一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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ふと気付けば、総合評価が千越え…。
今までそれなりに多く小説を書いてきましたが、初の快挙ですやったぁあああああああ!!

これからも頑張って書いていきます。なので、どうか私の拙作を見てやってください。







第57話 カイモノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…買い物?」

 

 

『そう、買い物。私が行くことになってたんだけど』

 

 

本日は日曜日。授業はなく、休みの日である。

そのため、午前中いっぱい惰眠を貪るつもりだったのだが…、陸は携帯の着信音で目を覚ますことになった。

 

陸に電話を入れてきたのは、るりだった。

何でも、今日に小咲と共に買い物に行く約束をしていたらしいのだが。

 

 

「宮本は行けねえのかよ?」

 

 

『わるいわね。ちょっとこっちでよていはいっちゃってー』

 

 

「棒読みだぞ。ツッコんだ方が良いよな、おい」

 

 

るりに予定が入ったらしく、小咲と買い物に行くことができなくなったらしい。

…本当かどうか怪しいものだが。

 

 

「…本当に行けないんだな?」

 

 

『えぇ。ほんとうにいけないの』

 

 

また棒読みなんだが…。いや、気にしないでおこう。

 

陸は内心で結論付けて、本当にるりに用事があるのだと思い込むことにする。

 

 

「ていうか、何でそこで俺に電話するんだよ。他の女子の友達に電話すればいいじゃん」

 

 

『そうね。小咲と約束した場所は…』

 

 

「聞けや」

 

 

るりの中で、陸が小咲と買い物に出ることは決定事項らしい。

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

暑い。この一言に尽きる。

もうすぐ六月なのだから当然なのだが、まだ夏とは言い難い時期。

 

それに、梅雨の時期も近づいてきているという事で湿気が鬱陶しく感じる。

 

 

(…まだ夏じゃないんだから、もう少し涼しくなれや)

 

 

服装は夏に着るような薄地の物を着用しているというのに。

今年はかなり猛暑が目立つ夏になるのではないか、そんな予感を感じながら陸は凡矢理駅前の広場、そこに植えてある一番大きな木の近くで立っていた。

 

そう、ここがるりが小咲と約束していた待ち合わせ場所である。

何でも凡矢理市内にあるデパートではなく、少し離れた所にあるさらに大きなショッピングモールに行くつもりだとるりが言っていた。

 

 

(…ホントにいいのか俺で?宮本はその方が小咲は喜ぶって言ってたけど…、やっぱ普通に女子の友達と行った方が楽しいと思うけど)

 

 

少し立つのが面倒くさくなってきたため、先程までカップルが座っていたベンチに腰を下ろす。

座る前に、軽くベンチの足に蹴りを入れるのを忘れずに。

 

 

「…やっぱ十五分前は早すぎたんじゃねえか。何が十五分前行動は当たり前だよ宮本の奴」

 

 

何か今日はるりに振り回されっぱなしの日である。

るりに十五分前に行けと言われたため、その通りにしたのだが小咲は未だ来ない。

 

明日、学校で会ったら何て言ってやろうかとぼんやり空を見上げながら考える陸。

 

 

「え…、陸君?」

 

 

そこで、誰かが陸を呼ぶ声が聞こえてきた。

いや、誰かというか…陸はすぐにその声の主が誰なのかわかったのだが。

 

 

「小咲…、春ちゃんも?」

 

 

「私がいちゃ悪いですか。というより、どうして一条先輩がここにいるんですか!?」

 

 

ぐてぇ、と背もたれに預けていた姿勢を戻して声が聞こえてきた方へと顔を向けると、そこには戸惑いの表情を浮かべた小咲とこちらを睨んでくる春の姿があった。

 

 

「え…、あれ?宮本から連絡いってないのか?」

 

 

「る、るりちゃん?何も来てないけど…」

 

 

(宮本ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!)

 

 

心の中で絶叫する陸。

何とるりは用事があるから行けない小咲との買い物を自分に行かせた上に、その事を小咲に知らせていなかったのだ。

 

いや、小咲と買い物に行くこと自体は嫌なことじゃないしむしろうれ…ごほん。

 

ともかく、明日るりに言う文句の材料が一つ増えた。必ず問い詰めてやるという決意をさらに強くする陸。

 

 

「…ということなんだ」

 

 

「そ、そっか…。用事があって来れないんだ…」

 

 

…やっぱり嫌そうな顔してる。

 

俯く小咲を見て思う陸。

やはり他の女子の友達と一緒に行った方が良いのではないか。

というより、春もいることだし自分は帰った方が良いのではないか。

 

 

「あのさ、俺、小咲が一人になると思ったから来ただけだからさ。春ちゃんもいることだし、帰るよ」

 

 

「え…」

 

 

あ、あれ?何か言う言葉ミスした?

 

何故か小咲の顔にショックがアリアリと浮かんでいる。

 

 

(いや、さっき小咲は嫌そうな顔したよな?で、俺が帰るって言ったらこんな悲しそうな…、え、マジでわからん)

 

 

「そうですね。お疲れさまでした一条先輩」

 

 

「え?あ、あの…折角来たんだし、陸君も行こうよ!」

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

さらにお誘いまで来た。

これは何かの気遣いだろうか?それとも本気で言っているのだろうか?

 

 

「お姉ちゃん、私たちは買い物に行くんだよ?服とか、女の子物のグッズとか…、一条先輩がついて来てもつまらないと思うよ?」

 

 

「う…、で、でも…」

 

 

こうして見ると、一見陸の事を気遣っているように感じられる春。

だが陸は見逃さない、一瞬、こちらを見遣った時の春のにやりとした笑みを。

 

こうやって陸のために言っている感を装って、小咲を納得させようという算段なのだ。

 

別に、何としても行きたいという訳でもないしいいのだが…。

 

 

(…ん?)

 

 

ここで陸が春に違和感を感じる。

違和感といってもごく小さなもので、もしかしたらただの気のせいと言う可能性もあるのだが。

 

 

「…なぁ、やっぱりついていっても良いかな?」

 

 

「え?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

陸の言葉に、小咲は嬉しそうな、春は信じられないという気持ちを込めて声を漏らす。

 

 

「いや、今日二人が行くのって隣町のショッピングモールだろ?前からあそこ行ってみたいって思ってたから丁度いいなって」

 

 

「うん…、うん!行こうよ陸君!」

 

 

「…」

 

 

小咲が破顔して、こくこくと何度も頷く。

そして春は、ジトッとした目でこちらを睨んできている。

 

怪しまれてる…のだが、陸がついていこうとしてるのは寧ろ春のせいでもあることを本人は知らないのである。

 

やはり春が小咲に反論するのだが、小咲が何とか説得して春は納得…したのだろうか。

『もう勝手にしてください』と言ったからついて行かせてもらうが、どうもいつもの春とは様子が違う気がする。

いつもの春なら、姉と二人で行く買い物に自分もついていくことなど許すとは思えないのだが…。

 

 

「何してるんですか!置いていきますよ!」

 

 

「あ…、悪い!」

 

 

…やっぱり、いつも通りなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

電車に揺られることおよそ十五分。最寄りの駅で降りてさらに歩くこと十分。

目的地であるショッピングモールに到着した三人。

 

小野寺姉妹が規模の大きい土地を前に目を輝かせている中、陸はそれを眺めながらちらりと春を見遣る。

移動している間、度々春の様子を見ているのだが特に目立った異変はない。

 

勿論、陸に様子を見られているということを春は気づいていない。

そこら辺はしっかり陸は弁えている。

 

 

(…ちらちら年下女子高生を見るか。俺って傍から見たら変態なんじゃ…)

 

 

ふと、もしかしたら自分って危ない奴なのではないかと自分に疑いを掛けようとする陸。

 

 

「陸く~ん!行くよ~!」

 

 

「あ、あぁ!」

 

 

気付けば小野寺姉妹はすでにモール内に入ろうとしており、駅の時と同じように置いてかれようとしていた陸は、慌てて二人を追いかけるのだった。

 

 

「春、これ似合うんじゃない?」

 

 

「んー…、可愛いけど私にはちょっと派手すぎると思う。あ、お姉ちゃんこれとかいいと思うよ!」

 

 

「…」

 

 

ショッピングモールに入って、姉妹が真っ先に向かったのはファッション店。

女性用の衣服が並ぶ場所で、すでに陸は三十分もの間二人を待ち続けていた。

 

 

(女子の買い物が長いとは知っていたが…、これ程とは…!しかも、まだ終わる気配がないだと…!?)

 

 

内心で戦慄する陸。何しろ、小咲と春の二人には疲労の色が見えな…

 

 

(あれ?春ちゃん、疲れてきたのかな?)

 

 

春の顔色が少し悪いように見える。

だが、春の顔には心の底から楽しんでいる、そんな微笑みが浮かんでいる。

 

 

「先輩、暇じゃないんですか?」

 

 

「え?」

 

 

いつの間にか考え込んでいた陸は、傍に来ていた春に気づかなかった。

春は陸の前に立ち、顔を見上げながら問いかけてくる。

 

 

「暇…だな、うん。暇だ」

 

 

「…なら何で来たんですか。こうなる事くらいわかりますよね」

 

 

君の様子がおかしいって感じて、心配だったから。

 

とは言えない。言える訳がない。

そんなことを言えば、待っているのは凍えるほどの冷たい春の睨みである。

 

 

「そ、そういえば小咲はどうした?…まさか喧嘩したんじゃないだろうな!?」

 

 

「そんなはずないじゃないですか。お姉ちゃんなら、試着室ですよ」

 

 

話を誤魔化し、問いかけた陸へ答えを返した春は、目を何処かへと見遣る。

その視線を追って行くと、確かに春の言う通り試着室があった。

カーテンが閉まっているという事は、そこに今、試着をしている小咲がいるのだろう。

 

 

「そうか…。なら良かった」

 

 

「…」

 

 

二人が喧嘩したのではなくて良かったと、安堵の息を漏らす陸。

そんな陸を、じっと見上げてくる春。

 

 

「…どうした?」

 

 

「いえ。…先輩って、おかしな人だなと思いまして」

 

 

「はい?」

 

 

何を言われるのかと警戒していた陸だったのだが、まさかおかしな人呼ばわりされるとは思っていなかった。

 

 

「何を言っている。俺は世界のスタンダードと巷で言われている男だぞ」

 

 

「嘘つかないでください。大体、誰があなたをそんな風に呼ぶんですか」

 

 

「俺」

 

 

ため息を吐く春。

 

失礼な、本当の事だぞ。

 

言葉には出さないものの、心の中で小さく憤慨する陸。

 

 

「…そういう所がおかしいんです」

 

 

「いや、何で?」

 

 

「だってそうでしょう?私、あなたにずっと敵意を送って来たんですよ?なのに何でそんな風に私と普通に話せるんですか」

 

 

普通の人ならば、陸の様に誰かに敵意を送り続けられれば間違いなくその敵意を送って来た者から距離を取ろうとするだろう。

だが、陸はそうしなかった。

 

だから、春は陸をおかしな人だと表したのだ。

 

 

「いやだって、春ちゃんの反応は普通だろ?」

 

 

「…は?」

 

 

「むしろヤクザんとこにいる俺と平然と接することができる小咲たちの方がおかしいんだよ。春ちゃんは普通」

 

 

「…」

 

 

春がぽかんと口を半開きにさせて唖然としている。

 

…何故?

 

 

「それに大切な姉にヤクザんとこにいる人が近づいてたら普通に敵意送るだろ。ていうか俺だったらする」

 

 

腕を組み、ゆっくりと頷きながら言う陸。

 

 

(うん、やっぱり俺は世界のスタンダードだな)

 

 

心の中のセリフは、無視しておく。

 

 

「…ぷっ、ふふ」

 

 

「な、何?」

 

 

すると、突然春が小さく笑い始めた。

何か笑われることをしただろうか?陸は表情に戸惑いを浮かべながら問いかける。

 

 

「だって…、一条先輩って…やっぱり変です…ふふ」

 

 

「…」

 

 

そういえば、春が笑っている所を初めて見た気がする。

いや、先程も春が笑っているのは見てきたが、こうして自分と二人でいる時に笑っているのは見たことがなかった。

 

しかし、ここでそれを言えば馴染み始めてきたあの仏頂面が戻ってきてしまうので言わないことにする。

 

 

「だから、俺は世界のスタンダードなの。通常なの」

 

 

「っはは!だから、そういう所がおかしいって言ってるんですー!」

 

 

だから何故だ。

陸の疑問がさらに深まっていく。

 

それでも…、またさらに春と距離が近づいたのは嬉しく感じる。

やっぱり、〇〇〇の妹に嫌われるというのは、少し心に来るものがあったから。

 

 

「…あっ」

 

 

「?」

 

 

春が声を上げ、さらに目を見開くのを見て疑問符を浮かべる陸。

春の視線が自分の背後に向けられていることに気付き、陸は振り返って春の視線を追いかける。

 

 

「…あ」

 

 

それを見て、一瞬だった。一瞬で、陸の動きは止められた。

 

 

「うぅ…、そんなに見ないでよ…」

 

 

そこには、白いワンピースを着て、さらに麦わら帽子をかぶった少女。

うん、小咲の事だ。小咲がいた。

 

どう表現すればいいのか陸には分からなかった。

ただただ今の小咲の姿に見惚れてしまい、似合っているという事しか頭の中で考えることしかできなかったのだ。

 

 

「は、春ぅ~!やっぱり恥ずかしいよぉ~!」

 

 

「大丈夫だってお姉ちゃん!すっごく似合ってるよ!」

 

 

「うぅ~…」

 

 

それに、服装だけじゃない。

今、小咲は顔を赤くして悶えているのだ。悶えているのだ!

 

服装の清楚な感じから、恥ずかしがる小咲の可愛さというギャップを受けてさらに魅力が倍増している。

これを見て耐えられる男子がいるだろうか。いや、いるはずがない。

 

 

「り、陸君…。どうかな…?や、やっぱり変…かな…」

 

 

「っ!」

 

 

先程記した通りに加え、さらに上目遣い。

小咲は陸を殺しに来ているのだろうか…、そうとしか思えなくなってくる。

 

だが、陸の意識ははっきりしていた。いや…、先程の小咲の言葉が陸の意識を取り戻させたと言った方が正しい。

 

変、だと?そんなはずはない!

 

 

「似合ってる…」

 

 

「え?」

 

 

何でそこで聞き返すのか。また、同じことを言わなければならないじゃないか。

 

陸の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

 

 

「だから、似合ってる!今まで見たことないくらい、小咲がきれいに見えるって言ってるんだ!」

 

 

「っ!!!!?」

 

 

(…あれ?俺、今なんて言った?)

 

 

はっ、と我に返る陸。

そして、思い返す。自分が今言った言葉を。一文一句、違えることなく。

 

 

「…っ!!!!?」

 

 

目の前にいる小咲と同じように、噴火のごとく顔を真っ赤にさせる。

 

周りでは、何やらひそひそと声が聞こえてくる。

ちらりと見遣れば、微笑ましそうにこちらを見てくる他の客たちが。

 

 

「…一条先輩、やっぱりあなたは敵です」

 

 

春がぼそりと呟いたが、陸は気づかない。

 

いつもならば容易く聞き取れるほどの距離だったのだが、その容易くができないほど今の陸は混乱しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話、もう少しだけ続くんじゃ

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