暗殺教室 鶴久紅の事件ファイル   作:残月

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殺しの時間

 

 

俺達は姉さんを連れてホテルのロビーへと集合する。

最初は反発していた姉さんだが烏間先生のガードの固さに参っているのか話を聞く気になった様だ。

 

 

「意外だな。あんだけ自由自在に男を操れんのに」

「自分の恋愛には奥手なんだね」

「なんか意外」

「仕方ないじゃない!あいつの堅物ぶりったらワールドクラスよ!!」

 

 

クラスの皆が口々に感想を溢す中、姉さんはキレ気味に叫ぶ。

 

 

「私にだってプライドはある。ムキになって本気にさせようとしている間にこっちが………」

 

 

そう言う姉さんはいつもの面影はなく、ただ単に恋する女の表情だった。ここ暫く俺が見ていた顔でもあるのだが……

 

 

『うっ……』

 

 

そんな姉さんの表情に野郎共が反応する。おい、コラ。姉さんをそんな目で見んな。

 

 

「かわいいと思っちまった」

「なんか屈辱」

「なんでよ!!」

 

 

野郎共の発言に姉さんの怒りは更に加速する。こんな所は俺等と変わらないな本当に。

 

 

「鶴久君はビッチ先生の事、気づいてたの?烏間先生が好きだって」

「酔い潰れて愚痴を言ってる時に聞いたよ。最近、その頻度が上がってるけどな」

 

 

茅野の質問に答えると俺はいつの頃から姉さんの愚痴を聞いていたかを思い出そうとするが中々、思い出せない。

でも烏間先生の事を愚痴る姉さんはズッと見てきた。

 

 

「そんなことより、恋愛コンサルタント3年E組の会議を始めましょう」

 

 

そう言って殺せんせーは真面目なキャラ風の服装に着替え、ホワイトボードに『烏間・イリーナくっつけ計画』と書いて、話し始める。弟としては複雑なんだけど今回の企画。

 

 

「ノリノリね、タコ」

「もちろんです。女教師が男に溺れる愛欲の日々、いい純愛小説が書けそうです」

「明らかにエロ小説じゃない!」

 

 

取り敢えず殺せんせーが書いた小説は後でチェックしとこ。録な事が書かれないだろうし。

そんなこんなで、計画がスタートする。

 

 

「まず、ビッチ先生って服の趣味が悪いんだよ」

「そーそー、露出しときゃいーや的な」

「烏間先生みたいなお堅い日本人には、好みじゃないよ」

「もっと清楚な感じで攻めないと」

「髪型とかも変えてみようよ」

 

 

女子チームによる意見交換が始まる。野郎共は話を聞くばかりで口を挟めない。

 

 

「清楚つったらやっぱり神崎ちゃんか。昨日着てた服、乾いてたら貸してくんない?」

「うん、持ってくるね」

 

 

中村が神崎に姉さんに服を貸す提案をする。神崎は快く承諾して服を取ってくる。だが俺は既にこの作戦が失敗すると思っていた。

 

 

「ほら、服一つで清楚に…………」

 

 

神崎の服を着た姉さんは服のサイズが合わなくピチピチだった。うん、アウト。

 

 

「なんか……逆にエロくね?」

「そもそもサイズが合ってねーよ」

「神崎さんがあんなエロい服を着てたと思うと……」

 

 

うん、こうなると思ってたよ。

 

 

「姉さんは服装が派手なんじゃなくて体型が派手なんだよ」

「ナマ言ってんじゃないわよ」

 

 

俺が思った事を口にすると姉さんにペシンと頭を叩かれる。いや、だって実際にそうじゃん。所謂ボン、キュッ、ボンな訳だし。

 

 

「この際、エロいのは仕方ない!大切なのは人間同士の相性よ!」

 

 

岡野の言葉に茅野がコクコクと首を縦に降る中、矢田は思い出したかのようにTVを指差し言った。

 

 

「そう言えば、あのCMの女性の事、ベタ褒めしてたよ『俺の理想のタイプだ』って!」

 

 

矢田の言葉に皆の視線はテレビに向けられた。そこに写っていたのは、レスリングで有名な女性が出演してるCMだった。

 

 

「『俺の理想で、しかも三人もいる』って言ってたよ!」

「そりゃ恐らく『理想の女性』と言うより『理想の戦力』だな」

「いや、ただ単に強い女性が好きって線もあり得るね。そうなるとビッチ先生の筋肉じゃ絶望的じゃないか?」

 

 

矢田は烏間先生の好みの話を必死に語るがそれは違うと思う。更に竹林が眼鏡の縁を上げながら発言する。

 

 

「じゃ、じゃあ、手料理とかどうですか?ホテルの料理もいいですけど、そこをあえて烏間先生の好物を作って一緒に」

「あ、それいいかも」

 

 

奥田の言葉に磯貝が同意しかけたがそこには落とし穴がある。いや、だって……

 

 

「烏間先生って普段、ハンバーガーだよな」

「確かカップ麺食ってたぞ」

「後はホットドックか?」

「ピザもあったよね?」

「カロリー○イトもだね」

「見事にジャンクフードばかりのラインナップだな。俺等がホテルのディナーで姉さんと烏間先生がカップ麺とか惨めすぎるぞ」

 

 

皆が次々に挙げていく烏間先生の好きな物リストに俺は呟く。ホテルに来てまでカップ麺って、どんな罰ゲームやねん。 

 

 

「なんか烏間先生の方に原因があるように思えてきたぞ」

「そうなのよ。どんなにアプローチしても無駄で……」

 

 

菅谷が呟くと姉さんが怒り気味に同意する。烏間先生の方がディスられてきたな。

 

 

「と、とにかくディナーまで出来ることは整えましょう。女子は烏間先生の好みに合うスタイリングの手伝いを。男子は二人の席をムードよくセッティングです」

「「おー!」」

 

 

殺せんせーの号令にクラスの皆が合意した。面白半分なんだろうけど皆が姉さんの為に動いてくれるのは嬉しい。

そして時刻はあっという間に21:00でディナータイム。

 

 

「………これはなんだ?」

 

 

夕食の時間になり、ホテルの食堂に来た烏間先生は、第一声にそう言った。

クラス全員でが席を独占していたからだ。

 

 

「烏間先生の席はありませーん」

「先生いびりでーす」

「先生方は外の席で食べてくださーい」

「なんなんだ?最近の中学生は考えることは良く分からん」

 

 

女子一同に外の席に行くように促された烏間先生は首を傾げながら外の席に向かう。

烏間先生が外の出ると同時に、全員で窓際に張り付くように見物する。

外の席には既に姉さんが待機してる。姉さんは俺と原の合同で作ったショールを纏い、髪型も変えている。

 

 

「あのショールどうしたの」

「私と鶴久君で協力して作ったショールよ。雑誌とかを見て、ミシンで見よう見まねで作ってみたの。鶴久君が裁縫も上手で驚いたわ」 

「原さん、家庭科強いもんな」

「鶴久、お前女子力が高いっつーか、主夫だな」

 

 

茅野の疑問に原が答えて、原の発言に菅谷が納得して杉野が俺を見ながら言う。 

何はともあれ場は整ったんだ後は姉さん次第か。

 

 

 

 

 

◇◆sideイリーナ◇◆

 

 

「なんで俺達だけ追い出されたんだ?」

「……さぁ」

 

 

私とカラスマは外に設置された席に着く。あの子達がセッティングしてくれたけど……

 

こんなショールは社交界じゃ使い物にならない。

テーブルセッティングは紅がしたのか妙に整ってるけど所詮は素人仕事。

私が仕事で使ってきた一流店とは雲泥の差。

ホテル側に視線を移せばプライバシーもへったくれもない野次馬だらけ。

でも……

何よコレ。楽しいじゃない。

あの生意気な子達が私の為にセッティングしてくれたのかと思うと嬉しい。ちょっとだけ大好きよアンタ達。

やってやろうじゃない!この堅物をオトしてみせるわ!

 

 

「色々あったな、この旅行は?」

 

 

私が少し考え事をしているとカラスマが話しかけてくる。

 

 

「だが、思わぬ収穫もあった。生徒達に力が身に付いてることが証明された。この調子で二学期中には必ず殺す。イリーナ、お前の力も頼りにしてるぞ」

 

 

こんな時でもプロとしての意識を崩さない……か。

本当にカラスマらしいわ。この場に限って言うと空気が読めてないと思う。

でも私はカラスマが『仕事』の話をした時に紅や生意気なE組の子達を思う。

 

 

「どうした?」

「………昔話をしてもいい?」

 

 

私の雰囲気を察したのかカラスマが訪ねてくるが私は話をする事にした。

 

 

 

「私が初めて人を殺したのは十二の時よ。私の国は民族紛争が激化しててね。ある日、私の家にも民兵が略奪の為に来た。親は殺され、民兵は私の隠れたドアを開けたの。殺さなければ殺される。私は父親の銃で至近距離から民兵の頭を撃ちぬいたわ」

 

 

あの時の感覚は今でも忘れられない。

 

 

「その後は、死体と一緒に隠れて難を逃れたわ。一晩かけて体温が無くなって行く死体のぬくもりを感じながら……………ねぇ、カラスマ『殺す』ってどういう事か本当に分かってる?」

 

 

今、あの子達は『暗殺教室』としてE組にいるが本当の意味での『殺す』と言う意味をわかってない。

本当の意味を察したらあの子達は引き金を引けなくなる。

本当の意味を知ったら……あの笑顔が崩れてしまう。

 

 

「湿っぽい話になったわね。………ナプキン、適当に付けすぎよ」

 

これ以上は無理ね……私はカラスマのナプキンを手に取り、唇を当てる。そして唇を当てた部分を、カラスマの唇に押し当てる。

 

 

「好きよ、カラスマ。おやすみなさい」

 

 

私はカラスマの顔を見ずに背を向けて行く。

あーもう。私のバカバカバカ!告白のつもりが殺白してどーすんのよ!

 

 

「何よ今の中途半端な間接キスは!」

「いつもみたいに舌入れろ舌!」

「やかましいわ、ガキ共!大人には大人の事情があるのよ!」

 

 

私のナプキンによる間接キスは不満の様だが、あの場じゃアレが限界だっての!

 

 

「いやいや、彼女はここから時間を掛けていやらしい展開に持っていくのですよ、ね?」

「ね、じゃないわよ!このエロダコ!」

 

 

エロダコが絡んでくるが同意なんかしてやるか!

 

 

「姉さん、お疲れ様。はいワインとオツマミ」

「アンタはアンタで気を回し過ぎよ!」

 

 

私にワインとオツマミのチーズ焼きを差し出す紅。

この子は既に気の使い方が匠の域よね……

あ、美味しいわコレ。


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