どうも堕人間です
誰が出るかはタイトルで分かるかと
それではどうぞ
いきなりだが、トールズ士官学院の生徒にケネス・レイクロードという男子がいる。彼は帝国屈指の釣具企業"レイクロード社"の起業家であるレイクロード男爵家の次男にあたる生徒で、学院では彼の兄が作った"釣皇倶楽部"の唯一の部員兼部長を勤めている。
そんな彼からリィンに生徒会を通して依頼が出された。
その内容というのも、ここ最近トリスタを流れる川で釣った魚が、異様に沢山のセピスを吐き出すという異変が起きているので、その調査をして欲しいとのことだった。
トリスタを流れる川は一つしかなく、リィン自身もそこで釣りをよくするので馴染みの場所だった。
川のすぐ近くには民家も建っており仮に何か大きな問題に発展した場合被害を被る確率が高いので、出来れば直ぐにでも調査、ないし問題があった場合の早期解決が望ましい。
運良くも、今日の生徒会からの依頼は数が少なく、この依頼の他は短時間で終われそうなものばかりなのでリィンはまず他の依頼を素早くこなしてからケネスからの依頼を確認するため、件の川で釣りをすることに決めた。
釣糸を垂らし始めて数刻、依頼に書いてあった通り、釣れた魚のほとんどはセピスを多く吐き出した。
リィンもここまで魚がセピスを落とすとは思わず、事態は思いの外深刻になっている事を理解した。
(確かにこれはおかしすぎるな...)
そう思い、一旦釣り具などをしまい、川の近辺を調査し始めようとした時、川に架かっている橋から聞き覚えのある声が2つ聞こえた。
「あれ?あそこにいるのリィン君じゃない?おーい、リィンくーん!
」
「ちょっとヴィヴィ!いきなり走らないの!あ、ちょっと待ってよ~!」
橋の方に見えたのは、髪型以外はほとんど一緒の、双子と思われる女子生徒2人だった。
「やっほー、リィン君!何してるの?」
先に駆けて来たのは、髪をストレートに下ろしている女の子、ヴィヴィという子である。
「やぁ、ヴィヴィ。ちょっと生徒会の手伝いでね。」
そう挨拶を交わしていると、少し遅れて後ろ髪を左右に分けてそれぞれを首あたりで縛っている女の子、リンデが小走りにやってきた。
「ヴ、ヴィヴィったらいきなり走り出して...。あ、リィンさんこんにちは。」
「リンデもこんにちは。2人ともどうしたんだ?見た所街の方から来たみたいだけど。」
「はい。ヴィヴィと一緒にお花屋までちょっとお買い物に。」
「イタズラの材料をね♪」
「部活のでしょ...」
「はは...。」
会話や見た目からも分かる通りリンデとヴィヴィは双子である。
が、それぞれは美術部と園芸部に所属している。
ちなみに余談だが、同じⅦ組にもガイウスが美術部、フィーが園芸部に所属しており、2人+リンデはよくヴィヴィのイタズラに巻き込まれていたりする。
「そう言えば俺も、リンデに扮したヴィヴィに1回イタズラされたな...。」
「そう言えばそんなことありましたね。たしか、グランローズを使ったやつでしたね...。」
「あはは、やったやった!あの時のリンデの反応は面白かったな~♪ね?リィン君!」
「あははは...。確かに真っ赤だったな。」
「も、もう!あれは忘れてください!」
ヴィヴィのイタズラから2人とはそれなりに交流があり、幾度となくリィンもイタズラに巻き込まれている。リンデとヴィヴィに初めて会った時の事を思い出しつつ3人で仲睦まじく話をしていると、穏やかな空気を引き裂くように唸り声が聞こえた。
そして直ぐに、川から影が3つ、飛び出してきた。
「っ!」
「きゃっ!」
「ヴ、ヴィヴィ!きゃぁ!」
それに驚き腰を抜かすヴィヴィと足を縺れさせ倒れこんでしまうリンデ。
「大丈夫か2人とも!」
そんな2人にリィンは声をかけながら飛び出てきた影───魔獣と2人の間に盾になるように体を滑り込ませ戦闘態勢をとる。
「なんでこんなところに魔獣が!?いや、そんなことより───はっ!」
浮かんできた疑問は一旦頭の片隅によけ、気合と共に手を掛けていた太刀を抜き、そのまま飛びかかってきた魔獣の一匹目に斬りつける。所謂居合い切り、八葉一刀流では紅葉切りという技である。1体目を切り捨て、そのまま2、3体目も斬りかかり不意討ち気味に襲われたとはいえ難なく魔獣たちを討伐した。
その後川を方をしばらく見て、魔獣の気配がしないのを確認すると納刀をし、階段の方に避難したまま腰を抜かしている2人に駆け寄った。
「2人とも怪我はないか!? 」
見たところ、制服の破れや目立った外傷などが見当たらなかったため、リィンは安心したが、よく見るとリンデの髪が下ろされていることに気づいた。
「ってあれ?リンデ髪がほどけてるぞ?」
「だ、大丈夫です。ビックリして足を縺らせただけですから。髪の方はさっき転んだ拍子にゴムが切れてしまった見たいです...」
「わ、私も大丈夫だよ~。ちょっと腰抜かしただけだから。」
「それなら良かった、服とかも破れてる様子は無さそうだ。魔獣の方は撃退したし、再度襲ってくる気配もないからひとまずは安心かな。しかし、セピスの件はこれが原因か...。なぜトリスタ内の川に魔獣が...」
どうやら、どこからか侵入してきた魔獣が魚を食べ、食べられた魚が落としたセピスを他の魚が食べる、といった事が続いた結果セピスを多く吐き出す魚が完成したようだった。
リィン(だとすると、このままじゃ街に住んでる人達も危ないな。いつ魔獣が住宅街の方へ行くかわからない。サラ教官に話して魔獣の侵入経路をなくさなきゃ。)
そうリィンが思案していると、何やらじぃっと自分を見つめる視線に2つ気付いた。
もちろん、リンデとヴィヴィである。
「どうした2人とも。やっぱりどこか痛むのか?」
「い、いや何でもないです!」
「そ、そうそう!気にしないで!」
焦ったように言う2人。
「と言っても、なんだか2人とも顔が赤くないか?」
「い、いや!そんなことないから!」
「...っ。そ、そんなことより!どうして私の方がリンデだとわかったんですかっ?私達は髪型を一緒にするとほとんど見分けが付かないと思うんですけど...」
「あぁ、その事か。うーんと、俺なりの見分け方が見つかったというか...」
「見分け方?」
「ああ。2人ともよく見ると瞳の色が違うんだ。」
「リンデは何て言うか暖かみのある穏やかな色をいてるんだ。ヴィヴィ以外の人には同い年でも敬語を使うけど、それは決して距離を感じるものじゃなくて、話していてとても落ち着く敬語、みたいな。そんな誰にでも優しくしていて、ヴィヴィのことは誰よりも大切にしている。それを表したかのような瞳なんだ。」
「それで、ヴィヴィの方はと言うと、本人の性格通り明るく元気な瞳の色かな。誰とでもすぐに打ち解けられるし、俺だけじゃないと思うけどヴィヴィと話していると元気が出るんだ。いつも楽しそうで、皆に人気のヴィヴィをよく表してる色だと思うよ。」
「とまぁ、こんな感じかな?なんか2人とも途中瞳から離れちゃった気がするけど...。あれ、2人ともどうしたんだ?下なんか向いて。」
リィンが話終わって目を開けると、2人が顔を下に向けているのに気がついた。
ちなみに瞳の話をしている間リィンは、真剣な顔をしており、途中からは目をつむっていた。
話している
それもそのはず、こんな真っ正面から褒め殺されたら誰だってこうなるに決まっている。しかもつい先程、自分達の事を身を挺して魔獣から守ってくれた人から、である。
リィンがどうしたのだろうと考えていると、数回深呼吸したリンデがスクッと立ち上がった。
「リ、リィンさん。先程は助けていただき、有難うございました。幸い私もヴィヴィも怪我は無いのでこのまま学院に戻ろうと思います。お礼はいつか必ずします。そ、それではっ。」
早口でそう捲し立てると足早に立ち去るリンデ。
「ち、ちょっとリンデ!えっと、リ、リィン君、私からもありがと!またねっ!」
そう言うとヴィヴィもリンデを追いかけるように小走りで学院の方へと駆けていった。
「えっと、俺も学院に戻るんだけどな...」
1人呟いたリィンは1つため息をつくとトワ会長とサラ教官に報告するため学院へ戻るのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
───その日の夜
第三学生寮で夕食を済まし、皆と食後の会話を楽しんでいる中、フィーがリィンに問いかけた。
「ねぇリィン、今日の部活でヴィヴィにリィンの事を沢山聞かれたんだけど、ヴィヴィに何かした?」
「そう言えば、リンデもリィンの事を聞いてきたな。」
フィーとガイウスの発言に皆の視線がリィンに集まる。
「いや実はさ...」
そう言ってリィンは昼間、トリスタの川で2人に会った事やその後に起きた出来事と魔獣の話をした。
「トリスタの川でそんなことが...」
「川から魔獣って、危ないね...。サラ教官にはもう話したの?」
「ああ。明日にでも教官が街道の方とかを見回って下さるみたいだ。」
「そういうことなら、とりあえずは安心だろう。」
「ふん。ちゃんと女子2人に怪我を負わせなかったことは誉めてやろう。」
「だからどうして君が上から目線で言うんだ...」
男性陣が川と魔獣の話をしている中、女性陣は今だ思案顔のフィーに気が付いた。
「あの、フィーちゃん?まだなにか気になることがあるんですか?」
「ん。実はリィンの事を聞いてる間、ヴィヴィの顔が凄く赤かった。」
「それは...」
フィーの発言に今度は訝しむ視線がリィンに向けられる。
「ど、どうしたんだ?」
その視線に気付いたリィンは正面に座っているアリサに聞いた。
「リンデさんとヴィヴィさんを助けた後に何か言った?」
「えーと...リンデの髪が解けたんだけど、見分けがついて、どうしてか聞かれたから2人の瞳について話したな。」
「それ詳しく。」
フィーにせがまれリィンは思い出すように、リンデの髪が解けた所からから瞳の色について話したら2人が急いで学院に戻って行った所までを話した。
「...」
流石の内容に女子だけでなく、魔獣の話をしていた男子も黙りこんでしまう。
「ど、どうしたんだみんな?」
いきなりの沈黙に焦るリィン。
「はぁ...。まったくあなたという人は...」
「ふむ、聞いてるこちらが恥ずかしくなってきたぞ...」
「あはは...まぁ、リィンさんですし。」
「天然タラシ、ここに極まり、だね。」
「成る程、リンデの
「ははは、流石リィンだね。」
「なんと言うか、君というやつは...」
「流石の俺でもこればかりは真似出来んな。」
「あらあら。」
「??」
みな、思い思いの言葉を述べていく中、リィンだけは何故こんな風になっているのか分かっていなかった。
相変わらずの朴念仁である。
その後、リィンが女性陣に根掘り葉掘り聞かれたために寝るのが遅くなったのは別の話。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
───同日夜、第二学生寮のリンデの部屋
「「はぁ...」」
リンデと彼女の部屋に来ていたヴィヴィは双子よろしく2人一緒にため息をついた。
もちろん原因は昼間自分達を助けてくれた唐変木の彼──リィンだった。
「リィン君、かっこ良かったね...」
「うん...」
夢心地にリィンの話をする2人のそれは完全に恋する乙女のものである。
「これからどう接すればいいんだろう...」
「ね...」
2人して頬を赤く染めてニマニマと緩んだ顔をしながらも、これからのことに頭を悩ませていた。
それかというもの、この日以降、リィンと会話している間、頬が赤く染まる双子が見られるようになった。
~fin~
いかがでしたでしょうか?
誤字脱字、キャラの違和感などがありましたらご指摘ください
ありがとうございました