ふるえるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!! おおおおおっ 刻むぞ血液のビート!
山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!
ジョナサン・ジョースター
サラサラと、草の音が聞こえてくる。木特有の匂いもする。先程までは感じなかった感覚。
そんな、自然豊かな森で、一人の男が目を覚ました。
その男は体を動かそうとして、ふと、自分の体に違和感を覚える。
だが、決して調子が悪いわけではない。むしろ良すぎて、あらゆる感覚が研ぎ澄まされているような、そんな感じがするのだ。
「どういうことだ....!?」
声を発して、さらに驚いた。自分の声が、変わっている。だが、聞き覚えのあるような気もした。
彼は、近くにあった水溜まりで自分の姿を確認しようとした。しかし、そこに写ったのは見覚えのある自分の顔ではなかった。
「こ、この顔は...」
ここでようやく、彼の正体が判明する。
「まんまディオ・ブランドーじゃあないか!」
そう、彼はほんの数分前に神、ゼウスによって転生した主人公。
西城錠助である。
■ ■ ■
~錠助side~
どうも、錠助です。目覚めたら知らない森の中だし、姿はまんまディオだし、驚いてばかりだよ。まあ、嬉しいけどね。
なんて考えていると、指にはめている指輪から電子音が聞こえてきた。
「なんだ?」
指輪に触れたとたん、電話のコール音のような音声に切り替わり、3コール目で錠助がよく知る声が聞こえてきた。
『よお、気づいたみたいだな。』
「その声、ゼウスか?」
錠助は、知っている声に若干安心感を抱きながらも、その感情は声に出さなかった。
『ああ。どうやら無事に転生できたみたいだな。』
どうやら確認のためらしい、そう理解した錠助は、自分の姿について尋ねた。
「この姿はどういうことだ?」
『ああ、その姿はお前の望み通りだぜ。ちなみに声もな。』
ようやく納得できた。声が格好よくなっていたのも、調子の良さも、すべてディオの体になったためだったのだ。
『姿はディオだが、種族はしっかり究極生物だぜ。』
「分かった。ちなみにスタンドは...」
錠助は一番気になることがあった。自分のスタンドの事である。
彼は転生するときにゼウスが言っていた、『チート能力とステータス』が知りたかった。
『フッフッフ、聞いて驚け。お前のスタンド『ザ・ワールド』のステータスは、オールSだ!』
「.....は?」
錠助は耳を疑った。この体だけでもチートと呼べるのに、さらにスタンドまでチートになるという事実に若干引いた。だが、むしろこれだけで済んでよかったという考えも、あるにはある。
『さらに! 能力は速度操作、クレイジー・ダイヤモンド、ザ・ハンド、キラークイーン、スティッキー・フィンガーズの能力をプラスゥゥゥウウゥゥ!!!』
「......」
訂正、まだあった。
『さらにさらに! 速度操作は応用すると、キング・クリムゾン、メイド・イン・ヘブンの能力が使えるぜェ!!!!! イエェェエエェェ!!!!』
「」
テンションが上がり続けているゼウスとは違い、静かすぎる錠助。
増えるチートに現実逃避し始めていた彼は、最終的に.......燃え尽きた。
~錠助side out~
■ ■ ■
数分後、意識が戻った錠助は、折角なので能力を試してみることにした。
「姿がディオだから口調もディオっぽくした方がいいな.....これで良いだろう。」
錠助もといディオは腰を落とし、目の前にある木に向かって自分の目から圧力をかけた体液を発射した。
「空裂眼刺驚(スペースリバー・スティンギーアイズ)!!」
ディオの目から発射された体液は、まるでレーザー光線のように木を貫いた後、そのままの勢いで真っ直ぐ飛んで行った。
「やはり強力だな、この技は。さて次は.....!」
次の技を試そうとしていたディオの、究極生物となり強化された耳に悲鳴のような声が入ってきた。
「この声量は女か? 少し遠いな.....良し。」
誰に聞かせる訳でもなく、そう呟いたディオは、自分の両腕を鳥の翼へと変えた。そして大きく羽ばたくと、悲鳴が聞こえた方角へ飛び立っていった。
■ ■ ■
場所は変わり、ここはとある街道。そこを一つの馬車が走っていた。
「それにしても、お前さんも災難だったなぁ。道中で盗賊に襲われるなんてよ。」
気の良さそうな男が、荷台に乗っている二人のうち、どことなく田舎臭い雰囲気の少年に話し掛けた。少年はため息をつくと、愚痴を漏らし始めた。
「全くだぜ...。おかげで一緒に旅してた仲間とはぐれるわ、道に迷うわ.....ハァ」
「だ、大丈夫よ! はぐれた仲間にも、きっと再会できるわよ!」
自分の不幸を思いだし、落ち込み始めた少年を、荷台に乗っているもう一人である若い女性が励ました。そんな彼女の言葉に、少年は立ち上がった。
「そ、そうだよな! 世の中悪いことばかりじゃねえ! 」
元気が戻った少年を見て、彼女は優しく微笑んだ。そんな様子を見ていた男もまた、無意識のうちに笑っていたのだった。
そんな楽しい雰囲気のまま進む一行を、突如、地響きが襲った。
「ッ! 何だ!?」
男がそう叫んだとたん、地中から一匹の土竜がけたたましい咆哮とともに姿を現した。
『ヴオォォオォォオオォォォ!!!!』
土竜はその視界に馬車を捉えると、真っ直ぐその方向へ突っ込んでいった。
「土...土竜だぁぁぁぁ!!!」
土竜の迫力に恐怖した男は、叫び声を上げるだけでなにもすることはできない。そしてそれは、荷台に乗った女性も同じだった。
「あ...ああ..」
そんな彼らに、土竜は一切の慈悲もなく、本能のままに蹂躙するはずだった。しかし...
「はあッ!」
一つの掛け声とともに、一瞬にして土竜の触角が切り落とされた。と同時に、触角を斬られた痛みからか、或いは斬られたことに対する怒りなのか、土竜が咆哮を上げる。
『ガァァアアァァァ!!!!』
その咆哮を聞いて、土竜の触角を切り落とした人物、いや少年は笑みを深める。
「一級危険種 土竜か...相手に不足はないな...」
少年がそう呟いたとたん、土竜が咆哮とともに向かって来る。そのまま腕を振り上げ、少年に叩き付けた。
「怒ったな...でも、終わりだ!」
否、少年はその攻撃を土竜の腕に乗ることで回避していた。そしてそのまま腕の上を走り、土竜との距離を詰め、目にもとまらぬスピードで土竜の体を切り裂いた。
綺麗に着地した少年は、男達の無事を確認するべく馬車に駆け寄った。
「大丈夫か、おっさん。」
男はいまだに状況が掴めず、少しの間呆けていたが、少年に声を掛けられはっと我に返った。
「あ、ああ...。大丈夫だ。しかし、お前さん、あんなに強かったのか。」
少年は男の言葉を聞くと、若干テンションを上げて話し始めた。
「当ったり前だろー、俺にかかればあんな奴楽勝だって!!」
少年が話していると、荷台にいた女性も少年を褒め始めた。少年は完全に天狗になり、自画自賛を始めた。
だから少年は気づかなかった。土竜にまだ息があったことに。
『グ...ガァァアアァァァ!!!』
最後の力を振り絞り起き上がった土竜は、一番近くにいた女性へ襲いかかった。
「ひっ...キャァァアアァァ!!!」
反応が遅れた少年は女性を助けようとするも、若干の距離があり、とても間に合うものではなかった。少年の脳裏に最悪の結末が浮かんだ時、その声は響いた。
「『世界』時よ止まれッ!」
■ ■ ■
~ディオside~
悲鳴が聞こえた方角へ、音速に近い速度でディオは飛んでいた。
ただ翼を使い飛ぶだけでは、こんなに速いスピードは出る筈がない。ならば何故か。その秘密はディオの能力の一つ、速度操作にある。ディオはこの能力を使い、自分自身の時間の流れを早めていた。つまりは、メイド・イン・ヘブンである。
そんなディオの視界に、たった今、巨大な怪物に襲われそうになっている女性が写った。しかしこの距離では、どうやっても間に合いそうにない。速度操作の能力にはまだ慣れていないのだ。
「一か八かだ、やるしかない。」
そう呟くと、ディオの側にあるヴィジョンが現れた。それはギリシャ彫刻のような美しさを持ちながらも圧倒的威圧感と怪しい色気を兼ね備えた最強のスタンド、ザ・ワールドのヴィジョンであった。
そしてディオは叫んだ。スタンド『ザ・ワールド』を最強と言わしめるその能力の名を。
「『世界』時よ止まれッ!」
そして世界から、色が消えた。
色の消えた、時が止まった世界で動ける者はディオただ一人。そしてディオは、女性に近付くと彼女を抱え、その場から離れた。
「このくらいか...。初めて時を止めたが、うまくいったようだ。」
馬車の側に来たディオは、荷台の上に女性を優しく下ろした。
「そろそろいいか。そして時は動き出す。」
ディオがそう言ったとたん、世界に色が戻り、時間が進み始めた。そして次の瞬間、さっきまで女性がいた場所に土竜の腕が降り下ろされた。
ふとディオが横を見ると、少年が沈痛そうな表情でその場を見ていた。
「おい、少年。」
「え? うおっ!?」
ディオが声を掛けると、少年はかなり驚いた様子でこちらを見た。
「あ、あんた、誰だ? いつからそこに?」
「...それよりもだ。女は助けた。心配するな。」
少年の問いを無視し、ディオは女性の無事を少年に伝えた。それを聞いて驚いた少年は、疑問を持ちながらも女性の無事にほっと胸を撫で下ろした。
「次からは、油断をしないようにな。」
「うっ...すいません...」
少年と会話をしていると、先程ディオが助けた女性がお礼を言ってきた。何かお礼をしたいと言った女性に対し、ディオはそれを断った。
「私は自分がしたいことをしたまでだ。お前が無事ならばそれでいいだろう。」
この後、この女性がお前呼ばわりされたことに対し、怒るどころか顔を真っ赤にしていたのを不思議そうに眺めているディオを見て、少年は、あ、この人ジゴロだと思ったのは秘密である。
アリー・ヴェデルチ!