学園生活部と一人のオジサン   作:倉敷

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衝動的に書いてみたくなったから書いてみた。
いろいろおかしい。
続きは分からない。


おじさん

「なんでオジサン、こんなところで女子高校生と一緒に農作業してるのかねえ」

 

「間が悪かったんじゃん?」

 

「あ、そう? やっぱりそうかあ」

 

 私立巡ヶ丘学院高等学校、その屋上には、菜園が設けられている。この高校の教育理念である『自主自律』。その精神はまず食よりと考えられたが故であった。そしてそんな屋上菜園に、ツインテールの女子生徒と、何だかぱっとしない、高校と言う教育機関には似つかわしくない男がいた。先ほどの男の呟きの通り、オジサンと言っていい年齢であるのはそのくたびれた雰囲気と、顔に刻まれた皺が語っていた。

 

 ツインテールの女子生徒、恵飛須沢胡桃は慣れた手つきでシャベルを扱い土を耕し、くたびれたおっさん、本名不詳は種を植えた場所に水をやっている。

 

「オジサンさあ、いつも間が悪いんだよ。何やってもそうでねえ、最近になってやっと悟ったんだよね。あ、オジサンて駄目な奴なんだって」

 

「そんなに自分を悪く言うもんじゃないってオジサン。実際に今こうやって共同生活できてるんだからさ」

 

「ええ……。だって自分より若い子が上司になったり、部下に昼行燈て揶揄されたり、自信なくなるよね。と言うかそれって間が悪いとかっていうより、ただ単にオジサンがダメなだけかもしれない……。いっそのこと、この水みたいに土に吸収されたいよねえ」

 

 オジサンはぼーっと、水がかけられたことにより色が変わっていく土を見ている。

 

「なんか意味わかんないこと言い始めたぞ……」

 

 恵飛須沢はそんなオジサンに呆れながらも、手を止めることはない。せっせと耕しながら、ちらちらとオジサンのことを気にはしているようだ。オジサンの周りにはどんよりとした空気が溢れていた。

 

「ほらほらオジサン、ちゃっちゃと終らせようぜ。もう少ししたらあいつも来るだろうから、更に終わらなくなるし」

 

「ああ、ゆきちゃんか。確かにドタバタしてるからやりにくくはなるけど、彼女の明るさは凄いよねえ。マイナスイオンでも振り撒いてるんじゃないかってくらいの癒し系だよ。……はあ。会社にもああいう子がいてくれれば良かったのになあ」

 

 一度立ち直るかと思ったオジサンだったが、会社のことまで連鎖的に思い出してしまい、また土を眺める作業に戻ってしまった。どうにもはっきりしない人間である。社会に出てもこんな風では、会社での風当たりが強くなるのも想像に難くないのではなかろうか。

 

「オジサン……いい加減にしないと怒るぜ?」

 

「……うん、ごめんなさい」

 

 シャベルを肩に担いだ恵飛須沢に睨まれたオジサンはその恐ろしさに慄き、思わず謝罪の言葉が口をついていた。女子高校生に怒られる大人。なんとも情けない図であった。その後オジサンは土下座の体制にシフトし、額をコンクリートに擦り付ける間際で恵飛須沢に止められた。キョトンとするおっさん。可愛さゼロである。

 

「いや、土下座はやめような」

 

「はい」

 

 恵飛須沢は笑顔で言った。オジサンも笑顔で応えた。なんとも言えない空気が流れるのを二人は感じた。数秒の沈黙の後、二人はそれぞれの作業へと戻ったのだった。

 

 それからは随分とあっさりと片付いた。オジサンが駄々をこねなければもっと早く片付いたのだが、まあ終わったことは仕方ない。

 

 道具も片付け終わった二人は、手すりに近づき校庭を見下ろした。

 

「相変わらずいっぱいいるねえ。なんかこう、特殊部隊とか来てくれないのかなあ。映画とかだとよくあるよね、そう言うの」

 

 校庭を右往左往している生ものを、指をさして数えながらオジサンは言う。

 

「あれは主人公のところに来てるだけで、他の救出を待ってる人のところには行ってないんじゃない?」

 

 恵飛須沢もオジサンの真似をして数を数えていた。

 

「あ、なるほど。オジサンはつまり脇役ってことか。そりゃそうよね、主役になったことなんてないし。それなら助けが来ないことも頷けるねえ。あ、でも君たちは主役だと思うけど」

 

「いやいや、あたしとか元気だけが取り柄で、最初の方にやられて他のみんなに危機感を与える役だろ」

 

「微妙に具体的で嫌になるよ……。本当にそうならないでね? オジサンが居なくなっても影響はないだろうけど、君がいなくなったらみんな悲しむだろうから」

 

 うわ、本当にいっぱいいるなあ、あれ。オジサンは呟いて、数を数えるのを止めた。

 

「オジサンがいなくなっても嫌だって。あたしもそうだし、ゆきもりーさんもそうだと思うぜ」

 

 絶対に。恵飛須沢は最後にそう付け加えて、数えるのを止め、手すりに背中を預けて空を見上げた。時刻は昼を過ぎ夕方。夕焼けが綺麗な空だった。

 

「そうだといいなあ。今まで人に必要とされたことって片手で数えられるほどだけど、頼られるのは案外好きかもしれない。うん、出来ることはやらせてもらうよ。あ、でも多くは期待しないようにね」

 

「分かってるって」

 

 二人はあはは、と笑いあい、手すりから離れた。

 

「今日も一日終わりだねえ」

 

「こんな日でも、続いてくれれば嬉しいんだけどな」

 

「平和な日々って貴重だったんだなって、何か考えちゃうからねえ、こんな状況だと。ていうかゆきちゃん遅くない? 何かあったりしたのかな」

 

「もう授業も終わってるはずだし、確かに遅いな……」

 

 二人が心配になって屋上の扉に視線を送ると、それが合図だったかのように扉が開かれた。

 そこからは二人の女子生徒が姿を現した。

 一人はゆきちゃんと先ほどから呼ばれていた丈槍由紀。ケモノ耳のように尖っている特徴的な帽子を被っている、オジサンから見ればマイナスイオン振り撒いている系女子である。

 そしてもう一人。丈槍の後ろから姿を覗かせたのは若狭悠里。恵飛須沢が言っていたりーさんとは彼女のことである。オジサン曰く家庭系女子である。

 

「二人ともごめんねー! 早く行かなくちゃと思ったんだけど補習があって、先生が離してくれないんだもん」

 

「それはお前が悪いんだろ……」

 

「それで私も心配になったからゆきちゃんを迎えに行ったのよ。でも今日はそれほどやることはなかったから、くるみとオジサンの二人で終わっちゃったみたいね」

 

「それがさー、聞いてくれよりーさん。オジサンってば遊んでばっかいるんだぜ?」

 

 女三人寄れば姦しいと言う。確かにそうであった。オジサンはきゃっきゃしている女子高校生の力に圧倒されて、遠くからそれを眺めながらそう思った。と言うかオジサン蚊帳の外である。さすがに女子高校生の中にオジサンが入るのは難しいのか。至極当然のことだが。

 

 やることもないオジサンは、しゃがんで土を見る作業に入った。無心で土を見続けるおっさん。傍から見れば不審者としか言いようがない。場所が場所なら職務質問される可能性すらある。

 

「おーい、オジサーン! もう戻ろうよー」 

 

「また土見てるのか……」

 

「オジサン、今日は美味しいカレーよ」

 

 そんなオジサンに声がかかった。優しい世界だ。

 

「カレーかあ。そう聞くと何だかお腹が空いてくるねえ」

 

 そう言いながら立ち上がるオジサン。よっこいしょ、という声が出てしまったあたり、もう年である。

 丈槍、恵飛須沢、若狭の三人はオジサンがこちらに歩いてくるのを確認すると、屋上を後にした。

 オジサンもそれに続いて階段を降りる。

 

 巡ヶ丘学院高等学校、学園生活部、本日も異常なし。

 


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