気がつけば俺は暗闇の中に立っていた。
「ここは……」
服装は自衛隊でレンジャー部隊にいた時の格好で銃を持っていた。
暗闇のなかを見回していると目の前に何かが現れた。
反射的に銃を向けるとそこにいたのは昔、親友で部下だった男だ。俯いて座っていた。
「どうしたんだ?隆」
銃を下ろして声を掛けた。
「……悠二」
「あ……」
隆はゆっくり顔を上げた。
その時、自分の体の芯から冷えるのを感じた。
「どうして助けてくれなかったんですか……」
顔はグチャグチャ
「うわああああああああああ!」
隆から距離を取って手に持っていた自動小銃で撃った。
全ての弾丸を撃ちおわると気が付けば隆は消えていた。
「「「用務員さん」」」
声が聞こえ振り向くとゾンビとなった生徒たちが俺に向かってきた。
「くそっ」
銃を構えようとすると、銃は消えていて俺の服装は作業服になっていた。
仕方なく逃げようとすると後ろを向くと……あの俺を噛んだ女子生徒が立っていた。
「どうして助けてくれなかったの?」
血管浮きだった目で俺を見つめていた。
その表情は悲しみに濡れていた。
「…………すまない」
彼女は俺を抱きしめるように引き寄せ、
ガブッ
「…………ッ」
俺はシャワールームで目を覚ました。
肩を見ると血管が浮き出しているが、傷は完全に治っていた。
「どうして、俺は」
生きている。
グゥー
生きている事に感動しようと思ったが腹が減った。
冷蔵庫へ向かおうとよろめきながらも何とか立ち上がって冷蔵庫の前に辿り着いた。
冷蔵庫のドアを開くと中にはサイダーが10本とビールが五本。そしてミネラルウォーターが八本、魚の缶詰が五個とレトルトカレーが三つ入っていたが取り敢えずはミネラルウォーターと缶詰を取り出した。
喉がカラカラなのでミネラルウォーターをゆっくり飲んでいく。
こういう時はゆっくり飲んだほうが体には良いのだ。
ミネラルウォーターを飲み干すとお腹に水が入ったせいかやたらお腹が空いた。
鯖の缶詰を開けた。台所にあったフォークでゆっくり食べた。
「うまい」
少し食べただけでお腹は簡単に膨らんだ……と言うか食べれなくなった。
一応缶詰は一缶まるごと食べきった、そして空き缶をゴミ箱に放り込んだ後に服を脱いだ。
クローゼットからジャージを取り出して着た後にベットに寝転がった。
「取り敢えずは寝るか」
目を瞑った。
「……あ」
突然、目を覚ました。
起き上がって時計を見ると針は六時を差していた。
外は少し暗いが多分朝の六時という事だろう。ベットから立ち上がった。
……体の調子はかなり良くなっている。
昨日は立つのもやっとだったのだが、今はかなり楽でどんな動きをしても痛みや違和感を感じることは無かった。
衰弱している体がこんなに早く回復するか……?
ゾンビに噛まれた事が関係してるのかもしれない。
何にせよ体が健康というのは良い事だ。
と、軽く運動をして体を動かしていく内に
「……自衛隊に居た頃よりも体の調子がいい?」
今なら何でもできる気がするが取り敢えず今日は今後どうするかを考えないと……。
そう言えばここ付近にはゾンビが居るのだろうか?
用務員室のドアを静かに開けた。
まだ暗い廊下で見えにくいが数体の人影が薄っすら見えた。
ドアを開ける時と同じようにゆっくり閉めた。
「あぁ……やっぱり」
まだパンデミックは終わっていなかった。
脱ぎ捨てられている作業服のズボンから携帯を取り出した。
電池の残量は90%ほど残っていたが電波は一本も立っていなかった。
日にちは七月の15日で水曜日だ。
俺は二週間も眠っていたらしい。
「マジで俺何で生きてるんだ……」
二週間も飲まず食わずで生きていられたのはゾンビに噛まれたことが原因で十中八九間違いないだろう。
「ネット小説で見たことあるがこれは……もしかして抗体があるってやつか?」
でも影響があるって事は抗体では無いと思うんだがなぁ……
取り敢えず、シャワーを浴びよう。
暑くなってきて汗がダラダラ垂れている。
確かこの学校にあるシャワーは全部電熱式でしかも屋上にあるソーラーパネルで発電しているので使えないことはないと思う。
案の定、お湯は使えた。
クローゼットを開いた。
中には色んな服があるが基本的に私服や礼服、ジャージや寝間着が入っていた。
取り敢えずは普通の服装に着替えた後、レインコートを上に羽織った。
返り血を浴びるのが嫌だからだ。
服が今後どれぐらい確保できるかわからない。返り血で濡れた服を着続けるのは流石に嫌だ。
最後に部屋の工具箱を開けた。
様々な工具があるが、取り敢えず手に持ってみる。
ペンチ、ゾンビ向けではない。
レンジ、これも向いてないな。
ネイルハンマー。
取り回しもいいし、振りかぶれば人の頭ぐらい潰せる。
実のところを言うと威力的にはスコップが近接戦では良いのだが、スコップは園芸部まで取りに行かないと無い。
まぁつまりは屋上にしか無いというわけだ。ソンビゲームで良くあるバールなどの工具は技術室に行かないと手に入らない。いずれは強力な武器が欲しいところだが今のところはこいつで良いだろう。
「取り敢えずは、生存者を探すか」
この学校の状況を知りたい。
ドアを静かに開けて廊下に何か居るのを確認してゆっくりドアから出た。
さっきと同じようにゾンビが居る、が気づかれ無かった。
もしかしたら暗いと目が見えないのかもしれない。
静かに階段を上がり、二階へ上がって静かに廊下を見た。
「ぁ……ぅぁ……」
女子高生のゾンビが壁に頭をぶつけていた。
無視をして階段を上がった。
そこにはバリケードが机と椅子で作られていた。
ゾンビが二、三人バリケードに手を突っ込んでいた。
後ろから一人を撲殺すると他の二人が俺に気づいてこっちに襲いかかろうとするものの、手が抜けない様だ。
逃げられない、逃げようともしない憐れなゾンビの二人組を葬ると俺はバリケードを軽く乗り越えた。
人の頭蓋骨を破壊できるほどの力を連続三回も使ったのに一切息切れしていない。
それどころかあと何回でも殺せるし、どれだけ殺しても疲れはしないだろう。
バリケードの中に入るとゾンビの呻き声が聞こえてきた。
バリケードの中にゾンビがいるってことは...
「全滅かもしれねえな」
走ってゾンビの声の発生源に向かう。
そしてそこに居たのは大量のゾンビと、生徒会室の前でゾンビと対峙していた佐倉先生だった。