あれ? これって『ラブライブ!』だよね   作:片桐 奏斗

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第3話 生徒会長

 

 

 

「ようこそ、生徒会へ」

 

 

 

 

 茶化すように言葉を紡いだ希先輩。

 

 先輩が開けてくれたドアを潜り抜けると、円卓のように囲まれたテーブルがあり、奥のテーブルに一人の青年が書類を睨みつけるように見ながら、声を掛けていた。

 

 

 

「希。いったい今まで何処に行ってたの?」

 

「ごめんて、エリチ。はい、これエリチの分の飲み物」

 

 希先輩から飲み物……紅茶を受け取ったエリチこと生徒会長は一度、こちらに視線を向けた後、希先輩に戻し口を開いた。

 

「ありがとう。でも、エリチはやめてって言わなかった?」

「あはは……。そうやったっけ。まぁ、ええやん。我ながら可愛いニックネームやと思ってるし」「まったく。……で、彼女が例の子?」

「そうそう。新しく転入してきた片桐 光莉ちゃん。今日、生徒会に挨拶に来たんやって」

 

 紹介されたので生徒会長の前に立ち、自分の口から名前や学年を言い、挨拶に来させてもらった旨を伝えた。

 

 

「ふぅん……」

 

 

 今まで行っていた作業を終えたのか、または中断した生徒会長は席を離れて自分の真ん前にやって来た。距離はおよそ数メートル。

 相手の顔が至近距離で見えるような距離感だ。

 

 

 

 

 

 窓から差し込む光が反射し、生徒会長の持ち前の金色の髪が神々しく輝き、動いたことによって短く切り揃えられた髪がサァッとなびく、その光景が俺の瞳に映り込んだ。単純に綺麗でかっこいいと思わず見惚れてしまったのかも、一時ですら視線を逸らしたくない。そう思ってしまった。

 

 

 

「生徒会長の『絢瀬 絵里(あやせ えり)』です。よろしくね。光莉ちゃん」

「……かっこいい。あ、いえ。えっと、はい、よろしくお願いします!」

「褒めてくれてありがとう。でも、君も可愛いよ」

 

 さすが『ラブライブ!』でイケメン枠に入っていただけのことはある。さらりと女の子が照れてしまうようなセリフを言えて、甘いセリフに加えて微笑を浮かべるとか……。女ったらしにも程がある。

 原作では男ったらしでもなかったのに、なんでこんなことになってしまったのだろうか。

 思わず心は男のくせに絵里先輩に心奪われそうになってしまったことに肩を落としていると、絵里先輩はあれ……。というような戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 

「今度来る転入生には、こういう挨拶した方がええんとちゃうかな。って希に言われたからしてみたのに」

 

 ――元凶はアンタか!!

 

 

 恨みの篭った視線を希先輩に差し向けると、ごめんごめんとのほほんとした様子で会話に入って来た。

 会話に入る前にぼそっと言っていた言葉、俺は絶対に聞き逃さなかったからな。「赤面しながら睨み付けてくる光莉ちゃん、可愛い」って言ってたの、絶対に忘れないからな。そして、覚えてろよ。

 

 

 

「うちが言ったんやないってゆーてるやん。カードが言うてるんや」

 

 

 ズボンのポケットから取り出したタロットカードの束から一番上のカードを取り出し、こちらに見せてきた。けれど、俺にはタロットカードの知識はないからまったくわからない。

 

「……まぁ、希に言われたから仕方なく言ったわけじゃないことだけは覚えてて。君は普通に可愛いよ」

「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。絵里先輩」

 

 満面の笑みで答えると、絵里先輩は「え、絵里先輩?」と呟きながら顔を赤くした。

 いきなり名前を呼ばれて怒ってるのかな……。

 

「え、えと、いけませんか? 希先輩は希先輩って呼んでるので、絵里先輩もと思ったのですが……い、嫌なら、生徒会長って」

「いえ、構わないよ。ただ、ちょっと照れくさいなって、女の子から先輩呼びされること、もうないかなって思ってたから」

「うちもそれわかるかな。しかも、美少女やし。テンション上がるやんな」

 

 そっか……。

 中学校まではわからないけど、高校はここで男子校だもんな。女子から先輩呼びされることは十中八九ないよね。

 

 

「……あ、もうそろそろ時間が。じゃあ、私はこの辺りで」

「えー、もう行ってしまうん?」

「ええ。ごめんなさい。穂乃果達にも呼ばれているので」

「あ、マネージャーになったんやっけ?」

 

 本人ら以外には何も言っていないはずなのに、希先輩は何故知っているのだろうかと思ったが、何を言ってもタロットカードが原因のような気がするので無視をする。

 生徒会室から退室しようとドアの方へ歩き出そうとした瞬間。

 

「え……」

 

 腕を強く引かれ、後ろに引き寄せられる。

 そして、手を引っ張った人に力強く抱かれ、身動きが取れない状態に陥った。

 

「絵里、先輩……?」

「行かせない。あんな夢物語を語っている人らの所に行っても、泣きを見ることになる。だから……」

 

 おそらく絵里先輩の頭の中で浮かんでいるのは、幼少期にやっていたバレイ……じゃなくて、こっちの世界だとダンスになるのかな。で、挫折をしたこと、なのかな。

 努力は必ずしも報われるわけじゃない。勿論、報われて欲しいとは思う。けれど、結果的に努力が報われるのは少人数の人のみ。

 その少人数に入るにはより沢山の努力をしないと絶対に入れない。ましてや、『μ's』は結成して早々だし、動きはまだまだ素人同然。

 学校の未来なんて託せない。だから、音ノ木坂学院の名を語ってスクールアイドルはさせないって感じだもんね。

 

 

「……離してください」

「光莉、お願いだから聞いて」

「絵里先輩。私は『μ's』に入ったの本当は嫌々なんですよ」

「え?」

「でもね。考えたら一直線に突っ走るあの人らを見てかっこいいって思ったんです。過去の偉人もそうですけど、成功して名前が残るのはいつもそうやって周りと違う意見を持った人らだし、実行力のある人らであって欲しいと思ってます」

 

 抱き留められている絵里先輩の大きな手に、自分の手を添えるように置く。

 今にも壊れそうなぐらい小さく震えていた。

 音ノ木坂学院の廃校問題をどうにかしたいんだけど、どうにも出来ない。そんな自分が歯痒くて仕方がないのかな。

 仮にも自分が否定している『μ's』は自分の方向性を見つけて歩みだしているというのに……。

 

「『μ's』のメンバーは皆、自分のやりたいことをやって、学校も救おうって考えてます。そんな彼らを私はかっこいいと思います。……絵里先輩、正直に言います。今のあなたはかっこ悪いですよ」

 

 腕の拘束が緩くなった瞬間を狙って、俺は絵里先輩の腕の中から抜け出す。

 そのままの勢いで生徒会室のドアのところまで向かった。ドアを開け、廊下に一歩出した後、振り向かずに告げる。

 

「――だから、自分の答えを持って、自分のやりたいことをやって、私を振り向かせるぐらいかっこいい先輩になってくださいね」

 

 言いたいことをすべて告げた後、俺は生徒会室を後にし、教室に戻るために階段を降りる。

 

(ちょっとアドバイスし過ぎたかな……。原作、おかしくしちゃったかなぁ)

 

 音ノ木坂学院を護らないといけないという生徒会長の義務感だけで、動いている絵里先輩。片や自分のやりたいことをやって、ついでに音ノ木坂学院も護っちゃおうと考えてスクールアイドルという意見を持った穂乃果。

 同じ音ノ木坂学院を救いたいという目的を持った二人なのに、どうしてお互いの意見を聞いて最初から協力しないんだろう。絵里先輩が意地っ張りってのはあるんだけど、どうして同じ目的なのに、話し合わないのか。

 

 ――『μ's』はやっぱりあの九人じゃないと。

 

 

 

(そういえば、『μ's』って九人の女神を意味してるんだよね。なんで、『μ's』って名前のままなんだろ)

 

 

 


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