一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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ほとんど原作通りです。ぶっちゃけ、前回よりも読まなくていい回かもしれません。








第62話 ココロニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽が記憶を取り戻したその翌日…、というより、千棘から楽が記憶を取り戻したと連絡が来た時にはすでに日を跨いでいたから同じ日になってしまうんか。

ともかく、その日は千棘の誕生日だった。

 

別に千棘の家に泊まっていた方が良かった気がするが、家に帰ってきていた楽と一緒に、千棘の家へと向かうために皆と待ち合わせした駅前へといく。

 

 

「「「「「え…!?記憶が戻った!?」」」」」

 

 

まず、陸と一緒に来た楽を見て小咲たちが驚き、そして楽が記憶を取り戻したと伝えて再び、さらに大きく驚愕を見せる小咲たち。

 

 

「おう。正直、あんまり覚えてねえんだけど…、何か迷惑かけちまってたみたいで悪かったな」

 

 

楽が家に帰って来た時、陸は眠っていたため次の朝になってしまったのだが、記憶を失っている間の事を楽は覚えていないと聞いた。

 

 

「いえそんな!楽様が記憶を取り戻してくださって…、本当に良かったですわ!」

 

 

感極まった万里花が、楽へ抱き付く。

急な万里花の抱き付きに、楽は動くことができずにされるがまま。

 

 

「橘万里花、貴様!一条楽から離れろ!」

 

 

そして、万里花の行動に憤慨した鶫が二人を引き離そうとする。

 

うん、この光景もどこか懐かしく感じる。

 

 

「はぁ、はぁ…。と、ともかく、本当によかったぞ。これならお嬢の誕生日パーティに参加できるな」

 

 

貴様が記憶を失っていてはパーディどころではなかったと、本当に安堵した様子で言う鶫。

 

鶫がしていたのは、パーティの心配なのだろうか…。それとも、楽の事を心配していたのだろうか…。

 

 

「…なぁ、記憶喪失になってた間の俺ってどんな感じだったんだ?」

 

 

鶫の言葉に、少しショックを受けた様子でいた楽だったが、不意にそんな事を聞きだした。

 

確かに、気になるのも仕方ないだろう。何せ、楽は記憶喪失状態の自分を全く覚えていなかったのだから。

 

 

(寝てた時、急に『楽坊ちゃんが帰って来たぞぉおおおおおおお!!!』て叫び声が聞こえてきた時は飛び起きたもんな…。次の日も、楽の奴皆に囲まれてたけど、何か変な顔してたし)

 

 

楽が複雑な気分を抱いていたのは間違いない。

 

 

「…え?何?どうしたんだよ、え?」

 

 

さて、そんな楽の問いの答えだが…。楽に返ってきたのは、沈黙と赤面しながら目を背ける万里花と鶫の態度だった。

 

さらに、ケラケラと笑う集に苦笑する小咲。るりは無表情のままだが…、唇の端がひくついて見えるのは気のせいだろうか?

 

ともかく、楽にとっては思わぬ回答だったようで、不安を隠せないでいた。

 

 

「お~い、お姉ちゃ~ん」

 

 

楽が再び、今度は万里花と鶫に問いかけようと口を開きかけた時、少し離れた所から誰かを呼ぶ、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。

 

皆が振り向けば、そこにはこちらに手を振る少女、春。

その傍らには、どこかワクワクしているように見える風ちゃんと、仏頂面を浮かべているポーラの姿が。

 

そう、今年の千棘の誕生日パーティには春、風ちゃん、ポーラの一年生組も参加することになっているのだ。

 

 

「春ちゃん!ポーラ!あと、風ちゃん、だよな?お前らもパーティ参加するのか?」

 

 

「はい!一応招待してもらいました!」

 

 

「私は、ビーハイブの一員だしね。参加しなきゃまずいだろうって思って…」

 

 

どうやら春と風ちゃんは招待されたようだ。

ポーラは…、素直じゃない。多分、春と風ちゃんに誘われたのだろう。

渋々ついてきた感を醸し出そうとしているが、楽しそうにそわそわしているのを陸は見逃さない。

 

ここでそれを指摘するという空気が読めない行動はしないが、内心、微笑ましく思いながらポーラを見遣っていた。

 

 

「一条先輩、記憶喪失になってたんですよね?そのままお姉ちゃんに事を忘れちゃえばよかったのに」

 

 

「…あの、春ちゃん?記憶喪失になったのは<楽>の方なんだけど…」

 

 

「あ、そうでしたっけ?すいませぇん、間違えちゃいましたぁ」

 

 

「…」

 

 

悪意ある笑みを浮かべながら、春が陸に言う。

陸は春の発言の間違いを指摘するが、それも予見していたようで、春は掌で口を抑えながらホホホと笑っている。

 

小咲が春にこらっ、と注意を入れているがあまり効果はなさそうだ。

 

 

「言っとくけど、千棘んち見てもビビんじゃねーぞ?あいつんちのパーティは規模がちげーから」

 

 

「ご心配なく。お姉ちゃんにすごく大きな家だって教えられてますから」

 

 

時間が近づいてきているため、陸たちが移動を始める。

そして直後、楽が春に千棘の家に関して注意を促すが、春はその言葉に冷たく返す。

 

陸への態度は少し温かみが含まれているが、楽への態度は未だ冷たいままだ。

 

後々、楽と春ちゃんの関係も何とかしなきゃな。

いやでもその前に、自分と春ちゃんの関係も良いとは言えないのか…。

 

など、楽と春のやり取りを見て、陸が考え始める中、一同は切符を買い、電車に乗り、陸も楽と春について考えていたことをすっかり忘れた頃、千棘の家に到着するのだが・・。

 

 

「…………でかーーーーーー!!!」

 

 

春の叫び声が、辺りに響き渡る。

 

小咲から千棘の家について教えられたとは言っていたが…、ここまでの規模とは予想していなかったのだろうか。

口を大きく開けて、プルプル体を震わせながら千棘の家というか城を見上げている。

 

取りあえず、放っておけば立ち直るだろうと判断し、鶫が家の中の者に門を開けさせて陸たちは中に入っていく。

 

 

「キャ~~~~!桐崎先輩すっごくキレ~~~~!!」

 

 

「あ、ありがとう…」

 

 

千棘と合流するまでにそう時間はかからなかった。

 

ただ、少し気になったのは鶫の様子。

どこかそわそわして、表情がにやにやしていた。

 

 

(もしかして、ドッキリしようとしてたのか)

 

 

陸は内心で、そう予想を立てる。

だが残念なことに、千棘は全く驚いていない。多分、あっさり見破られている。

 

 

「「「「「ハッピーバースデー、お嬢―!!」」」」」

 

 

パーティ会場に入れば、直後に大量のクラッカーを鳴らすビーハイブ組員の男たち。

この人たちも、鶫と同じようにドッキリを仕掛けているという気持ちでいるのが手に取るようにわかる。

 

うん、千棘は全く驚いていない。完全に見破られている。

 

 

「お、お姉ちゃん…。き、桐崎先輩って何者…」

 

 

「え?えっと…、お嬢様?」

 

 

パーティの規模に驚いていた春が、小咲に問いかけている。

だが春よ、その質問相手の選択は完全に間違えているぞ。

 

 

「ちっ、小僧…。性懲りもなくまたのこのこと現れたな!」

 

 

「げっ」

 

 

やはり、こいつもいたか。

 

クロードよ。

 

クロードは楽の姿を見つけると、体全体から怒気を纏わせながら話しかけていた。

 

 

「少しは肝が据わったようだが、その程度で私に認められたとは思わないことだ…。今日こそは雪辱を果たしてやる!果たして、私のプレゼントを超えることは出来るかな…?」

 

 

雪辱…。どこで受けたのか。

楽はまったく見覚えないといった感じだし、千棘すらも呆れた様子でクロードを見ている。

 

その事に気付かず、クロードは今年もずいぶん大きな…

 

 

(てかでかっ!?何だよあれ!?何が包まれてるんだ!?)

 

 

白い巨大なカーテンが、巨大な物体を包んでいる。

全長、百メートルには至らないだろうがそれでもそれに匹敵する程度の大きさを持っている物体。

 

 

(…自家用ジェット機とか言わねえだろーな)

 

 

「ご覧くださいお嬢!今年は私、大枚はたいて、お嬢専用の自家用じぇっt(ry)」

 

 

何か…、もう、この先の展開はわかるだろう。言わなくとも。

 

クロードは今、会場の隅で膝を抱えていじけている。

 

しかし、まさか本当に予想通りの物だとは思わなかった。

さすがにそれは自嘲するだろうと思っていたのだが…、クロードには常識というものはないのだろうか。

 

 

「さ、次は坊主の番だぜ?」

 

 

「今年はどんなプレゼント持ってきたんだよ」

 

 

クロードに続いて、組員たち、そして陸たちもプレゼントを渡してついに最後に楽の番となった。

去年と同じように、組員たちからプレッシャーを受けている楽。

 

 

(何か…、不安そうな顔してるなぁ…)

 

 

袋からプレゼントを取り出そうとする楽を見て、千棘が物凄く不安そうな顔をしている。

というのも、去年の楽からのプレゼントはゴリラのぬいぐるみだから…、気持ちはよくわかる。

 

 

「どうせ大したもの用意してないんでしょ?」

 

 

「…」

 

 

春は相変わらずだ。ぼそりと呟いているが、その呟きはしっかり楽の耳に届いていて。

ずっとプレッシャーを受け続けていた楽が、先程よりも楽そうな顔になっているのは何故なのだろう。

 

 

(いやけど、今年はマシな方だよな)

 

 

「まぁ、今年も直感で選んだんだけどよ…。ほら」

 

 

今年は、楽は陸と一緒にプレゼントを選んだ。

とはいっても、陸は楽の選択に何も口出ししなかったのだが…、楽が選んだものを見て、良さそうだと思ったのは事実である。

 

 

「花…束…?」

 

 

そう、楽が千棘のプレゼントに選んだのは花束。花の種類はスイートピーだ。

 

 

「おう、なんだなんだ?坊主、今年はずいぶんまともなもん贈って来たな~!」

 

 

「やりゃできんじゃねーか!」

 

 

組員たちも、どこかホッとした様子で楽を讃えている。

 

 

「…これって」

 

 

「いや、俺もらしくねーとは思ったんだけどよ…。何か、絶対それを渡さなきゃいけねーって気がして…。俺にもよくわからねえけど…」

 

 

陸たちには知る由もない事だが、楽が渡した花、スイートピーは昨日、小咲の家で行われた作戦会議の後の帰り道で、千棘と一緒に入った花屋で見たものだった。

 

昨日という事は、楽はまだ記憶喪失の状態で。つまり、今の楽はその時の事を覚えていないはず。

 

だがもしかしたら、楽は頭ではなく、心で覚えていたのかもしれない。

というのは、何年も後に陸と楽が話した内容である。

 

 

「そっか…。ありがとう、楽。嬉しい…!」

 

 

「…おう」

 

 

本当に嬉しそうに破顔する千棘に、照れくさそうに頭を掻く楽。

そんな二人の様子を陸たちは、会場にいるある一部の者以外すべては、微笑ましく見守るのだった。

 

 

 

 

 

おまけ

「くそっ!何故お嬢は、私のプレゼントには喜んでくれなかったのに…、あんな小僧が贈った物にはあそこまで喜んでいらっしゃっているのだ…!」

 

 

「…」

 

 

楽が千棘にプレゼントを渡した直後、

二人が見つめ合っているのを見ていたクロードは、ハンカチを噛み締め、引き千切らん程の勢いで悔しがっていた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次!次からようやく陸&小咲が描ける!!(歓喜)

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