作者の一言
穂乃果、誕生部おめでとーーっ!!
……尚、この話に穂乃果は出てこない模様ww
「……ねぇ、光莉ちゃん?」
「なーに?」
リビングで二人分の朝食を作っていると、希先輩が呼んできたので、作業を中断し、そちらに意識を向ける。といっても、味噌汁は完成していて、温めるだけなので、別にそのまま放置していても良いのだけど。
もしかしたら希先輩の言う話が結構長い話なのかも知れないと思って、どういう状況になっても対処出来るようにしておきたい。
主食の白米に、お手製味噌汁、冷蔵庫にあった鮭の切り身をムニエル風にしてみた。勿論、ムニエルに付けるタルタルソースは手作りだ。
「別に今日、無視して行かなくてもええんやで? うちから先生に言っておくし。それに、まだ男に会っても大丈夫かわからないんやろ」
「……うん。でも、『μ’s』の人達がいるし」
「彼らは、そんなに自分の身を犠牲にしてでも大切なんっ!?」
大きな声をあげる希先輩にドキッとする。決して、キュンキュンする方のドキドキではなく、普段大きな声を出さない“東條希”が今こうして大声を出している事実。
初めて大きな声を出していたのも、親友のため――。
今回大きな声を出しているのも、私のため――。
自分のためではなくて、友達のために怒ることが出来る希先輩はやっぱり優しい。
「希……先輩」
「……ごめんな。大きな声を出して」
「い、いえ。……あの、希先輩。伝言の件お願いします」
私の言葉を聞き届けた希先輩は瞬間的に驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに普段通りに不適な笑みを浮かべながら「任せとき」と言った。
こうして臨時で学校が休みになった私だが、何をして一日過ごそうかな。その一言に尽きた。
自分の家になんて帰りたくないし、かといって学校を休んでそこらをぶらつくなんて不良みたいな真似、私には出来ないし。
「でも、そうなると暇になるのよね。何にもすることないから」
「じゃあ、うちの家事をやってくれたらええやん。お帰りなさいってかわいいお出迎えされるのも憧れだし」
「要するに一人暮らしの家事が面倒くさいってことですよね」
「そういうこと」
悪びれることもせず、のらりくらりとしている。
確かに毎日の家事は辛いが、一人でいる時間は大切だ。何のために必要か。そんなの決まってる。
プライベートな時間がないと精神的にゆとりがなくなり、荒れてしまうからだ。
「……わかりました。私がしておきますよ」
「ん。ありがとね」
作り終えた朝食を食卓に並べ、希先輩を呼ぶ。
学校に行かなくていい分、今の自分には時間が有り余っているけれど、希先輩が行く時間はわからないけど、そこまで多いわけではないと思うので、希先輩の昼御飯になる予定の弁当を作ることにした。
弁当箱があるかどうかわからなかったので、朝食を食べている希先輩に聞くと、「普段は学食や購買やったからあるかな」ということだったので、引き出しの中にしまってあったタッパーを軽く水洗いしてからふきんで水を拭き取り使用することにする。
「なになにー? うちに弁当作ってくれてるん?」
「そーだよ。あ、弁当箱が見つからなったからタッパーだけど」
「ええよ。別に気にせーへんし。本当に作ってくれるんや、嬉しいな」
弁当ぐらいで大袈裟だなぁ。としみじみと思いながらタッパーにおかずを詰めていく。冷蔵庫の中にあった材料を使って簡単なおかずを作っていく。
彩りを優先してしまったために、希先輩の嫌いな食べ物が入ってるかもしれないけど、あんなにも紳士的な人なら全部食べてくれるでしょう。
タッパーにおかずを詰め終わったので、割り箸を一膳付けてタッパーが入れれる小さめなバッグに綺麗に収めて、希先輩に手渡す。
「ありがとね」
「その台詞は私の台詞だよ。こんなことしか出来ないけど、本当にありがとう」
「……本当、光莉ちゃんは男心をくすぐるよね」
そんなつもりは一切ないけどさ、きっとそれは前世が男だからかな。
男子が想像する女子っていうのは、女子に言わせると九割程幻想である。実態はもっと酷いというのは女子の談。
そんな幻想的な女子をモデルとして、女の子っぽくしているので、そう思うんだろうね。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
食器を片付けようとした希先輩を止めて、自身も朝食を取ることにした。
行く準備を少しずつし始めた希先輩の様子を見ていると、自然と笑みがこぼれてしまっていた。
(なんで、笑みがこぼれてるんだろう……。昨日、辛いことがあったばかりなのに)
希先輩が助けてくれたから?
希先輩に必要にされたから?
理由はわからないけど、ほんの少しの羞恥心を感じながらも幸せを実感していた。
彼といる間は私は私であっていいんだと。東條希君と話しているのは前世の私――『片桐光』
ではなく、『片桐光莉』なんだって。先輩は絶対に自覚はしてないでしょうね。
ただあるがままでいるんだって、そういうと思う。
……そんな暖かい陽だまりのような空間が心地良くて、ついつい甘えてしまう。
(もしも、本当にもしもの話だけど……私が本当に女子だったなら、彼のような人に惹かれて恋してたのかな)
柄でもないことを思い浮かべてしまって、思わず苦笑い。
それでも私はきっと、彼以外を選ぶなんて考えられない、かな。
たった一回、助けられただけでこんなにも心が揺らぐなんて、どんなに尻軽なんだよ。と自分の思考回路にツッコミを入れる。これが吊り橋効果ってやつなのかなぁ。
「じゃあ、行ってくる。本当に家にいるだけでいいからね? 昼も冷蔵庫にあるもので勝手に作ってくれてええから。夜はうちが材料買って帰るから買い物にも行かなくていいし」
「わかってるって。……行ってらっしゃい」
過保護な希先輩を軽くあしらって、さっさとバイトに向かわせる。
着用している服は音ノ木坂学院の制服で間違ってはいないが、今から彼が向かうのは『神田明神』だ。
朝から『神田明神』に行ってから、学校に向かうというなんともハードスケジュールをこなす希先輩。
そんな彼に合わせて弁当を作ったり、朝食を用意したりする私もだけど、ね。
「さて、掃除とか色々するぞー」
一日休みになってしまったので、暇になった時間をどう有効に使っていこうかなと脳内で何回もシミュレートしてみると、この家の内装をきちんと理解する意味も含めて徹底的に掃除をすると時間も掛けられるし、何処に何があるのかも正しく覚えられるので、後々のことを考えると楽になると脳内シミュレートの結果が出たので、掃除を行うことにした。
それからは希先輩には釘を刺されたけど、買い物に行こうと思う。ついでにあの家も見ておきたいし、何より鞄がないのは不便だ。
「とりあえずは、理事長に事情を説明するのと欠席する旨を教師に伝えて。それから大家さんにも連絡しないと」
大家さんはまだ寝てるかも知れないので、まずは理事長に電話をかけることにした。
家事とかしてる最中かなと考えると申し訳ない気分になりながらも、電話をかける。
「あ、あの、理事長。お話がありますーー」