IS×仮面ライダーW 〜二人で一人の探偵達+αが転生しました〜 作:prototype
第十九話です。どうぞ!
「へえ、確かにかなり賑わうんだな。」
学年別トーナメント。急遽タッグマッチに変更になったその大会は、予定通り開催されていた。
「こういったトーナメントでは、実質代表候補生同士の争いとなりやすい。自国の代表候補生の成長を見に来るのならば、こういった場が相応しいのだろう。」
フィリップの言う通り、重役っぽい人がずらずらと。
俺とフィリップは、会場の警備を任された。千冬さんに大道から聞いたことを話して、この役目に付けられた。警備と言っても、基本的に特別に作られたアリーナの入り口に待機するだけだ。前回、クラス対抗戦の時は、アリーナが封鎖されてしまったからな。こんな方法をとるしかない。
流石にこんなに大勢の目があるから、Wには迂闊になれない。千冬さんも分かっているのか、訓練機をわざわざ待機形態に出来るようにして支給してくれた。大道も上手くやってくれるといいが………。
それにしても、俺達はISを持ち逃げするかも分からないのに、また支給してくれるとは……。その信頼に応えなきゃな。
因みに待機形態は、俺が小指のリングで、フィリップはクリップ。そう、風都にいた時、髪留めに使っていたようなクリップだ。ISは前の世界のフィリップのファッションを知ってるのか!?俺のリングも前に付けてた奴に似てるし…。
「翔太郎、始まるみたいだよ。」
「おう。」
アナウンスが流れ、トーナメント表が映し出される。
「へえ、一夏は最初からラウラとか。ん?篠ノ之箒も一緒なのか!? こりゃ荒れそうだな。」
「それ以上に、篠ノ之束が仕掛けて来るとしたら、一夏の試合である可能性が高い。十分警戒しよう。」
フィリップの言葉に応じ、何時でも出れるよう構える。
この数日の間、一夏と模擬戦は出来なかったが、主にシャルロットとの連携に重点を置いて練習したようだ。中々様になっていた。シャルロットには、人に教える才能がある。一夏もそれに応えられたんだろう。
しかし、ラウラ・ボーデヴィッヒについて詳しいわけじゃないが、代表候補生三人でも手間取ったようだ。油断は禁物だな。
さ、練習の成果を見せてもらおうか?一夏。
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「一回戦から貴様と当たるとは、幸運と言うべきかな?」
「それはこっちもだぜ!練習の成果を見せてやる!」
アリーナでは、早くも、一夏とラウラが担架を切りあっていた。
「………………一夏。約束は守ってもらう。もし私が優勝したら………」
「ん?ああ、分かってる分かってる。箒!戦うからには全力で行くぞ!恨みっこなしだぜ!」
「一夏、それは酷いんじゃないかな…。」
いつもの爽やかな笑顔で箒に答える一夏。シャルロットはそれを見て苦笑いをしている。
実は、一夏と箒は、トーナメントの前にある約束を交わしている。
『もしトーナメントで優勝したら、付き合う。』
篠ノ之箒は、どんどんと自分から離れて行く一夏を、どうにかして自分のもとに取り戻すための約束だった。翔太郎達が病欠(ということになっている)で、一夏の周囲に居ないのをいいことに、彼女は一夏に接触したが、一夏が何かを隠していると気付き、自分と一夏の距離を改めて認識したのだった。それゆえ、覚悟を決め、このような約束を取り付けたのだった
しかし、一夏はこの約束を、『買い物に付き合う』程度に考えており、箒の覚悟は報われないことになるのだが………
「それでは、自らの全身全霊を尽くすように!始め!」
「叩き潰してくれる!」
「やってみろよ!」
機械音のブザーと共に、試合が始まった。
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試合が始まるより少し時間は遡り。
「お前が直々にお迎えとはな。」
「私では不足か?」
大道克己とクロエ・クロニクル、織斑千冬が、学園の門の前に居た。
「左翔太郎から話は聞いてるな?通してもらおう。」
「ああ、聞いている。入れ、理事長にも許可は取っている。」
「許可だと?ここの理事長とやらは、随分と警戒が浅いな。」
「……理事長は考えなしに行動を起こす人間ではない。」
千冬が二人を案内し、アリーナを一望出来る部屋に着く。
「まだ試合までは時間がある。克己。」
「何だ?」
「お前が前の世界とやらで何をしていたのか、私の前から居なくなって以来、何をしていたのか。話してもらうぞ。」
「………成る程、それを聞くためにわざわざお前一人で来た訳か。」
「翔太郎達から、お前があのガイアメモリとかいう物を使って事件を起こし、その果てに死んだことは聞いた。だが、翔太郎達はお前がその時正気ではなかった、と言っていた。どういうことだ?」
克己は少し苦い表情を浮かべた。
「クロエ、外に出ていろ。」
「かしこまりました。」
克己の言葉に従い、クロエが部屋から出ると、克己は話し始めた。
「………前の世界で俺は二度死んでいる。」
「?どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。俺のお袋は科学者でね。事故で死んだ俺を、蘇らせてくれたのさ。」
克己が嘲るような口調で言うが、その言葉の影には哀しさがこもる。
「死人が生き返るだと……?」
「ああ。馬鹿げた話だがな。それによって生まれたのがNECROOVER、通称NEVERと呼ばれた兵士だ。」
驚愕する千冬を他所に、克己は話を続ける。
「NEVERは定期的に酵素で体を維持すれば、並外れた身体能力と、耐久力、不死に近い生命力を兼ね備える。しかし一つ、欠陥があった。」
「欠陥?」
「"人間性"………クサイ言葉で言えば、"心"とも言う物だ。NEVERになった者は、段々とそれを失っていく。………彼奴らが言ってる正気じゃなかったというのはこのことだろうな。」
「心を失うだと……!ならばお前は…」
「勘違いするな。例え正気でなくても、彼奴らと戦ったのも、多くの罪を犯した事も、俺の意思だ。………もういいだろう?幻滅でもしたか?」
「………ではなぜあの時、私を助けた。同情か?」
「………俺は
「それでも私は、あの日に救われたんだ!何故そこまで悪人になろうとする!?」
「…………………」
千冬の声に克己が顔を歪める。
「今の私があるのはお前のお陰なんだ……。この傷だけで払え切れない程の恩がある。」
「俺には何かを救う事など出来ない。する資格も無い。ただ自分の為に戦うだけだ。それだけしか俺には出来ない。試合が始まるぞ。」
暗い顔で、哀しそうな声でそう言う克己を、千冬も哀しい目で見つめるのだった。
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試合は白熱の展開を迎えていた。
「くっ!ちょこまかと!」
「捕まる訳にはいかないんでね!」
迫り来るラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』のワイヤーブレードを紙一重で避けていく。
「邪魔だ!私は一夏と!」
「悪いけど、僕で我慢してね!」
一方で、篠ノ之箒はシャルロットに翻弄されていた。代表候補生は伊達ではない。
「チッ!ならば望み通り接近戦に持ち込んでくれる!」
しびれを切らしたラウラがプラズマ手刀に武装を切り替え、一夏に突進する。
しかし………
「頃合いだ!」
「なっ!」
一夏は突然ラウラに背を向け加速する。突然の行動に、ラウラは一瞬戸惑う。その一瞬が、ラウラと一夏の間を大きく開いていく。
そして一夏の向かう先には……篠ノ之箒がいた。
「勝負だ!箒!でやあああ!」
「ッ!一夏!?」
シャルロットに気を取られていた箒は、まともにその一撃を受ける。零落白夜により、そのシールドエネルギーを大きく削られる。
「ぐっ!背後からとは卑怯だぞ!」
「タッグマッチだからな!油断大敵だぜ?」
「前にもいるよ!」
今度は一夏に気を取られた箒をシャルロットが撃ち抜く。零落白夜によって大きく削られていたエネルギーは最早雀の涙である。
これが二人の対ラウラ戦略の一つである。一夏の零落白夜の圧倒的な攻撃力を生かし、一夏に執着するラウラに一夏を当て、その間シャルロットがもう一人を狙う。一夏はラウラを牽制しつつ、隙を見てもう一人を零落白夜で倒す。出来るだけエネルギーを使わず、強敵であるラウラに、二対一で当たるのが目的である。
窮地に立たされた箒は、それでもブレードを構え、一夏に向かう。
「一夏!まだ私は終わら……」
「ーーーーー邪魔だ!」
しかし、彼女が一夏の元に届く事は無く、後ろから延びたワイヤーに絡め取られ、そのまま横に投げ飛ばされ、エネルギーが0になった。
「!?お前!自分のパートナーを!」
「足手まといが無くなっただけだ!さあ織斑一夏!今度は逃さん!」
「来るよ一夏!」
シャルロットの言葉を聞くと、一夏はラウラの周りを旋回する様に飛行する。
「また逃げるのか!」
「余所見はしちゃダメさ!」
一夏を追おうとするラウラだが、シャルロットに阻まれる。そしてシャルロットが、近接用のブレードを構える。
「無駄だ!」
しかし、ラウラのAICーーー慣性停止結界の前に阻まれる。
「このAICの前では、全ての攻撃が無力なのだ!」
「それはどうかな?」
「何?………ッ!」
シャルロットの言葉に疑問を覚えるが、背中に感じる痛みでそれを理解する。
「織斑………一夏だと!」
何時の間にか銃を構えた一夏が、ラウラに狙いを定めていた。
射線から逃れようとラウラが動こうとするが………
「余所見はダメだって言ったよね?」
背後から終わりを告げる声が聞こえた。
「
「はあああああ!」
「がああああ!」
ラウラが吹き飛ぶも、さらにシャルロットはそれを追撃、瞬く間にシールドエネルギーが削られていく。
完全にラウラが沈黙すると、勝利を告げるアナウンスがなった。
「そこまで!勝者は織斑、デュノアペア!」
アナウンスと同時に、アリーナから歓声が上がる。
「やったなシャル!」
「うん!やったね!」
一夏とシャルロットと合流し、勝利の喜びを分かち合う。
………その時だった。
「うあああああああ!」
突如響いたラウラの叫びと共に、スパークが走る。
シュバルツェア・レーゲンがその形を変えていく。
スパークの中から出てきた黒いナニカに、一夏は見覚えがあった。
「千冬……姉?」
織斑千冬を模した不気味なナニカがそこに佇んでいた。
如何でしたか?
次回も遅くなりそうです。
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