吹雪がんばります!(史実版)   作:INtention

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長崎での話はもうちょっとだけ続くんじゃ。
吹雪が後年お世話になる艦娘だから許して...。


第三話 加古型軽巡洋艦

「わざわざ東京からご苦労様だな。俺は中村良三少将だ。本当は軍令畑だが今は第一水雷戦隊司令をやってる。貴様にここへ来てもらったのは龍田の事だ」

 

中村はそう切り出した。

 

「先程お会いしました」

「そうらしいな。で、どう思った?」

 

中村は茶を飲みながら聞いた。だがその目は鋭い。こちらを見透かすようだ。

 

「まさか来ているとは思わなかったのでてっきり一般人かと」

「はっはっは、一般人か。それは面白い。まあそれは別として、龍田は一水戦旗艦じゃないのは知っているか?」

「え?」

「その様子だと知らなさそうだな。まあ大きな変化じゃないが…。実は去年の12月の1日に編成された13年度の連合艦隊では、一水戦は呉の天龍、13、14、15駆に変更になって龍田は予備艦になった」

「では昼間の一水戦は?」

「去年の編成をこの数日だけ代わってやってるのさ。佐世保鎮守府からの要請でな。もちろん姉の天龍や連合艦隊司令部には許可貰ってる」

「どうしてそんな事を?」

「それはだな。先月佐世保沖で龍田と潜水艦が衝突したのを覚えているか」

 

そういえば同僚が話していたかも知れない。

 

「そうでしたね」

「訓練中で龍田は悪くないんだが、結果的に潜水艦娘(潜水艦第43号)は海の底に沈んでしまった」

「……」

「彼女も必死に救助活動をしたが助けられなかったんだ。で、一月たった三日前に引き上げた」

「容態は?」

「死んでは無かったが昏睡状態だしドックで修理が必要だ。龍田は事故を起こした事を悔やんでいてね。普段は不敵な性格だが駆逐艦達の面倒見はいいし、そういう面もあるらしい。それで気を効かせた佐世鎮の長官がその間臨時一水戦として新艦娘を迎えするという任務で休暇に出したという訳だ」

「そんな配慮があったんですね」

 

私が関心していると中村は苦笑しながら言った。

 

「俺もそういうのは苦手でね。幸い俺の天龍は男勝りだから気が楽だが、艦娘は女だからな。そういう気配りも必要らしい」

「日頃からそれを考えなきゃいけないのは大変ですね」

「ああ。昔ながらの装甲巡洋艦八雲とかに乗務してる方がどれだけ楽か。直接関係ないが今日貴様に聞かせたのは作る側にも艦娘はそういう面もあると知って欲しかったからさ。貴様は女子の心情を読むのは苦手そうだしな。人の事は言えんが。」

「ご配慮ありがとうございます」

「まあ本人の前で態度を変える必要もないし、素で接してやってくれ。さて、こんな辛気臭い話は終わりにして呑もう。俺も休暇のような物だし」

「そうですね。女将さん呼んできます」

 

その後二人で呑むのは楽しかったがさっきの話は自然と藤本の心に残ったのだった。

 

 

 

二日後、幕が張られたドックの前に軍人、三菱の職員、一水戦一同などの関係者が勢揃いしていた。いよいよ新型艦の完成である。まず日本神道の中枢である伊勢神宮と鹿児島県の新田神社の神官が儀式を行う。よく分からないが、妖精が神官を通して建造の完了を発表したので上手くいったようだ。

ひとまずホッとしたが、今度は一体どんな艦娘となるのか期待が高まる。

軍楽隊が君が代を演奏し始め、ついにお披露目の時が来た。造船所の職員達が幕に手をかけ、一気に取り払う。

 

目隠しが無くなり、ドックの中から軍艦ではなく一人の少女が現れた。数百人が乗る巨大な軍艦が少女に変わるのは毎回とても不思議である。新しく生まれた艦娘は橙色のセーラー服と黒のスカート、4本の煙突がついた黒い靴下を履いていた。上着の裾は花弁のような形だ。武装は主砲の14cm単装砲を両腕の黒い手袋に7基装備し、61cm()()魚雷を両腰に付けている。少しつり目だが整った顔である。少女は歓声の中を岸に上がり言った。

 

「加古型軽巡洋艦3番艦、川内参上。夜戦なら任せておいて!」

 

見守る人達から拍手が起きる。

軍人代表の中村が歩み寄って話しかけた。

 

「またべっぴんさんに仕上がったな。俺は第一水雷戦隊司令の中村良三少将だ。母校の佐世保までは俺が指揮する。」

「よろしくね、提督」

 

いきなり上官にタメ語とはたまげたなぁ。だが中村は慣れているのか気にしない。

 

「でだな。さっき3番艦だと言ったが貴様が1番艦だぞ」

「え、加古姉さんと那珂姉さんは?」

「藤本、説明してやってくれ」

 

中村は脇にいた私に話を振る。

 

「はい。初めまして、君の設計者の後任の藤本貴久雄大佐です。まず改長良型5500トン軽巡は条約で8隻から4隻になったのは知ってるよね?その後さらに加古は初の20cm砲搭載の重巡洋艦に変更になったんだ。確かもう一隻作るから加古型は2隻体制になるはず」

「え?じゃあ那珂型軽巡2番艦?」

「それが...君たちの長女になるはずの1番艦は横濱船渠で建造中に去年の地震で倒れてしまってね。復旧は難しそうだから来月作り直す事になったんだ。だから君は川内型軽巡1番艦だよ」

「やったー。じゃあ私が一番お姉さんなんだ」

 

川内は活発で明るい艦娘のようだった。水雷戦隊の旗艦として駆逐艦娘を束ねるのに必要な素質もありそうである。先輩の龍田とも仲良くしているし、気になる点は特にない。川内型は成功だと今の時点で確信した。龍田も潜水艦娘が生きていると知れば元気になるだろう。

祝賀会が一段落した後、川内は本日中に佐世保まで回航する事になった。

 

「中村さん。川内をよろしくお願いします」

 

自分の娘を送り出すかのような言い方になってしまった。

 

「おう、任せろ。龍田や樅達もついてるし安心してくれ」

「はい。では私は東京に戻ります。」

「もう戻るのか。」

「はい、次の仕事があるので」

「そうか。艦政の連中によろしく言っといてくれ」

「はい、そちらこそ」

 

まだ祝賀ムードが残る中、私は長崎駅に向かった。

 




~補足1~
第一水雷戦隊の陣容

1923年(大正12年)
龍田
 25駆 (もみ)(かや)、梨、竹
 26駆 栗、(にれ)(つが)(かき)
 27駆 (あし)(わらび)(ひし)(すみれ)
 28駆 (たで)(はす)(よもぎ)
全て佐世保鎮守府所属

1924年(大正13年)
天龍
 13駆 第2号(若竹)第4号(呉竹)第6号(早苗)第8号(早蕨) (駆二型(若竹型))
 14駆 江風、谷風、菊、(あおい) (江風型・樅型)
 15駆 萩、(すすき)、藤、(つた) (樅型)
 16駆 第10号(朝顔)第12号(夕顔)第16号(芙蓉)第18号(刈萱) (駆二型(若竹型))
全て呉鎮守府所属
ルビは番号から固有名称に変わった後の名前。

~補足2~
江風型一等駆逐艦
 改白露型じゃないです。その先代。
 イタリアに譲った浦風(こっちも先代)型の代わりに建造。初めてタービンを搭載し、37.5ノットの高速を出すことが出来ました。峯風型が出来たので2隻で建造中止。
 太平洋戦争時、除籍になった谷風(先代)は呉にいて生き延びた模様。
12cm単装砲3基、53cm連装魚雷発射管3基6門、6.5mm単装機銃3丁

第二型二等駆逐艦→第二()型二等駆逐艦→若竹型二等駆逐艦
 樅型の改良版として8隻が建造。条約が無ければ23隻建造する予定でした。
樅型が峯風型の廉価版なら若竹型は改峯風型の海風型の廉価版です。(大きな違いは15cm横に太っただけなんだけどね)
 大量に建造する予定だったため名前がなくて番号になりました。奇数が一等(神風)、偶数が二等(若竹)です。しかし、駆十九型(睦月型)の途中で一等に統一するために順番になっています。なので偶数の睦月型がいたり、空席の偶数番があります。これもう分かんねぇな。ちなみにこの1924年に第○()となってます。どうでもいいね。
 番号は評判が悪く、三等駆逐艦が一斉廃棄になって名前が空いたので名前が付けられました。
12cm単装砲3基、53cm連装魚雷発射管2基4門、6.5mm単装機銃2丁


~補足3~
龍田と衝突し沈没した潜水艦第43号は海中3型で、後に呂25となっています。
事故の時に乗員は全員死亡しましたが修理され、再就役しています。
(そんな艦で働きたくないな...乗員に拒否権はないですけど。)

~補足4~
艦これの川内は無印から改二まで四連装魚雷発射管を装備していますよね?でも当初はみんな長良みたいな連装だったんです。
多くの重巡、川内型は四連装へ換装すると共に酸素魚雷に対応させています。しかし、川内は最後まで連装でした。つまりゲームみたいに酸素魚雷は撃てないんですよ。悲しいなあ。

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