一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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久しぶりの連投!疲れたー。ww








第77話 続・メイレイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(羽さんが…)

 

 

(王様…!)

 

 

番号ではなく、端が黒ペンで塗られたクジを握った羽。

いつものほのぼのとした笑みを浮かべている羽だが…、異様な空気を纏っているように感じるのは気のせいだろうか。(気のせいである)

 

 

((((一体、どんな命令を…!))))

 

 

どのような命令を出すか見当がつかないからこそ、不気味に感じる。

 

そんな空気の中、羽の唇がにこりと三日月形に歪み…直後、開かれる。

 

 

「それじゃあ…、二番と七番の人は─────」

 

 

小咲の時とは比べ物にならないほど大きく、びくりと皆の体が震える。

 

そして─────

 

 

「私に好きな人を教えてもらおうかな♪」

 

 

一人を除いて…、皆の内心に衝撃が奔る。

羽の命令を聞いた瞬間、自身のクジの番号を確認する。

 

しかし、一体誰が…

 

 

「ふっ…、二番と七番ね…」

 

 

ゆらり、とゆっくり立ち上がる人影。

皆の視線が、その人影に集中する。

 

 

「二番は俺だ!!」

 

 

「集!?」

 

 

眼鏡を光らせ、クジの番号を見せながら名乗り出た集は、演技染みた仕草を見せながら口を開く。

 

 

「いやぁ、当てられしまっちゃ仕方ない。ちょっと恥ずかしいけど、ルールだもんな」

 

 

「てかお前今、好きな人とかいんのか?」

 

 

「もちろん!」

 

 

集の真実を知る者は数少ない。その内の一人である楽が、集に問いかける。

すると集は、即座に力強く答えた。

 

 

「俺の好きな人は…、羽姉!あなただ!」

 

 

「「「「「えええええええええええええ!!!?」」」」」

 

 

集に言われた羽が、きょとんとしながら指先で自分を指す。

 

 

「と!」

 

 

「「「「「…と?」」」」」

 

 

だが、集の言葉はまだ終わっていなかった。

羽の名の後、<と>の言葉で続けられる。

 

皆が呆然とした表情となり、目が点となる。

そんな中、集は浮かべた笑みを変えぬままさらに続ける。

 

 

「桐崎さんと~、小野寺と~、誠士郎ちゃんに万里花ちゃんと~…」

 

 

次々にこの場にいる女子の名前を口にする集。

訝し気な皆の視線を受けながら、集はここに来てから一番の笑顔を浮かべて言う。

 

 

「皆大好べぅ!」

 

 

言おうと、したのだろう。言い切る直前に、突如横合いから張り手が飛んで来なければ言い切る事は出来ただろう。

 

集は倒れ、直後、彼の額が何者かによって踏まれる。

 

 

「一応聞いておいてあげるけど、何故私の名前はない?」

 

 

「あれ?なかったっけ?ごめんごめん」

 

 

ぐりぐりと足で突かれる集。足が伸びる方へと集は笑みを向ける。

…ここまで来ると、尊敬の念すら抱きたくなる。

 

 

「大丈夫だよ、安心して♪僕、るりちゃんの事も大好き…ってあだだだ!!?るりちゃん、痛い痛い!ちょっ、洒落にならないってるりちゃんんんんんんんんんんんん!!!?」

 

 

((((舞子君で良かったぁ~…))))

 

 

ひとしきり集をボコった後、何者か…るりは元の場所に腰を下ろす。

 

さて、二番の集が命令をこなした。次は、七番を誰が引いたのかだが。

 

 

「ふぅ…。次は私の番ですわね」

 

 

集とは違う何者かが立ち上がる。

 

 

「恥ずかしいけど、発表致しましょうか。私の大好きな─────」

 

 

「さ、次の王様決めるよー」

 

 

「人ん話ば聞いてくれんね!?」

 

 

七番を引いた、万里花。…もう、彼女の好きな人が誰なのかは目に見えて明らかである。

万里花の発表の前に、すでに皆はクジを戻して新たに引き始めていた。

 

 

「でも、ちょっと残念だなぁ~」

 

 

「何が?」

 

 

順番にクジを引く中、ふと羽が呟いた。

羽の隣に座っていた陸の耳にその呟きが届いており、聞き返した。

 

 

「陸ちゃんとか楽ちゃんの好きな人、聞いてみたかったなー。後…」

 

 

羽の思惑が分かった陸は、横目で羽を睨む。

すると羽は、さらに笑みを深めながら、どこかへ視線を向ける。

 

 

「小咲ちゃんの好きな人とか…」

 

 

「え?」

 

 

小咲が羽に視線を向ける。

目を丸くする小咲と、深い笑みを浮かべる羽が視線を合わせる。

 

二人の間に流れる空気は、周りの朗らかなものとは違った微妙なものになっている。

 

 

「…ん?」

 

 

小咲と羽の空気を気にしながら、陸はくじを引こうとしたその時、家のチャイムが鳴り響く。

 

 

「何だ、また誰か来たのか。陸、見てきてくれ」

 

 

「何でだよ。何で当たり前のごとく俺に言うんだよ」

 

 

「だって、朝は俺が行ったし」

 

 

「関係ねえだろ」

 

 

陸と楽の間に、先程の小咲と羽とは違った殺伐とした空気が流れる。

 

睨み合う兄弟。目を鋭くさせ、睨み合う。そして、陸と楽は片手の拳を握って構えた。

 

一触即発の空気。集と羽以外の皆がそわそわする中、陸と楽は同時に口を開いた。

 

 

「「…ジャン、ケン!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

一条家、集英組の門の前。春が風ちゃん、ポーラと共にやってきていた。

 

和風の巨大な屋敷の存在感、そして何ら感じられない人の気配に圧倒される。

 

 

「ここが、先輩の家かぁ…」

 

 

「静かだね。誰もいないのかなぁ…」

 

 

風ちゃんが言った通り、あまりに静かすぎる。

ヤクザの家と聞いていたから、春はかなり騒がしそうな印象を持っていたのだが。

それなのに、話し声どころか人の気配すら感じられないのだ。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫かなぁ…。ここ、ヤクザの家だよ!もしかしたら、ひどい事されてるかも…」

 

 

「大丈夫だよ。お姉さん、何度か来てるんでしょ?」

 

 

「で、でも…」

 

 

風ちゃんはそう言ってくれるが、春としては心配で堪らない。

 

朝、突然陸の家へと行くと残して出かけて行った小咲。

いくら今、人の気配がしていないとはいえ、ここはヤクザの家である。

何が起こるか、春では到底想像もつかない。

 

 

「ふん、無礼な歓迎をするようなら私が吹き飛ばしてあげるわ」

 

 

「…ところで、ポーラさんは何でここに?」

 

 

先程も言ったが、春と風ちゃんの他にこの場にはポーラもいる。

物騒なことを言うポーラに、冷や汗を掻きながら春が問いかける。

 

 

「今朝、ブラックタイガーが凄い勢いで飛び出していったから面白そうだと思って♪にしても、ドデカイ屋敷ねぇ」

 

 

「そうだねぇ。あ、春ってこういうの好きなんじゃないの?」

 

 

「え?」

 

 

そう。ポーラの言う通りここには鶫もいる。

小咲と同じように家を飛び出していったようで、春とは違った意味ではあるが気になったポーラはここに来たようだ。

 

そんなポーラが、集英組の屋敷の規模に感心する。

 

風ちゃんがポーラに賛同し、そして春にふと問いかけた。

 

 

「春って和菓子もそうだけど、基本的に和のテイストが好きじゃない?」

 

 

「そうだけど、別にそれだけで…」

 

 

「あれ?」

 

 

風ちゃんの言葉に反論しようとした春。しかしその時、敷地の中から声が聞こえてくる。

 

その声に気付いた三人が視線を向ける。

 

 

「春ちゃん、風ちゃん…。ポーラまで、何でこんな所にいるんだ?」

 

 

三人が視線を向けた先には、こちらに歩いてくる和服を着た陸が。

 

 

「あ、お邪魔してますー」

 

 

「…」

 

 

「!!?」

 

 

風ちゃんがこちらに歩いてくる陸に挨拶をし、ポーラは無言で頭を下げる。

そして春は、陸の格好を見た瞬間に顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

 

「…どうした春ちゃん」

 

 

「せ、先輩…。その恰好は…」

 

 

「ん、これか?家にいる時はこの格好なんだけど…」

 

 

固まった春が気になった陸が声をかける。

その陸を直視できず、春が微妙に陸の顔から視線を外しながら問いかける。

 

陸の格好は和服。家にいる時はいつもこの格好である。

 

 

「何だよ。似合ってないってか?」

 

 

「はは…、全くですよ…。着られる着物が可哀想ってもんですよ…」

 

 

「あーそうかい」

 

 

震えた声で言う春。そんな春を苦笑しながら見る陸。

 

 

「ともかく上がれよ。小咲と鶫もいるから。様子を見に来たんだろ?」

 

 

陸が先導して、三人を案内する。

真っ先にポーラがついていくが、春と風ちゃんは動かない。

 

いや、正確には動けない春と、心配して春の傍にいる風ちゃんといった所か。

 

 

(…どうしよう。先輩がカッコよく見える。ていうか着物って!着物って!!狡いですよ先輩!すごく似合って…!諦めるって決めたのに!先輩のバカバカバカバカぁ!!)

 

 

これが、春の内心である。

両手で真っ赤な顔を覆う春。

 

そして、そんな春を微笑ましそうに眺める風ちゃん。

 

 

「春…。春って、超かわいい」

 

 

「急に何!?」

 

 

突如、そんな事を言い出す風ちゃん。

戸惑いながらも、ともかく陸の案内に続いて家の中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

皆がいる大広間へと入る陸たち。

春やポーラの姿を見て、小咲と鶫が驚いた様子を見せる。

 

 

「どちら様?」

 

 

「小咲の妹とその友達。一年生なんだ」

 

 

先程までいた場所に、陸が腰を下ろすと羽が問いかけてきた。

陸は、春達が何者なのかを羽に説明する。とはいえ、至って簡潔なものだが。それで十分だろう。

 

 

「ふーん…、そっかぁ」

 

 

何故か、面白いものを見つけたかの如く笑みを深める羽。

 

 

「それにしても先輩…。昼間から女の子を集めて王様ゲームって…」

 

 

「言うな、言わないでください。地味に気になってたんだから…」

 

 

春の言葉がぐさりと陸の心に刺さる。

それだけは、指摘されたくなかった…。

 

ともかく、春達に今やっていることの説明も終わった所でゲームの再開である。

 

再開する直前、春と風ちゃんが何やらぼそぼそ話していたが…、何だったのだろう。

しかも、二人は隣同士で座らず、春は小咲の隣で、風ちゃんは陸の隣で腰を下ろす。

 

 

「あのさ風ちゃん、春ちゃんの傍にいなくていいのか?」

 

 

「大丈夫です」

 

 

風ちゃんに問いかけるが、にっこりと返事を返してくる。

…何なのだろう。

 

早速、春、風ちゃん、ポーラの分を加えたクジを引く。

その結果、王様となったのは…、先程加わった新メンバーの一人、風ちゃんだった。

 

 

「おっ、早速一年生!ご命令をどうぞ~!」

 

 

風ちゃんが王様となった事を知った春の表情が輝く。

…本当に、先程の春と風ちゃんのこそこそ話が気になって仕方ない。

 

さらに、直後に春と風ちゃんがサッササッサとおかしな行動を始める。

腕を動かし、足を動かし、まるでこの仕草で会話をしているように見えるのは気のせいだろうか…。

 

 

「コホン、では王様が命令します」

 

 

咳払いしてから、風ちゃんが命令を口にする。

 

 

「九番は、二番を十秒間抱き締めてください」

 

 

「あ…、俺、九番だ」

 

 

陸が引いたクジには、九と書かれている。つまり、自分が誰かを抱き締めなければならない。

 

女子は…さすがに恥ずかしくて嫌だ。別に男子は嫌じゃないという訳ではないが、男子も男子で嫌だが…。

風ちゃんはいきなりずいぶんな命令をしてくる。

 

この先ゲームを続けたらどうなるか…、先行きが不安である。

 

ていうか、また春と風ちゃんがおかしな動きを始めている。

本当に何をしているんだ…。

 

 

「…えーと、九番は俺なんだけど。二番って春ちゃんか?他は皆違うって言ってたんだけど…」

 

 

「ふわ…あわわわ…」

 

 

皆の番号を確かめたが、二番は見つからなかった。残ったのは、春だけ。

陸が歩み寄ると、春は顔を真っ赤にして震えはじめる。

 

うん、そうだよな。恥ずかしいよな。俺だって恥ずかしいよ。

 

 

「気持ちはわかるけど…、ルールだから。さっさと済ませようぜ」

 

 

「えっ!?いや、その…」

 

 

何だかんだ逃げようとはしない春。

混乱しすぎて、動けないのかもしれない。

 

…今のうちに済ませてしまおう。

 

春の背後から、そっと両腕を回す。

なるべく、密着する部分が少なくなるように注意しながら十秒経つのを待つ。

 

十秒経ち、陸は春から離れる。

 

 

「ごめんな」

 

 

そして、耳元で小さく謝ってから元の場所へと戻る。

 

未だ、顔が真っ赤なままの春。…本当に悪いと心の中で謝り続ける。

 

 

「ん!?次は私が王様か!全員私にお菓子を持ってまいれ!」

 

 

「子供だ!子供がいるぞ!」

 

 

「あ!次は私だ!」

 

 

「ちょっ、何て命令してるのよ!」

 

 

「これホントにやるの…?」

 

 

「次は私が!私が!!」

 

 

さらに続く王様ゲーム。楽しんでいる内に、気づけば外が暗くなり始めた。

それに一番初めに気づいた羽が口を開いた。

 

 

「ところで、そろそろ日も暮れるけど…。皆、帰らなくても平気なの?」

 

 

「え?もうそんな時間?」

 

 

「気づきませんでしたわ…」

 

 

ゲームの命令をこなしていた千棘と万里花、そして皆が羽に視線を向ける。

 

 

「じゃあ、そろそろ帰…っ」

 

 

二年女子一同が、目を見合わせながら帰ろうかと口にしようとしたその時、四人は気づいた。

今ここで帰ると、家に残るのは陸、楽、羽の三人だけになるという事に。

 

 

「…どうした皆?」

 

 

いきなり動きを止めた四人が気になった楽が問いかける。

 

すると、四人がゆっくりこちらに振り返る。

 

 

「今日は泊まっていきます」

 

 

「…は?」

 

 

「はぁああああああああああああああ!!?」

 

 

千棘のその言葉に。そして、千棘だけでなく四人皆がその気である事に驚愕する陸と楽。

だが、これで終わりではなかった。

 

 

「お姉ちゃんが泊まるなら私も泊まろうかな…」

 

 

「私もー♪」

 

 

「私もー」

 

 

「ちょっ、風ちゃん、ポーラに春ちゃんまで…」

 

 

さらに春、風ちゃんにポーラが続いて泊まると口にする。

 

 

「ちょっ、皆落ち着けって…」

 

 

「なら、ご飯の準備しなきゃ。餃子で良い?」

 

 

「姉ちゃん!?ていうか、また餃子!?」

 

 

羽はもはや止める気すらないらしい。いや、期待はしてなかったが…、一教師としてここは止めてほしかったというのが陸と楽の本音だった。

 

 

「私も楽様に何かお作りしますわ!」

 

 

「私は食材を調達してきまーす」

 

 

「なら私はお皿洗ってくるー」

 

 

「じゃあ私は─────」

 

 

「ねえ!皆泊まるの!?本気なの!?ねえ!?」

 

 

皆、完全に泊まる気満々である。そして羽は受け入れる気満々である。

 

皆がご飯の準備を始める。そんな中、陸と楽はただただ呆然と眺めるだけ。

 

 

「…どうしてこうなった」

 

 

今、陸ができるのはただ、その一言を口にするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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