一期八話の話ですが、オリジナル展開となっています。
翌日。天気は朝から雨。
雪音 クリスは、直人の指導の元に、バイオリンの基礎から勉強を始めた。
元々頭の良い事に加え、高名なバイオリニストの親から受け継いだ才能、何よりクリス自身のやる気の高さも合わさり、高い学習能力を発揮していた。
直人の話を真剣に聞き、懸命にノートに書くその姿に、直人はクリスの本気を改めて感じ取った。
昼食には、手作りチャーハンを振る舞った。
チャーハンの元は市販品ではなく、直人オリジナルのものである。
クリスは一口食べた途端、目を見開いた。
「うまい・・・!」
「良かった。誰も取ったりしないから、ゆっくり食べてね」
本当に美味しそうに食べるクリスに、直人の顔も自然と笑顔になる。
しかし、その顔もすぐに思案顔になる。
考えているのは、響と未来の事だった。
昨日、響から少し聞いたが、響は自分が装者だということを未来に隠していたが、昨日の時点で未来に知られてしまった、と。
二課、及びシンフォギア関連の事は関係者以外には秘密にすべき事だ。
昨日は、未来には二課の者から説明がなされたらしい。
(きっと未来ちゃんは今、どうすれば良いのかわからないのかもしれない)
自分の親友が、知らない所で危ないことをしていた。
そして、自分では力になれない。
その無力感は、きっと心を乱してしまう。
二人の絆に、影響してしまうほど・・・。
「ごちそーさん・・・ん?どうしたんだよ?」
「何でもないけど・・・えっと、クリス」
「何だよ?」
「口の回り、米粒付いてるよ」
「マジで!?」
慌てて取ろうとするクリスに苦笑する直人であった。
その後、皿洗いを終えた直人が一息ついたその時、直人の携帯電話に着信が入る。響からだ。
「もしもし、響ちゃん?」
『直人さん!未来・・・未来を見かけませんでしたか!?』
その声は大きく、焦っているのがわかるくらい、切羽つまっていた。
「何かあったの?」
『私が悪いんです・・・私が・・・未来に嘘を付いて、傷付けて!』
「響ちゃん、落ち着いて、1つずつ話してごらん」
響は一旦落ち着き、直人に話していく。
響は未来に、今まで秘密にしていたことを謝罪した。
しかし、未来の怒りはその程度で収まるはずもなく。
何とか言葉を出そうとした響だったが・・・。
『もういい』
『え・・・?』
『もう・・・響とは・・・友達ではいられない』
そういって、未来は傘も持たずに部屋を出て行ってしまった。
響はすぐに探し回ったが、見つけることが出来ず、直人に連絡したのだ。
『ちゃんと言わないといけないのに・・・未来が怒っているのは・・・』
「・・・わかった。とにかく、僕も探すよ」
『すみません、お願いします!』
通話を終えた直人は、すぐに上着を着て、キバットとタツロットに声をかける。
「キバット!タツロット!」
「話は聞こえてた!未来探しを手伝うぜ!」
「早速行きましょう!」
「クリス!ちょっと人探しに行ってくる!留守番よろしく!」
「え!?あ、あぁ!」
三人は外に出ると、別れて探すことに。
キバットとタツロットは、機動力の高さを生かして探す。
直人は啓介や恵にも聞いてみたが、見ていないという。
三十分経ってから、直人はもう一度響に連絡してみたが、響もまだ見つけられていない。
それからもう三十分探したが、未来の姿は見つからない。
三人は一旦合流。
「どう?そっちは」
「ダメだ、見つからねぇ」
「どこへ行ってしまったのでしょうか・・・」
心配になる三人。
「・・・よし!」
直人は決心すると、目を瞑り、その場から動かなくなる。
一見すると、立ったまま寝ているように見えるが、全く違う。
キバットとタツロットは、この行為の意味を解っている為、声をかけずに待っている。
直人の耳には、様々な音楽が聞こえる。
おとなしいもの、激しいもの、様々な音楽が。
同じものは1つもない。全てに個性がある。
これは、「人の心の音楽」だ。
人は、心の中で音楽を奏でている。それは感情であり、気持ちであり、個性である。
直人は、二年前にキバとしての戦いの中で、心の音楽を聞くことで、人の居場所の特定や、性格・感情・心情の特定といった様々な事が出来る、この力を目覚めさせた。
心の音楽の中で、直人は未来の心の音楽を探しているのだ。
自分が知っている人物であれば、他よりも簡単に特定可能だ。
心の音楽を聞いて、十数秒後。
「・・・見つけた!」
未来の居場所を特定。直人はその場所へ急ぐ。
数分かけて走り、着いたのは大きな公園。
「おいおい、ここは探したけどよ」
「多分、入れ違いになっちゃったんだよ」
直人は、公園内で聞こえる未来の心の音楽をたどる。
すると、遂に未来を見つけた。
大きな木に背を付け、体育座りで顔を埋めて座っていた。
傘をささずに来たためか、体は濡れている。
直人は未来に近づき、片膝をついて未来と目線を同じにしてから、優しく声をかける。
「未来ちゃん」
「っ!?・・・・・・直人、さん?」
未来は声をかけられた事に一瞬驚いたが、声で直人だとわかって、顔を上げた。
「・・・事情は、響ちゃんから聞いたよ。大丈夫?」
「・・・うぁ・・・うわあああぁぁぁ・・・!」
未来は泣き出し、直人は未来をそっと抱きよせ、胸を貸してあげた。
未来は数分間、直人の胸の中で泣き続けた・・・。
その後、キバットが呼んでくれたマシンキバーに未来を乗せて直人の家に。
未来をお風呂に入れている間に、直人は響に、未来が見つかったと報告。
「・・・という訳で、今未来ちゃんは僕の家にいるよ」
『そうですか・・・本当に良かった・・・!』
響は安心したが、直ぐに謝った。
『直人さん、ごめんなさい・・・』
「ん?」
『本当は、私が自分で解決しないといけない事なのに・・・直人さんに、頼ってばっかりで・・・』
「・・・確かに、未来ちゃんとの関係は、響ちゃんが自分で解決しないといけない事だね」
『はい・・・』
「でも、だからといって誰にも頼らないっていうのは間違ってるよ」
『そう・・・でしょうか』
「うん。僕も二年前、ファンガイアと戦う中で、たくさんの人と関わってきた」
『・・・』
「その中で、たくさんのすれ違い、衝突、和解・・・たくさんあった。でも、それは僕一人で解決できなかった。様々な人が僕に教えてくれたからなんだ」
直人も戦いの中でたくさんの人と関わってきた。
その人との関係で悩むこともあったが、仲間が道を示してくれたのだ。
『人と人がわかり合う・・・それは、他の人とも繋がって・・・』
「今回の二人の件だってそうだよ。それに、友達や仲間は、迷惑を掛けちゃうものだから」
『・・・はい』
「僕も何とか言ってみる。でも、最後は自分自身で何とかしないとダメだよ」
『はい。ありがとうございます』
通話を終えた直人。
三十分後。未来はお風呂から出た後、クリスから着替えを受け取る。
「ありがとう・・・雪音さん」
「ったく、また直人のお人好しかよ」
「あはは・・・でも、直人さんの魅力は、そういう優しさだと思うな」
「まぁ・・・否定はしねぇけどよ」
話の後、着替えた未来は、直人の待つリビングへ。
「直人さん・・・」
「未来ちゃん。ちゃんと温まった?」
「はい。お風呂、ありがとうございました」
直人の対面に座る未来。
「未来ちゃん、何があったかは、響ちゃんから大体聞いたよ」
「・・・はい。私が、響と・・・」
俯く未来。その先が言えないのか、無言の時間が続く。
「響・・・」
「未来ちゃん、聞いてると思うけど、僕もシンフォギア装者なんだ」
「・・・はい。今ならわかります。響も、直人さんも・・・私を巻き込まないために、黙っていたんですよね」
俯いたまま、少しずつ己の気持ちを語る。
「私は・・・確かに、響に秘密にされていたことを怒っています。でも・・・それだけじゃないんです」
「・・・」
「でも、それ以上に・・・ノイズと戦っている響に、何もしてあげられない・・・何の力にもなれない自分自身が一番許せないんです!!」
未来の目から、涙が流れる。
「響が命懸けで頑張っているのに、私はただ待っていることしか出来ない。それが嫌なんです!」
自分の本心を言う未来。そして、自分の心に生まれた一番大きな気持ちを、大きな声で叫ぶ。
「直人さん、私・・・力が欲しいです!!」
「!」
「ノイズと戦える力が欲しいんです!そうすれば、響と一緒に戦える。響だけに背負わせない・・・もう、自分の無力を言い訳にしたくない」
俯かせていた顔を上げて、ハッキリと言った。
「私も力が欲しい!そして、響と一緒に戦いたい!
響が命をかけて頑張っている中で、自分は待っているだけなんて、もう嫌だっ!!」
無力感から、力が欲しいという思いが強い。その思いを吐き出す未来。
すると、今まで黙っていた直人が静かに言った。
「未来ちゃん。それで本当に、響ちゃんが喜ぶと思う?」
「・・・・・・え?」
予想してなかった直人の言葉に驚く未来。
直人の表情は、真剣だ。
「もし、未来ちゃんが装者になって、ノイズと戦うことになっても、響ちゃんは喜ばない。悲しむだけだよ」
「ど・・・どうして・・・」
「響ちゃんが戦っているのは、ノイズに襲われている人を助けたいっていうのが1つ。
もう1つは、未来ちゃんとの日常を守ること」
「日常を・・・?」
「そう。響ちゃんは、前に話してくれたんだ。
未来ちゃんがいてくれるから、帰ってくる場所にいてくれるから、守ってくれるから頑張れるって」
「帰る場所を・・・守る・・・?」
その言葉が以外だったのか、未来はキョトンとしてしまう。
「そう、それが未来ちゃんの戦い。僕にも、誰にも出来ない・・・小日向 未来にしかできない戦いであり、響ちゃんを笑顔にしてあげれるのは、君の力だ」
目を見開いて、驚く未来。
「響ちゃんの帰る場所を守り、響ちゃんの心を守る・・・それが、小日向 未来の力であり、戦いなんだ」
「・・・!!」
直人の言葉に、心からの納得を得られた未来。
(私にも出来ることがあった。響の帰る場所を守り、心を支える・・・それが、私の力であり、私の戦い・・・!)
そう思った瞬間、未来は心が晴れていく感覚を覚えた。
自分の心の重荷がスゥッと軽くなっていくような感じだ。
そして、直人の凄さを実感した。人の心の闇を晴らし、その人を救う。
それが直人の魅力であり、力なのだ・・・と。
(そっか・・・響も、直人さんのこういうところに救われたんだ)
未来も、これまでに何回か直人と交流があったが、響が直人に惹かれている事には気付いていた。
そして、未来自身も、直人と語り合って良くわかった。
「直人さん、ありがとうございます。私・・・わかった気がします」
「良かった。後は、響ちゃんと仲直りしないとね」
「はい!」
笑顔で頷く未来。未来は笑顔を取り戻した。そして、自分のすべき事を、ハッキリと自覚した。
そして、もう1つ。
「どうして響があんなに直人さんの事を慕っているのか、わかっちゃった・・・」
「?未来ちゃん?」
「いえ、何でもないですよ・・・♪」
(直人さんに対して感じるこの暖かい感じ・・・)
ファンガイアから救い、自身の間違いを正し、大切な事を教えてくれた直人への気持ちだった。
(そっか・・・これが、好きって気持ちなんだ)
空が今、未来の心の様に・・・雲が晴れ、綺麗な光が差し込んだ。
その後。直人は未来をマシンキバーにもう一度乗せて、事前に響に伝えていた待ち合わせ場所へと向かう。
そこは、直人が未来を見つけたあの公園である。そこにはすでに響がいた。
こちらに向かってくる直人と未来を見つけて、駆け寄ってきた。未来も駆け寄る。
直人は二人の邪魔をしないように、少し離れたところに止まって、二人を見守る。
「未来・・・本当に、ごめんなさい。秘密にしろ、と言われてたけど、未来を巻き込みたくなくて」
「・・・響。ごめんね」
「え・・・?」
「私・・・秘密にされていた事と・・・響の力になれない自分自身が許せなかったの」
「未来・・・」
「ねぇ、響。私、自分がやるべき事がわかったの。
響が帰ってくる場所を守ること。そして・・・響が帰ってきたら、『お帰り』っていってあげることだって」
「未来・・・!」
「響、これからもいっぱい大変かもしれないけど・・・もう一人で抱え込まないで。私は、響の支えに・・・なりたい!」
そこまで聞いた響は、我慢出来ない、とばかりに未来に抱きついた。
「未来!今までごめんなさい!そして・・・ありがとう!大好き!」
「うん!私も、ごめんなさい!ありがとう!大好きだよ!」
響と未来は、今自分が本当に伝えたいことをハッキリと伝えた。こうして、二人は和解することができた。
少し離れたところにいる直人は、二人の「心の音楽」を聞いていた。
その音楽は、とても澄んでいてキレイで、2つがピッタリと素晴らしいハーモニーを奏でていた。
「良かったね、二人とも」
直人は二人の仲直りに心から安心した。
しかし、直人は表情を真剣なものにして、一瞬で心を切り替えた。何故なら・・・。
「・・・ここで終われれば、良かったんだけどな」
「グアァァァァ・・・!」
直人の背後から、タコの性質を持つ、オクトパスファンガイアが襲いかかって来たのだ。
直人は最小限の動きでかわし、力を込めたキックでオクトパスを遠くへ飛ばす。
飛ばされたオクトパスは、響と未来の横を吹っ飛んでいく。
「「わぉ・・・」」
目を丸くして、オクトパスの吹っ飛んだ方向を見る二人。
直人は隣に着地して、二人に微笑んだ。
「仲直り、出来た?」
「「はい!」」
笑顔で頷く二人。直人は起き上がったオクトパスの方を見る。
「直人、感動の仲直りシーンを邪魔したあいつをぶっ飛ばせ!」
「もちろん!」
そう言いながら飛んできたキバットを掴んで、直人は変身した。
「変身!」
キバに変身。オクトパスは、獣のような雄叫びを上げる。
オクトパスは、せっかく見つけた獲物二人のライフエナジーを喰らう事を邪魔された怒りで、獣のような声を上げる。
「キバット、あれをやるよ」
「おうよ!二人の仲直りを記念して、出血大サービスだぜ!」
キバは、フエッスルを3つ取りだし、連続でキバットに吹かせる。
「ガルルセイバー!バッシャーマグナム!そして、ドッガハンマー!」
3つのフエッスルの音色を聞いた3人は、モンスターを狩るゲームを中断。
「行くぞ」
「うん!」
「りょう、かい」
3人同時にキバの元に飛ぶ。
そして、キバは飛んできた三体のアームズモンスターと融合した。
左腕はガルルフォームに、右腕はバッシャーフォームに、胸はドッガフォームになり、変身が完了した。
キバ、ドガバキフォーム!
全てのアームズモンスターと融合した、複数魔族形態!
「わぁ・・・てんこ盛りだ」
響が呟き終わると同時に、キバとオクトパスは戦闘を開始した。
まず、キバはバッシャーフォームの能力である水のフィールド発生を使う。
水のフィールドを滑るように移動し、水の銃弾で翻弄する。
更に、サーフィンのように水を高速で滑り、ガルルセイバーですれ違いざまに何度も切り裂く。
「ギアアアア!!」
オクトパスはタコの足を槍のように鋭く伸ばしキバを刺そうとする。
しかし、それらは高いジャンプでかわされ、高所から落下する勢いとドガバキフォームの力が合わさったドッガハンマーの強烈な一撃が決まった。
「あああああ!!くいたいくいたいクイタイクイタイ!!」
「裁きの刻だ!」
キバは、ウェイクアップフエッスルをキバットに吹かせる。
「ウェイクアップ!」
右足のヘルズゲートが勢いよく開き、キバは高くジャンプ。そしてダークネスムーンブレイクを決めた。
体が砕け散り、オクトパスは倒された。
「「やったー!」」
喜ぶ響と未来。雨が止み、晴れた空から太陽の光が響と未来と照らした。二人のわだかまりが無くなり、絆が強くなった事を祝福するように。
その後、夜。
響と未来は仲良く一緒に寮に帰る。そして一緒に寝ているところである。
気持ちよさそうに寝ている響に、未来は自然と笑顔になる。
「響・・・。私・・・直人さんの事が・・・」
しかし、その先は言わなかったが、代わりにこう言った。
「響・・・ごめんね。私達、これからは親友で・・・ライバル、だよ」
そっと、ライバル宣言をおこなった。
同時刻、紅家。
「えっと・・・クリス?」
「・・・(つーん)」
「クリス・・・さん?」
「お前・・・あの小日向って奴を・・・あいつまで・・・」
「・・・?」
「バカ・・・」
クリスは、未来が直人に好意を抱いたことに気づいて、ヤキモチを焼いていた・・・。
同時刻。東京都内の高層ビル。
「"キング"。"ナイト"と"ポーン"からの連絡が入りました。人工ライフエナジーは、90パーセント完成しています。後もう少しです」
「ようやくここまで来れたか。必ず、完成させるぞ!」
「はい、キング!」
ファンガイアの未来を考える者が、話し合っていた・・・。
次回予告
「私は、かーなーり強い!!」
「反対派の幹部・・・ただ者じゃない!」
「これが私の、一直線だあぁぁぁぁぁ!!」
第十二話 幹部襲撃、貫く拳
Wake・Up!運命の鎖を、解き放て!
今回は一期八話の話ですが、ノイズの襲撃はないというオリジナル展開としました。
ご了承下さい。
次回は、八話と九話の間の話になります。
共存反対派の幹部との戦闘になります。お楽しみに!