というわけではありませんが、偶々時間が空いたので少々執筆時間を作り上げて書きあげました。
前話の後書きで記した通り、今話からオリジナル展開です。
「ラブライブ……?」
「はい。全国のスクールアイドルが一同に集まって行う大会です。参加する条件は現在うちのスクールアイドル『μ’s』も登録しているサイトで上位二十位以内に入れば参加となります」
『μ’s』のメンバーと話し合った結果。やはり学園に在籍する生徒の長である生徒会長の承諾を得てから理事長へ行った方が良いだろうということになり、絵里先輩の下へと訪れた私、片桐光莉であった。
彼らの意見は二つに割れて非常に判断が付きにくかった。何度もスクールアイドル関係で申請を通すと否定的な言葉を発して取り付く島もない状態であった生徒会長を避けて理事長へ直訴しようという意見。これまでの実績から行っても「学校の許可? 認められないな」と門前払いされるのではないかと思い。それ以外の未来が見えなかったからだ。
もう一つは穂乃果が率先して言っていた 生徒会長を通してから理事長へ。という意見。根っから『μ’s』を嫌っているわけではないと口にした穂乃果の直感を、個人的な意見で反対しているわけじゃないと会長の誠実さを信じようという派閥に分かれていた。
「なるほどね。優勝は狙えそう?」
「まぁ、今のところはトップに君臨しているグループがあるので、なんとも言えませんが、二十位に入るだけの実力はあると思われます」
「そう……。別に良いよ。ラブライブに出場しても」
「本当ですかっ!?」
堅苦しいと噂の生徒会長からは想像出来ないぐらい優しい声音で許可を得られたので、驚き半分で聞き返してしまう。
認められない。の一言で遮断されると思っていたので肩透かしの気持ちもありながらも、今更却下されても嫌なので追及はしないようにする。
「でも、優勝は狙いなよ。別に取れとは言わないけど」
「それは勿論ですよ。負けるつもりで出場したいなんて誰一人として思いませんから」
ラブライブ出場を狙うなら、優勝を取る気迫で挑まないと他のグループにも「そんなもんなんだ」と見下されそうな気がする。何より『μ’s』が上がることで下がるグループもあることを重々理解して、負けたグループの気持ちも汲んで、上を目指したい。自分達がトップでありたい。その想いを存分に発揮したい。
「では、失礼します」
生徒会室から退出した私は、すぐさま『μ’s』が練習している屋上へ向かおうと足を早める。
その道中、私は思わず足を止めてしまった。
(……あれ、なんで私はここまでしているんだろう)
確かに『μ’s』は好きだけど、こんなにも真剣に必死になるまでのことじゃない。そりゃあ、何にもない空虚な私を誘ってくれた『μ’s』に恩返しをしたいと思う。けど、そこまでのものじゃないはず。
だったら……なんで……。
理由もわからず階段の途中で足を動かせずにいた。『μ’s』が好きな理由、好きになった理由。それらを思い出そうとすると頭の中で強い痛みが奔る。
――『μ’s』の楽曲が好きになったから?
違う。ファーストライブで使用した『START:DASH!!』を耳にするまでに私は『μ’s』のマネージャーとして加入していた。だったら、私は何に惹かれて『μ’s』に入ったのだろうか。
頑張って思い出そうとすると、頭の片隅を過るのは何処か見覚えのある教室で涙ながらに少女達が会話を行っている様子。そして、学校の屋上と思わしき場所で一人の少女がとある女子に強烈なビンタを浴びせていたこと。
(あれは……穂乃果君と海未君……なの?)
――わからない。
何故、あの記憶の欠片に映る少女らを男子の穂乃果君と海未君だと思ってしまったのか。私の記憶が所々曖昧になっていて、何が正しいのかわからない。
「…ひ…かり……光莉ちゃん!?」
「え。あ、希先輩」
階段の途中で蹲る私の姿を彼はどう捉えてしまったのだろうか。なんて他人事のように現状を考えてしまう。きっと、一緒に暮らしている希先輩のことだ。心配で心配で堪らない状態だろう。もしそうじゃなかったなら、私が自意識過剰なわけだけど。今の希先輩の顔つきから察するにそれは杞憂だったとわかる。
「あはは……。心配かけてごめんね。でも、大丈夫だから」
「大丈夫なわけないやろ! とりあえず保健室に送るけど、今日はもう帰ろ。ウチももう帰るところやし、『μ’s』の皆にはウチから言うから」
「うん……、そうする」
希先輩に導かれるように彼の腕に抱かれ、お姫様のように保健室へと送られる。けど、指一本すら動かさずにじっとしていることにする。他の人に見られるのは恥ずかしいけれど、今はずっとこうしていたい。
私はきっと悪い子だ。
「光莉ちゃん?」
しっかりと落ちないように力強く支えてくれている希先輩の袖を軽く握ってみる。どうしてと聞かれても理由は答えられない。
急ぎながらも不思議に思ったのか、こちらへ怪訝そうな表情を向ける彼。
そんな慈愛に満ちた彼の表情が私は好きで、ずっと見ていたいと思う。……彼は本気で心配してくれているのに、こんな気持ちを抱いてしまう私はきっと――。
◇
――白い微睡の中、心地良い空間にいる。
何にも捉われずあるがままに漂っているだけで、時間は過ぎていく。嫌なこと、悲しいこと。何も感じずに青空をゆったりと流れている雲のように流れに身を任せる。
少しずつ、ほんの少しずつ身体が消えていく気がする。
指先から感触が消却されていき、自然と無くなっていく。それと同時に頭の中からも知識が白濁に包まれていった。好きな食べ物や嫌いな食べ物。趣味や特技といった自己紹介で発表する機会が多いプロフィールですらも消去されていく。そんな感覚に最初は恐怖を感じずにいられなかった。が、今はもう気持ちが良い。どう足掻いても逃れることは不可能。だったら、もう逆らうだけ無駄だと諦めの境地に至った。
「でも、叶うならもう少しいたかったな……」
もう少しだけ、一緒にいたかった。これは紛れもない本音だけど、自分がいたら“彼”は物語を楽しめなくなる。先が見えている物語や他人がしているゲームを傍から静かに見ているのなんて、面白くないし。仮に自分だったら人に味わってほしくない。
「だから、僕は消えるよ」
これから先は、自分達の実力だけで物語を紡ぐんだ。決して、僕を頼ってはいけない。
(じゃあね。素敵な人生を送りなよ、『光莉』)
次回からは本格的にオリジナル要素が強くなります。
強いていうなら『光莉編』ですかね。そろそろ本格的に主人公に光を当ててみようかなと思いまして。……“ひかり”なだけにw
と、まぁ、くだらない冗談は置いておいて次回もよろしくお願いします!
次回の更新はきっと11月1日になると思います。ではではー。