執事の前田   作:フリスタ

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第04話「吸血鬼の幼女でございます」

「お嬢様。メガネを外さないのですか? 髪も下ろさずに……」

「こっちの方が落ち着くんだよ。【ちう】の時だけで良いんだよアレは」

 

「左様でございますか」

 

 今日から新しい担任のガキが来るらしい。まぁ私には関係のない事だ。私は前田の意見を無視していつも通りの髪形に眼鏡で登校する。やはり、アレは現実の私では無い。

 

 

 

 電車に乗っていると隣の車両から悲鳴が上がった。

 

「何だ?」

「あちらの車両に乗っている女子生徒の方々のスカートが突然捲れあがりました」

 

「……行かないのか? パンツだ~。とか言って」

「……お嬢様。私はパンツが好きなのではございません。帰りましたら一度話し合いましょう」

 

 必要ねーよ

 

『次は~麻帆良学園中央駅~』

「着きますね。さて、今日もお嬢様をお姫様抱っこで走りますか」

 

 んなこと一回もした事ないし、させる気も無い。私は前田の後頭部を引っ叩き、駅に付くとギュウギュウ詰めだった学生達が急いで降りて行くのを見送り、余裕が出来てからゆっくりと電車を降りた。どうせ改札でも混むのだからアレに混ざるのは無駄な労力だ。

 

「では、お嬢様。私は一足先に行きます。遅刻だけはされぬように」

「あぁ、大丈夫だよ。さっさと行け」

 

 

 

 学園に着き、中等部へ、階段を上り自分の教室に入ると、いつものように愉快で能天気なクラスメイト。陸上部の春日や幼女姉妹が入り口から教壇までにトラップを仕掛けているのが見える。どうせなら前田が引っ掛かればと思うのだが、アイツの事だ。噂の新任教師を生贄に自分は五体満足で平然としている事すら思い描けてしまう。

 

 教室のドアがノックされる。例の新任教師が来たのであろう。

 

「失礼しま……」

 

 落ちてくる黒板消し。しかし、それは教師に当たらず空中で止まる。それは白い手袋によって掴まれていた。

 

「黒板消しトラップですか……いや、これはこれは。ネギ先生、少々お待ちを」

「は、はい」

 

 トラップ発動とはならず少しざわつく教室内。扉を開けたのはスーツに身を包んだ子供。前田が言っていた子供教師だろう。しかし、先頭切って入ってくるのは前田だった。一歩教室に足を踏み入れると頬笑みを浮かべて、子供教師を再度廊下に戻した。

 

「春日さん、鳴滝さん姉妹、それにこの計算された流れ、チャオさんですか?」

「「「「Ohバレテーラ……」」」」

 

 前田はロープを切り、落ちてくる水入りのバケツをキャッチ。連動して飛んでくるオモチャの矢を全てキャッチした。

 

「「「「「おおぉ~~!!」」」」」

「ふむ、67点と言ったところでしょうか? 気絶するぐらいの悪戯が丁度いいかと思います。次回からはより良い悪戯を期待しております」

 

 仮にも教師の台詞とは思えん。次にもっと酷いのが設置されたとして、コイツはどうせくらわないのだろう。

 

「では、ネギ先生どうぞ」

「し、失礼します」

 

「今日からこの学校でまほ……英語を教えることになりました。ネギ・スプリングフィールドです。3学期の間ですけどよろしくお願いします」

 

「「「「「キャァアッ!! か、かわいいぃぃ~~!!」」」」」

 

「何歳なの!?」

「えう!? その10歳で……」

 

「どっからきたの!? 何人!?」

「ウェ、ウェールズの山奥の……」

 

「今どこに住んでるの!?」

「いや、まだどこにも……」

 

「ねぇ君ってば頭良いの!?」

「い、一応大学卒業程度の語学力は……」

 

 バンバンッ

 騒がしい教室に突然机を叩く音が響く。委員長だ。

 

「皆さん席に戻って先生がお困りになってるでしょう? ネギ先生はオックスフォードをお出になった天才とお聞きしておりますわ。教えるのに年齢は関係ございません。どうぞHRをお続けになってください」

「は……どうも」

 

 質問攻めに合う子供教師で教室が再び騒がしくなる。前田はそれを見ると後ろに下がって来た。

 

「おい前田。あれ良いのか? お前の人気全て持って行かれたんじゃないか?」

「お嬢様の想いだけ受けられれば満足でございます」

 

 うん、んなもんねーから。じゃあ何もいらないってことか。

 

「委員長何いい子ぶってんのよアンタ!」

「あら……いい子なんだからいい子に見えてしまうのは当然でしょう?」

 

「何がいい子よ、このショタコン」

「なっ! 言いがかりはお止めなさい! 私は前田がいれば……って何を言わせるんですの!? あんたなんかオヤジ趣味のくせにぃぃ!! 知ってるのよ あなた高畑先生の事―――!!」

 

「うぎゃー!! その先を言うんじゃねーこの女ー!!」

 

 いつものように犬猿の中に見える神楽坂と委員長のやり取りが冴えわたる。

 

 

 

 それからと言うもの。前田は担任から外れたと同時に私の傍から離れることが多くなった気がする。副担任になっても仕事量は変わらない……と言うより更に忙しくなったという事だろう。

 いや、別に良いんだぞ? そう何も困らない。……何も困らない。そう、困らないけど……。ほら、いきなりいなくなると、菓子とかが用意されてないから口が寂しいっていうのか……。いや、いても困るだけだよな。この前の高等部とのドッジボール対決の時も……。

 

 

 

 

 

「お嬢様~!! そこです! トライアングルアタックがなんですか! 反撃です! 今必殺のサンアタックでございます!!」

「うるせー!!(ポコッ)」

「長谷川OUT~」

 

「くっ! 申し訳ございません。私が出ていればこの様な屈辱は……!」

「と言いつつウレタン製のバットを構えているのは何でだ?」

 

「……ルールでございますから。さぁお尻をコチラへ」

「それは笑ってはいけない時に笑った場合のルールだろうが!!」

 

 

 ―――うん、どうかしてるな。思い出してみたら期末試験の時もそうだったな。

 

 

 

 

 

「お嬢様、まだ時間はございます。冷静になれば解ける問題にございます」

「……(カリカリ)」

 

「お嬢様、残り時間2分! 赤いコードを早く! ……嘘でございます」

「……(カリカリ)」

 

「お嬢様……お嬢様!! そんな! こんなに血が流れてるのに続けるとは……!」

「……(カリカリ)」

 

「お嬢様、そこは昨日進研ゼミでやった問題でございます」

「……(カリカリ)」

 

「お嬢さ―――」

 

 ガラッ!!

 

「前田先生!! 試験官が生徒に話し掛けてどうするんですか!!」

「これはこれはしずな先生。お気になさらずに」

「しずな先生」

 

 私は手を上げて、サムズアップさせ、その手を首の前で横にスライドさせた。

 しずな先生は理解したらしく、メガネを光らせコクリと一度頷いて、前田の首根っこを捕まえて連行して行った。

 

「お嬢様ぁぁぁぁ……」

「……(カリカリ)」

 

 

 

 ―――うん。どう考えても問題あるのは、あの執事。前田だ。だから私が寂しいとか感じるわけがない。今日は帰ってネット三昧にしよう。と思ったのだが、今日は……。

 

「お嬢様。本日も少々出かけてまいります。お食事も冷蔵庫に用意してございますのでレンジで―――」

「チンして食えば良いんだろ? さっさと行けよ」

 

「申し訳ございません。あ、それと本日は大停電の日です。レンジでチンはお急ぎくださいませ。では、失礼します」

 

 そう言って苦笑した前田は去って行く。

 

「千雨さん。何かあったんですの?」

「委員長……いや、別に。私、帰るから」

 

 そう、今日はネットも出来ない大停電の日だ。

 だから? って思うか?

 いやいやいや、説明したくないが説明が必要か。

 前田が私の部屋に住んでいると言う事だ。

 ……あー、全部言うとだな。

 

 前田が住み着いているって事は、今日は私しかいないと言う事だ。普通ならルームメイトと過ごすって感じかもしれないが、そうも行かない。ネットで時間を潰そうにも電源が無い。バッテリー? そこまで長く持たないんだ。買い替え時かな。

 停電で一人ってのが怖いわけじゃない……ただ。

 

「はい、懐中電灯に蝋燭ね。700円」

「あ、はい。スミマセン」

「失礼、懐中電灯もう一つですわ」

「はい、じゃあ1200円ね」

「委員長……何だよ?」

「気分がすぐれませんの。千鶴さんと村上さんに迷惑はかけられませんから。今日は千雨さんの部屋に置いて下さらない?」

 

 わけ分かんねーよ。私なら迷惑かけてもいいってか?

 ……でも……。

 

「仕方ねーな。前田の飯でも食いたいのか?」

「そ、そう言うわけではありません!」

 

「今日のはレンジでチンだぞ?」

「だから違います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――大停電の夜空には光弾がいくつか飛んでは弾けて消えるを繰り返していた。そして、一際大きな光が轟音と共に橋の上で爆散した。

 

「……やりおったな小僧……フフッ……フフフ、期待通りだよ。流石は奴の息子だ」

「あ、あわっ脱げっ!? ごめんなさい!」

「や、やったぜ兄貴! あのエヴァンジェリンに打ち勝ったぜ!? 信じられねー!!」

 

 橋の上空に居たのは裸になったエヴァンジェリン。相対するはネギ・スプリングフィールド、肩にはアルベール・カモミールという名の喋るオコジョがいる。

 ネギ・スプリングフィールドが学園に来て数日。エヴァンジェリンは大停電の呪いの障壁が一瞬消えるタイミングで行動を起こすが、ネギによって止められていた。

 

「っ!! いけない!! マスター戻って!!」

「何!?」

 

 バシャッ!!

 突然、橋のライトがエヴァンジェリンを照らす。停電が復旧して行く。

 

「予定よりも7分17秒も停電の復旧が早い! マスター!!」

「ちっ!いい加減な仕事をしおって!!」

 

 ちりっと微電流が来ると、ここまでかとエヴァンジェリンは瞬間的に理解する。呪いの効果が戻る。

 バシンッ!!

「きゃんっ!!」

 

 

 

『危なかったなーガキ』

 

『もう一カ月になるぜ? 俺について来たってイイこたねーぞどっかいけ』

 

『登校地獄!!』

 

『あっはっはっはっ!! 似合う! 素晴らしく似合ってるぜエヴァンジェリン。くっくっく、ひーひー【闇の福音】が……ぷっ』

 

『お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。光に生きてみろ、そしたらその時お前の呪いも解いてやる』

 

(……ウソツキ)

 

 ネギ・スプリングフィールドの父、ナギによって与えられた呪い。そして果たされなかった約束が浮かぶ。

 パシッ

 

「え……」

「光栄に思って下さって構いませんよ。お姫様抱っこするのはこれが3人目でございます」

 

(執事の前田? 何故飛んで……いや、杖すら持っていない。魔力媒介も何も……)

 

「ま、前田先生!?」

「え!? 前田先生!? 本当だ!」

「こんばんは。ネギ先生。神楽坂さん。生徒に手を出すのは些か問題があるかも知れませんが……相手がエヴァンジェリンさんでは仕方が無いでしょう。しかし、そちらのお姫様を仮契約者に選ぶとは……ふむ。今日は時間も遅いですし、早く帰って寝るんですよ?」

「貴様、何故私を助けた!? それに何故飛んでいる!?」

 

「それは……」

「それは?」

 

「私が教師で執事だからです」

「待て、助けた理由しか分からん!」

 

「執事は飛ぶものでございます」

「ぶっ飛んでるの間違いだろう!!」

 

「まぁ騒がずに。ではネギ先生、神楽坂さん。おやすみなさいませ」

「(これは影を使った転移魔法!?)おい、貴様一体――っ!!」

 

 ―――黒い円が波の様なモノを浮かべながら、その室内に発生する。ゆっくりと頭から出てくる前田は裸のエヴァンジェリンを抱えていた。

 

「歩けますか?」

「大丈夫だ。おろせ」

 

「では部屋までお運びいたしましょう」

「話を聞け! さっさとおろせ!」

 

「ふむ、なるほど。かなりデタラメな呪いをかけられていますね」

「……貴様。何故下ろさないかと思えば、私の呪いを解析していたのか?」

 

 

「はて? 私は裸の幼女をお姫様抱っこして興奮しているだけですが? ハァハァ」

「誰が幼女だ!! 教えろ、お前は何者なんだ?」

 

「……仕方ありませんね。皆さんには内緒ですよ? 私の名前は前田・ヴァンデンバーグ・政宗。長谷川千雨様の執事で、2-A組の副担任でございます」

「……いや例えば、高名な魔法使いだとか……何かあるだろ……」

 

「本当は野球選手になりたかったのでございます」

「聞くなと言う事か?」

 

「エヴァンジェリンさん。その様な格好で恥ずかしくないのですか? それとも、仮にも教師である私を誘惑しているのですか? ハァハァ」

「分かった。何も聞かん。(今はな)」

 

「私のストライクゾーンはエヴァンジェリンさん。アナタからしずな先生ぐらいまでです。遊びで誘惑しているとしたら……覚悟してください!」

「本気でボケているのか!?」

 

 ガチャッ

 

「良かった。マスター戻っていたのです……ね。お、お邪魔しました」

「うぉぉぉいっ!!」

 

 【裸のエヴァンジェリン】+【仮にも教師の前田】=【教師と教え子の過ち】

 

「―――そんな方程式は成り立たん!! 戻ってこい茶々丸ー!!」

 

「気を使わせてしまいましたね。では続きを、ハァハァ」

「ボケるな!!」

 

「ふむ、アナタでも大丈夫かと思ったのですがね。学校にはサボらず来るんですよ? では おやすみなさいませ」

「―――私でも?」

 

 そう言って、執事の前田はエヴァンジェリンの家を出る。エヴァンジェリンには外での会話が少し漏れて聞こえてきた。

 

「あぁすみません絡繰さん。事を済ませましたのでどうぞ、匂いも残ってないかと思いますが、シーツのシミ等だけは申し訳ありません。お赤飯は炊いてありますので―――」

「ま、マスターをよろしくお願いします」

 

 バンッ!

 

「ボケてないでさっさと帰れー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと千雨さん! そのケーキは私の!!」

「うるせーな。沢山あるだろうが。そんなに前田が好きなら告白でもすればいいじゃねーか。つーか持って行けよあんな執事」

 

 パッ

 照明のスイッチは入れたままにしてあった為に急に明るくなる部屋。それに少しばかり眩しさを覚えながら、ラップに包まれた料理をレンジへと運ぶ。先にケーキ食ったのはアレだが、プチケーキと手の込んだものだったし空腹感はまだある。

 

「おっ、停電が復旧したな。これでレンジも使える」

「どうして、前田は千雨さんのところに……はぁ」

 

 こっちが聞きたい。ワンクリック詐欺だあんなモノ。

 

 結局、先に風呂だ。前田の部屋はどこだと委員長の相手をしていた事で、レンジでチンする前に停電になり、晩御飯は今からという運びになっていた。

 晩御飯を食べ終わり、私達は寝ることにした。前田はまだ帰ってこないようだ。なる気もないが、私の中で将来の職業として【教師】というモノは除外が確定された。

 

 

「もう寝るぞ、アンタがソッチ。私がコッチ。これで良いだろう?」

「えぇ、……い、一緒に寝ませんか?」

 

「何言ってんだよ。あ、こら引っ張るな」

「良いじゃないですか、まだ前田の事でお話したい事が―――」

 

 カチャッ

 

「……」

「……」

 

「ただいま戻りました。まだ起きていらっしゃったのですね?」

 

 女子二人で暗い部屋のベッドの上で何をしているんだという気まずさの中、沈黙を破ったのは帰って来た前田だった。

 

「あ、あぁ。もう寝るところだ」

「左様でございますか、では私も一緒に」

「前田と一緒に!?」

 

「ねーよ。前田は自分の部屋で寝ろ」

「千雨さんは寂しいかもしれませんが、一人で寝て下さい。では前田の部屋はどこ?」

 

「こちらでございます。あやか様」

「だぁーもうっ! 委員長はこの部屋! 一緒に寝てやるから!!」

 

「お嬢様。あやか様を私の部屋で、お嬢様と私が一緒に寝るという選択肢もござい―――」

「出てけー!!」

 

 

 


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