それに伴って物語に変更はありませんが、何処を修正したのだろうと気になった方は是非w
「……光莉ちゃんっ!!」
穂乃果、海未、ことりの三人と談笑しながら、家主を待っているといきなり家の扉が開き、希先輩の焦ったような声が耳に入る。
「希先輩?」
「良かった。無事で……」
目が合った瞬間に、希先輩は私を力強く抱き締める。
それでも、私は拒絶しなかった。いきなり強く抱き締められて困惑はしたけれど、別段痛くもなかったし、何より優しかったから。
「……いきなりどうしたんですか。希先輩」
「ごめんな。うち、めっちゃ心配してて、一刻も早く光莉ちゃんと会いたくて」
さらりと甘い台詞を息を吐くように言ってしまう希先輩に照れて、顔を見合わせないように視線を逸らす。
逸らした先に偶然テレビがあり、そこに映し出されていた映像に目を盗まれてしまった。
テレビに映し出されていたのは、私が最近、恐怖を感じた相手であり、その相手が警官によって連行されている姿。
当然、モザイクなどの処理はされているが、着用している服、顔のつくりなどの情報から特定するなんて被害者からすれば造作もない。
「えっ……」
それでも、いくらなんでも特定が早すぎる。
私が被害を受ける前に何回か事件が起こっていたとしても、警察の対応が早すぎる、まるで協力者がいたかのように。
「おー、捕まったんやね。良かったな、光莉ちゃん」
――嘘だ。
犯人があっさりと逮捕されたことを嘘だと疑っているわけじゃない。けど、警官だけで犯人を特定し逮捕まで至ったわけじゃないはず。
それに、さっきテレビで不法侵入者が連行されている際の映像に見知った金色の髪を見た気がするから。顔までも見る暇はなかったけど、あの人はおそらく……。
自分は何も知らないふりして。ずっと、私のために頑張ってくれてたんだね。
「……光莉ちゃん?」
犯人が捕まったというのに、何も反応を返さなかった私を不審に思ったのか、希先輩が顔を覗かせる。
心の奥底では何を考えているかわからないけれども、対価を求めずに、他人のためにそこまで努力出来る人はそうそういない。
裏で色々と実行し、表に立つことなんて滅多にない。けれど、必ず誰かのためになっている。そんな縁の下の力持ち。
(本当に……)
思わず目尻に水滴が溜まり、溢れ出しそうになる。
急に泣き始めた私に動揺し、どうしていいかわからなくアタフタしている希先輩に微笑みながら、私は彼の頬にキスをする。
「ありがとっ。希先輩」
私はきっと赤くなっているだろう。
鏡を見なくてもわかるし、見たくもない。でも、やっぱりそれだけ頑張ってくれたのにご褒美の一つもないのはおかしいと思ったので、衝動的に行動してしまった。
「……光莉ちゃん。ねぇ、キスする場所で意味が違うって知ってるん?」
「うるさい……」
そんなの知ってるよ。
知っててそこにしたのだから、黙っててよ。今、色々と言われると恥ずかしくて死んでしまいそう。
「仕方ないな……。ことり君、買い物手伝ってくれへん? うちの姫様の好きな食べ物でも作ってあげようかなって」
「あ、良いですよ」
そういって希先輩とことりは二人で一緒に買い物に出て行った。
数分が経ち、照れも引いた頃合いを見て、海未が口を開いた。
「先程、希先輩が言ってましたけど、光莉の好物って?」
「あー、そうだね。きっと希先輩のことだから五人分作るつもりだろうし、知っておいた方が嫌いな食べ物がないかとかわかるよね」
あ、いえ、そんなつもりではなかったんですが。と言い出す海未に若干戸惑いながらも、自分の好物を口に出す。
「洋食系が好きなんだけど、特にグラタンとオムライスが好きだよ」
オムライスは卵が半熟で生クリームを入れてふんわり仕立てにしたやつが美味しいよね。グラタンは特にこだわりはないけど。
「オムライスとグラタンですか……」
考え込むような仕草を取る海未。何か苦手な食べ物でもあったのかな。
心配になって声を掛けたが、返ってきたのは生返事。
「なんか、外見や思考は落ち着いてて大人なのに、好物が子供っぽいよね。光莉ちゃんって」
「いけない?」
穂乃果が茶化すように言ってくるので、意地悪な気持ちが芽生えてしまい困らせてやろうと思って頬を膨らませながら呟く。
さっき、穂乃果には強引に唇を奪われたことだし、少しならやり返しをしても別に構わないでしょう。
「あ、いや、そういう意味じゃないんだけど。可愛いなって」
「か、かわ……っ。あ、ありがとう?」
返事に困らせて、アタフタさせようと企んで発言した私だったけど、何人もの女子を落とすつもりなのと思えるような笑みを浮かべながら褒め言葉を口にする穂乃果に心が振り子のように揺れ動く。
一度動いてしまった振り子は自然に静止するまでに時間が掛かる。スッと手を差し入れて強制的に止めれば、完全には止められないが、何もしないよりは時間は掛からないし揺れも少ない。
一般的な大きさの胸に手を当てながら私は気を落ち着かせようとゆっくりと息を吸い、そして吐き出す。
穂乃果も自分から言っておきながら少し恥ずかしくなったのか、頬がほんのりと紅潮していた。
(穂乃果はそうやって人のことを可愛いっていうけど、穂乃果も可愛いなぁ)
男子に可愛いというのも、良いのか判断しかねるが、当て嵌まる単語がそれなので仕方ないよね。
勿論、私も赤面している。海未の立場から見れば、二人して何をしているんだとツッコミを入れられそうなぐらい事態がおかしな方へと走り始めている。
ーーいつから私はこんなにも乙女思考になっちゃったのだろうか。
別に今更男であることに拘りたいとは思わないし、女であることに嫌悪感を抱いているわけでもないから、良いのだけども。いつをきっかけにこうなってしまったのか疑問を隠せないでいる。
「……そういえば、このメンバーでいるのは珍しいですよね」
海未が不意に呟いた言葉。
今の雰囲気を変化させたい私と穂乃果は、その話題に勢いよく食らいついた。
「確かに。いつもはここにことり君がいるからね」
「誰か一人が欠けるなんて今まで考えられなかったからね」
ファーストライブまでは海未も弓道部の方を休んで、こっちを優先してくれたし。海未が部活で欠けることがない以上、他の人が欠ける心配はないから、必然的に誰も欠けることはなかった。
私が少し生徒会室に行ってたり、音楽室に行ったりしたけども、それとこれは話が別だ。結局のところ、私がいなかっても、元の幼馴染三人はずっと一緒だったのだから、違和感は何もない。
「……俺さ、最近ずっと思うんだ」
急に穂乃果が真剣な顔付きで語り始める。
それを海未と私の二人はじっと見つめ、耳を傾ける。
「ファーストライブ。観客はほぼいなかったけど、スクールアイドルを初めて良かったって」
「それは誰もが思っているはずです。きっとことりも」
スクールアイドルを始めなかったら物語は紡がれないし、何より未来がない。
夢を叶える物語は虚空へと消え去り、消えゆく未来しかない学院生活を送るという地獄のような日々を送らなければならない。それなら、何でも挑戦して、失敗して。あーあ、やっぱりダメだったかと諦めがつく結末の方がマシだ。
「でも、生徒会長に言った言葉も本音なんだ。……このまま誰にも見向きされないかも知れないって」
「穂乃果……」
初ライブがあの結果だったなら、そう思っても仕方がない。
実際に踊って歌っていた彼らがそう思うんだ。不安もあるだろう。けど、結末はそう悪い方ばかりに動かない。
「本当はことりもいた時に見せたかったんだけどね。これを見て」
家から持ってきたノートパソコンの画面を二人に見せる。ノートパソコンという小さいモニターなので、二人は自然とくっつくような構図になるが、二人とも美少年なので、それはそれで絵になる。
とまぁ、雑談はそれぐらいにして。画面に出てきたのは、某有名な動画サイトに投稿されている『μ’s』の舞台映像。
『START:DASH!!』を少ない観客の前で披露している三人の少年が織り成す始まりの映像。
「これって……」
「僕達の舞台映像。でも、いったい誰が?」
「誰かが気を使って録画してくれたのかもね。でも、気にして欲しいのはそこじゃなくて、ここなんだ」
画面をスクロールし、見せたスクリーンに書かれていたのは閲覧者が自由に書き込めるコメント欄。
そこに書かれているのは決して批判的な言葉ではなく、応援する言葉の数々――。
ダンスも下手かも知れない。歌もお世辞にも上手だとは言えない。けれど、そんな彼らを否定する人は誰もいないし、存在させない。
「こんなにも君達を応援してくれる人はいるんだよ。だから、後ろ向きにならないで」
「光莉ちゃん」
「それでも、まだ前を向けないなら、私が精一杯の力で叩いてでも前を向かせてあげるから」
一度ネガティブな思考に捕らわれそうになっていた穂乃果。それにつられてマイナスに向かおうとしていた海未の両名は私の声援を聞いて、少なからず前向きにはなれたようだ。
苦笑交じりに穂乃果は「それは痛そうだから、遠慮しておこうかな。怒ったら海未君より怖い気がするし」と言い、海未はそれに対して反論もせずに納得しているようだった。
『μ’s』で一番怒らせたら恐怖を感じる相手を差し置いて私が一番怖いとか酷くない。内心で怒り心頭な私だけれど、せっかく良くなった空気を自身で潰す行為はしたくないので我慢。
今でも自分達の演技に対する評価をしてくれている人らのコメントを見続けている二人の後ろに回り込み、二人の肩に手を掛けて、抱き着く。
「だから、君達は前を見てて。私がずっと付いてて、後押しは全力でするよ」
少しでも廃校問題を防げる望みがあるのなら、仄かな可能性に縋ってでも実行するべき。
『μ’s』という光が輝きを失いそうになっているのなら、私という光が付き添って輝きを取り戻す。
それが、きっと、私の役目だと思うから――。
主人公絶賛乙女化中なうw
誰がここまで乙女化すると予想していたでしょうか?
作者も予想外です(おいっww
まさか、光莉からキスをするなんて……。
とりあえずブラックコーヒーを飲みながら執筆してましたww