一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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見たら、ルーキーランキングが14位になっていました。
感謝感激です!


第6話 ベンキョウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほどねー。そう言う理由で恋人の振りをすることになったのか~」

 

 

勉強会の途中で、集と千棘を連れて外へと出て行った楽は、集に千棘との本当の関係を話していた。

楽の説明を聞いた集は、カラカラと笑いながら頷く。

 

 

「そんな大変なことになってるとはね~…」

 

 

「…んだよ、お前、気づいてたのか?」

 

 

「え!?気づいてたの!?」

 

 

これでも、集とは幼稚園の頃からの付き合いである。大抵、集の考えていることはわかる。

 

楽は、集が自分たちの関係に前から気づいていたのではと見抜いた。

今まで黙っていた千棘が、目を見開いて集の顔を見る。

 

 

「なはは!まあ、ぶっちゃけると~…。『るぅぁあくぅ!』の時から気づいてた」

 

 

「はぁ!?それ、最初の最初じゃない!」

 

 

「お前!分かってた上であんな辱めを…!」

 

 

自分たちの関係に集が気づいていることを見抜いた楽だが、いつからそれに気づいていたのかはわからない。

 

それについて集が教えてくれたのだが…、初めから気づいていたのだったら少しくらいフォローしてくれたって良かったじゃないか。

 

 

「だっはは!あんな面白いこと、乗らない方が損じゃないか!!」

 

 

集が爆笑しながら語る。

 

つまり、楽と千棘が必死に演技している所をこいつは内心笑いながら見ていたという事。

沸々と楽と千棘の中で怒りが燃え上がる。

 

 

「あ、あんたねぇ~…」

 

 

「まあまあ落ち着いて桐崎さん。あそこで俺が下手なこと言って誰かに気づかれちまったらもっと困るだろ?」

 

 

千棘が拳を振りかぶるが、集は笑みを潜めて低いトーンで二人に言う。

 

集の言う通りあの場で誰かに気づかれたら大変なことになっていた。

楽と千棘は言葉を詰まらせる。

 

 

(…ま、さっきも言ったけど面白かったし。それが一番の理由なんだけどね~)

 

 

そんな集の内心に、楽も千棘も気づくことはない。

 

 

「…で?何であんたは私まで連れてきたのよ。舞子君に私たちのことを話すために来たんなら、わざわざ私まで引っ張ってくることないじゃない」

 

 

集が自分たちの関係に気づいていたのなら、もう別に演技する必要もない。

千棘は仏頂面で自分を連れてきた理由を楽に聞く。

 

 

「っとそうだ。お前にも言いたいことがあるんだ」

 

 

「あっ、俺も桐崎さんに物申したいことがありまーす!まあ多分楽と同じ内容なんだけど」

 

 

「…?何よ?」

 

 

千棘が疑問符を浮かべながら首を傾げる。

そんな千棘に楽は詰め寄りながら口を開く。

 

 

「お前!何であの時、陸と小野寺の間に入り込んだんだよ!」

 

 

「…は?」

 

 

楽の言葉に訝しげな表情になる千棘。楽が何を言っているのかわからない。

 

 

「桐崎さん桐崎さん。まさか、気づいてない?」

 

 

「え?何が?」

 

 

集の言葉に首を傾げる千棘。

楽と集は目を見合わせてからもう一度千棘を見て、ため息を吐いた。

 

 

「な、何よ!?あの時、小野寺さんに勉強教えたら駄目だったって言うの!?」

 

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

 

 

千棘が憤慨して楽と集に言い返す。

 

楽が困った風に頭を掻きながら言葉を探すが、どう言えばいいのかわからない。

 

そんな楽を見た集が、ふぅ、と息を吐いてから口を開く。

 

 

「楽、もう率直に言った方が良いよ。桐崎さん、あのね…」

 

 

「?」

 

 

集が首を傾げる千棘の耳元でそっと囁く。

 

 

「小野寺、陸の事好きなんだ」

 

 

「…え?」

 

 

集の囁きに固まる千棘。

しばらくの間そのまま固まり続ける千棘だったが、不意に大きく口を広げる。

 

 

「えええええええええええええええええええぇ!!!?」

 

 

その時、千棘は何故自分が勉強を教えた時、楽たちが微妙な空気を出していたのかを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…遅かったな。何話してたんだよ三人で?」

 

 

楽たちが戻って来た時には、彼らが部屋を出てからもう十五分は経っていた。

その間、陸たちにも動きがあり、陸が中心になって両脇に小咲とるりが陣取っていた。

 

るりと陸が問題をどう解くか語り合い、小咲に教えるというローテで勉強会は進んでいた。

 

陸が楽たちが戻ってきたことに気づいて声をかける。

 

 

「ん…、まあ色々とな」

 

 

話しかけた陸に返事を返しながら元の位置に腰を下ろす楽。

それに続いて千棘と集も自分の教科書とプリントが置かれている位置に腰を下ろして、ペンを走らせ始める。

 

 

「色々って何なんだよ?」

 

 

「いいから。さ、勉強続けようぜ?」

 

 

…何か誤魔化されている気がする。

 

疑いを持って楽をじと目で睨む陸だが、楽は全く相手にしてこない。

 

もうこれ以上、何を言っても無駄だと悟ってプリントの問題に集中する。

 

 

「…私も、自分の宿題進めたいし戻るわね」

 

 

「ん?あぁ、わかった」

 

 

「る、るりちゃん!?」

 

 

陸がプリントの問題に集中し始めた時、隣にいたるりがそう言って自分の場所に戻ろうとする。

そんなるりに縋る様に袖をつかむ小咲だが、るりに何かを言われている。

 

 

「小咲、私がいたらあなたの恋は何にも進まないわ。後は自分で頑張りなさい」

 

 

「そ、そんなぁ~…」

 

 

当然、この会話は陸には聞こえていない。

るりに言われ、小咲は顔の熱を必死に抑えながら陸の隣へと戻る。

 

 

「小野寺?宮本に教えてもらわないのか?」

 

 

「え!?う、うん!…ダメ、かな?」

 

 

「…いや、ダメじゃないけど」(その聞き方は狡くね…?)

 

 

小咲がるりの所へ行かず、自分の所に戻ってくる事が気になった陸が小咲に問いかけるが、逆に小咲は上目づかいでダメ?と聞き返してくる。

 

さすがの陸もこんな問われ方をしたら白旗を上げるしかない。

隣をポンポンと叩いて、来るように小咲を誘う。

 

 

「…小野寺さん、本当にあんたの弟のこと好きなようね」

 

 

「あ?何だよ、疑ってたのか?」

 

 

「別にそういう訳じゃないけど…、改めて実感したというか…」

 

 

先程の陸と小咲のやり取りを見た千棘が、楽の耳元で話しかける。

楽も千棘に返事を返す。ちなみに、このやり取りも陸には、そして小咲にも聞こえていない。

 

るりと集も、陸と小咲のやり取りを微笑ましげに見守る。

その中で、二人の視線が合うが一瞬でるりが逸らす。集があんぐりと口を開いたままになるが、すぐにプリントに集中し出す。

 

それから、部屋の中にはペンを走らせる音と、陸が小咲に説明する声と小咲の相槌をうつ声しか聞こえなくなる。

 

 

(…ん?)

 

 

そんな中、陸は小咲に問題の解き方を教えながら何かの視線を感じ、襖の方に目を向ける。

 

するとそこには、ふすまのわずかな隙間から中の様子を窺う竜たちの姿が。

 

 

(…何やってんだよあいつら)

 

 

そして、一方部屋の中の様子を窺っていた竜たちというと…。

 

 

「…楽坊ちゃん、あんまり嬢ちゃんと仲が進展しとらんようじゃのぅ」

 

 

「ようやく家に連れてきたと思ったら、お友達も一緒ですし…。というか楽坊ちゃんのお部屋ですし…」

 

 

こそこそと言葉を交わす竜たち。

彼らは、楽と千棘の関係を見守るためにここに来たようだ。

 

だが、楽と千棘は隣同士に座ってはいるものの、ここまで目立った会話もせずひたすら問題を解き続けている。

 

それよりも…。

 

 

「何か、陸坊ちゃんとあの黒髪の嬢ちゃんの関係が気になりますのぅ…」

 

 

陸と、陸の顔を見て頬を染める小咲の関係の方が気になってくる。

 

だが、恋人である楽と千棘の関係が拗れることはいけない。

楽のためにも、自分たちが一肌脱がなければ…。

 

 

「坊ちゃん、ここはあっしらにお任せくだせぇ…!」

 

 

竜たちが、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺たちは行ってくるよ」

 

 

「ああ、そのまま戻ってこなくてもいいぞ?」

 

 

部屋を出ようとする楽と千棘。楽が一声告げてから行こうとし、陸が悪戯っぽい笑み浮かべてからかう。

 

楽は、陸に中指を立てながら馬鹿野郎、と言い残してから部屋を出て行く。

 

楽と千棘が向かった場所は家の裏にある蔵である。

先程、部屋に入って来た竜が二人に蔵にあるお茶を取ってきてほしいと二人に頼んだのだ。

 

 

(ま、多分竜たちの策略だろうけどな)

 

 

自分の書く計算式を小咲に見せながら内心でつぶやく陸。

 

勉強会のためにこの部屋に入ってから、楽と千棘は会話をしていない。

仲が進展していないことを心配して二人を、弟である自分と友人の彼らと引き離したのだろう。

 

引き離して何をするかは知らないが、まあ彼らならばやり過ぎることはないだろうとここも傍観の立場を取る陸。

 

 

「で、このxは3になるわけ。後はこの3をここのxに代入して…」

 

 

「あっ…、うんうん!」

 

 

「じゃ、自分のプリントにやってみて?」

 

 

小咲が聞いてきた問題の解説を終えると、陸は小咲に同じ問題を解かせる。

 

解説を聞いてわかったと思っていても、実際に解かなければ何にもならない。

解説は陸のプリントでやったため、小咲のプリントは白紙のままである。

 

小咲は陸の解説を思い返しながら、問題を解いてペンを走らせる。

陸は、小咲のプリントをちらっ、と確認しながら自分のプリントの問題を解き進める。

 

 

「…っ、よし」

 

 

最後に、シャープペンでこん、とプリントを叩いて体を伸ばす。

 

 

「あ…、一条君、終わったの?」

 

 

「ん、あぁ。小野寺ももう少しで終わるから頑張れよ」

 

 

小咲は力強く頷くと、再びプリントにペンを走らせる。

 

陸は、たまに小咲がペンの動きを止めるとヒントを出していく。

小咲が順調にペンを走らせている間は、英語の単語帳を眺める。

 

 

「…できたっ」

 

 

その調子で、小咲も問題を解き進めていき、ついに宿題の問題を全て解答を終える。

 

陸は、小咲のプリントを覗き込んで答えを確かめていき…、間違っていないことを確認する。

 

 

「うん、お疲れ小野寺」

 

 

「ありがとう、一条君。もし一条君が教えてくれなかったら明日までかかってたよ…」

 

 

解き終えた小咲を労う陸に、わからない所を教えてくれた陸にお礼を言う小咲。

 

そんな二人を、テーブルで頬杖をつきながら眺める集とるり。

 

 

「…私も教えてあげたんだけどね」

 

 

「まあまあ」

 

 

何処か不貞腐れたようにつぶやくるりを諌める集。

 

そんな光景を覗かせる陸の部屋には、傾いた夕陽が差し込んでくる。

 

 

「…そういえば、楽と桐崎さんが遅ぇな」

 

 

「あぁ、そういや裏の蔵に行ったんだっけ」

 

 

初めに気づいたのは集。続いて陸も二人がまだ戻っていないことに気づき、どこへ行ったのかを思い出す。

 

二人は竜に言われて裏の蔵に行ったはずだ。

だが、それにしては戻ってくるのが遅すぎる。

 

 

(竜…。まさか、やり過ぎたとかねえだろうな…)

 

 

たとえば、蔵に二人を閉じ込めたとか…。

そんなことを思い浮かべながら陸は立ち上がる。

 

 

「俺、二人を探してくるよ。皆はどうする?そろそろ時間も時間だし」

 

 

「あ、私も一緒に探すよ!」

 

 

「…私は帰るかな」

 

 

「なら、俺も帰りまーす!」

 

 

陸が、小咲たちはどうするかを問いかける。

 

小咲は陸と一緒に二人を探すと言い、るりと集は帰るという。

 

るりが、「ならって何よ」と言いながら集の顔面に容赦なくチョップを連発しているがまるで集に通じない。

 

 

「そっか。ありがとう小野寺。て言っても、場所はわかってるから別にいいんだけど…」

 

 

「でも、もしそこにいなかったら困るし…、やっぱり私も探すよ」

 

 

そう言ってくれる小咲に感謝の言葉を言ってから、陸と小咲は部屋を出る。

続いて集とるりも部屋を出てくる。陸は二人に玄関の方向を教えて、蔵の方向へと歩き出す。

 

ベランダへ出ると、陸と小咲はサンダルを履いて外に出る。

蔵に着いたのはそのすぐ後だった。すでに先客がおり、蔵の扉を開けて何やら騒いでいる。

 

 

(あいつって…、確か、クロードって…)

 

 

「あ!一条君、こんな所にいたんだ。良かったー…、心配し…」

 

 

蔵の中を覗いた陸と小咲は身を固まらせた。

 

蔵の中で、千棘が楽を押し倒した体勢で固まっていたからだ。

 

小咲はみるみる顔を赤くしていき、陸は目をへの字へと形を変え、唇を三日月形に歪ませる。

 

 

「へぇ~、遅いと思ったらそんなことしてt…「お邪魔しましたぁあああああああああ!!!」え?小野寺?何で俺も引っ張ってくの!?ていうか小野寺!荷物!荷物部屋に忘れてるぅううううううううう!!!」

 

 

楽と千棘をからかおうとする陸だったが、その前に小咲がその細い体のどこにあるんだと不思議に思えるほどものすごい力で陸を引っ張りながら走り去っていく。

 

陸が必死に小咲に彼女の荷物がまだ部屋に置いてあることを伝えようとするが、混乱する小咲の耳に届かない。

 

ようやく、陸の言葉が届いたのは小咲が500mほど走った所だった。

 

息を切らせ、しばらくその場で動けなかった小咲は、ここまで陸の手を掴んでいたことに気づいて再び頬を染める。

 

だが、もう一度陸が小咲に荷物のことを説明すると我に返り、再び一条家へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

これで、高校に入って初めて行われた勉強会はこれで終わりである。

 

ここから、定期テストの度に一条家で勉強会が行われるようになるのだが、まだ彼らは知らないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今日も三連投を目指します!

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