一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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ここまで来ると、タイトルが重複していないか心配になってくる。

ホント、二百話をカタカナ四文字縛りでタイトルつけてる古味先生はすげーっすわ…。









第63話 オナヤミ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も遅くなり、そろそろ誰もが寝る準備を始めることを考え出す時間帯。

そんな中、小野寺家二階。食卓のテーブルの上には、様々な種類の和菓子が並べられていた。

 

桜餅、どら焼き、饅頭、その他諸々。

 

 

「どぉ?小咲、秋の新作の感想は」

 

 

「んー…。もう少し栗の甘みを生かせるといいかも…」

 

 

テーブルに並ぶ和菓子の数々は、小咲母が秋に新作として出す候補として作った試作品。

そして、その試作の味見を任されているのが、我らが小咲なのだ。

 

 

「それにしても不思議だなぁ~…。どうしてウチで一番味が分かるお姉ちゃんが、料理できないんだろう?」

 

 

「それは私も知りたいんだけど…」

 

 

手先が器用で、あっという間に錬金術のごとく料理の見た目に高級さを付け足すことができる小咲だが、料理の味だけは壊滅的。

さらに小咲は、舌もまた有能なものを持っていた。

小野寺家の中で、一番味が分かるのは小咲なのである。

 

そのため、小咲の料理下手は家の中で最大の謎となっている。

 

 

「じゃあ、お父さんに感想伝えて来るね。あ、そうだ。お姉ちゃん」

 

 

全ての味見を終えた小咲の感想を聞いた春が、椅子から立ち上がって、居間から出ようとするが不意に小咲を呼びながら彼女の元に歩み寄る。

 

 

「味見役頼んどいてなんだけど、最近少しお肉ついてきてない?気を付けないと、すぐに太るよ~?」

 

 

「だ、大丈夫だもん。ちゃんと気を付けてるし…」

 

 

春が、軽く小咲の両頬を引っ張りながら聞いてくる。

 

この時、小咲は何も問題ないと答えたが、春に続いて居間を出た時、ふと最近の自身の生活を思い返す。

 

近頃、小咲はよく味見役を頼まれている。まぁ季節の変わり目という事で仕方のない事なのだが、それとは他にも、家で春とおやつを食べたり、外で千棘や鶫などの友人たちと帰りに食べ歩きをすることも少なくない。

 

 

(…ちょっと、体重計乗ってこようかな?べ、別に心配ってわけじゃないけど)

 

 

小咲は洗面所に足を踏み入れ、壁際に置いてある体重計を引っ張り、スペースの広い所で両足を体重計に乗せる。

 

 

「…っ!!!!?」

 

 

直後、小咲の全身に雷にも似た衝撃が奔る。

 

体重計が記した数字を見た小咲は、わなわなと震えながら自身が着ていた上着を脱いでネグリジェ姿になる。

少しの間動きを止めていた小咲だったが、今度は不意に片足を浮かせ始める。

 

その後も色々何やらしていたのだが、うん、何をしても結果は変わらない。

 

 

(う、うそ…。数日計んなかっただけで、こんな事になるなんて…!確かに、思い当るフシは幾つかあるけど…。それでも急にこんなに増えるなんて…!)

 

 

現実を受け入れ、体重計を元の場所に戻してから小咲は鏡の前に立つ。

両頬をぐにぐにいじりながら、自分の姿を確認する。

 

正直、見た目的にはあまり変わっていないような気がする。

だが、先程も春に言われたことを思い出す。

 

 

(そう思ってるのは、私だけなのかな…。人から見たら、このお腹は大変なことになって見えるのかな!?)

 

 

自分のお腹を見下ろしながら思う小咲。

 

もしかしたら陸にも、そういう風に見られているとしたら…、思われているとしたら…。

 

 

(大変だ…!すぐに何とかしないと…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…小咲の様子がおかしい?」

 

 

昼休み、陸は自分のクラスに来た楽の言葉を聞いて目を丸くする。

 

 

「いや、おかしいって言うけどさ。どこをどう見ておかしいって感じたんだよ」

 

 

「んー…。どこがって聞かれると…。あ」

 

 

陸が小咲の様子の変化について楽に聞くが、楽は両目を虚空に見上げて考え込んでいる。

 

いや、様子がおかしいって思ったのにどこがおかしいのかわからないのか。

 

陸がツッコミを入れようとしたその時、楽は口を開いた。

 

 

「お腹が鳴ってた」

 

 

「…は?」

 

 

「いや、だからさ。お腹が鳴ってた」

 

 

「…それはつまり、小咲はお腹を空かせてるってことか?」

 

 

陸の問いかけに、楽はおう、と返事を返す。

 

うん、ますます意味が分からない。

 

取りあえず楽は言いたいことを言えたからか、次の授業が体育だという事もあり教室へと戻っていった。

 

 

(ていうか、寝坊して朝ギリギリになって飯食えなかったんだろ?それがどうしたんだよ)

 

 

小咲の様子について考える陸。

それとも、他に何か理由があるのだろうか?

 

 

(…もしかして、ダイエット?)

 

 

瞬間、かちりと歯車が合う。

 

確かに、それだと一番しっくりくる。

 

寝坊をしたと先程考えたが、小咲が寝坊をするとは少し考えにくい。

だとしたら、ご飯を食べることを戸惑わせることがあったという事なのだが…、ダイエットだと考えると全てがしっくりくる。

 

 

(いやでもそれだと…。正直、なにもできないよな…)

 

 

女の子には色々ある。男は全く気にしないことでも、女の子にとっては大問題である。

ましてや、体重のことなど…、男からその話題に触れることはタブーだ。

 

今回ばかりは本当にどうすることもできなさそうだ。

 

ともかく、昼休みも終わり五限目。陸のクラスの授業は数学だ。

 

 

(…あ、楽のクラスの体育、ソフトボールかよ。くそ、羨ましい…)

 

 

陸は何と、この学年になって初めの席替えで窓側の一番後ろの席を掴み取っていた。

昨年に陸と同じ暮らしだった男子たちからは不正だ不正だと騒がれはしたが、結局陸はそのまま天国にも等しい席で悠々自適に学校生活を送っている。

 

そんな陸が不意に窓の外に視線を向けると、グラウンドで体育をしている楽たちのクラスの男子たちの姿があった。

楽たちはソフトボールをやっていた。

 

野球好きな陸としては、物凄く楽を羨ましく思えてしまう。

 

 

「じゃあこの問題を…、一条。解いてみろ」

 

 

「…あ」

 

 

楽しそうにソフトボールをする楽たちを眺めていたのだが、教師に当てられてしまった。

さらに、ご丁寧にも教師は手招きしている。黒板に書けという事だ。

 

 

(うわ、めんどくせー…)

 

 

指数関数を使った、まあそこまで難しい問題ではないのだが。

わざわざ黒板に行く羽目になるとは。

 

黒板へと向かう陸を見る友人たちの目は、面白がっているようにしか見えない。

 

授業が終わったら、絶対にしめると心に誓いながら陸はチョークで黒板に数字の羅列を描いていくのだった。

 

 

「おいてめーら、先生に当てられた俺を見て笑ってたな」

 

 

「そ、そんなことないぞ?むしろ一条の事かわいそーだなーって思ってただけだ」

 

 

「そうだぞ?別にざまあみろなんて思ってないからな?」

 

 

「なるほどざまあみろって思ってたのか」

 

 

「お、お前…!余計なことを…!」

 

 

うん、やっぱりしめよう。

 

改めて心に決め、友人たちの頭に両手を伸ばそうとした…その時だった。

 

 

「陸!」

 

 

バン!と勢いよく扉が開かれた音と同時に、誰かが大声で陸を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

突然の騒音に、即座に振り向いた陸の視線の先にいたのは、

 

 

「楽?」

 

 

昼休みに教室に来たばかりの楽だった。

楽は、何故かはわからないが息を切らしながらずかずかと教室に入ってくる。

 

 

「何だよ楽。今度は何の用だ?」

 

 

あれ?怒ってる?

 

俯いて、顔が見えない楽の様子が尋常じゃない。

焦っているようにも見えるし、怒っているようにも見える。

 

 

「小野寺が倒れた」

 

 

「…は?」

 

 

 

「体育の授業中に、小野寺が倒れた。今、保健室にいる」

 

 

陸の頭の中が、真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…んー…」

 

 

目を開くと、すぐに真っ白い天井が視界に入る。

 

ふと窓があることに気付き、そして赤みがかった日光が見えることからすでに夕方に差し掛かっていることにも気づく。

 

 

(そうだ…。私、体育で…。泳いでたら、急に意識が…)

 

 

体を起き上がらせる。

すぐに周りを見回して、今いる所が保健室のベッドの上だという事を理解する。

 

そう、ベッドの上で寝ていたのは体育で倒れたという小咲である。

五限目で倒れてから約二時間近く、小咲は保健室のベッドで眠り続けていたのだ。

 

 

(先生、いない…。来るまで待とうかな?)

 

 

「…あれ、起きてたのか?」

 

 

保健の先生が今いないことに小咲が気づいた直後、保健室の扉が開かれた。

先生が戻って来たのかと思った小咲が目を向けると、扉を開いた人物は起きている小咲を見て口を開いた。

 

 

「り、陸君!?」

 

 

「まったく、倒れたって聞いて焦ったぞ?特に熱もないし、貧血だろうってさ」

 

 

陸は扉を閉め、小咲に歩み寄ると手に持っていたボトルのお茶を手渡す。

 

 

「あ、ありがと…」

 

 

小咲は陸からお茶を受け取り、お礼を言う。

 

 

「春ちゃんも心配してたぞ。『私が看病するんです!先輩は引っ込んでてください!』

て、騒いでたし。でも何か、お母さんに呼ばれたみたいで、めっっっちゃ渋々帰ってったけど」

 

 

「…ふふ」

 

 

陸が言っていた光景が目に浮かぶ。小咲は思わず笑みを零してしまう。

 

 

「さてと、小咲。俺は今、怒ってる」

 

 

「え?」

 

 

直後、陸が無表情のままだがそんなことを言いだした。

小咲は笑みを収め、目を丸くして陸の顔を見上げた。

 

 

「理由、わかるか?」

 

 

「…ううん。わからないよ…」

 

 

何か陸を怒らせるようなことをしただろうか。

昨日の夜、思いつきたくないことは散々思いついたのに、本当に思いつきたいことは全く思いついてくれない。

 

何をしたのだろう。自分は、何をしてしまったのだろう。

 

 

「小咲さ、朝ごはん食べてないだろ。後、五限目に倒れたってことは昼も抜いたか?」

 

 

「(びくんちょ!)」

 

 

ザ・図星。

小咲はこれでもかとばかりに体を大きく震わせる。

 

 

「ったく…。別にダイエットを止めようとは思わないぞ?小咲にだって…まぁ、言いたかないけど事情はあるんだし。でもさ、倒れるまで自分の体いじめるなんて何考えてんだよ」

 

 

「…」

 

 

普通、女子がしているダイエットが男子にばれた場合、相当恥ずかしい思いをするのだろう。

 

だが今の小咲は、恥ずかしい所かむしろ悲しさすら感じている。

自分が蒔いた種が、まさか陸にまで心配を及ぼすことになるとは。

 

 

「大体ダイエットする必要あんのかよ…。むしろちゃんと食べてんのか心配になる暗い細いぞ」

 

 

「え?」

 

 

顔を俯かせて沈んでいた小咲だったが、今の陸の言葉を耳にしてすぐに顔を上げる。

 

 

「あ、あの陸君。今、何て…」

 

 

「は?」

 

 

目を丸くして問いかける小咲に、訝しげな表情を浮かべて目を向ける陸。

 

 

「何てって…。ちゃんと食べてんのか心配になるくらい小咲は細いって…」

 

 

「っ」

 

 

「ちゃんと食わねーからぶっ倒れんだぞ?次からは注意しろよ、ったく…」

 

 

陸がため息を吐きながら何か呟いているが、今の小咲には聞こえていなかった。

 

何しろ陸は、自分の事を細いと言ったのだ。

昨日、体重が増えたはずの自分を。その自分を、細いと。

 

 

「それともなんだ?食事が喉を通らないくらい深刻な悩みでも抱えてんのか?…もしそうなら、相談に乗るぞ?」

 

 

先程とは打って変わって、心配そうな顔を浮かべて問いかけてくる陸。

 

 

「…ううん、大丈夫。もう、解決したから」

 

 

「え?」

 

 

何だ、悩む必要なかったじゃないか。

一番、そう思ってほしくなかった人は、全く違うことを思っていた。

 

 

「…ちなみに、悩んでたことって何だったんだ?」

 

 

「ふふ…。秘密です」

 

 

何処か拍子抜けした表情をした陸が、問いかけてくる。

 

小咲はそんな陸の目をまっすぐ見つめ返してから、人差し指を唇に当て、にっこり笑って首を傾げながらそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の小咲の仕草、物凄く書きたかった。
それだけで、私は満足した。

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