「まずはカラオケで歌唱力を競ってもらうよ!」
リーダー決定戦を行う上で必要な歌とダンスが一ヶ所で競い合えるアミューズメント施設に来たμ’s一同は、カラオケボックスを一部屋借りて、決定戦を行うことにした。
歌とダンスの点数を競った後に色んなゲームをしようよと言っていたメンバーがいたが、適当に流してここまで来れた。
何だか知らないうちに、メンバー内でこの施設にある球技を総なめして一位になった人が私を一日自由に出来るなんて賭け事が行われているらしい。
一日自由に出来るって……。本人を除け者にしてそんな変な約束しないでくれますかね。
適当な相槌を打っていた際にでも、約束させたのか知らないけど、私はその話全然聞いてないんだけど、誰かが一位になったとしても、反故にしてもいいかな。
私は誰かのモノになんてなりたいと思わないし、思うつもりもないから。
「全員が一曲ずつ歌って、得点が高かった人が歌唱力部門のトップってことで」
「……くっくっく。こんな事もあろうかと高得点の出やすい曲のピックアップは既に済んでいるんだよ。これで、リーダーは確実に!!」
「にこ先輩、なんか黒いものが漏れてますよ」
「う、うるさい! それじゃ、始めるよ」
ついさっき言い出したばかりなのに、こんな事もあろうかとって、何手先のことまで読んでいるのだろうかにこ先輩は。
アイドルグループのリーダーを決定するための戦いになると、最初に言い出した時点から考えていたのだろうか。
それだとしたら、かなりの策士ってことになるけど。
(溺れなきゃいいけど……)
みんなは和気藹々とした様子で、どの曲歌おうかなんて話をしていた。
これがリーダーを決定する戦いだと誰が思うだろうか。十人に見せても十人とも、友達と一緒にカラオケに来た普通の客だと答えるはず。
『μ’s』という名のグループの未来がかけられた一戦をこれから行うだなんて、誰が予想出来るのか。
「アンタら、緊張感なさ過ぎだよ!!」
……にこ先輩だけ見たらわかる気がするんだけどね。
「……歌唱力部門は真姫の勝ちだね」
私自身も聞き惚れた歌声を持つ真姫だから、音感も良いんだろうなと思っていたんだけど、予想以上だったよ。
驚異の99点を叩き出したんだから。最も本人は100点を取りたかったみたいで、悔しそうな表情を浮かべていたけど、歌唱力部門を勝ち取った嬉しさの方が勝ったみたい。
点数が出た直後は悔しさを滲ませていたのに、全員が歌い終わった後にはガッツポーズをこっそりとしていたのだから。
――とはいえ、結構な接戦だった。僅差で敗れた花陽だけど、彼も96点と非常に優秀な成績を収めていたし、次は海未、穂乃果、ことり、凛と90点以上のメンバーがいた。にこ先輩は……うん。89点だったよ。90点代まであと1点だったんだけども、機械に嫌われたのかな。
本人は妥協したみたいで納得はいかないだろうけども、89点でもかなり良い点数だよ。このカラオケの機種は採点が厳しいって噂だし。
「光莉ちゃんも歌ってみたら?」
「えっ? あー、そうだね。せっかく来たんだから、一曲ぐらい」
光莉ちゃんの歌聴いてみたいと私にマイクを向けてきたことり。彼の手に握られていたマイクを手に取り、歌いたい曲がないか検索する。
歌手名や曲名を入れる欄ではなく、ジャンルという欄をタッチした私の目の前に現れた表のところにネット上ではかなり有名なネットアイドルっぽい少年少女のページがあり、そこへ飛ぶ。
前世では性別とか色々な問題があって、あんまり好き好んで歌ったことはないけど、『μ’s』の曲がない以上はそれぐらいかなぁと思ったんだよ。
「あ、これにしよ」
童話の白雪姫をモチーフとして作られている曲。
採点モードの時は前世では絶対に歌わなかった曲だ。……それだけど、何故か今回は歌ってみたくなったんだ。
実際に歌ってみると、思っていた以上に喉も辛くないし、自然と高音が出せている気がする。
前はちょっと無理して音程を上げて、頑張っていた自分もいたけど、こういう面では嬉しいな。こっちの世界で『μ’s』の曲がカラオケにあったら良かったのに。
マイクを持ち気持ちよさげに感情を込めつつ熱唱していると、メンバーが全員こちらを凝視していた。
呟くような小さな声音で「うまっ」とか「綺麗」とか聞こえた気がしなくもないので、褒められているのだろう。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ嬉しい。
◇
「ふぅ」
カラオケが終わり、ダンスの勝負も終了した今、みんなの結果を集計していた。
ダンスの結果だけど、評価は凛がS、穂乃果、海未、真姫の三人がAで、ことり、にこがB。花陽がCだった。
歌唱力部門は真姫、ダンス部門は凛がトップとなった。
「これ……。それぞれの部門で優劣を付けてみたけど、どう収拾をつけたらいいんだろ」
「みんな平均的に高いもんね。誰がリーダーに相応しいかって言われると迷うよね」
「歌唱力部門とダンス部門の総合優勝者はメンバーじゃないからね」
ちなみに今、真姫が言ったように総合優勝者はμ’sメンバーではなくて、私だった。
カラオケでは思っていた以上に、曲が私の声に合っていたようで真姫を超えて100点を取ってしまった。ダンスでは持ち前の運動神経やリズム感を最大限に活かしてノーミスのSランククリアだった。凛と同じSランクだけど、私のところにはパーフェクトと称されていたので一位になった。……マネージャーだけどね。
「じゃあ、無くてもいいんじゃないか? 俺、リーダーらしいリーダーしてなかったじゃん。それでも練習はしてきた。それに歌もしっかり歌ってるし」
「けど、リーダーがいないグループなんて聞いたことないが……」
「センターはどうするのさ?」
穂乃果の今までの戦いを無に帰すような急な発言に対して、にこ先輩と真姫の二人は疑問を隠しきれないでいた。
確かにリーダーがいるのといないのとでは、変わってくる。リーダーが率先してくれるからグループが成り立つし、センターとして活躍出来るのだ。
「別にセンターなんていらないじゃん。みんなで順番に歌えたらさ、カッコイイし、素敵だと思わない? 作れないかな。そんな曲を――」
「まぁ、作れなくはないですが……」
「そういう曲、悪くはないね。μ’sの仲の良さも理解してもらえるだろうし」
結構乗り気な真姫に対して、作詞担当の海未は若干戸惑いを見せつつある。だけど、心の奥底では思っているのだろう。やはり、穂乃果がリーダーだと。
誰にも縛られない在るがままに、こっちの方が楽しいからと言って実行出来る彼こそがリーダーだとね。
「振り付けはどうかな? 光莉ちゃん」
「お安い御用だよ。穂乃果」
実際にその方が振り付けを考えるの楽しいし、良いと思う。
穂乃果がセンターばかりだと、原作のPVにおける振り付けがチラついて、それにしないとって思ってしまいそうになるから、振り付け師としてはそっちのが面白い。……あ、勿論、男子に似合わない振り付けは入れてないよ。
「じゃあ、それが一番いいよ! みんなで歌って、みんながセンター!!」
穂乃果は両手を大きく上げてそう宣言した。
私もだけど、μ’sメンバーは誰も反論を言わなかった。
「よーし、そうと決まれば早速練習を始めようよ!」
我先にと走り出す穂乃果の後ろを付き従うように歩き始める。そして、屋上に向かう階段に差し掛かった時、ことりが徐に言い出した。
「本当にリーダーがいなくて良かったのかな? センター問題はともかくとして」
「そんなの。もう決まってますよ」
「不本意だけど……」
ことりの疑問に答える海未と真姫。
海未は当然としても、真姫は言葉上は不本意だと言ってはいるが、顔が微かに緩んでいるので、きちんと理解しちゃっているのだろう。
新しい道を開拓してでもなお、走り続ける穂乃果のリーダー性を。
「いろんな事に怯まず、ただ思うがままに真っ直ぐ突き進んでく。それって、穂乃果にしか出来ないことだよ。私達、誰でも不可能な。彼にしかないリーダー性だと私は思う」
走って階段を駆け上がる穂乃果を見ながら思う。
本当に彼は、μ’sのリーダーで、彼が引っ張ってくれるから私達は私達でいられる。そんな気がするよ。
リーダー決定戦を通じて、彼らはより結束が固まった。
そんな彼らのこれからの未来を描いた楽曲――『これからのSomeday』。
※お知らせ
これから『あれ? これって『ラブライブ』だよね』の更新速度が月一になります。
もしかしたら月二のパターンがあるかも知れませんが、とりあえず身の回りが落ち着くまで暫く間を空けようと思っています。
次回の更新はいつだろうとお楽しみにしてくださっている方には申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
これからの更新は毎月1日を予定しています。