吹雪がんばります!(史実版)   作:INtention

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古鷹型がどこの所属か分からないです。どなたかご存知ですかね。
軽巡や駆逐艦は比較的分かるのですが、重巡はよく分からない艦が多いですね。とは言え1928年8月現在で竣工してる重巡って古鷹級の4隻だけなんですけどね。その後も軽巡が5500トン級、夕張のままという事を考えれば、開戦時の軽巡が古いという事が分かります。(まあ正確には最上型、利根型と置き換えの軽巡を建造してますが、水雷戦隊旗艦(フロチラリーダー)向けでないのはご存知の通り)



第九話 艦娘として

1928(昭和3)年8月

 

呉の駅からほど近くに呉鎮守府はある。レンガ造りにドームがある特徴的な洋館だ。

私と艦長は衛兵に身分を証明して敷地内に入った。緩やかな坂を登ると目の前に鎮守府の建物が見えてくる。

 

「緊張してるか?」

「ええ、少し」

「駆逐艦は仲間意識が強いからな。すぐに仲良くなるさ」

 

エントランスを潜り、二階へと続く階段を上がる。廊下を歩いていると二人の少女とすれ違った。二人は艦長の階級を視認すると立ち止まり、肘を張らない海軍式の敬礼を行った。艦長と私も答礼しながら通り過ぎる。後ろを振り向くと二人は小声で話しながら足早に去っていく所だった。建物の中心にくらいまで来ると司令長官執務室の表示がある観音開きのドアがあった。私達はその前で足を止める。

 

「ここが提督の執務室だ。中には提督と秘書艦の艦娘がいるだろう」

「今の秘書艦は誰ですか」

「さあな。でも戦艦だと思う」

 

戦艦の艦娘とは初めてだ。軽巡なら海に出ているのを遠目に見たが、緊張はその比ではない。何と言っても戦艦は国の軍事力を表していると言っても過言ではないのだ。その数と性能で海軍力は決まる。

 

「失礼します。横山徳治郎中佐です。駆逐艦吹雪をお連れしました」

 

ノックと共に中佐が名乗る。やがて扉の奥から了承の返事を貰うと、中に入った。

中央のデスクから謹厳そうな初老の提督が顔を上げ、隣の若い女性が立ち上がった。

提督は真っ白な第二種軍装をきっちりと身につけ、頭も軍人らしく短く刈り上げた姿なのに対し、女性は背中まで伸びる長い黒髪、肩を出した巫女服という対照的な服装だった。スカートなど膝より短く、市内なら巡査に注意されそうである。

こちらを見ていた提督は口を開いた。

 

「ほう。君が特型駆逐艦のネームシップかね」

「は、はい!特型駆逐艦1番艦吹雪です」

「元気が良さそうだな。私が呉鎮守府司令長官、谷口尚真(なおみ)大将だ。隣にいるのが秘書艦の扶桑だ」

「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。よろしくお願いします」

「駆逐艦との顔合わせは夕食の時で良いだろう。それまで構内を案内させろ」

「はい」

 

扶桑がデスクの電話を取る。

 

「秘書艦の扶桑です。軽巡寮へ繋いで下さい」

 

どうやら軽巡が案内してくれるようだ。上司となる可能性のある艦娘だ。どんな方だろうか。

 

「ああ、横山君。君は訓練の指示があるから残りたまえ」

「はっ!」

 

どうやら一人で行くことになりそうだ。ここの人は皆厳しそうな人ばかりな気がしてならない。

吹雪がガチガチになっていると、一人の艦娘が入って来た。

 

「くま~」

 

は?何か人でない言葉が聞こえたが気のせいだろうか。

 

「球磨さん。新人の吹雪の案内をよろしくお願いね」

 

熊さん…!?そんな獰猛な動物に任せられるのか。案内より食事にされそうだが…

 

「球磨を選ぶとはいい選択クマ!じゃあ新人、行くクマ」

「…はい」

 

二人並んで廊下を歩く。

 

「球磨型軽巡の一番艦。球磨だクマ。よろしくだクマ」

「特型駆逐艦一番艦の吹雪です」

「お互い一番艦だクマ。奇遇だクマ」

「そ、そうですね。あの…」

「クマ?」

「あのー、クマさんって熊さんですか?」

「どういう意味クマ」

「いえ、なんでもないです…」

 

庁舎を出て岸壁に出る。

 

「ここが桟橋だクマ。出撃や訓練はここから出発するクマ」

「へえー」

「次は艤装保管庫だクマ」

「私の艤装はまだ届いてないと思います」

「そうなのクマ?基本的にここに置いてあって、秘書艦の許可がある時にしか使えないクマ」

「許可はどう取ればいいのですか?」

「申請書を出せば良いクマ」

「分かりました」

「おう、姉さんじゃねえか」

 

二人が話していると背後から声をかけられた。

同じ制服を着ているので姉妹だろうか。制帽を斜めに被り、眼帯をしている。

 

「何やってるんだ?」

「新人の案内クマ」

「新人?」

 

艦娘はこちらをジロリと見た。

 

「初めまして。特型駆逐艦吹雪です」

「ああ、新型のやつか。俺は軽巡木曾だ」

「木曾さんは熊さんと同じ熊型ですか?」

「そうだ」

「普通の方なんですね」

「どういう事だ」

「いえ、熊型の皆さんは熊さんのような感じかと思っていたので」

「みんなそうでは無いクマ。でも妹の多摩はニャーというクマ」

「え…じゃあ木曾さんも語尾がキソに」

「ならねぇよ!それと球↓磨↑型だからな」

「く↑ま↓じゃないんですか」

「それだと動物じゃねえか」

「え……。」

「どうして驚く。まさか俺らを動物の熊型だと…」

「…すみません」

「球磨達二等巡洋艦は川の名前だクマ。球磨は熊本県の球磨川が由来だクマ」

「そうですよね」

「ちゃんと覚えとけよ。他の新人にも言っといてくれ」

「はい」

「じゃあな」

 

木曾は忠告すると宿舎の方へ行ってしまった。

なんとなく気まずい雰囲気である。

 

「ごめんなさい」

「よくある事クマ。でも球磨は熊じゃないクマ」

「はい」

「木曾も別に怒ってないクマ。いつもあんな感じだから気にする事ないクマ」

「本当ですか!良かった…」

「じゃあ次は戦艦寮に挨拶に行くクマ」

「呉には何隻いるんですか?」

「3隻クマ。でも霧島はドックで改装中クマ」

 

遠くに高いマストが見えたのでそれだろうか。駆逐艦とは比べ物にならないくらい大きかった。

 

「じゃあ後2隻は?」

「1隻は秘書艦の扶桑クマ。でも執務室にいるから今いるのは残りの」

 

ノックと共に戦艦寮の扉を開ける。

中には木目調の比較的豪華な談話室があったが誰もいない。

 

「あれ、伊勢さんは外出中クマ?」

「そうなんですか」

「一人だと暇だからよく歩き回ってるクマ」

「姉妹艦は」

「日向は佐世保にいるクマ」

「離れ離れなんですね」

「戦艦は少ないから全体に行き渡らせるためによく分散しているクマ。でも明るい人だから、道で会ったら挨拶しておくクマ」

「はい」

 

駆逐艦はいつも何隻かで集まっているようだが、大型になる程数より質になるようである。二人は無人の戦艦寮を出て再び歩き始めた。

戦艦の事を考えていた吹雪がふと尋ねる。

 

「そういえば秘書艦ってどう決めるんですか」

「司令長官の独断クマ。でも大きい戦艦を選ぶ事が多いクマ」

「呉には扶桑さんと伊勢さんがいますよね。普通は新しい伊勢さんがなるんじゃないですか?」

「鋭い視点だクマ。でも答えは簡単でずっと呉にいるから扶桑だクマ」

「どうしてですか」

「知らないクマ。伊勢に聞いてみるといいクマ」

 

扶桑が秘書艦を務めている事はよく知られているようだが、詳しい理由は知らないらしい。そして球磨は本人ではなく伊勢に聞くように言った。これにも何か理由があるのだろうか。

その後、巡洋艦寮も誰もいないとの事だったので後日行く事になった。

 

「みなさん忙しそうですね」

「昼間だからクマ。沖で訓練してる艦隊が見えるクマ?」

 

江田島の方に目を凝らして見ると一つの艦隊が高速で動き回っている。

 

「あの三人が第三戦隊で。阿武隈、神通、那珂の軽巡クマ」

「球磨さんと同じ型ですか?」

「同じ5500トンだけど阿武隈が長良型、神通那珂が川内型クマ」

 

阿武隈を先頭に単縦陣となった三隻は標的に向かって一斉に射撃を開始した。18門の14cm砲が一斉に放たれる様子は壮観であった。

 

「上手ですね」

「艦隊運動が甘いクマ。川内型はまだ新人だからまだまだだクマ」

 

球磨腕組みをして評価した。こんな感じではあるが軽巡としてはベテランの域にある球磨の一面が見えた気がした。

 

 

 

木曾は艤装保管庫から官舎へ向かっていた。考え事をしている様子である。

 

「語尾がキソか」

 

先ほど吹雪に言われた事が気になっていたのだ。木曾型は5隻だが、キャラが強い艦娘が多い。長女は熊、次女は猫というもはや人でも軍艦でも無いキャラをしている。この二人に目が行きがちだが、三女の北上に四女の大井が懸想しているのはよく知られている。わざとかは知らないが軍令部は北上を横須賀、大井をここ呉に配属したため、二人で合う事はあまりない。だが、毎日のように大井は手紙を出している。検閲官もうんざりする量である。北上もたまに返信してる事からまんざらでもないのだろう。このように二人はとても仲が良い。

残るは自分だが、ペアはいない。眼帯をして帽子を斜めにかぶってキャラ付けをしているものの如何せん姉達と比べて目立たない。眼帯などは天龍と被っている。

天龍は日本初の新型巡洋艦娘であり、その存在は大きい。今も第一水雷戦隊の旗艦として駆逐艦娘の尊敬を集めている。それと比べれば木曾は陰が薄い。いっそ語尾を変えてでも存在感を強めなければいけないかも知れない。

 

「…俺の名前は木曾だキソ」

 

「あら、木曾じゃない」

「!?」

 

いつの間にか目の前に戦艦伊勢がいた。

 

「どうしてここに」

「え?酒保に買い物をね」

「い、今の聞いたか!?」

「何の事?」

「いや、別に…」

「顔が赤いよ。機関の圧力を上げ過ぎてない?」

「そうかもしれない。では失礼する」

 

そう言い残すと足早に立ち去った。

 

「…木曾だキソねぇ」

 

伊勢は後ろ姿を見ながらつぶやいた。

 

「何か聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような。黙っててあげようかな」

 




吹雪の日常がスタートしました。憧れの先輩は扶桑姉妹という設定を活かすチャンスがいきなり到来です。呉鎮守府には霧島(近代化改装中)、扶桑、伊勢が配属されています。でもこの中で最も強い戦艦は伊勢なので、秘書艦は伊勢なんじゃないかなと思いますが、艦歴を見ると伊勢が欧州の戦訓による改装をした後に警戒のために旅順に行ったりしているのに扶桑は艦長が変わってるくらいしか変化ないんですよね。これは一体…。でも性能・速度とかの使いやすさを考えればどちらを重宝するかは…ねえ。なので扶桑に秘書艦を任せました。伊勢が寮にいなかったのは木曾の件のためと、戦艦寮に昼間ぼっちなのは可哀想かと思ったからです。

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