一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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ふと気が付いたのですが、お気に入り数がめっちゃ上がってる…。
評価もつけてくれた人が増えてた…。すごく嬉しいです。

低評価は少しショックではありますが、評価を付けてやろうと思ってくれるだけでもありがたいです。




>訂正
投稿ミスをしてしまいました。
投稿してすぐに読んでくださった皆様、申し訳ありませんでした。








第49話 マラソン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、皆さん明日は何の日かわかりますか?ピンポーン、マラソン大会の日で~す」

 

 

誰もその問題に答えてないというのに、勝手に正解音を口で出すキョーコ先生。

そして彼女の言う通り、明日はマラソン大会の日なのだ。

 

 

「え~~~~!?」

 

 

「面倒くせぇ…」

 

 

「やりたくなーい」

 

 

マラソン大会は、男女の部で分かれ、全学年の生徒が競い合う競技だ。

男子は二十キロ、女子は十五キロを走る。

 

 

「え~~~~、じゃないよ。前々から言ってたでしょ?ちゃんと頑張りなさいよー」

 

 

不満を漏らす生徒たちを見て苦笑を浮かべながら言い聞かせるキョーコ先生。

 

 

「あーあ…、遂にこの日が来ちゃったねー…」

 

 

「雨で中止になってくんねえかな~…」

 

 

「え、そう?私はちょっと楽しみにしてるんだけど」

 

 

「ま、人それぞれだろ?俺は面倒に思ってるけど…」

 

 

マラソン大会についてを話し合う声が教室内で響く中、陸たちがそれぞれのマラソン大会への気持ちを口にした。

 

四人の中で千棘だけが楽しみにしているのだが、この会話で分かる様にマラソン大会を楽しみにしている者はクラスの中で少数である。

 

 

「ちょっと!少しはやる気を出しなさい、特に男子!」

 

 

「え~?マジだるいわ~」

 

 

「何か賞品ねえの~?」

 

 

さらに、やる気のないものが多い中、特に多いのは男子生徒たちだった。

その上、やる気のない態度を隠さないのが質悪い。

 

 

「ったく、あんた達は…」

 

 

遂にはご褒美まで求める男子たちに、キョーコ先生はため息を吐いて呆れてしまう。

だがその時、ふとキョーコ先生の中にある案が浮かんだ。

 

 

「よしっ、それじゃあこうしよう!」

 

 

キョーコ先生の言葉に、クラス中が視線を向ける。

 

 

「男子の部で優勝できた奴には賞品として、好きな女の子とキスできるキス券をやろう」

 

 

にへらっ、と微笑みながら言うキョーコ先生。

そして直後…

 

 

「「「「「おっしゃぁああああああああああああああああ!!!」」」」」

 

 

一瞬にして先程の態度から打って変わり、やる気に満ち溢れた表情で雄たけびを上げる男子たち。

その光景を見ていた千棘が、慌てて立ち上がる。

 

 

「ちょっと先生!?それはさすがにあんまりじゃないんですか!?」

 

 

「まぁまぁ、ちょっとほっぺにチュッ、くらいでいいからさ♡」

 

 

悪びれなく言うキョーコ先生だが、それは教師としてどうなのだろうか…。というより、人としてどうなのだろうか。

 

 

「お、おい!お前、一位になったら誰を指名する!?」

 

 

ほとんどの男子が喜びと驚愕に表情を染める中、一部の男子たちが一位になった時のことを想定して誰を指名するか聞き合っていた。

 

 

「俺か!?お、俺は…、やっぱり桐崎さんを!」

 

 

「…」ぴくっ

 

 

「おい、お前は!?」

 

 

「俺はもちろん小野寺だ!」

 

 

「…」ぴくっ

 

 

千棘の名が聞こえた時は楽が、小咲の名が聞こえてきた時は陸が無言で小さく体を震わせる。

 

 

(ち、千棘を指名!?い、いや、俺には関係ねえ。知ったこっちゃねえ!)

 

 

(…?何で俺は今、イラッとしたんだ?…何で?)

 

 

楽は勢いよく席から立ち上がり、隣の千棘から怪訝な視線を受けながら頭を振るい、陸は机の上で頬杖をついて頭から疑問符を浮かべる。

 

こうして、様々な感情が渦巻く中、楽と陸は気が付かなかった。

 

楽には多くの男子生徒の怨嗟の視線が、陸には同じく男子生徒のどこか複雑そうな視線が向けられていたことに。

 

 

 

 

 

そして翌日、朝の九時。女子生徒たちがスタートラインに並ぶ。

 

沢山の女子生徒たちが並ぶ中、スタートに備えて小咲はストレッチを行っていた。

 

 

「…はぁ。でも、どうしてこんなことになったんだろ」

 

 

「何よ急に。どうしたの?」

 

 

「るりちゃん…。昨日の話だよ、…はぁ」

 

 

小咲のため息に反応したのは、隣で立っていたるりだった。

問いかけに答えた小咲の言葉に、るりも「あぁ」と合点がいく。

 

 

「ま、あんたは引く手数多だろうしね。ちょっと覚悟しといた方が良いんじゃない?」

 

 

「え!?そ、そんなことないよ!るりちゃんだって、もしかしたら指名されるかもしれないよ?」

 

 

「あぁ~、ないない」

 

 

実際、小咲を指名したいと考えている男子はかなりいるだろう。

小咲には自覚がない様だが、昨日のホームルームでキョーコ先生からあの発表があった時、小咲の名を口にしていた男子をるりは何人か見かけていた。

 

小咲は、無表情で首を横に振るるりを苦笑い気味で見る。

 

 

(で、でも…。本当にるりちゃんの言う通りなら、誰が言ってたんだろ…。…もしかして、陸君…?)

 

 

「あんた、今一条弟君のこと考えてたでしょ」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

内心で、もしかしたら陸が自分を指名したいと口にしたのではないかと考えた瞬間、その内心をるりが言い当てる。

 

 

「一条弟君が私を指名したがってるかも…、とか考えたでしょ」

 

 

「そそそ、そんなことないもん!」

 

 

「…一条弟君、あなたを指名したいって言ってたわよ?」

 

 

「………嘘だよね?」

 

 

「そうだけど、少し信じたわね」

 

 

「るりちゃんのバカぁ!」

 

 

必死に誤魔化そうとする小咲だが、るりが逃すはずもなく。

結局小咲が押し切られた形で勝負を投げ出してしまった。

 

それから少し経ってから、女子の部がスタートするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『まもなく男子の部がスタートしまーす。男子はスタート地点に集合してくださーい』

 

 

女子の部でスタートした生徒たち全員がゴールしてから十分後、放送が流れ男子たちが指定された地点へと移動する。

 

当然、陸も例外ではない。陸もスタート地点に移動し、真ん中よりも前の場所で足を止めてストレッチを始めた。…怪我だけはしたくないし。

 

 

(しっかし…、クラスの奴は皆張り切ってやがんな…。一番前の列とか全員同じクラスじゃねえかよ…)

 

 

あんなご褒美を目の前で垂らされればこうなるのはまあわかるのだが…。

周りの男子が引くほどに張り切っているのはどうかと思う。

 

 

(…そういや、マラソンで優勝すれば誰かとキス、だっけ?)

 

 

先程の女子のレースがあまりに白熱したため頭から抜けていたのだが、優勝したものは好きな女の子とキスをする権利を得るのだ。(陸のクラス限定で)

 

 

(…そういや、誰か小咲を指名したいって言ってたっけ?)

 

 

そこでさらに、キョーコ先生の発表の直後に誰かが言ったセリフを思い出す。

 

 

『俺はもちろん小野寺だ!』

 

 

(…優勝しよう。皆だって、隙でもない人とキスするのは嫌なはずだ。俺が優勝して、こさ…誰か適当に指名して誤魔化せば平和に解決するはずだ)

 

 

取りあえず、他のクラスの人が優勝すればそれで終わりなのだが、何故だろう。

陸上部や他のスポーツ部活で体力をつけている人はたくさんいるはずなのに、クラスの男子の気迫を見ると、間違いなくクラスの誰かが優勝するだろうと確信してしまう。

…根拠はないのだが。

 

そして陸は、指名する人を誰にするか考えてすぐに小咲の顔を思い浮かべたことをなかったことにした。

 

 

『それでは男子の部、スタートしまーす』

 

 

「っ」

 

 

次の瞬間、スタート地点に立った教師が拡声器を使って男子生徒に伝える。

ざわめいていた男子生徒たちは一斉におとなしくなり、スタートに備えて姿勢を低くする。

 

グラウンドにいる全ての者が口を開かず、ピストルを宙に掲げた教師の合図を待つ。

 

 

「よ~い……、どん!!」

 

 

合図が放たれた瞬間、一斉に走り出す男子たち。

 

…一人を除いて。

 

 

「お、おめえら!騙したなぁああああああああああああ!!!」

 

 

「わーはははは!一条!お前にだけはキス券は渡さーん!!!」

 

 

スタートで出遅れた楽が、前方で走る集団を必死に追いかけ、楽の前で走る同じクラスの生徒たちは勝ち誇った笑みを浮かべて楽と距離を保ち続ける。

 

だが、彼らは気が付いていなかった。

 

 

「ムヒョヒョヒョ、楽には悪いが俺はこっち側に就かせてもらうよん」

 

 

先頭を走る集すらも、気が付かなかった。

 

いや、先頭を走っていると思っていた集、といい直した方が良いか。

 

集よりもさらに前方、気配を消し、誰にも気づかれず走る少年がいたことに。

 

 

「え…、陸君!?」

 

 

「あれ、小咲?休憩所の係だったんだな」

 

 

スタートしてからおよそ四十五分ほど、十五キロ地点。最後の休憩所にたどり着いた陸はそこで小咲の姿を見た。

陸は小咲から水の入ったコップを受け取り、立ち止まってゆっくり水を口に含んでいく。

 

 

「あれ、一条君!?は、速くない!?このペースだと、校内新記録だよ!?」

 

 

そしてもう一人、休憩所のテントの中にいた女子生徒が陸の姿を見て驚愕する。

この女子生徒の言う通り、校内新記録を出すような勢いで陸は走行距離を消化していた。

 

 

「一条君、あまりこういうイベントで頑張るタイプじゃないと思ってたんだけど…」

 

 

「ん?んん…、まぁ、あんな事にならなかったら、適当に流してたと思うけど」

 

 

水を飲みほしたコップを机に置いて、女子生徒に返事を返す陸。

途端、陸に話しかけた女子生徒は目を丸くして口を開いた。

 

 

「え!?一条君、誰か好きな人いるの!?」

 

 

「っ!?」

 

 

「え?」

 

 

「だって、ご褒美目当てで頑張ってるのよね?だったら…」

 

 

「あ、いや、それは違う。違うんだ」

 

 

確かに、あの返事を聞けば総勘違いされるのも仕方ないだろう。

陸はそう考え直して、訂正を入れる。

 

 

「むしろ逆だよ。あんなの…ダメだろ。ほら、小咲だって好きでもない人にキスするのは嫌だろ?」

 

 

「え?え…、うん…」

 

 

「…」

 

 

「優勝して、適当に誤魔化して平和に解決しようかと思ってさ。…っと、そろそろ行かなきゃな」

 

 

陸は二人に軽く手を振って再び走り出す。

凡矢理高校に陸上でそれなりの結果を残している人がいるため、油断しているとあっという間に抜かされてしまう危険がある。

 

…あれ?別に他のクラスの人なら優勝を譲ってもいいんじゃ?

 

ふとそんな考えが頭を過るが、その希望はある凶悪参謀によって打ち砕かれていることは陸に知る由はなかったのである。

 

 

 

 

 

 

「一条君、凄いねぇ。寺ちゃんのために頑張ってるんだねぇ?」

 

 

「え?そんな事ないと思うけど…。ほら、陸君はご褒美を誤魔化したいって言ってたし」

 

 

「…はぁ、寺ちゃんは鈍いねぇ」

 

 

「?」

 

 

小咲も、陸自身も気が付かないようだったがあの時陸は確かに言った。

 

 

『小咲だって好きでもない人にキスするのは嫌だろ?』

 

 

この時、陸が言った名前は小咲だけ。陸はきっと根本で小咲を助けたいと思っているのだ。

だから、あの時に例ですぐに小咲の名を出したのだ。自分が傍にいたにも拘らず。

 

 

「まあ、あのペースだったら大丈夫でしょ。ご褒美についてで怖がる必要はないみたいだね」

 

 

ともかく、このままなら好きでもない人とキスをする心配はなさそうだ。

自分も、クラスの皆も。…もちろん、小咲も。

 

 

 

 

 

 

 

結果はもちろん、陸の優勝だった。

陸がゴールしてから十五分ほど経った頃、楽と集が並んで必死にラストスパートをかけていたのだが、その様子を陸は必死に笑いをこらえながら見ていたことは言うまでもない。

そして先にゴールをしていた陸を見て、唖然とする二人を見て噴き出したのも言うまでもない。

 

そして優勝した陸に、キョーコ先生がキス券と書かれた紙が渡された。

 

 

「まさか本当に用意してるとは…」

 

 

「当たり前だろ?賞品なんだから」

 

 

もしかしたらただの冗談なのかもしれないという陸の願望を一瞬で打ち砕くキョーコ先生は、誇らしげに胸を張っている。

 

 

「で?あんたは一体誰を指名するの?」

 

 

「もちろん、小咲を指名するのよね?」

 

 

「ち、千棘?宮本…って」

 

 

いつの間にか自分の傍らに寄ってきていた千棘とるり。

さらに陸に駆け寄ってくるクラスの女子達が、きゃあきゃあ色めき立ちながら陸に問いかける。

 

 

「一条君、誰を指名するの!?」

 

 

「わ、私でもいいんでげすよ?」

 

 

「やっぱり寺ちゃんなのかな!?」

 

 

「わ、私でもいいんでげすよ?」

 

 

何か二人ほどおかしなのがいた気がするが、陸は気にしないことにする。

 

ともかく、確かに体裁を整えるためにも誰でもいいから指名しなければ。

 

 

(…やっぱり、小咲かね?)

 

 

いつだったか、誰かに小咲と付き合っているのかと聞かれるほどまわりからは親しく見られている様だし、それが一番自然だろう。

 

陸が小咲を指名しようと口を開いた…その時。

 

 

「あー、こらこら。あんた達、ちょっと勘違いしてるんじゃない?誰がクラスの女の子から選んでいいって言った?」

 

 

「「「「「…へ?」」」」」

 

 

キョーコ先生がついてくるように言い、従って陸たちがキョーコ先生の後をついていく。

 

 

「…さ、好きな女の子を選ぶといい」

 

 

(何だよこのオチ)

 

 

陸の目の前にいるのは、笑顔で手を向けるキョーコ先生。

そしてキョーコ先生が向ける手の先には、飼育小屋から出された、メスの動物たちが。

キョーコ先生はお洒落をさせたとでも思っているのだろうか?頭にはリボンを着けている。

 

 

「えー!?何だよそれ―!」

 

 

「やる気出して損したぜ、先生のバカヤロー!」

 

 

「あ~ら、私は最初からそのつもりだったけど?あんた達が勝手に勘違いしただけでしょー」

 

 

一生懸命走った男子生徒たちがキョーコ先生に抗議するが、キョーコ先生が何食わぬ顔で抗議を物ともしない。

 

 

「…はぁ。ま、誰も被害に遭わずに一件落着ってことかな?」

 

 

何か釈然としないが、何はともあれ解決したということでいいのだろう。陸は地面に座り込み、天を仰いで息を吐いた。

 

 

「…!?」

 

 

「お疲れさま」

 

 

不意に、頬に冷たい感触が奔り陸はびくりと体を震わせた。

振り返ると、そこにはこちらを覗き込みながらピカリスエットの缶を握った小咲が立っていた。

 

 

「これ、飲む?」

 

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

小咲から缶を受け取り、蓋を開けてピカリを口に含む。

 

 

「おーい陸―!三位までの人の表彰式をやるってよー!」

 

 

「ん…んく…。あぁ、わかった!今行く!小咲、これ持っててくれ」

 

 

表彰式のことをすっかり忘れていた、

楽に呼ばれた陸は急いで駆け寄り、楽と並んで表彰式を行う場所へと向かう。

 

 

「…」

 

 

表彰式の会場へと向かう陸の後姿を、陸から受け取った缶を握りしめながら見つめる小咲。

 

 

『小咲だって好きでもない人にキスするのは嫌だろ?』

 

 

あの後、少し考えてみたのだがこの言葉は自分を心配してい言った言葉なのではないだろうか?いや、そうであってほしい。

 

 

「陸君…。ありがとう」

 

 

結局、最後に下らないオチがついてしまったが、マラソンの話はこれでおしまい。

 

小咲は、陸から受け取った缶の飲み口に口をつけ、少しだけ中のジュースを口に含んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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