753が主役の話となります。
本日も晴天なり。気候も穏やかな晴れの早朝。
名護 啓介は、自宅のマンションの近くにある公園にいた。早朝のためか、人はいない。
彼は毎朝のトレーニングのためにここをよく利用している。
トレーニング前の準備体操から始めるが・・・。
啓介は手に持っていたCDプレーヤーを再生させて地に置いて、流れ出た音楽に合わせて体操をおこなう。
しかし、それはラジオ体操ではない。
「イクササーイズ!」
その体操とは、名護 啓介が独自に作り出した体操・・・「イクササイズ」であった。
『イクササイズ・・・それは全ての体操の頂点に君臨する315の体操!
753印のこの体操をすれば、君も立派な戦士になれるぞ!』
・・・と、啓介は自称しているが、真相は不明である。
「その命、神に返しなさい・・・よし、準備体操、終わり!」
315な体操を終えた啓介は、ランニングを始めたのだった。
早朝トレーニング終了後、啓介は妻の恵と一緒に買い物へ来ていた。
今日は、恵の表向きの仕事(ファッションモデル)が休みであるため、二人で出掛けているのだ。
「今日買うのは、食品と・・・」
「日用品ね。荷物持ち、頼むわよ」
「わかった、任せなさい」
そんな話をしながら街中を歩いていると、突然、一人の男性が、足元おぼつかない感じで、フラフラと歩いてくる。
バランスを崩し、転んだ男性。その様子からただ事ではないと思った二人は、男性に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「何があった?」
「・・・ば・・・化、物・・・」
その一言を最後に、男性は倒れた。衰弱しているが、命は大丈夫らしい。
恵は救急車を呼び、啓介は男性が走ってきた方へ走る。
少し走った所は、人通りの少ない広場。そこに、もう一人の男性と、一体のファンガイアがいた。
カエルの性質を持つ、フロッグファガイアだ。
フロッグは、男性に向けて無言のまま吸命牙を伸ばす。
啓介が駆け付け、男性を救おうとしたその時・・・。
「すまない・・・!」
フロッグの口からの謝罪の言葉が、啓介の耳に確かに聞こえた。
驚き、一瞬動きが止まった。しかし、それによって男性はライフエナジーを吸いとられてしまった。
しかし、先程のように男性は倒れるだけで体が色素を失って砕けていない。死んでいないのだ。
「ファンガイア!」
「!」
啓介の呼び掛けに、フロッグは驚いて後ろを振り向いた。
そして、後ろにいる啓介を認識し、フロッグは慌てて銃を向ける。
「共存に反対するものか」
「・・・」
フロッグは無言のまま動かない。
(いや、違う・・・?)
啓介は、先程のフロッグの言動から、反対派のファンガイアにしては、何かが違うと思っていた。
「邪魔を、しないでくれ・・・」
そう言って、フロッグは銃の引き金を引いた。
「こうするしか、無いんだ!」
撃たれる銃弾をかわしながら、啓介はある確信を得た。
(このファガイアは、人を襲わざるを得ない理由がある!)
本当は人を襲いたくない。しかし、しなければならない事情があるのではないか?と・・・。
今は、この状況をどうにかしよう。そう考え、啓介はイクサに変身する。
《レ・ディ・イ》
「変身!」
《フィ・ス・ト・オ・ン》
すでに装着していたイクサベルトにイクサナックルを入れて、イクサに変身。
イクサカリバーを持ってフロッグを「止めるために」戦い始めた。
イクサカリバーをガンモードにして、銃弾を撃つ。
フロッグが怯んだ隙に、走って接近し腹にパンチを叩き込む。
「ぐっ!」
腹を押さえながらも、フロッグは銃を撃つ。
イクサはそれを避けずそのまま走り、フロッグに抱きつくように動きを拘束する。
「は、離せ!」
「お前には、人を襲わないといけない理由があるのか?」
「!?」
「先程駆け付けた時、すまない、と言っていたのが聞こえた。・・・共存に反対しているのではないとすると、他の理由があるのか?」
「・・・・・・」
「良ければ、話してみなさい。俺が、力になろう」
過去の啓介であれば、どんな事情があっても、ファンガイアであるという理由だけで問答無用で倒していただろう。
しかし、直人や恵との交流や衝突、和解や共闘といった多くの経験が彼を変えた。
今の様に相手の事を考え、話を聞いたり手を差しのべようとするように。
「・・・・・・いいのか?」
「悩み、傷付き、苦しむ者に手を差しのべる。それが、俺の正義だ」
だが、と続ける。
「俺の手を取ることを、強制はしない。
正義の無理矢理な押し付けは、悪と変わらない。
仲間から、愛する妻から、それを教わったからだ」
イクサの言葉に、フロッグは体の力を抜いて銃を捨てた。イクサもフロッグから離れて、変身を解く。
フロッグは人間の姿に戻り、啓介に、事情を話始めた。
男の名は田室 光一(たむろ こういち)。共存に賛成しており、二週間前まで、恋人である人間の女性と幸せに暮らしていた。
しかし、共存反対派のファンガイアによって恋人を人質に取られてしまい、人を襲いライフエナジーを奪い、自分に献上することを強制されてしまったという。
恋人のために、やむ終えず襲っていたということらしい。
「そうか・・・田室さん・・・俺達で協力して、恋人を救おう」
「え・・・?し、しかし・・・」
「この状況を何とかしたいのだろう?一人では無理でも・・・俺達が組めば、きっと解決出来る。俺にも、手伝わせてくれ」
啓介の申し入れは、田室にとっても嬉しい事であった。
他に味方のいない彼にとって、彼の言葉は嬉しかった。
その後、合流した恵にも事情を説明。説明が終わった時、田室が二人に頭を下げた。
「頼む・・・彼女を助けたい!力を貸してくれ!」
「もちろんだ・・・・・・作戦を立てたい。そのファンガイアがどんな奴か、教えてくれ」
三人での話し合いの末、ある作戦を思い付き、それを実行するために動き始める。
2時間後。
田室は、恋人を人質に取っているファンガイアの元に向かっていた。
そのファンガイアは、悪党であるが、頭が良いとは言えない。
故に、こんな作戦とも言えない作戦でも通用しそうだ、と内心で苦笑しながらも、ファンガイアのいる所に着いて、気を引き締める。
そこは、一件のアパートの一階にある部屋で、そこを根城にしている。
中には、タクシー運転手の制服を着た、中年の男がいる。
男はファンガイアの姿になり、田室に言う。
「来たか~。てめぇ、ちゃんとノルマを達成できたんだろなぁ?」
「は、はい・・・」
そのファンガイアは、神経を逆撫でするようなふざけた、低い声でしゃべっていた。
ビーストクラスに属する、ハイエナの性質を持つ、ハイエナファンガイアだ。
ハイエナは、田室の差し出したライフエナジーの固まりを笑いながら受けとる。
「頼む、彼女を返してくれ!」
「バーカ、まだ全然足りねぇよ。もっと持ってこい!あの女を解放するにはまだまだいるぜぇ」
ハイエナはどんなに持ってきても、足りないと言い続けて、その人物が使えなくなるまで酷使し続ける。
ダメになれば人質を殺し、また次の相手を探す。
それが、ハイエナファンガイアのやり方だ。
自分の手は汚さずにライフエナジーを得る。正に悪。
「さぁさぁ、さっさと取ってこい!これから俺は仕事がある。人間の仕事も楽じゃねぇんだ!」
「・・・フ」
「あ?」
「あなたは、そうやって興奮すると、周りが見えなくなる。だから・・・」
「こんな、作戦とも言えない作戦が通用する」
「な!?」
突然、自分とハイエナファンガイア以外の声が室内に響く。
突然撃たれたエネルギー弾を喰らって、ハイエナが倒れた。
そして、声のした方を見ると、女性を抱き抱えている恵と、イクサナックルを構えている啓介の姿があった。
「彼女は返してもらったわ!」
「田室さんがお前の気を引いている間に、女性を救出する・・・。
お前が単純だから成功したな、この作戦は」
「優子!」
「光一さん!」
田室と女性・・・佐藤 優子、人間・・・が駆け寄って抱き合う。
「ふざ・・・けるな、てめぇぇぇぇ!」
ハイエナは怒りの雄叫びを上げて襲いかかるが、啓介がイクサナックルからエネルギー弾を撃つ。
エネルギー弾をくらい、ハイエナは外まで吹っ飛ばされる。
「あいつは俺が倒す。恵は、二人を安全な所まで」
「わかったわ。・・・さぁ、こっちへ!」
恵の誘導に従い、二人は避難する。
啓介は窓から外に出て、起き上がったハイエナと対峙する。
「許さねぇ、許さねぇ!てめぇら、よくも俺の楽しみを邪魔しやがったな!」
歪んだ楽しみを邪魔されたハイエナに対して、啓介は静かに告げた。
「人を襲う意思のないファンガイアに、恋人を人質に取り人を襲うことを強制した、卑劣なファンガイアよ」
ベルトを巻き付け、イクサナックルを構える。
「その命・・・・・・神に返しなさい!」
《レ・ディ・イ》
「変身!」
《フィ・ス・ト・オ・ン》
イクサに変身すると同時、卑劣なハイエナファンガイアを倒すため、心を燃やしたイクサは真っ直ぐ走り出す!
「殺す殺す殺す!!」
ハイエナは、自分の楽しみを邪魔したイクサ達を全員倒すため、右手に剣を持ち、左手に爪を伸ばして襲いかかる。
ハイエナが剣の届く範囲にイクサが入ったのを見計らい、剣を振り下ろすが、イクサは左腕を楯のようにして止めて、ハイエナの顔にイクサカリバー・ガンモードの銃弾を撃ち込む。
「ぎゃああああああ!!」
ファンガイアの苦手な純銀物質を含んだ銃弾が顔にもろに入り、ハイエナは痛みのあまり絶叫を上げて離れる。
その隙に、イクサは更に銃弾を撃って追撃を仕掛け、更にソードモードにして連続で切りつける。
その時、ハイエナはやけくそ気味に刀身を掴んで、力一杯引っ張ってイクサを引き寄せ、全力の頭突きを喰らわせる。
「オラァ!」
更に、右手の剣で縦に切りつけ、右足のキックでイクサを吹っ飛ばした。
「へ、へへ・・・。やったぜ、これで・・・・・・ガッ!!?」
しかし、ハイエナが勝ち誇っているとイクサはイクサカリバー・ソードモードをハイエナに向けて投げたのだ。
刀身がハイエナに直撃し、予想外の攻撃にひるんだハイエナ。
その隙にイクサがハイエナに向けて走って懐まで入り込み・・・。
「ハアァァァァァァァァァ!!」
パンチの雨をたたき込む!!
啓介は、今までこのハイエナファンガイアに利用され、望まぬ事を強要されてきた者たちの怒りを伝えるかのように。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る!
イクサの強力な腕力とコアから生成される莫大なエネルギーが合わさったパンチを何発もくらい、ハイエナはもはや心が折れていた。
パンチのラッシュがようやく終わり、ハイエナはふらつく。立つことが精一杯だ。
「もう・・・許して・・・くれぇ・・・」
「お前は・・・今までそう言ってきた人達の願いを聞き入れたか?」
「・・・っ!」
「先ほどのは、お前にもてあそばれた者たちの分だ。そして、この一撃は・・・」
イクサはフエッスルを取り出した。
そのフエッスルは、今までは無かった物だ。
上の方に、イクサの足と太陽の様なマークが付いている。
このフエッスルは、《Ver.ⅩⅡ》にバージョンアップされた際に追加された新しいフエッスルである。
イクサの新しい必殺技を発動させるための物だ。
「この一撃は、俺の怒りだ!!」
怒りに満ちた強い声に、ハイエナは必死になる。
「待ってくれ!もうライフエナジーは奪わない!共存を受け入れる!だ、だから殺さないで下さいお願いします!!」
無様といえるほど、必死に命乞いをする。しかし、イクサが・・・悪を許さない白き騎士が、そんな本心でも無い命乞いを聞き入れるはずも無く・・・。
「新しいフエッスルの力を持って、お前を倒す」
イクサはフエッスルをベルトに入れ、イクサナックルを押し込んで読み込ませる。
「さぁ、断罪の一撃をくらいなさい!!」
《イ・ク・サ・キ・ッ・ク・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ》
電子音声の後、イクサの右足にエネルギーが集中し、その光はまさに太陽の光!
イクサは走り出し、その勢いのままジャンプし、右足を前に出して跳び蹴りの体制になる。
そして、イクサのキックはハイエナに命中した。
イクサの新しい必殺技、「イクサインパクト」が決まった瞬間だった。
「ぎゃああああああ!!」
ハイエナは遂に倒された。体が砕けて散り、ライフエナジーの固まりが天に昇っていった。
こうして、ハイエナファンガイアとの戦いは終わったのであった。
その後。共存派のエージェントガ来て、田室の処遇について話があった。
ライフエナジーを奪っていたため、さすがに無罪放免というわけにはいかないものの、事情が事情であること、そして誰一人殺していないため、罪は軽くなるという。
田室と優子が、向かい合って話し合っている。
「光一さん、私・・・待っています。光一さんが戻ってくるのを」
「あぁ、必ず罪を償って戻ってくる・・・。必ずだ」
「はい・・・!」
二人はそっとキスを交わし、そして田室はエージェントの車に乗って去って行った。
そして、キングの元で裁きを下されるだろう。
「啓介君・・・、変わったね。昔だったら、絶対こういう結末は無かったよ」
「そうだな。今の俺を昔の俺が見たら、きっと驚くだろう」
二人は、車の走っていった方向をずっと見ている優子を見ながら、そんな話をしていた。
これで、今回の事件は解決した。
ちなみにこれは余談だが、ハイエナファンガイアは共存反対派の中でも嫌われた存在らしく、後日イクサに感謝する者まで出たらしい。
次回予告
(直人・・・暖かい・・・)
「最速で、最短で、真っ直ぐに!」
「大丈夫だよ、翼」
第九話 防人の剣、蒼狼の剣
Wake・Up!運命の鎖を、解き放て!
今回の話では、自分の思う「名護 啓介」を書かせていただきました。
改心して成長した今は、きっとこういう感じなんだろうな~、と思いつつ。
次回は、ラブコメ成分多めでお送りしたいです。フォームチェンジも出ますよ!