「三人ともいくよー!」
階段の一番下に待機している三人に対して、最初に声を出して一拍置いてスタートの笛を吹く。
合図を耳にした瞬間、三人は綺麗なスタートを切り階段を駆け上がる。
早朝の神田明神で俺達は、練習を行っていた。
真姫が作ってくれた曲を聴いて、スクールアイドルのランキングで票が入ったことで、より一層やる気が出たのか三人ともに練習の効率は上がっている。
穂乃果に至っては今までの階段ダッシュよりもタイムが縮まっている。他の二人もタイムは縮まっているし、それでも納得や妥協は一切許さない雰囲気を纏い、ストイックに練習に取り組む。
「……よしっ!!」
階段の頂上に到着した穂乃果は、小さく声をあげた。自分でもタイムがさっきよりも縮まっていると自信があるのだろう。そう思い、タイムを見てみると、これまでのタイムはすべて手を抜いていたのではないかと思えるぐらいの記録が出ていた。
「ほ、穂乃果……。これ」
「んー?」
穂乃果がゴールした今でも階段を駆け上がっている真っ最中の海未とことりを傍目に、穂乃果にタイムを見せる為、タイムウォッチの画面を向ける。
画面が小さいので、必然的に見るのに近付く必要があるのだが、走った後で汗だくなのに、良い匂いを周囲にまき散らかす穂乃果。
そんな彼との距離感にドギマギしながらも、マネージャーとしての業務は捨てない。
「自己新更新した実感はあったけど、ここまでとは」
「うん。このままいけば、結構な所まで行くんじゃない?」
「そうだね。陸上部じゃないけど」
彼の一言にくすりと笑っていると、言っている間に海未がゴールし、続いてことりもゴールした。
記録は穂乃果程極端に上がってはいないが、それでも少しずつ練習の成果は出ている。
「……穂乃果、早すぎだよ」
「ホント、どんなに早くなるのー。ボク達、陸上部じゃないよ」
一生懸命に自分達なりに穂乃果について行こうと必死に足を動かしたのだろう。階段ダッシュを本気で行った後の二人は体力的にバテて、地面に座り込んでいた。
休息を取っていることりが放った言葉は偶然にも穂乃果が言っていた台詞とほぼほぼ似ていたので、俺はくすりと口角が上がってしまった。
ただのスクールアイドルが一見陸上部に思えるようなトレーニングをしているなんてね。
「あはは……なんかね。真姫君が曲をくれた瞬間からやる気が溢れてきて、ね」
「だからといって、早くなるわけじゃないんだけどな。理論上では」
やる気イコール結果に繋がることはあまりないケースだ。
穂乃果のようにやるったらやる。という性格であっても、実際に記録を更新出来るかと聞かれれば、調子が良ければいけるかも知れない。と返すだろう。絶対に出来ます。と答えてしまえば、記録更新しないといけないという使命感に駆られ、自分の力を発揮出来ないし、かといって無理です。と思ってしまえば、気持ちがネガティブになり本来の力が発揮出来ない。あくまでも自論ではあるが。
「それにしても、曲が提供されたなら密かに練習していた振り付けと新規で追加した振り付けを特訓しないとね。振り付けやポジション移動を纏めた紙は常に常備してね。完璧にしてもらうから」
「はいっ!」
「わかりました」
一緒に振り付けを考えてくれたことりはもう新しい振り付けの型は暗記している。彼女今しないといけないことは、微調整だ。ダンスの際に右手の角度は何処まで上げるか等といった調整であり、それは全員で合わせなければわからないもの。
「ことり。最初から振り付けを通してみて」
「オッケー」
休憩を終えたことりは立ち上がり二人の前に出る。
曲が始まって最初の振り付けを左右反対で披露して、こちらへ視線が送られてきたので、「反転で踊ればいいの?」という問いかけだろうと考え、頭を横に振る。
「これが一通りの流れになる。ポジション移動とかはある程度こう動くという情報でしかないから、合わせてみないとわからないし変更する可能性が高い。まぁ、そういうのは一つずつダンスを覚えてからにしようね」
二人に対して言葉を放ってから一通り踊ってくれたことりにお疲れ様、休む。と声をかける。当然ことりは踊るよと参加の意を示した。
次はここを気をつけたらいいよとアドバイスを行い、最初の振り付けの練習に入る。
今の彼らには一つ一つの振り付けに時間をかけて完成度を高くする余裕はない。
ライブまで後三日。
曲を作ってもらうまでに時間がかかり過ぎた。別に真姫のことを悪くいうつもりはない。だが、振り付けに使える時間が限られていることは確かだ。
今は完成度を高めるのは後回し。全体を踊れるようにしなければならない。
(前日までの時間は徹底的に練習をさせて、前日にライブの宣伝の為にチラシ配り。当日の午前中は最終チェックして、リハーサルもして本番、かな)
アニメでは海未が極度の恥ずかしがり屋であったが、こっちではそこまで酷くないので、チラシ配りに時間を使いまくる必要性はないだろう。
(……例え、結末を知っていたとしても。俺は)
※主人公のネガティヴ度が20%上がった。的な回ではありましたが、特に進展も発展(恋愛的な意味で)もない回でしたね(笑)
次回は時間を進めてライブ本番にする予定です