けどこの話は飽くまで次回への布石ですので…、しょうがないね!
波乱のクリスマスパーティが終わった。
学校も冬休みに入り、寒さに震えながらも一日中家の中で好きなことができるという幸を陸は堪能していた。
昼前まで寝て、ご飯を食べてすぐゲーム。
たまにパソコンを開いて調べ物をしてまたゲーム。
誰かに呼ばれて、戻ればすぐゲーム。
完全にオタクの生活である。
というより、陸はオタクなのだ。
アニメ、漫画、ラノベにゲーム。
ゲームに関してはオンラインで廃人達と張り合えるほどやり込んでいる。
「…お前、ホントゲーム好きだよな。ちょっとは外に出たらどうだ?」
今日も冬休みに入ってからずっと続けてきたゲーム三昧の生活。
しかし少し違うのは、今、陸の部屋に楽がいることである。
他人がプレーしているゲームの画面を見て何が面白いのかはわからないが、陸が嵌っているオンラインゲームのプレー画面をじっと眺めていた楽がふと口を開いたのだ。
「別にいいだろ。やるべきことはやってるし、成績は楽より上だ」
「このっ…」
声をかけてきた楽に目も向けずに返事を返した陸。
陸の言う通り、これだけのぐうたら生活をしているにも関わらずコツコツ勉強し続ける楽より成績が上なのは事実。
「それにゲームや漫画を買ってる金だって俺が稼いだ金だ。文句を言われる筋合いはねえぞ」
陸の部屋にある大量のゲーム機や漫画等はまさに言葉の通り陸の金で買ったものだ。
オンラインの利用料金も、パソコンの使用料金も全て陸が払っている。
親とそういう条件を定めて買ったものなのだから。
「いいじゃねえか。どうせここまで好き放題できるのはあと少しだけなんだから」
「…」
あと少し。
この言葉が、楽の胸にのしかかる。
陸はいつもゲームをしている時、あと少しと言う。
楽にはその意味が分からなかった。なのに何故か、胸にモヤモヤと嫌な予感が奔るのだ。
この時の楽は知る由もない事だが、これがどういう意味なのかを知るのはそう遠くない未来である。
「陸―、部屋にいるかー?」
「親父?」
すると、部屋の外から陸楽の父、一征の陸を呼ぶ声が聞こえてくる。
楽が扉の方に驚きの目を向けている中、陸はゲーム画面に集中を向けて。
「いるぞー。入れよ」
と短く言う。
その陸の言葉が発せられるか否や、障子が開いて一征が部屋に入ってくる。
「おぉ、楽もいたのか。っと、陸。ちょっと頼まれごとしてくんねえか?」
「…何?」
一征は楽の姿を見つけて笑みを向けると、すぐに陸に視線を移して口を開いた。
陸は少しの間コントローラの操作に集中して、画面がロード画面に移ってから一征に返事をする。
「頼まれ事って?」
「いやぁ、ちぃと和菓子が食いたくなってきてよ…。買ってきてくれねえか?」
「…自分で買いに行けよ。ていうか家にねえのか?」
「ねえな」
和菓子が食べたいという一征を陸は突き放す。
だが、そんな陸に一征はしつこく食い下がった。
「いいじゃねえか陸。お前、冬休みに入ってからずっと家でゲームゲームだ。たまには陽の光を浴びねえと、体がもたねえぞ?」
「生憎、外にはちゃんと出てるよ。だから今外に出る必要はない」
「お、おい陸。お使いくらい行っていいじゃねえか。ていうか、いつもは行ってるだろ?何で今回だけそんな頑なに断るんだよ」
一征の頼みをひたすら断る陸に疑問を持った楽が問いかけた。
ロードが終わり、アバターキャラがホームタウンに戻ったことを確認した陸は楽の方に目を向ける。
「楽。変だと思わねえか?いつもお使いを頼むときは竜辺りに言わせてる親父が何で今回この部屋まで来たのか」
「え?あぁ、そういや…」
陸の言う通り、一征はいつもお使いを頼むとき、他の人に頼んで陸たちにその要件を伝えている。
なのに何故か、今回はわざわざ陸の部屋まで頼みに来ている。
楽も疑問に思い、一征の方を見て首を傾げた。
「簡単だ。親父は俺をお使いに出させて、その間にゲーム機占領してプレーする気なんだよ」
「はぁ!?」
何とも下らない理由である。
「別にいいじゃねえかよ。おめえはいつでもやれんだ。たまには親に譲ってくれたってよ」
「今日という日が駄目なんだよ。今日の夕方から週一限定クエが始まるんだよ。どうせ一回貸したら明日になるまで譲ってくれねえんだろ?」
「んなのまた来週まで待てばいいだろ」
「オンラインゲーマーとしてんなことできるわけねえだろうが」
「…」
何でだ。何故なんだ。
陸と一征の言い争いはとても下らないものだ。そのはずなんだ。
なのに…
(何でこんなに体が震える!?怖えよ!)
楽の体全体がぶるぶる震える。
額から汗がとめどなく溢れてくる。
そして何よりも、二人の間に流れる空気が怖い。
「なあ親父。いつまでもガキと思って俺を甘く見てんじゃねえぞ」
「ほぉ。言う様になったじゃねえか…。なら、試してみるか?」
瞬間、二人の間に流れる空気がさらに冷え込む。
楽は表情を強張らせ、一歩二歩後ずさってしまう。
できることならば、楽は今すぐにでもこの部屋から走り去りたかった。
だが、体が固まってしまい、思うように動かすことができない。
まるで金縛りにあったかのように。
「…わかったよ。行ってくりゃいいんだろ」
直後、部屋の中に流れる緊迫した空気が一気に霧散した。
その事により、楽の体から力が抜け、床に座り込んでしまう。
「おっと。すまねえな楽。陸が思ったより濃い殺気出してくるからついこっちも本気出しちまった」
座り込み、大きく乱れた息を吐く楽の肩に手を置きながら一征が言葉をかける。
「何やってんだよ。さっさと部屋から出りゃいいものの」
「で、できなかったんだよ!体も動かねえし!」
楽が、片膝を立て、力を込めて立ち上がろうとしながら陸に抗議する。
しかし立ち上がることができず、陸に抗議してから疑問符を浮かべる。
「あー、無理すんじゃねえ。俺たち二人の殺気を一遍に受けたんだ。後五分くらいは立てねえだろうな」
「なっ」
苦笑を浮かべながら放たれた一征の言葉に、楽は目を見開いて驚愕する。
(お、俺の家族は化け物か…)
陸の訓練している姿を見て、その強さを知っているつもりだったのだが…、改めて楽は家族の人外っぷりを確認することになった。
「じゃあ行ってくるからな。何買ってくればいい?」
「おう、どら焼き頼むわ」
「もう始めてるし…。はぁ…。じゃあな」
データを記録し、電源が切られたハードに新たなソフトを入れ電源を入れている一征の姿を見てため息を吐いてから陸は自室を出て行くのだった。
「で、家出たはいいけど…、どこで買おうか」
身支度を済ませ、家を出て歩きながらどの和菓子店でどら焼きを買おうかを考える陸。
傍に中々おいしいお店があるから、そこに行くかと決め…かけた。
「…おのでら行くか。ちょっと遠いけど」
足を止め、ぽつりと呟いた。
おのでらとは、勿論、小咲の家族…小野寺家が経営している和菓子屋だ。
少し距離は遠いが、腕は相当。傍の和菓子屋にはちょっと悪いがそのお店よりも腕が良い。
「うん、そうしよう」
おのでらならば親父もかなり喜ぶだろう。
そう考えた陸は、横切ろうとした交差点の前で足を右に向ける。
その方向とは、和菓子屋おのでらがある方向だ。
「あれ、陸君?どうしたの?」
「どうしたのって…、和菓子買いに来たに決まってんじゃん…」
店に入ると、レジの傍に小咲が立っていた。
陸の姿を見とめると、小咲は目を丸くして驚いていた。
何をしに来たのか聞いてきた小咲に、苦笑を浮かべながら答える陸。
バイトを頼まれたわけでもない。ならば買い物をしに来たに決まっているのだから。
「どら焼き五つ頼むわ」
「あ…、はい。かしこまりました」
陸が希望の品物を頼むと、小咲はにこりと笑顔を浮かべてから屈んで棚からどら焼きを取り出そうとする。
「あら?一条の坊やじゃない!なに?小咲に会いに来たのかしら?」
「買い物ですよ、奈々子さん…」
小咲がどら焼きを取り出し、袋に仕舞う作業を行っていると奥から小咲の母、奈々子が現れた。
にまにまと悪戯っぽい笑みを浮かべながら問いかけてくる奈々子にため息混じりで違うと陸は答える。
奈々子は笑みを収め、今度は不満そうな表情を浮かべてつまんないの、と口にする。
「はい陸君、お頼みになったお品です」
「お、サンキュー」
袋に入れられたどら焼きを小咲から受け取った陸は、来ていたコートのポケットから財布を取り出す。
小咲から料金を聞き、会計を済ませようとする。
するとその光景を見ていた奈々子が、口を開いた。
「そうだ小咲。もう手伝いは良いから、坊やの家に遊びに行ってきなさい」
「え!?」
「何を…」
ぱっ、と口から出た言葉に小咲は戸惑い、陸は呆れる。
「正月前で忙しいから客は少ないだろうし、私一人で大丈夫だから。…これを機会に、坊やの唇でも奪ってきなさい」
「お母さん!!!」
後半に何を言ったのかは良く聞こえなかったが、顔を真っ赤に染めている小咲を見るに碌なことを言わなかったのだろう。
「で、どうする小咲。来るなら来ても良いぞ?何もない家で退屈するだろうけど」
「え!?え、えっと…」
来たくないならそれでも良いし、来たいのなら歓迎する。
陸は小咲の意思に任せることにする。
小咲は考える素振りを見せて…、その耳元で何やら奈々子が呟いている。
見る見るうちに小咲の頬が真っ赤に染まっていって…、ぶんぶんと手を振って奈々子を追い払う。
奈々子はにょほほと笑いながら小咲から少しずつ離れていく。
「じゃ、じゃあ…。お邪魔していいですか…?」
「ん。なら早く着替えて行くか」
か細い声で問いかけた小咲に答える陸。
陸の返答を聞いた小咲は、こくりと頷くと階段を昇って二階へと上がっていった。
着替え終わった小咲と陸は家に帰ってきていた。
小咲を玄関へと上げ、部屋へ案内する。
(そういや、親父部屋にいるんだったな。…変な誤解されなきゃ良いんだけど)
小咲を案内しながら、今部屋にいるだろう一征が小咲を見た時の反応を心配する陸。
一征の性格から、恐らくチャンスとばかりに陸をからかいにかかるだろう。
『何だ、彼女を連れ込んだのか?陸もやるようになったじゃねえか』
等々言って。
「はぁ…」
「?どうしたの、陸君」
「いや、何でもない」
ため息を吐く陸。
心配してきた小咲に大丈夫だと伝えてから、自室の障子の取っ手に手をかけて開ける。
「楽、親父はどうした?」
「一条君?」
「あれ?小野寺、どうしてここに?」
一征がいるだろうと思われた部屋にいたのは楽一人。
楽はコントローラーを握って振り返り、小咲の姿を見て目を丸くした。
「家に来たいって言うから連れてきたんだよ。で、親父はどうしたんだ?トイレか?」
「へぇ…。と、親父なら何か急な仕事が入ったとかで、急いで出てったぞ」
小咲が家に来た理由を聞いた楽が一瞬にやりと笑う。
すぐにその笑みを収めて陸に一征がどこへ行ったのかを答えた。
「…あんのクソ親父、人をパシリに使っときやがって」
怒りに震えながら呟く陸。
「あ、あぁ…。親父が買ってきたどら焼きは食っていいぞって」
「当たり前だ。これで食っちゃ駄目だって言ってたんなら一発殴ってやる」
いつ帰ってくるかわからない、それも他人にお使い行かせて勝手に出て行った人のためにお菓子をとっておきたくはない。
「まあ、とにかく入っていいぞ」
「う、うん…」
ここまで、一条兄弟の会話に置いてきぼりだった小咲を部屋の中に入れて、陸も続いて入り障子を閉める。
「ほら、座りな」
「ありがとう…」
陸は部屋の隅に置いてある座布団を取り、小咲の傍に置いて座るように促す。
小咲は陸にお礼を言ってから、静かに座布団の上に腰を下ろした。
「で、楽はドラ〇エやってんのか?」
「おう。と、宝箱だ」
楽の前のテレビ画面には、四人のキャラクターが縦に並び、プレイヤーの意の通りに動いている。
その進む先には宝箱があり、楽は開けようとしている。
「あ、楽。その宝箱は止めておいた方が…」
「げぇっ!?モンスター!」
陸の忠告も間に合わず、宝箱に扮したモンスターに襲われてしまった。
「あらら…」
「あっ!即死魔法…、はぁ!?全滅!!?」
陸が呆れ笑いを浮かべている中、画面の中ではゲームオーバーとなっていた。
パーティ全体に効果を示す即死魔法を喰らってしまった。
一度で四人全員が死ぬというのは可能性はかなり少ないはずなのだが、その少ない可能性を楽は引き当ててしまった。
楽は思わずごろん、と後ろに上体を倒して放心状態になる。
「っははは!すげえリアルラックだな楽!」
「ふっ…ぷぷ…」
陸と、あまり状況がわかっていないはずなのだが、それでもパーティが全滅し、それも楽がかなり運の悪いことに当たってしまったことはわかったのだろう。
陸と共に笑みを零す小咲。
「さて、見てのとおり俺の部屋には漫画やゲームしかない。小咲はゲームあまりやらないんだろ?」
「うん…」
陸の問いかけに小咲は頷いて答える。
「なら、人生ゲームでもやるか。楽は盤持って来いよ。三人じゃつまんねえだろうから、俺は他のメンバー連れてくる」
「わかった」
「小咲はここで待っててくれ。…不安ならついてくるか?」
「う、ううん!大丈夫だよ?」
やくざの家で一人になるのは不安かもしれないと思った陸が小咲に問いかけるが、小咲は首を振って答える。
「なら行くから。楽はすぐ戻ってくるだろうし、大丈夫だから」
「うん」
小咲に声をかけてから楽と共に部屋を出る陸。
それぞれ、別の方向に廊下を歩くのだった。
(…陸君の部屋。またここに来れた…)
陸と楽が去った部屋の中で小咲は周りを見回した。
春に来た時と、あまり変わっていない。
本棚の位置、テレビの位置、勉強机の位置。
変わった所は、前よりも本やゲームソフトの量が増えた所だろうか。
(…陸君の匂い)
ちょっと変態染みているのはご愛嬌である。
楽が持ってきた人生ゲームで、陸が連れてきた竜たちと共に遊んだ。
気付けば外はすっかり暗くなっていた。
「小咲、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「あ…、そうだね。もう六時過ぎちゃったし…」
「え?嬢ちゃん、家に泊まってくんじゃないんですかい?」
陸と小咲の会話を聞いていた男一人が聞いてくる。
「アホか。女の子をこんなむさ苦しい所に泊まらせるわけねえだろ」
「む、むさ苦しい…」
「ひ、ひでえッスよ…」
小咲が泊まる?そんなはずないだろう。
学生の身で、同級生の男女が同じ家で夜を越すなどできるはずがない。
いや、前に泊まったことあるけど…、あれは飽く迄アクシデントがあった上の事であって…。
というか小咲としてもこんな男だらけの所で泊まりたくないだろう。
「じゃあ、そろそろお暇するね」
「ああ。玄関まで案内するよ」
小咲がコートを着るのを待ってから、部屋を出て玄関まで案内する。
「つまんなかっただろ?男だらけに囲まれて、嫌だっただろ?」
「そ、そんなことないよ!皆すごく面白かったし…、楽しかったよ」
「そっか…。それなら、招いた身として嬉しいわ」
本心から言っているのか、それとも…。
小咲は嘘を吐けない性格だから、本心から言っているのだと思う。
ともかく、小咲が楽しんでいたことを知ってホッとする陸。
「あ…、もう暗いしな。送ってくよ。おーい、誰か俺のコート取ってきてくれ!」
「え?そ、そんな!大丈夫だよ!」
暗い夜道を女の子一人に歩かせるわけにはいかない。
小咲は抵抗するが陸はコートを組の男に持ってこさせる。
「冬だから不審者は少ないだろうけど、さすがに心配だからよ」
「でも…、寒いよ?」
「アホ。んなの小咲も同じだろうが」
陸の意志は固い。
男が持ってきたコートを受け取り、陸は腕を通して前のボタンを閉める。
「じゃあ行くか」
陸と小咲は靴を履こうとして…、その時。
横開きの扉がガラガラと開いた。
「あぁ~、参った参った…。まさかあんなことになるとはよぉ」
「すいやせん…。じゃあ、車戻しに行った奴を手伝いに行ってきやす」
「おう。無理すんなよ」
外から入ってきたのは二人の男。
そのうち一人は、一征だった。
「親父?」
「陸か?…んだよおい、彼女連れ込んだのか?ったく、お前もやるようになったなぁ」
どら焼きを届けようとして部屋に入る前、予想したのとまったく同じ反応をした一征にため息を吐く陸。
「何だ?今から帰る気か?」
「あぁ。この娘、送ってくから」
「ん~…、無理だと思うがな」
「は?」
小咲を送るという陸に、一征が無理だと言った意味が分からず陸も小咲も首を傾げる。
「今、すげえ雪降っててよ。ラジオで言ってたけどよ、何でも記録的積雪だとよ」
「「…へ?」」
呆けた声を出す陸と小咲。
その時、静まった玄関に一人の男の声が届いた。
「うわっ、すげえ雪だな。こりゃ今日はもう外に出れねえぞ」
その声は、やけに玄関で響き渡ったのだった。
ということで、陸が小咲の家にお泊りして今度は小咲の番です。
陸がお泊りした時は食事とか何かと騒がしい場面を描いていましたが…、次は少し静かな場面を描きたいですね。
まあ、陸の家という場なので何だかんだで騒がしい場面も描かなければいけないのでしょうが。