紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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第九話 防人の剣、蒼狼の剣

田室の事件から五日後。翼は病院の廊下を歩いていた。

 

 

リハビリの為なのだが、今だに体に痛みが走ることがあるという。

 

しかし、以前より良くなっているのは確かであり、医者からも後数日で退院できると言われていた。

 

一日でも早く退院したい翼は、毎日リハビリを続けているのだ。

 

しかし、歩いている途中、翼の体に一瞬の痛みが走りバランスが崩れてしまう。

 

「きゃっ・・・」

 

 

倒れた時の衝撃に備え、目を瞑る翼。

しかし、覚悟していた痛みは来ず、変わりに感じるのは優しい温もり。そして、自分を抱き締めている感触。

 

 

「翼、大丈夫?」

「・・・直人・・・?」

 

転びそうになっていた翼を、直人が抱き止めたのだ。

 

「怪我はない?」

「えぇ・・・・・・ぁ!」

 

直人に返事した翼だが、自分が直人に抱きしめられている事を認識した途端、顔が赤くなるくらい恥ずかしくなり、慌てて離れる。

 

 

「だ、大丈夫!大丈夫だから!」

「え・・・・・・でも、顔が赤いよ?もしかして、熱がある?」

 

直人は熱を測る為、自分のおでこを翼のおでこに当てた。

 

 

「・・・・・・ッ!?」

「ん、少し熱いな・・・」

 

直人は純粋に熱を測っているだけなのだが、翼は・・・。

 

 

(直人の顔が、こんなに近くに・・・だ、ダメ・・・恥ずかしいよ。でも、嬉しくてドキドキしてて・・・えっとえっと!?)

 

 

翼の顔が自分でも分かるくらい熱くなり、胸がドキドキしっぱなしで、いつか爆発してしまうのでは?と思ってしまうほどにドキドキが大きい。

 

「あれ、どんどん熱くなってきてる!翼、大丈夫!?」

「あ―――」

 

直人と翼の目が合う。そしてついに・・・。

 

 

「きゅう・・・」

「わぁぁ!?翼ぁ!?」

 

ついに、恥ずかしさが翼の限界を一気に突破して、顔がボフンッと爆発(のような感じ)して、気を失う様に倒れてしまう。

 

直人は慌てて受け止めた。

 

「・・・・・・あれ?もしかして・・・これ、僕のせい!?」

 

 

 

 

「ん・・・?」

 

「あ、翼。気が付いた?」

「直人・・・あ、私・・・・・・!?」

 

目を覚ました翼は、状況確認の為に周りを見回したが、何と・・・。

 

翼は、直人におんぶされていたのだ。

 

背中から伝わる温もりに、翼は驚きと恥ずかしさと嬉しさを隠せなかった。

 

 

 

「直人・・・!?」

 

「今、翼の病室に向かっている所だよ。それで、その・・・」

 

「?」

「さっきはごめんね。最初は分からなかったけど・・・男にあんなことされちゃあ、恥ずかしいよね。ごめん」

 

「だ、大丈夫!直人は、悪くないから!」

「そ、そう・・・?」

 

ここで話は中断してしまうものの、悪い感じは一切ない。

 

 

お互い無言のまま、廊下を歩いていく。

そんな中、翼は昔の事を思い出していた。

 

二年前、まだ奏がいた時の事。

三人でノイズと戦っていた時、翼は少しのミスで足に怪我を負ってしまった。

 

 

その時も直人におんぶをしてもらったのだが。

昔も今も、変わらない所があった。

 

(直人・・・昔も、今も、私を支えてくれて・・・。

二年経っても、何も変わってない。とても優しい)

 

翼は直人の温もりをもっと感じたいとばかりに、顔を直人の体にくっつける様に寄り添う。

 

 

 

(直人・・・暖かい)

 

直人の温もりを感じながら、身を委ねる。

翼の表情は、優しい笑顔だった。

 

数分後。直人と翼が病室の近くまで来ると、扉の前に響がいた。

花束を持っていることからお見舞いに来たことはわかる。

 

しかし、響は病室を驚きに満ちた表情で見ていた。

 

 

「あれ、響ちゃん?どうしたの?」

「あ、直人さん!翼さん!」

 

「どうしたの立花?」

 

「直人さん、翼さんは大丈夫でした!?おんぶされているって事は、誰かに襲われていたりしてました!?」

 

「そういうことは無かったよ・・・?」

「入院患者に無事を聞くって・・・」

 

「だって・・・これ!」

響が病室を指さしたので二人もそこを見ると・・・。

 

 

「「あ」」

 

物や服でゴチャゴチャに散らかっている部屋の光景だった。

まるで誰かと争った後のようで、響が慌てるのも仕方ないと思える。

 

 

 

「翼・・・・・・まだ改善出来てなかったの?これ・・・」

「い・・・言わないで・・・」

 

あきれたように、ジト目で見る直人。翼は恥ずかしさで顔を隠す様にうずくまる。

 

「緒川さんから連絡があって、何かの陰謀に巻き込まれたんじゃないかって!」

 

「あのね、響ちゃん・・・」

 

「はい?」

「これ、昔からなの」

 

「へ?昔か、ら・・・・・・あ」

 

呆れ、ため息を吐く直人。恥ずかしさから、顔を隠す翼。そして直人の言う「昔から」という言葉で響は全てを察した。

 

「あ~・・・・・・えっと、その・・・」

 

翼は、片付けが出来ないのだ、と・・・。

 

 

 

 

その後、直人と響の二人で部屋を掃除していく。服類は響に任せ、直人は道具などをせっせと片付けていく。

 

 

 

「何か・・・以外です。翼さんって、何でも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

 

「私は・・・戦う事しか知らないのよ」

「いや、翼の場合は、戦う事以外を知っててもこうだと思う・・・」

 

 

「う・・・。わ、私だって良くないって判っているけど・・・。いつもは、緒川さんに任せっきりだったから・・・」

 

「えぇ!?お・・・男の人にですか!?」

 

「・・・・・・あ!えっと、何度も頼ってばかりで悪いけど、仕方ないというか・・・」

 

「・・・愼次さん、いつもダメっ子な翼のためにありがとうございます。今度、美味しいお菓子持って行きます」

 

「直人!?」

 

 

そんな雑談をしながら掃除をしていく。掃除の中で、直人と響は仲良く雑談をしていた。

 

響が直人のすぐ近くまで来て。

 

 

「響ちゃんもだいぶ戦えるようになったよね。先輩としても嬉しいよ」

 

「いえ、直人さんや翼さんと比べると全然・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「響ちゃんは食べるのが好きなんだよね。何が一番好き?」

 

「『ふらわー』っていうお店のお好み焼きです!店主のおばちゃんが作ってくれるんですけど、それがすっごく美味しいんです!」

 

「お好み焼きか、いいね。僕はオムライスかな。初めて食べたのが母さんが作ってくれた奴なんだけど、それを食べて以来大好物になってね」

 

「オムライスですか。いいですね!あぁ、食べたくなってきた!」

 

「・・・・・・」

 

(二年前のあの日・・・立花は、奏だけでなく、直人にも救われているのよね・・・。

 

慕っているのは分かるけど・・・直人に近すぎない・・・?)

 

 

「響ちゃんは、自分でも料理する?」

 

「いえ・・・私はもっぱら食べる専門で、全然出来ないんですよ~。未来も出来ないくらいでして。

直人さんは得意なんですか?」

 

「うん。家事全般が得意だけど、一番は料理だね」

 

(・・・・・・なんか、胸がモヤモヤする。奏が直人にくっついていた時と同じモヤモヤが・・・)

 

 

「響ちゃんも、料理をマスターすれば、きっといいお嫁さんになれるよ」

 

「えぇぇ!?お、お嫁さん・・・ですか!?」

「えっ・・・!?」

 

「うん。響ちゃんは、気配りが出来る優しい子だから。後は料理を覚えれば完璧だと思うよ」

 

「そ、そんな、誉めすぎですよぉ・・・」

顔を真っ赤にしながらも、嬉しさから顔が笑ってしまう響。

 

 

(でも・・・もし、本当に直人さんと結婚したら・・・)

 

響の脳内で、一瞬にしてある光景が広がる。直人と結婚した後の暮らしの風景だ。

 

『お帰りなさい、あなた♪』

 

エプロン姿の自分が帰って来た直人に挨拶して、自分の手料理を振る舞う。

 

美味しそうに食べる直人を微笑みながら見る自分。

 

(・・・えへへ~。い、いいかも・・・)

 

直人との新婚生活を妄想して、顔がにやける響。

 

(でも・・・どうして結婚ってきいて直人さんが浮かんだんだろう?)

 

 

結婚と聞いて、真っ先に直人の顔が浮かんだ。

 

まだ好意を自覚できていないものの、結婚と聞いて真っ先に直人の顔しか浮かばない辺り、想いが強い事は確かだった。

 

 

 

「・・・・・・っ!」

 

翼は、直人とイチャイチャしている上、直人との新婚生活を想像していてニヤニヤしている響にヤキモチを焼いていた。

 

 

(立花・・・直人とくっつき過ぎだ!それに・・・直人にそう言ってもらえるなんて・・・!私も、料理などを習得しなければ!)

 

今度、料理含む家事の特訓をしようと誓った。師匠は緒川で。

 

 

 

その後、掃除を全て終えたところで、直人を自分の右隣に座らせる。翼も体を直人にそっとくっつける。

 

翼は嬉しそうに微笑むが、今度は響きがヤキモチを焼いたのか、プクー、とほっぺを膨らませて直人の左隣に座る。

 

翼と響が睨み合い、間に挟まれている直人は、少しの恐怖を感じながらも、美少女二人に挟まれてドキドキしていた・・・。

 

ちなみに、その光景を学園の図書室から未来が目撃しており、すごく複雑な感情を抱くようになった。

 

 

そして、睨み合いもそこそこに、翼は気持ちを切り替えて、響に言う。

 

「立花」

「はい?」

 

「報告書、読ませてもらっているわ。直人と一緒に、私の分も頑張ってくれているのよね」

 

「い、いえ!直人さんや翼さんに比べると全然・・・!」

 

「でも、だからこそ聞きたいの。あなたの戦う理由を」

「戦う理由・・・ですか?」

 

頷く翼。

 

「ノイズとの戦いは遊びでは無い・・・。それは判っているでしょう?」

 

「はい・・・。でも、まだ判らないところがあるんです。私にとって、人助けは趣味みたいなものですから・・・」

 

「趣味・・・か」

「勉強やスポーツと違って競い合うこともありませんから。それに、せめて自分に出来ることは何かなって考えたら・・・自然と人助けが浮かんで・・・」

 

そこまで言った時、響の声が落ち着いたようになる。

 

「きっかけは、二年前のあの事件かもしれません。奏さんと直人さんが命をかけて救ってくれたとき・・・。

奏さんだけじゃない、たくさんの人が亡くなって・・・」

 

 

生きることを諦めるな、必ず助けるから。

直人と奏の言葉と姿は、今でも響の心にハッキリと残っている。

 

「私は今も笑って生きていられています。だから・・・せめて、誰かの役に立ちたいんです。

 

そして、私たちの守った今日を、明日へ繋ぎたいんです!」

 

笑ってそう締めくくった響。

翼は少しだけ笑って言った。

 

 

「あなたらしい、ポジティブな考えね。

でもそれは、前向きな自殺衝動かもしれない・・・」

 

「えぇ!?」

 

「誰かのために、自分の命を危険にさらすことで自分の罪を償える・・・。それはつまり、自分の死に場所を求めているという事かも・・・」

 

「そんな・・・そんなつもりはなかったんですけど・・・。そう・・・見えちゃってます?」

 

「えぇ。今の話を聞いて、もっとね」

「そう・・・ですか・・・・・・」

 

響は黙ってしまう。翼から言われたことを受けて、自分の中で考えているのだ。

 

そんな中、直人は二人の会話に口を挟まなかった。

これは、翼と響が本当に解り合うための対話。

 

だからこそ、そこに第三者の自分が入るべきでは無い。

そう思い、黙っているのだ。

 

しかし、直人は二人に場所を変えて話すことを提案した。選ばれたのは、屋上だった。

 

 

 

同時刻、東京にある洋館の中。そこに、一つの棺桶を見つめる、タキシードを着た一人の男性がいた。五十代くらいの初老の男性だ。

 

 

棺桶の蓋にそっとバラを添えて、神妙な顔で語る。

 

「我が同士よ・・・お前達の屍を利用させてもらう。もう一人の王・・・紅 直人を殺す為に」

 

男性は鎖に繋がれた棺桶を引っ張り、外に出た。

 

外に出た男性は、何と高くジャンプして目的地へ向かって行く・・・。

 

 

 

 

 

場所は戻り、病院。その屋上。翼と響は向かい合っており、直人は二人から少し離れた所で見守っている。

 

 

「先ほどの話の続きだけれど・・・。変かどうかは、私達が決めることでは無いわ。戦う理由は個人で異なる。自分の為でも他人の為でも、自分で答えを見つけるべきよ」

 

 

「戦う理由・・・ですか?」

 

頷く翼。

 

 

「使い方を知ると言うことは、戦士になるということ。普通の人としての生活から遠ざかるの。あなたに、その覚悟はあるのかしら?」

 

翼に問われ、響は数秒間目を瞑って考え・・・・・・目を開いて、己の答えを口にした。

 

 

「守りたい物があるんです。それは何の変哲もない、だからこそ大切な、ただの日常・・・。だから!」

 

語気を強くして、一つ一つ、ハッキリと言っていく。

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、一秒でも速く助けたいです!

 

最速で、最短で、真っ直ぐに!一直線に駆けつけたい!!」

 

そして響の頭に浮かぶのは、ネフシュタンの鎧を纏った少女・・・雪音 クリス。さらに、ファンガイアも。

 

 

「そして、戦う相手がノイズじゃなくて、『誰か』だったら・・・。どうして戦わないといけないのかという胸の疑問を・・・私の思いを届けたいです!」

 

 

「それは、簡単じゃないことや、偽善である事はは判っています。それでも、諦めたくないんです!この決意を、口だけにしない・・・ちゃんと現実のものにしたいんです!」

 

 

この決意は、直人の影響を大きく受けていた。

しかし、ただ真似るのでは無く、己の願いに昇華させていた。

 

「今、あなたが心にある想いを強くハッキリと思い浮かべなさい。それが戦う力・・・立花 響のアームドギアになるのだから」

 

「はい!」

 

「それに、そこまで言えるようになったあなたを、認めないわけにはいかないわね。共に戦う・・・戦士としても、仲間としても」

 

「・・・!はい!よろしくお願いします!」

 

 

笑顔で握手を交わす二人。この時を以て、二人はようやく解り合えたのだ。

 

直人は良かったと、心の底から思った・・・。

 

 

 

 

その後。夕日が屋上を優しく照らしていた。三人はベンチに座り、アームドギアについてあれこれ考えていたが、響が「お腹いっぱいの方がいい考えが浮かびますよ!」といって『ふらわー』へと走って行ってしまう。

 

残った二人は、並んで座り、夕日を見ていた。

 

 

 

「翼」

「え?」

 

「二年・・・僕がいない間、無理ばかりさせちゃって、本当にごめんね」

 

「いいの・・・。確かに悲しくて辛かったけど、こうして帰ってきてくれた・・・。それでも嬉しいわ。

奏もいてくれれば・・・もっと良かったけれど・・・」

 

「・・・・・・そう、だね・・・」

 

「・・・あのね、直人。もうすぐ、退院できるから・・・。そしたら、私と・・・一緒に・・・」

 

翼は顔を赤くしながらも、直人に何かを伝えようとする。しかし・・・。

 

「・・・・・・」

 

 

 

直人は真面目な表情で正面を見ていた。直人を見ていた翼はその理由が解らなかったが、直人の見ている方向を見る。すると・・・。

 

 

 

タキシードを着た一人の男性がいた。しかも、棺桶を持っているという、明らかにおかしい姿だ。

 

優雅に一礼して、直人にこう言った。

 

 

 

「お初にお目に掛かります。閃紅の魔皇・・・」

 

「・・・・・・。あなたは、共存反対派の?」

 

「はい、反対派に属している、スミスと申します。あなたは、人間を愛しているのですか?」

 

「・・・?」

 

「かつて・・・二百年以上昔、私も人間の女性を愛していました。しかし、人間にとって、ファンガイアは異形の存在。女性は私がファンガイアだと知ると、私から逃げました・・・」

 

 

 

スミスの話を聞いているのは直人だけではない。

 

 

翼も聞いているが、ファンガイアという解らない単語や、二百年前というあり得ない年数に、翼は戸惑うばかりだった。

 

しかし、直人は解っている・・・。それは確かだった。

 

 

(直人・・・。何を知ってるの?)

 

 

 

 

 

「私は、人間から忌み嫌われ、化け物と呼ばれ・・・。

 

私は、諦めたのです。人間を愛するという、己の信念を。

 

・・・あなたの立てた、共存という新たな掟。

それは、本当に実現できるでしょうか?排他的な人間に、守る価値などあるのか?

 

否、出来ない。守る価値などない。人間なんて、愚かな存在だ」

 

 

スミスは、直人をキッと睨み、叫んだ。

 

 

 

 

「人間に失望している私にとって、共存など、ただの毒だ!!」

 

 

 

 

スミスは、叫び終わると同時に、ファンガイアへと姿を変えた。

 

アクアクラスに属する、エビの性質を持つ、プローンファンガイアだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

翼は、初めて見るファンガイアに驚き、同時に、ノイズと相対した時とは異なる「恐怖」を感じた。

 

ノイズとは異なり、明確な意思を持ち、尋常ではないほどの殺気を放つプローンに、翼は心からの恐怖を覚える。

 

 

翼は思わずシンフォギアのペンダントを握って聖唱を歌いそうになったが・・・。

 

 

「大丈夫だよ。翼」

 

声を掛けたのは、直人だ。いつものように優しい声で、プローンを見ながら翼に言った。

 

 

「翼は、人を守る為に戦う防人・・・。それなら、翼を守るのは・・・誰?」

 

「え・・・」

 

「僕に、守らせて欲しい。『風鳴 翼』という、一人の女の子を。・・・・・・昔、約束したでしょ?」

 

「・・・!」

 

 

 

子供の頃にかわした、「翼を守る」という約束。それを直人は覚えていたのだ。

 

翼も、男の子にそう言ってもらえて、嬉しかったことを今でもハッキリと覚えている。

 

「直人・・・!」

 

 

それを嬉しいと思いながらも、危ないと思い止めようとしたが、直人はプローンに向かって歩いて行った。

 

プローンは、棺桶を空けて、その中身をぶちまけた。

それは、ファンガイアが死んだときに残る体組織の一部だ。

 

 

 

 

 

「蘇れ・・・我が同胞の魂よ!!」

 

 

そう言って、プローンは魔族が使える超常の力・・・魔術を使った。

 

すると、体組織が集まり、五体のファンガイアへとなった。

死んだファンガイアを、意思のない操り人形として操る魔術だ。

 

 

 

「・・・高位の者か。・・・行くよキバット!」

 

「あいよ!キバって行くぜー!・・・あ、こんにちわー」

 

 

キバットが翼に軽く挨拶してから直人の手に収まった。

直人は翼の方を向いて、言った。

 

 

「・・・翼、見てて。これが、今の僕だ。 変身!!」

 

直人はキバに変身し、両足に魔皇力を溜めて・・・

 

 

 

「・・・!」

 

一気に接近し、何と再生したファンガイア達を、一体につき一蹴りで破壊してしまったのだ。

 

キバが多くの力を溜めて攻撃すれば、通常よりも脆い再生体はひとたまりもない。

 

「!!」

 

翼は、正面からキバに変身した直人を見た。直人が魔性の鎧を纏い、異形の怪人を一撃で粉砕したその姿と力に、驚きを隠せなかった。

 

しかし、自分を守るために戦ってくれていることは判った。今は・・・それが嬉しくて、直人は変わっていないと分かり、心から安心した。

 

 

プローンは剣を生成して、キバは拳を構える。

そして、遂に両者は激突した。

 

 

プローンは剣をレイピアの様に鋭い突きを繰り出す。キバは避けるが、プローンは体から剣を何本も生やし、キバに奇襲を掛ける。

 

これもまた、魔術によるものだ。

 

 

「!」

 

キバはその攻撃を受けてしまい、、吹っ飛ばされる。

しかし、キバは後ろのフェンスを蹴って着地。

 

走ってプローンに向けてパンチを繰り出す。

プローンは左手でパンチを受け止め、右手の剣で切り裂こうとする。

 

キバはその剣を左手でキャッチすると、思いっきり、力を込めた頭突きを食らわせる。

 

 

「ぐっ・・・!?」

 

よろけるプローンに対して、キバは顔にパンチを食らわせ、更に右足のキックでプローンを吹っ飛ばす。

 

 

 

「お見事・・・だが!」

 

プローンは起き上がると、口からたくさんの泡を吹き出す。

 

その泡は、プローンが指を鳴らすと、全てが剣に変わった。

 

驚き、周りを見渡すキバ。そして・・・。

 

 

「行け!」

 

腕を上げて、一気に下ろすと、全ての剣が一斉にキバに向かって降り注いだ!

 

キバは降り注ぐ剣の雨を、腕を振るって払い、掴んですぐ投げ捨てて、キックで弾いて・・・。

 

様々な方法で回避してきたが、流石に数が多過ぎて捌ききれなくなり、何本も当たってしまう。

 

魔術の行使を得意とするプローンは、直接の戦闘よりもこういった戦いで真価を発揮するのだ。

 

 

「直人!!」

 

倒れたキバに駆け寄ろうとする翼。

 

しかし、キバは手で制して止める。

 

 

 

「大丈夫、僕を信じて」

 

「・・・・・・」

立ち上がるキバに、プローンは聞いた。

 

「なぜ・・・そこまで?」

「え?」

 

「あなたは、人間の為に、そこまで戦えるのか?

傲慢で、自分勝手な人間の為なんかに・・・」

 

 

「出来る。確かに人間は傲慢で、自分勝手だ。

異形の存在を、その者の事情も考えず、無理矢理滅した者もいた・・・。

 

あなたの言うことは・・・事実だ」

 

「ならば・・・!」

 

「でも、それだけじゃない。人間は・・・それだけじゃないんだ。

 

優しくして、優しくされて、愛し、愛され、守り、守られ・・・。命を育み、次に繋ぐ。」

 

「・・・次に、繋ぐ?」

 

「そうだ。人間も、ファンガイアも、それ以外の命も・・・この世界に生きる命。

僕たちは、それを守る為に戦う『防人』だ。でも・・・」

 

 

 

キバは、ベルトの左側から青いフエッスルを取り出す。

 

 

「悪意をもってその命を奪うものがいるならば、防人として、王として裁く!

 

今のあなたは、過去の絶望から暴走している哀れで、許されない罪人だ。だからこそ・・・」

 

 

「あなたの過去の絶望と罪を断ち切る!それが、あなたへの裁きの刻だ!!」

 

 

翼は、直人の言葉に、ハッとなった。

防人ならば、ただ守るのではない。次に繋がる『命』を、『未来』を守るのだと。

 

ただ人命救助の為に戦うこと・・・『使命感』で戦っていた翼にとって、直人の言葉は大きな衝撃となった。

 

 

(直人・・・凄いな。私よりしっかりしてて、強くて、かっこ良くて・・・)

 

 

二年離れていた間に、こんなに成長し、強くなっていた直人。

 

そんな姿に、横から見ていた翼の顔が赤くなり、胸の鼓動が更に強くなっていく。

 

 

 

「キバット」

「OK」

 

キバは、キバットに取り出したフエッスルを吹かせる。

その音色は・・・。

 

 

「ガルルセイバー!」

 

蒼狼の剣を呼ぶ為の音色だった。

 

 

 

 

「ん・・・呼ばれたか」

 

アームズモンスター最後の一人、次狼は己を呼ぶ笛の音色を、拠点である城・・・ではなく

 

 

「マスター、呼ばれたから、もう行く。釣りはいらん」

「はーい、いつもありがとうねー」

 

昔からの行きつけの喫茶店、『カフェ・マム・ダムール』で聞いた。

 

マスターに一万円札を渡すと、お釣りを受け取らずに外へ出た。

 

次狼は大のコーヒー好きで、不味いコーヒーには一円も払わないが、美味いコーヒーには高い金も平気で支払う。

 

マム・ダムールのマスターが入れるコーヒーは、次狼のお気に入りでもあった。

 

 

外に出ると、次狼は姿を蒼い人狼の怪人・・・ガルルの姿へと変えて、更に彫像態に変わり、キバの元へ駆けつける。

 

 

 

 

すぐにやって来たガルルを左手で掴むと、キバの姿が変わっていく。

 

左腕が狼の腕の様に、そして剣を振るうのに適した構造に変わっていく。

 

胸元の装甲も、蒼くなり両端に牙のようなプレートが付く。

 

キバットの目が蒼くなり、最後にガルルの姿がキバに重なり、キバの目も蒼くなった所で、フォームチェンジが完了した。

 

 

「ウァ・・・・・・ヴァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

まさに狼の・・・否、獣の雄叫びを上げ、左手の剣・・・ガルルセイバーを構える。

 

 

キバ・ガルルフォーム。冷たく輝く刃を持つ、狼の牙の剣を振るう戦士!

 

 

「蒼狼の・・・剣!?」

「ウルフェン族の力か。面白いですね!」

 

 

フォームチェンジに驚く翼と、戦意をたぎらせるプローン。

 

プローンは先ほどと同じく、魔術による剣の雨を降らせる。しかし、キバはガルルセイバーの狼顔の部分から、蒼い衝撃波を飛ばし、剣の全てを吹き飛ばしてしまう。

 

 

「なっ!?」

「うおおおおああぁぁぁぁ!!」

 

驚くプローンに、キバは高速で接近して、ガルルセイバーを高速で、連続で切りつける。

 

プローンも剣を振るって対応するが、キバの斬撃は止まらない。

 

 

プローンの剣をガルルセイバーで受け止め、左に弾いて、がら空きになった体に再び切りつける。

 

更に、プローンが苦し紛れにふるった剣は、ガルルセイバーの力強い一閃で真っ二つに切れてしまう。

 

 

 

「ば、バカな!こんなことが!?」

「言っただろう。あなたの過去の絶望と罪を断ち切ると!!」

 

ガルルセイバーを上から下に向けて一直線に切り裂き、プローンは倒れ転がる。

 

 

「今だ、キバ!」

「あぁ!」

 

「ガルルバイト!」

 

ガルルセイバーの刀身をキバットが噛んだことで、アクティブフォースが注入され、必殺技が発動する。

 

 

ガルルセイバーを構えると、空は満月の夜になる。

 

 

「夜・・・!?」

「キバ・・・世界の理すら曲げてしまうのか!」

 

 

柄を口にくわえたキバは、プローンに向かって真っ直ぐ走る。

 

プローンは口から高圧の水流を放つが、キバは高くジャンプしてそれを回避。

 

そしてキバは、満月をバックに急降下して、口にくわえたままのガルルセイバーでプローンを切り裂いた!

 

ガルルフォームの必殺技、ハウリングスラッシュが決まった。

 

プローンは人間の姿に戻って倒れる。

 

首だけをキバに向けて、語りかけた。

 

 

「・・・閃紅の魔皇、一つだけ答えて下さい」

 

「はい」

「あなたはこれからも、人の為・・・共存の為に、戦うのですか?」

 

 

「はい」

「そうですか・・・。では、その戦いがどうなっていくのか・・・見守っていますよ。あの世でね」

 

プローンは・・・スミスは、夕方に戻った空を見ながら、言った。

 

 

「私も今から、そっちへ行く。どうか、もう一度・・・」

 

 

小さく望みを言い、スミスは今度こそ絶命し、体が砕け散った。

 

 

 

 

その後、直人は翼に全てを話した。ファンガイアの事、キバの事、共存の事・・・。

 

「今まで黙っててごめんね。いずれ自分から話さなきゃって思っていたけど・・・」

 

「ううん、いいの。驚いたけど・・・直人は、ずっと頑張ってきたんだよね・・・」

 

「翼?」

 

 

「直人、言ってたよね。私を守ってくれるって。本当に嬉しいけど、守られてばかりな程、私は弱くないわ」

「・・・」

 

「私も、直人を守る。防人として、人を守るためにノイズと戦う・・・これは変わらないけど、直人がファンガイアと戦い、この世界に生きる命を守り、共存を確かな物にするというなら・・・」

 

 

 

 

「私も、直人を手伝いたい。肩を並べて共に戦い、直人を支えたい!」

 

 

真剣な表情で、直人に宣言した翼。

 

翼がそう言ってくれたのが嬉しくて、直人は翼の手をそっと握る。

 

「翼・・・ありがとう」

「うん・・・!」

 

 

お互い笑顔で、嬉しいひと時を共有していたが、その時間は、通信の着信音で終わってしまう。

 

 

「おじさん!どうしました!?」

 

『直人!今、イチイバルの少女がたくさんのノイズ、そして正体不明の人間と戦闘をしている!響にも連絡を入れるが、現場に一番近い直人に至急向かって欲しい!!』

 

 

弦十朗からの通信。それは、翼にも聞こえていた。

直人は、クリスの為、現場へと向かう決心をすぐに固めた!




次回予告


「やめろ・・・やめてくれぇっ!!」

「雪音さんに、手を出すな!!」

「パパ・・・ママ・・・」


第十話 救われる心、クリスの涙

Wake・Up!運命の鎖を、解き放て!


次回は、クリスの救済話になります。お楽しみに!

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