第七話の投稿です。それと、お待たせしてしまった分、長いです。
「・・・はぁ」
雪音 クリスは、街内の森の中を歩いていた。アジトのすぐ近くにあるところだ。
気分転換のための散歩であるにも関わらず、あまり気分が晴れない。
直人に出会って以来、様々な事を考えるようになった。
彼の事を、自分を引き込んだ者の事、そして、自分自身のこれからの事を。
「私は、どうしたいんだ・・・?」
ポツリと呟く。
しかし、そこに彼女の悩みが全て詰まっていた。しかも、どんなに考えても答えが浮かんでこない。
歩いている内に、街内に出た。クリスは喉が渇いたので、すぐ近くにあった自販機で「ユグドラ汁~すごいぞ!レモン味」を買い、飲みながら歩いている。
「本当に、どうしてこんなに・・・」
自分でも、言葉に出来ない気持ちをを言っていると、クリスに男性が話しかけてくる。
「すみません。ちょっとよろしいですか?」
「・・・?」
クリスは振り向いた。男性は、笑ったまま話しかけてきた。
「美味しそうな人間ですねぇ。あなたライフエナジーをください・・・!」
そう言った瞬間、男は顔にステンドグラスの模様を浮かび上がらせ、吸命牙をクリスに向けて放つ。
「・・・っ!」
瞬間、危機を感じ取ったクリスは横っ飛びでかわした。
「あぁ、惜しい。まぁいいでしょう。痛めつけてからゆっくりライフエナジーをいただきます」
男は己の姿をファンガイアに変えた。
羊の性質を持つ、シープファンガイアに。
「なっ・・・!?何だよお前!?」
「食べたい・・・。若い女の子の、美味しいライフエナジーを!」
シープは言い終えた途端、クリスを捕まえようと手を伸ばす。
「くっ!」
クリスはすぐに逃げた。先ほどまで歩いていた森の中へ。
少し前。直人は自宅で依頼のあったバイオリンの修理を行っていた。
直人はバイオリンの修理・製造を行っており、音楽家の中では有名人だ。
その為、料金は多少高いものの、依頼は後を絶たない。
今修理しているのは、その中の一つである。
「・・・うん、こんなものかな」
最後に弦を張り終えて、軽く演奏して確認。大丈夫だと判断して、ケースに丁寧にしまう。
依頼するためのプロセスとしては、まず最初に直人が立ち上げたホームページ「紅蓮のバイオリン工房」に、必要事項を入力して、会員登録をする。
(ホームページ立ち上げには、二課の朔也に協力してもらった)
依頼者は、直接訪ねるか、距離的に無理ならば電話やメールで直人に依頼。バイオリンを持ってくるなり郵送するなりする。
直人が修理・製造を行い、終わった後は依頼主に電話やメールで連絡し、直人の家まで来てもらうか、郵送するかでバイオリンを渡して、お金を支払う、或いは指定の口座に振り込んでもらえばOKである。
先ほど修理したバイオリンの持ち主に、修理完了の連絡をする。
「はい・・・分かりました。今日の夜8時に受け取りですね。お待ちしています」
電話を切り、椅子に座って休む直人。そこに、キバットとタツロットがやって来る。
「お疲れさん」
「ありがとう。これでやっと一息つけるよ」
「ところで直人さん、一つ思ったのですが・・・」
「ん?どうしたのタツロット?」
「今、お仕事なさっているのは直人さん1人・・・。
仕事の量も多いですし、他の人に協力を頼むなり、すればいいと思うのですが・・・」
「おぉ、そいつは名案だな!直人、アルバイトで雇ってみるか?」
タツロットとキバットの提案に、直人は考える。
「・・・確かに、最近は1人だと大変な所も出てきたけど・・・・・・専門的な知識も必要だから・・・」
「教えていけばいいんじゃねぇか?直人が先生になってよ」
「それだと、アルバイトを雇うというより、弟子を取る感じですね」
「弟子・・・かぁ」
ポツリと呟いたその時、直人が修理に使っていた工具が、机の下に落ちてしまう。
慌てて拾ったが、その机の下に、少し古いA4サイズの封筒が落ちていた。
拾って見てみると、表面には何も書かれていない。
「何だそりゃ」
「封筒ですね」
「見てみよう」
封を開けて中身を取り出すと、中には数枚のA4用紙が入っていた。
「これは・・・楽譜?しかも、バイオリンの演奏の・・・!」
それは、バイオリンの演奏に使用する楽譜だ。
しかも、一枚目の楽譜の一番上に、短いメッセージと二人の人物の名前が書かれていた。
その内の1人が・・・。
「紅 音也・・・。父さん!」
直人の父親にして、世界最高のバイオリニスト、紅 音也の名が書かれていた。
更に、直人はその隣・・・メッセージの書き手であろう名を見て驚いた。
「・・・!これは!」
その時、ブラッディ・ローズからメロディが鳴る。人を襲っているファンガイアが現れたのだ。
直人は意識を切り替え、キバットと共に外に出る。
時は戻り、今現在・・・。
クリスはシーフから逃げていた。しかし、ただ逃げているだけではなく、戦いやすい場所を目指して走っていた。
彼女は初めて見るファンガイアに驚きながらも、戦意があった。
木が少ない所に出た所で、クリスは立ち止まる。
「おや?もう鬼ごっこは終わりですか?」
「・・・お前が何者かは知らねぇ。でも、やるって言うなら受けて立ってやらぁ!来い、ネフシュタン!」
クリスはネフシュタンの鎧を呼び出す。しかし・・・。
クリスが身に纏えるはずのネフシュタンの鎧が、来なかった。
「・・・・・・何で、何で来ないんだよ!?」
「ふふん、もういいですか?早速死んでくださいな!」
シーフは体組織の欠片から銃を生成、クリスに向けて発砲した。
クリスは咄嗟にしゃがんでかわし、また逃げていく。
「どうして・・・どうして!」
クリスは混乱していた。怪物に襲われ、ネフシュタンの鎧は来ない。
一体、どうして?
「うぁっ!」
考える事に意識が行きすぎていたせいもあって、転んでしまう。クリスの背後から、シーフがやって来る。
「鬼ごっこは終わりですよ~。大人しくしましょうね~」
「・・・っ!」
銃口をクリスに向けるシーフ。絶体絶命な時、クリスは・・・。
「―――」
歌を、歌った。もう一つの力を発動するための、歌を。
大嫌いな歌を、歌った。
「ん!?」
赤い光がクリスを包んでいき、眩しさから、顔を腕で覆って隠すシーフ。
光が止むと、そこには・・・。
「・・・私に、歌を歌わせたな・・・!」
両手にボウガンの様な銃を持った、赤い戦士が・・・クリスが立っていた。
クリスは、シンフォギアを身に纏ったのだ。
そんなクリスを、帽子とコートを着た長髪の女が、静かに見つめていた。
「ネフシュタンの鎧は、もうあの子には必要ない。
さぁ、来るかしら?黄金のキバの継承者は・・・!」
同時刻。二課では、未確認のシンフォギアの反応を捉えていた。
弦十郎の指示に従い、二課のデータベースから反応と一致するものを探して、すぐに見つかった。
それは・・・。
「イチイバルだと!?」
十年前、二課から紛失したはずの、イチイバルであった。
「何故、イチイバルが・・・」
「司令!反応地点の映像、出ます!」
あおいがキーボードを操作し、画面を映す。
そこには、イチイバルを纏ったクリスと、シーフファンガイアが映っていた。
「な・・・!?何だ、あの怪物は!?」
「ファンガイアだ。おそらく、人間との共存に反対している『共存反対派』だろう」
「あれが、ファンガイア・・・」
朔也の驚きの声に、弦十郎が答えた。あおいと朔也達二課の面々は、直人から話だけは聞いていたが、初めて見るファンガイアから目が離せなかった。
弦十郎は直人に連絡を取った。
「直人!」
『おじさん、今、ファンガイアのいるところにーーー』
「そのファンガイアが、ネフシュタンの鎧の少女を襲っている!」
『雪音さんを・・・!?』
「急いでくれ直人!こちらから見てもやばそうだ!」
『わかりました。必ず彼女を救います!』
翼は入院中、響はライノセラスとの戦闘でのダメージがまだ残っている。ここは直人が行く以外の選択肢は無い。
通信を終えた弦十浪は、モニターに映るクリスを見て呟く。
「雪音・・・まさか」
クリスはイチイバルのシンフォギアを身に纏い、両手のボウガン型アームドギアからエネルギー弾を連射する。
「~♪」
嫌いな歌を、ヤケクソ気味に歌いながら、銃弾を連射していく。
土煙が充満していくなか、クリスは撃つことを止めない。目の前の悪夢を打ち消す様に。
「はぁ・・・はぁ・・・。これで・・・!」
怪物といえども、ひと溜まりもない・・・。そう言おうとしたその時・・・。
「あの~、お嬢さん?どこに向かって撃ってるんです?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
クリスの耳に、シーフの声がハッキリと聞こえた。
しかも、シーフはクリスの・・・。
「私は君が撃ち始めたときから、ずっとあなたの後ろに居たのですが」
クリスの背後に立っていた。
「な・・・ん、で?」
「まぁ、簡単に言うと、私は高速移動が出来るのですよ。すばやさがぐーんと上がって、そのままあなたの背後に回りました」
くく、と笑うシーフ。
「それに気付かないままバカスカ撃って・・・。弾の無駄遣いもいいところです」
「―――」
「ではでは、
シーフは勢いを付けて、クリスにキックを食らわせる。
その威力は大きく、シンフォギアを纏ったクリスを吹っ飛ばした程だ。
後ろに吹っ飛び、大きな木に背中から激突して止まった。
「がっ・・・あ・・・」
衝撃で一瞬で全身を襲い、痛みが走る。
―――痛い、いたい、イタイ!
「いたい・・・痛いよぉ・・・」
倒れながら、涙を流すクリス。
先程の攻撃で、クリスの心はかなり弱っていた。
怪物に命を狙われ、大嫌いな力を使ったにも関わらず一発も当たらず、ただやられるだけで。
近づいてくるシーフ。一歩一歩迫ってくるその姿は、今のクリスにとっては恐怖の対象でしかない。
「大人しくなりましたね。あぁ、やはり女の子をいたぶった後にいただくライフエナジーは格別に美味しいんですよねぇ」
シーフはクリスを持ち上げ、吸命牙をゆっくりと近づける。
(私・・・死ぬのか?)
痛みと恐怖で体が動かない中、クリスは殺される事を考えた。
しかし、同時に違うことも頭に浮かんでいた。
それは、以前自分を助けてくれた彼の・・・・・・紅 直人の事が。
デュランダルの事件の時、敵であるはずの自分を助けてくれた彼を。優しく抱きしめてくれた彼を。
「・・・て」
すごく小さく漏れる声。それはどんどん大きくなり・・・。
「・・・け、て」
「クヒャヒャ、もうすぐ食べれる。君のライフエナジーを!」
笑うシーフには、クリスの声は聞こえていない。
そして。
「助けて・・・!」
クリスは、直人に向けて言った。
届かないと分かっている、小さな祈り。そして、その祈りは・・・。
「もちろん、必ず助けるよ!」
その人に、確かに届いた。
斬っっ!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
背中から切られるシーフ。倒れたシーフを踏み台に、一人の少年が落ちるクリスを抱える。
「ぁ・・・」
「遅くなってごめんね、雪音さん。もう大丈夫だよ」
少年・・・シンフォギア、天叢雲剣を纏った、紅 直人は、クリスに優しく微笑んだ。
「お・・・遅ぇよ!バカ・・・バカァ・・・!」
涙を堪えられず、涙声で悪態をつく。しかし、直人が助けてくれた安心感は隠せていない。
本当は、直人が助けてくれて嬉しい。
「ごめんね。・・・雪音さん、もう少しだけ待ってて」
直人はクリスを下ろし、シーフを睨み付ける。
「僕が、あいつをやっつけるから。君を、護るから」
「・・・!」
真剣な表情で断言する直人。そんな直人を見て、クリスは心臓の鼓動が早くなっていくのを抑えられなかった。
彼の言葉は決して口だけではない。本当に、自分を護ってくれる。クリスには、それが分かった。
「・・・」
以前から感じていた胸の鼓動が、よりいっそう強くなっていく。顔の熱さも、今に火傷しそうだ。しかし。
「暖かい・・・」
心の底から感じる、暖かさと安心感、温もり。それがクリスの心を包んでいた。
それが何か、まだ分からない。
「閃紅の魔皇ですかぁ。よくも邪魔をしてくれましたね!」
「・・・人の命を奪い続けている罪、雪音さんを傷つけた罪、王の名の元に裁く!キバット!」
「よっしゃあ!キバって、行くぜ!・・・ガブッ!」
「変身!」
キバに変身する直人。全身に魔皇力を一瞬で循環させ、力を高める。
「なっ・・・!?」
直人の変身に驚くクリス。キバは一歩踏み出して、シーフに向けて宣言した。
「裁きの刻だ!」
宣言と同時、キバは地面を強く蹴って、一気にシーフの懐に入って、右足で強烈なキックを叩き込む。
「ごはぁ!このぉ!」
シーフは吹っ飛ばされながら、銃をキバに向けて連射していく。
キバは右方向に走って全てをかわし、急停止と同時に前にジャンプ。
シーフの顔面に、魔皇力を纏ったパンチを全力で叩き込む。
地面に落ちるシーフ。その威力は、クレーターを作り出す程だった。
「・・・」
キバはシーフからの反撃を警戒するが、その反撃は意外なところから来た。
「キャッハーーー!」
「!」
シーフは高速移動能力を使い、キバの横に瞬時に移動。横から銃弾を連射した。
しかし、直人はそれに瞬時に気づいて、避けずにそのまま突っ込む。
銃弾が直撃しながらもダメージを無視して、真っ直ぐ進んでシーフの頭を掴んで上に向けて投げて、落ちてきたところに回し蹴りを喰らわせる。
しかし、シーフも銃弾を撃って、キバに命中させる。倒れるキバとシーフ。
シーフはすぐに起き上がって、高速移動を使って、周りの木々に隠れる。
「・・・お、おい。あいつ」
「大丈夫だよ、雪音さん。対処法はあるから」
「そうそう、直人に任せておけって」
「うわっ!?こ、コウモリ!?」
「キバットバット三世だ、よろしくな!」
キバットがベルトから離れて自己紹介をした。クリスはどう答えたらいいのかわからず、戸惑い気味に頷くことしか出来ない。
「さて、直人。あいつを呼ぶんだろ?」
「うん。あの子の力を借りれば、必ず勝てるよ」
「だな」
キバは左腰から緑色のフエッスルを取り出して、キバットに吹かせる。
「バッシャーマグナム!」
ドッガを呼び出した時とは異なる、ラッパの音が入った明るい音色が鳴り響く。
「おい、何を・・・?」
「仲間を呼んだんだ。心強い仲間をね」
同時刻、キャッスルドラン内部。次狼、ラモン、力の三人が各々の好きなことをして時間を潰していた時、ラモンを呼ぶフエッスルの音色が響いて、緑色に光る。
「あ、呼ばれた!」
ラモンは嬉しそうに微笑み、自身の姿を本来の姿・・・半魚人のような姿、マーマン族の姿に戻る。
更に、彫像形態になってキバの元に飛んでいった。
音色が鳴ってすぐ、ラモンはやってきた。キバがそれを右手でキャッチすると、すぐに変化が・・・フォームチェンジが発動する。
右腕が鎖で巻かれ、爆発するように弾けて緑色の腕に。胸元も、魚の鱗を思わせる緑色の鎧に。
キバットの目とキバの目が緑に染まったことで変化は終わった。
その名は、キバ・バッシャーフォーム。マーマン族の力を宿して戦う、水の銃士!
「おぉ・・・」
「さて・・・」
感嘆の声を上げるクリス。キバは、バッシャーフォームとなったことで、ある能力を使う。
キバが少し意識を集中すると、足下を中心に水場が形成されていく。それはどんどん広がっていく。
「な、何じゃこりゃぁ!?」
「大気中の水分を集めて、水のフィールドを作ったんだ。この姿にならないと使えないけどね」
「・・・もしかして、何でもありなのか?その鎧って・・・」
「そういうわけじゃないけど、まぁ見てて」
キバは意識を集中する。クリスも、静かに見つめる。
そしてすぐに・・・。
ピチャ・・・ピチャピチャ!
「っ!!」
わずかに音のした方に向けて、バッシャーマグナムの銃口から水の弾丸を発射する。
この水の弾丸は、魔皇力で覆われており、ファンガイアにもダメージを与えられる物になっている。
「ぎゃあぁ!」
悲鳴と共に、シーフが姿を現した。木々に隠れて走っていた所を正確に撃たれたのだ。
小さな音も聞き逃さない超聴力。速く動く者をハッキリと視認できる超視力。
そして、水の力を持って、狙ったターゲットを確実に撃ち抜く、緑の銃士。
それが、キバ・バッシャーフォームである。
「くっ・・・、水の力・・・。まさか、マーマン族の力を!?ならば・・・!」
シーフは立ち上がると、水のフィールドを縦横無尽に走り回る。
高速で走り回るシーフに合わせて、水しぶきがたくさん上がっていく。
シーフは、この水しぶきを目眩ましに使い、死角から一気に攻撃しようと考えたのだ。
舞い上がる水。高速移動を駆使して、撹乱を狙うシーフ。
そして、シーフは攻撃に転じる。
キバの斜め右上から、殴りかかる。
水の壁を突き破り、襲いかかったその時・・・。
「・・・!?」
シーフは、信じられない物を見た。
シーフの飛びかかる方向に向けて、少しの狂いもなく、銃口をシーフに向けているキバを。
「これくらい、わかるさ」
そう言った直後、水の銃弾を連射。全てがシーフに直撃し、水のフィールドに落ちた。
更に、キバは追撃として、シーフに接近してバッシャーマグナムの柄や銃身による打撃攻撃を行う。
柄で頭を殴り、銃身を横に払い、腹を再び柄で殴る。
吹っ飛び、倒れるシーフ。
「すげぇ・・・!」
クリスは、キバの強さに、感嘆の声をあげていた。
「ば、バカな!こんな・・・こんなハズでは!?」
「さぁ・・・」
キバはシーフに向けて、最後の言葉を放った。
「撃ち抜かれる覚悟は、ある?」
言い終えた直後、キバはバッシャーマグナムの柄をキバットに噛ませて、必殺技を発動する。
「バッシャー・バイト!」
空が夜になり、夜空に半月が浮かぶ。
「よ・・・夜!?どうなってんだよ、おい!?」
驚くクリスに苦笑しつつ、キバはバッシャーマグナムを上に掲げる。
すると、銃身に付いている、魚の鱗が三枚、円形に付いているフィンが回転して、フィールドの水の全てを吸収して、一つの大きな弾丸を作り出す。
それに大きな魔皇力がコーティングされて、引き金を引かれてシーフに向けて撃たれる。
「ヤバい!」
身の危険を感じたシーフは、最後の力を振り絞り、高速移動で逃げようとするが、水の弾丸は、どこまでも追いかけてくる。
当たるまで追いかけ続ける水の銃弾。これが、バッシャーフォームの必殺技である。
シーフがキバ達の居るところへ戻ったところで遂に、シーフが限界を迎え、弾丸が直撃。
そのまま固まって動かなくなる。体も限界寸前。少し触れただけで砕けてしまいそうだ。
キバは歩いてシーフのすぐ近くにまで来て・・・。
「フン♪」
チョン、と指でつついて、シーフの体を壊した。ライフエナジーの塊が天に昇り、戦いはようやく終わった。
その後、クリスはイチイバルを解いて、木陰に座っている。
直人は弦十朗に一応の連絡をしている。状況は向こうもモニターしていたため、説明の必要は無くなったが。
「おじさん。雪音さんの事は、僕に任せてくれませんか?」
『・・・いいのか?』
「はい」
『すまない・・・、よろしく頼む。彼女も、君には気を許しているっぽいからな』
通信を終えた直人は、クリスの隣に座って、キバやファンガイアの事情を説明した。
「そういうことかよ・・・。共存に反対、ね」
「うん。共存に反対するファンガイアはたくさんいる。でも、僕は諦めないよ」
「・・・・・・本当に出来ると思ってんのかよ。世界からは、争いは無くならないのに!」
「・・・?」
クリスは、直人に少しづつ語り出した。
自分の父と母は、音楽で世界から争いを無くしたいという思いを胸に、幼い自分を連れて紛争地域へ向かった。
しかし、両親はテロに巻き込まれて死亡。残された自分はとらえられ、長く辛い思いをしてきた。
救出されてからは、ここで争いの元を断つため、「フィーネ」という名の女性に従って日々戦い続けている。戦う意思を持つ者を倒すために。
「・・・・・・そうか」
「でも、何も変わらない。私が、弱いから・・・!争いをなくすためには、結局力に頼るしかねぇ!どうすればいいんだよ・・・」
直人はクリスの話を聞き終えた後、クリスに語りかけた。
「僕と雪音さん、同じところがあるね」
「はぁ・・・?」
「僕も、共存反対派のファンガイアとは、ほとんど戦ってばかり。本当は、話し合いとかで解決が一番いいけど、それが無理だから、戦うしか無い」
直人は苦笑しつつ、自嘲気味に語る。
「結局僕も、君と同じく、力でしか争いを無くせないのかもしれない。昔、それで悩んだこともあった」
「あ・・・」
「それに、力を持って争いを一つ無くしても、新たな争いが生まれてしまう。消せるのは一時的。同じ意思を持つ者は何人でも出てくる」
「力では意思を壊せない。一時的に無くなっても、また出てきてしまう」
「・・・!!」
事実を・・・世界の現実を突きつけられ、ショックを受けるクリス。
「・・・そうか・・・。結局、そんなもんかよ!ちくしょう!!」
ダン!ダン!地面を殴るクリス。悔しさと悲しさで、どうすればいいか判らない。
しかし、直人はクリスの手をそっと握り、ハンカチで拭いてやる。そのままハンカチはクリスに貸し与えた。
「え・・・?」
「でも、雪音さん。僕は、こう思う。争いを無くしたいという意思。それはきっと、未来で争いの無い世界を作るためのきっかけになるかもしれない」
「未来・・・で?」
「そう。今すぐ無くすことは出来ない。でも、最後まで諦めずにその意思を心にもって行動していけば、未来では、今よりももっと良い世界になると思う。
もちろん、戦う力以外の方法も、見つけられるかもしれない。そして、自分が駄目でも、次の世代にその夢を託せる・・・きっと」
「・・・!」
「・・・僕の言っていることが綺麗事なのは、理想論なのは判ってる。それでも、可能性は、ゼロじゃ無い」
「可能性・・・。私の、意思が・・・夢が・・・」
直人の言葉を、呟くクリス。直人の言葉を、胸に刻むように。
「できるかな・・・私に」
「できるよ。だって、雪音さんは、争いを無くしたいってちゃんと考えられる、優しい女の子だから」
クリスは、直人の言葉を聞いて数秒ほどポカン、としていたが、その後は一気に顔が真っ赤になって慌てる。
「・・・・・・なぁぁ!?わ、私が優しいって・・・なに言ってんだよこのバカ!」
「えぇ!?いや、ただそう思って・・・嫌だった?」
「・・・・・・い、嫌じゃ・・・ねぇ」
「・・・そっか」
小さく、俯きながらも答えるクリス。クリスは立ち上がり、直人に背を向ける。
「じゃあな・・・」
「雪音さん!・・・またね!」
「!・・・あ、あぁ!」
肯定の返事をして、クリスは今度こそ去って行った。
道中、クリスは直人から借りたハンカチを持ちっぱなしであることに気づいた。
「・・・」
自分を救ってくれた、大切なことを教えてくれた、優しいと言ってくれた直人。
「あいつ・・・良い奴・・・だ、な」
顔が熱く、赤いままで胸も高鳴りっぱなしだが、それがとても心地いい物であるということは分かった。
紅 直人は、クリスの中でとても大きな存在になっていた。
「ふふ、今代のキバは、面白いわね」
「・・・ねぇ」
「あら、あなたなの。何の用?」
「あんたでしょ、あの女の子をシーフに襲われるように誘導したのは」
「えぇ。あっちに若くて美味しそうな女の子がいると教えただけだけど」
「・・・あなたと私たちは、協力関係にある。でも、同胞を減らすような事に巻き込むのは関心しないわね」
「今代のキバはどれくらいの強さか、それを確かめたくて」
「・・・それと、ノイズを放ちすぎないで。私たちの
「イヤ♪」
「可愛く言い過ぎ。歳を考えなさいよ」
「・・・ケンカ売ってんの?」
次回予告
「こうするしか無いんだ!」
「俺にも、手伝わせてくれ」
「その時は、まだ来ない・・・」
第八話 白き騎士、変わった心
Wake・Up! 運命の鎖を、解き放て!
次回は、753が主役の話になります。お楽しみに!