「はっ!」

 

イクサがイクサナックルの必殺技、『ブロウクン・ファング』を発動して大きなエネルギー弾を放つ。

 

同時にバッシャーフォームとなったキバの『バッシャー・アクアトルネード』と、クリスによる複数の小型ミサイルが放たれる。

 

それらが炎弾を相殺した。更に、翼がアームドギアで鋭く一閃。

 

 

「・・・立花・・・響・・・」

 

後退した美穂は、響の名前を呟くと、一瞬炎に包まれてそのまま姿を消してしまった・・・。

 

 

 

 

 

戦闘後、響は景色を見ながら、呟いた。

 

「直人さん・・・美穂ちゃんに言ったことは、全部私の本心です。決意です。

 

でも・・・やっぱり、おかしいでしょうか?傷つけたくないのに、戦うって・・・」

 

美穂に叩かれた手を見る。

まだ僅かにだが、痛みが残っている。

 

「本当に、わかり合えるのかな・・・」

 

 

直人は響の隣に立って、自分の考えを語る。

 

「響ちゃん、その答えは、僕にも出せない。仮にあっても、僕は教えられない。

 

その答えは、自分で見つけないといけないことだよ」

 

「はい・・・」

「でも、これは言える・・・。君は間違ってない」

 

「え・・・」

 

 

「異なる考えを持つもの同士、衝突してしまうのは当たり前だ。

大切なのは、わかり合う努力が出来るかどうか」

 

「わかり合う、努力・・・」

 

「わかり合う事は、時間が解決してくれない。他人がどうこう言っていい事でもない。

 

当人達の問題なんだから、己自身で成さないといけない」

 

「はい!」

 

「でも、だからこそ・・・ぶつかり合って、すれ違って・・・わかり合うって言うのは、その繰り返しで、その中でお互いを理解する事でもある」

 

「・・・」

 

「もちろん、全てがそうとは言わないけど・・・。

とにかく、響ちゃん」

 

直人は真っ直ぐに響を見る。

 

 

「僕や皆は君の味方だ。でも、君自身で解決する事だ。

 

だから・・・わかり合う事を、諦めないで」

 

「・・・はい!」

真剣な表情で、響は頷いた。

 

 

しかし、響の胸にはもうひとつの思いがあった・・・。

 

 

 

 

 

 

響 side

 

 

 

わかり合うため、戦う。傷つけたくないのに、戦う。

 

私自身で思う、私なりの答え。

 

 

勇気を出して直人さんに聞いてみたけど、答えは自分で見つけろって・・・。

 

でも、直人さんは拒まないでくれた。味方だよって言ってくれた。

 

 

嬉しかった。

 

 

美穂ちゃんとわかり合う事は、簡単じゃない。でも絶対に悲しみから、救いたい。

 

同情かもしれないけど、この決意は変えたくない。

 

 

 

それともうひとつ、新しい決意も生まれたんだ。

 

 

「直人さん!」

「ん?」

 

 

「私・・・いつか必ず、戦う以外でわかり合える様になります!

 

ファンガイアとも、人間とも、皆と、手をつないで、共に生きられる・・・その手伝いが出来るように!」

 

 

そう宣言すると、直人さんは少しだけ驚いて、でもすぐに優しい笑顔になって、私の手をそっと握ってくれた。

 

「響ちゃんなら、絶対に出来るよ。自分を信じて」

 

「はい!」

 

 

直人さんは、私にたくさん教えてくれる。

たくさん救ってくれた。

 

直人さんを見ると、ドキドキして、顔が熱くなって・・・。

 

 

今までわからなかったけど、今やっとわかったよ。

 

 

 

 

私は、直人さんの事が好きなんだ。恋をしているんだ。

 

 

 

 

「えへへ・・・わかっちゃった♪」

「?」

 

「直人さん!私・・・頑張ります!」

 

 

 

戦いも、理解し合う事も。そして、恋も!!

 

 

ファイト、私!

 

 

 

 

 

「響・・・」

 

「立花・・・」

 

「・・・」

 

 

ところで、未来と翼さんとクリスちゃんが、私を睨んでて怖いです。

 

あの三人も・・・もしかして・・・。

 

 

こりゃあ大変だ!でも、めげずに頑張ります!

 

 




次回予告


「皆でデートしましょう!」

「よし、新記録!」

「王の判決を言い渡す・・・死だ」


第十三話 降臨、裁きの蛇


Wake Up!運命の鎖を、解き放て!


響に、自分の思う、新たな決意を抱かせました。

拙い所、おかしな所もあるかも知れませんが、ご理解いただけると幸いです。


次回は一期九話の前半のデート話になります。
ついにあの人が・・・。


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