ニセコイの投稿待ってますという感想やメッセージ嬉しかったです。
これからは鬱展開に一段落つくまではこっち中心に投稿していきます。
ただ、それでも亀更新になる可能性大ですが…。
「何なのよ…。何なのよ、あいつッ!」
陸との再会、対話を終え部屋から追い出されてから十分ほど。楽達は解散せずに一同、楽の部屋に集まっていた。陸が、現在家にいる組の中での最高責任者が帰れと言った以上、その手下達はその言葉に従い、楽以外の面々を家から出す必要があるのだが、組の男達は楽の部屋に入る面々をただ見ているだけだった。さすがにあの陸の態度の変貌には少々思う所があるらしい。
そしてそれは楽達も同じだった。特に陸に突き飛ばされた千棘とるりは相当フラストレーションが溜まっているらしく、千棘は拳で皆で囲んでいるテーブルをどんどん叩き、そしてるりは尋常じゃない黒いオーラを噴き出している。
「最低ッ!マジ最低ッ!」
千棘に関しては怒りが臨界点を超えており、もう語彙力が大変な事になっている。というより、楽としてはいい加減テーブルを叩くのを止めてほしい所だ。見ろ、千棘の拳が叩き付けられている所に僅かに罅が奔っている。
「あいつ、私達が…小咲ちゃんがどんな思いでいたのか解ってない!」
「いえ。解ってたのよ。解ってた上であんな…」
「もっと屑じゃないのよ!」
もう言いたい放題だ。いや、楽としてもあの陸の態度、言動にはショックを受けたし言いたい事もある。
だが、陸があんな態度をとった理由の一部を背負っている以上、千棘とるりの言葉は少なからず楽の胸にも突き刺さっていた。
そう、楽は陸の変貌の訳を知っている。そして楽だけじゃなく、きっとあの三人も――――――――
「喧しいですわ。嘘のだとしても、恋人の気持ちに気付かず何故そこまで暴言を吐き続けられるのでしょう」
「はぁ?」
千棘の口から更なる陸への不満が吐き出されようとしたその時、万里花が口を開いた。千棘は視線を上げて苛立たし気に万里花を睨む。
「いきなり何よ。あんな風に言われたのよ?私の事はまだ良いわ。でも、あいつは小咲ちゃんの気持ちを踏み躙って…!」
「あら、桐崎さん。陸様のあの態度が、言葉が、本気で仰っていたものだと。あなたはそう言うのですか?」
万里花のその返しが千棘にとって意外だったのか、千棘は目を丸くして呆けている。そしてもう一人、るりもまた目を丸くして千棘を鋭く睨む万里花を見つめていた。
「桐崎さん、それに宮本さんも。思い出してください。これまでの陸様の顔を、声を、行動を。私達と一緒に笑って、私達と一緒に遊んで、時に私達を叱って」
高校に入ってから一年と約半年。陸と過ごした時を思い返す。陸といる時間は笑いが絶えず、でも時に誰かが仲違いした時は陸が橋渡しを試みてくれて、そして誰かがやり過ぎた時には叱ってくれた。
「…思い出しましたか?」
「…でも。じゃあ何で、陸はあんな事を…」
「簡単ですわ。そうしなければいけない理由が、陸様にはあったから」
「だから、その理由が解らないって…!」
「俺達のせいだよ」
万里花のはっきりしない答えに急かされたように、迫る千棘に今度は集が口を開いた。
千棘達の視線が今度は集に集まる。だが、その中の半分。楽、万里花、鶫は悲し気に目を伏せた。
「俺達と親しくなったから、陸はああしなくちゃならなくなったんだ」
「…意味解んない。私達と親しくなったからって、何言ってんのよ…」
部屋中に沈黙が流れる。千棘とるりが視線を巡らせて、他四人の表情を見回してから、千棘がまた疑問を投げかける。
「桐崎さん、忘れたのかい?陸がどういう奴なのか。この家にとって…、集英組にとってどういう立場にいるのか」
「…あ」
千棘の瞳が揺れる。唇を震わせ、ゆっくりとその顔が俯いていく。一方のるりはまだ集の言っている意味が理解できないようで、千棘の表情の変化に首を傾げている。
「宮本様。一条陸は集英組の若頭。いずれ、組を継がなくてはならない」
「あ…」
「やくざの世界というのは、皆様が思っている以上に過酷で、血生臭いものですから。きっと、一条陸は…」
集の代わりに鶫が説明し、今度はるりも察したらしい。陸が何故、あんな態度をとる必要があったのか。あんなに無理やりに、突然に自分達と縁を切らなければならなかったのか。
「親父が倒れたからな。多分あいつ、もう時間がないんだって思ってるんだと思う」
嫌な沈黙が流れる中で楽が口を開き、そして楽は小咲の方へ体を向けて不意に頭を下げた。
「悪い、小野寺、皆。俺がやくざとか、そういうの嫌がらずに向き合えてたら違った結果になってたかもしれない。…俺が陸を手伝えられれば一番だけど、逆に陸の迷惑になっちまう」
楽はこれまで組を継ぐ事を嫌がり、嫌な言い方をすれば全てを陸に押し付けていた。
家族なのに、兄弟なのに、陸一人に押し付けてしまった。
もし楽がそうした事から逃げず、陸と一緒にいたとしたら。今、陸が苦しい時に支えられたかもしれない。そうすれば、陸一人に負担が全ていかずに、陸にこんな事をさせずに済んだかもしれない。
そう思ったら、楽はどうしようもなく小咲に、皆に申し訳なくなってしょうがない。この事態を引き起こしたのは自分の不甲斐なさだ。陸に、小咲に、皆に悲しい思いをさせたのは自分だ。
(俺が…、俺のせいで…!)
「楽…」
悔し気に歪む楽の顔を見て、隣に座る千棘が楽の肩にそっと手を添える。
「…そっか」
この場に来てから。陸に部屋から追い出されてから、一言も言葉を発さなかった。この場にいる誰もが一番、彼女の心情を心配していた。
「小咲…」
るりが小咲の顔を覗き込む。
彼女の目から、一筋の雫が流れ落ちていた。
「陸君に嫌われた訳じゃなかったんだね」
小咲の口から出てきたのは安堵の言葉。先程の陸の言葉と態度が本気なものじゃないと確信した小咲の顔は笑っていた。
泣きながら笑っていたのだ。
「でも…、もう、会えないね」
「小咲」
「会っちゃ…ダメなんだね」
心優しい小咲は陸の思いを汲んでしまう。察してしまう。
自分達が嫌いではない事は本当だとしても、縁を切りたいという陸の言葉もまた本当なのだ。その言葉の真意がたとえ陸が言ったような思いから出たのではないのだとしても、もう、陸のためにも、関わる訳にはいかない。
「…小咲。アンタ、本当にそれでいいの?」
「…」
小咲の選択に堪らずるりが問うが小咲の意志は変わらなかった。小咲は涙を流しながら頷く。
小咲自身は嫌なはずなのに、陸の為に、好きな人の為に身を引く選択を下そうとしている。
「…やっぱりあいつ、一発ぶん殴らないと気が済まないわ」
「ええ。小咲を泣かした分、徹底的にね」
そしてそんな小咲の姿が、陸の真意を知って揺らいだ二人の心を改めて固めた。
「おいおい。さっきも言ったけど陸は…」
「ええ、解ってるわよ。でもこれは、女を泣かした最低な男に私達が勝手にムカついてるだけ」
もう二人は誤解していない。陸の本当の気持ちを、自分達を守るために遠ざけようとしたのだと解っている。だがただ一つだけ。その行いが、一人の女の子を泣かせた。その結果がどうしても、二人には許せなかった。
「…二人共」
「何よ、舞子君。言っておくけど、止めても…」
「俺も二人に協力するよ」
「むだ…は?」
怒りの炎に包まれる千棘とるりは、てっきり集は自分達を止めるのだろうと、そう思っていた。だが彼の口からは二人を止めようとする言葉は出てこない。というより、協力とは一体どういうつもりなのか。
「俺さ、前に約束したんだ。陸が後悔しそうな選択をしようとしたら、ケツを蹴飛ばしてやる、って」
「…っ、集。お前…」
何故、と聞きたげな二人に集は両腕を広げて演目ぶった仕草を取りながら言った。
その言葉は以前、集が失恋してしまった後、陸に言った言葉だった。
あの時楽は集が言った言葉の意味を解りかねていたが、もしかしたら集はその時からいずれこうなると予想していたのか。いずれ陸が、後悔する選択をするだろうと、解っていたのか。
「舞子君…」
「あら、舞子さんだけではありませんよ?私も協力致しますわ」
続いて協力に名乗り出たのは万里花。胸を張り、誇らしげに続ける。
「いずれ私は楽様と夫婦になる。そうなれば陸様は私の義弟という事になりますわ。夫の家族を救うのもまた、妻の役目ですもの」
「は…ハァッ!?あんたこんな時に何言ってんのよ!」
万里花の宣言に千棘が顔を赤くして憤慨し、言い争いに発展。ギャーギャーと騒ぐ二人を置いて、今度は鶫が胸に手を当てて口を開いた。
「私も勿論協力させてもらいます。お嬢をお守りするのが私の役目…。それに、小野寺様を泣かせた一条陸が許せないのは、私も同じですから」
「鶫ちゃん…」
楽はこの場にいる全員の姿を見回す。つい先程まで沈んでいた空気が今ではすっかり晴れていた。だが、足りないのだ。一人足りない。もう一人いないと、やはり駄目だ。
「小野寺」
「一条君…?」
楽が呼ぶと、小咲はゆっくりと振り向いた。目の周りが赤くなりながら、未だ涙が止まらない小咲に、楽は笑いながら続ける。
「俺さ、また小野寺と一緒にいる時のあいつの顔、見てぇわ」
「っ…」
楽は思う。今まで十七年間陸と一緒にいたが、陸が一番良い笑顔を浮かべる時は、隣に小咲がいる時だった。自分や親父、馴染みの組の男達と一緒に騒いでいても、あんな笑顔を浮かべた事はなかった。
また、あの顔を見たい。そして笑い合う陸と小咲を見ながら、ここにいる皆でまた笑うのだ。
「小咲」
再びるりが小咲に呼びかけた時には千棘と万里花の言い争いも収まっており、皆の視線が小咲に集まる。小咲はたじろぎながらるりの視線と交わして、次の言葉を待つ。
「小咲はどうしたいの?」
「私は…、もう…」
「どうするつもりなのかを聞いてるんじゃないの。
「っ…」
小咲の息が詰まる。胸の奥を覗かれているようで…いや、もう目の前の親友には見透かされている。るりだけじゃない。きっと、この場にいる皆に。小咲がどうしたいのか、もう悟られている。
「…嫌だよ」
「小咲」
「…嫌だよ。これでお別れなんて嫌だよ。また陸君に会いたい!」
堰が決壊し、ゆっくりと流れていた涙の勢いが増す。ぽろぽろと目から流れ落ちた涙が下へと落ち、畳を濡らす。
「ダメだって解ってる!私の自分勝手だって解ってる!でも…、だけど…!もっと陸君と一緒に居たいよぉ…っ!」
「小咲っ」
泣き叫ぶ小咲の頭をるりが胸に抱える。小咲もるりの胸に縋りながら更に泣き続けた。
「…決まりだな」
「あぁ。よっしゃ!今からもっかい陸んとこに乗り込むぞ!」
全員の心が一つになり、立ち上がろうとする。誰もが陸をこちら側に連れ戻す。
その思いで再び、陸の元へと向かおうとした。
だが、この場にいる誰も解っていなかった。
この事態はそんな簡単な話ではないのだと。
「悪いけど、アンタ等を行かせる訳にはいかないのよ」
「っ、皆下がって!」
突然聞こえて来た第三者の声。楽達のものじゃない。楽達の前にすぐさま出たのは鶫だった。楽達を背後に置き、部屋の窓の傍らに立つ小さな人影と対峙する。
そう、そこに立っていたのは一見子供と見紛うほどの小さな少女だった。だが、この中で鶫だけは知っていた。その見た目とは裏腹に、この少女は只モノではないという事を。
「夜さん…?」
呆然と名を口にする楽を、夜は何も答えずただ見ているだけ。
睨み合いが続く中、ふと背後から部屋の障子が開く音がした。楽達はその音で振り返り、鶫も体は夜の方へ向けたまま視線だけ背後に向ける。
「…羽姉」
障子を開け、部屋に入って来たのは今まで見た事がない、真剣な表情をした羽だった。
久しぶり過ぎて原作キャラの口調とか、それすら不安という…。
そして今回は陸君出てこなかったけど、今の私は陸というキャラをちゃんと描写できるのか…。
まあそんな事よりも今回の話、陸君をぶっ飛ばしたいという欲求に駆られながら書きました。あのヘタレはどうしようもないあぁマジ糞ヘタレ…。
さっさと鬱展開終わらせてまた陸と小咲のいちゃいちゃ書きたいなぁ~…。
まあ、まだしばらくできそうにないんですけどねぇー…。(´;ω;`)
余談
ちなみにこの話は23時51分に投稿されるように予約したのですが、