このタイトルの由来はあとがきにて…。
「楽~、飯まだ~」
朝、冷房は効いているはずなのだがどこか暑苦しく感じる食堂に陸は足を踏み入れた。
今日の朝食当番は楽のため、陸はのんびりとした朝を迎えていた。
「うるせぇ、急かすな!もう少しだから待ってろ!」
「…あー、俺だったら今から五分前にもう朝食出来上がってたのになぁ~。楽は遅いなぁ~」
「だああああああああああああ!!」
朝食を急かした後の楽の反応を面白がった陸がさらに追撃を入れると、調理場から楽の発狂している叫び声が聞こえてくる。
さすがにこれ以上楽をからかったりはしないが、どこかワルな顔をしながら陸はくっくっく、と笑みを零す。
「おらっ、お望みの朝食だ!これで文句ねえだろ!?」
「いや、文句じゃなくてただ楽の調理が遅いって言っただけなんだけどな~」
「あああああああああああああああ!!!」
何かどや顔でお盆に載せてあった料理を陸の目の前に置いてきた楽に向かってすまし顔で返す陸。
先程の言葉が反撃の一手だったのだろう。カウンターで反撃された楽は再び、今度は両手で頭を抱えながら発狂する。
陸はそんな楽を見て笑みを浮かべながら楽が置いたサラダに箸をつける。
『では、朝の占いにいってみましょー!』
「?」
口に入れたサラダを咀嚼していると、テレビから音声が聞こえてくる。
ふと目を向けると、画面にはいつも入っている、ものまんたの朝バシッ!ではなくお目覚めテレビが入っていた。
この朝の番組には毎日、番組の序盤と終盤に占いが組まれており血液型で分けて運勢を発表している。
『A型の方の今日の運勢は最高!気になるあの人と急接近するかも!?ラッキーカラーは燃えるような赤でーす!』
「ん」
A型は陸の血液型である。別に占いを信じているわけではないが、朝一番に今日はいい日になるでしょうと言われて悪い気はしない。
少しご機嫌になりながら陸はサラダを飲み込んでパンに手をつける。
「何だよ陸…。哀れな俺を見てご機嫌になりやがって…」
「…」
少し誤解した楽が憂鬱そうに表情を歪ませながら陸の正面の席に着いて朝食を食べ始める。
こうして、本日の双子は対称的な朝を迎えたのだった。
「じゃあ、俺は先に行くからな」
「おう」
楽が朝食を食べ終え、着替えるために自室へ向かおうとしたところで、玄関の扉の取っ手に手をかけた陸が家を出ようとする。
凡矢理生徒の中でも陸はかなり朝早くに学校に着く方で、こうしていると楽はいつもギリギリに出ているように感じられるがこれでも楽は毎日ホームルーム開始五分前には教室に着いている。
むしろ陸が早すぎるのだ。
まあ、登校時間の早い遅いの話は置いておく。
家を出た陸はいつもと同じ道を歩く。時折、車道を走る車とすれ違いながら足を進める陸は、少し先に見覚えのある後姿を見た。
「あれは…」
その後姿、女子用の制服を着ている少女。どこか重そうな足取りで歩く少女。
「小咲!」
「っ」
陸が前を歩く少女、小咲を呼ぶと彼女はびくんっ、と大きく体を震わせて足を止める。
足を止めた小咲に陸が駆け寄り、声をかける。
「珍しいな、こんな所で会うなんて」
「あ、うん。今日は早く起きちゃって…。じゃあ私はこれで…」
「え…?あ」
振り向いた小咲の顔は真っ青で、さらに小咲の顔色に戸惑っている内にさっさと先に歩いて行ってしまった。
そそくさと歩く小咲の後姿を陸は呆然と眺める。
「…なんか俺、避けられてる?」
そう口にするしかなかった。
学校に着いても、陸に対する小咲の態度は変わらなかった。
陸が話しかけても、最低限の返事をしてから不自然に話を切って去っていく。
いつもなら小咲の方から話しかけてくれるのに、明らかに不自然だ。
さて、小咲の態度も気になるが今、陸たちのクラスは科学の授業で実験を行っていた。
それぞれ四人グループに分かれて実験を行い、次の科学の授業までにレポートを書き上げ提出するという課題。
そして陸は楽、千棘、小咲の四人でグループに割り振られていたのだが…。
「…」
「な、なあ陸…、小野寺と喧嘩でもしたのか?」
「いや、そんなことはないんだけど…」
やはり他の人から見ても小咲は不自然に思えるようだ。
楽が小声で言ってくるが、喧嘩などしていないし、そもそも何で避けられているのか心当たりが全くない。
そして何故か、小咲は陸だけを避けている。
他の人はいつもの態度で接しているのに。今も千棘と並んでプリントの指示通りに薬品を入れている。
「何で…」
何か嫌われるようなことをしただろうか?そんなことは全くないと思うのだが。
もしかしたら、自分は大したことないと思っていても小咲にとっては傷つくことをしたのだろうか。そうだとしたら、謝らなければ。
(よし。この授業終わったら小咲に謝りにいこう。あ、でもその前に何で小咲を怒らせたのか考えないと…)
小咲に謝罪することを決意して、陸は一体自分が何をしたのか考えながら実験の結果をプリントに写していく。
「きゃぁっ!」
「っ!?」
陸が思考していると、突然近くの方から小さな爆発音とともに何かが割れる音と悲鳴が耳に届く。
驚き、目を見開いて声が聞こえてきた方へと目を向けると、そこにはテーブルの上に散らばったビーカーの破片、立ち上る煙、そしてその中心にいたのは小咲だった。
「こ、小咲!大丈夫か!?」
「り、陸君!ダメ!」
「っ、あっつ…!」
とりあえず、小咲の傍に散らばったビーカーの破片を払おうとする陸だが、破片に触れた途端、高熱に反射で手を引いてしまう。
触れた指がヒリヒリと痛む。どうやら火傷したようだ。
室内は思わぬ事故にざわめいている。
そんな中、火傷の手当てを受け始めた陸を心配そうに小咲が見つめていたことを陸は気づいていなかった。
「おい陸、大丈夫か?」
「大したことないって。ただの小さいやけどだから」
右手の薬指に巻かれた絆創膏。
先程の実験で負った火傷について楽が問いかけてくるが、火傷自体小さなものだった上に今はもう痛みは消えている。
「しっかし、先生が入れる薬品を間違えてその間違った薬品に気づかず実験を始めて…。先生のミスもそうだけど、お前たちもツイてなかったよな」
一クラス四十名。四人グループ、計十グループ。
つまり、間違った薬品を引き当てる確率は十分の一。
「そういえば、薬品を持ってきたのは小野寺だったよな」
「っ」
「?」
「ははっ、なら運がないのは小野寺だったってことか」
「っっっっっ」
「っ!?」
陸の傍で楽と集が話している。
さらにその近くでは小咲たち女子のグループが話しているのだが…、楽と集の話が続くごとに小咲の体が震え、そして震えが大きくなっている。
小咲の態度もそうだが、こういう細かい所でも異変がたくさん見つかる。
(俺、ここまで怒らせてたのか…?)
昼休み────────
陸は謝罪すべく、小咲の姿を探す。
陸は実験の後、考え続けていた。自分の何の行動が小咲を怒らせたのだろうと。
そして、思い出した。自分は昨日、小咲のお菓子を食べてしまったということを。
小咲には秘密に、こっそり小咲が持ってきていたグミを食べてしまった。
周りには小咲以外のいつもの面子がいて、グミを食べた後、その食べたグミが最後の一つだと気づいた陸はそそくさと帰ったのだが…。
陸が最後のグミを食べた小咲が怒り、そしてあの態度につながった。
正直、それだけで小咲が怒るだろうかという疑問があるのだが、心当たりはこれしかない。
「なあ宮本、小咲どこにいるか知らないか?」
「あら…、小咲ならさっきまで席にいたんだけど…。ごめんなさい、知らないわ」
「そうか…」
小咲の居場所を知っていそうなるりに問いかけるが、るりは知らないらしい。
るりが知らないなら他の人も知らないだろう。
陸は昼食もとらず、教室を出て小咲を探しに行く。
一階、二階、三階と廊下を歩いて小咲を探すがどこにもいない。
後は中庭か屋上だ。
「まず中庭から探すか…」
陸はまず中庭を探すことにしたが…、この選択は正解だった。
ちらっ、と中庭を覗くとそこには体育座りでどこか落ち込んでいるように見える小咲がいた。
「小咲」
「っ…、陸、君…?」
何で、何で泣きそうな顔をしているんだろう。
これは、怒っているというより悲しんでいるように見えるのだが。
(え…。怒りを通り越して悲しいってこと?え?)
そんなはずないだろう。
「ど、どうした小咲…。やっぱり、昨日のことを気にしてるのか?」
「…昨日?」
ともかく、自分の心当たりが原因なのかを確かめようとする陸。
陸の質問に、首を傾げる小咲。あれ?
「ほら…。昨日、小咲のグミ勝手に食べた…」
「…え?」
「あ、いや…。小咲が落ち込んでる理由、心当たりがこれしかなくて…。ほ、他に何かしたんだったら謝る!」
頭を下げて謝ることができた陸。だが、小咲は頭を下げる陸をぽかんと目を丸くして見つめていた。
まるで、何で謝るの?と言わんばかりに。
「え、えっと…。落ち込んでなんかいないし、陸君は私に何もしてないでしょ?昨日私のグミを食べたことも気にしてないし…」
「…」
小咲があたふたしながら陸に言う。
陸は顔を上げて小咲の目を見返す。
「マジ?」
「うん」
…本気で言っている様だ。つまり、今までの懸念は全て杞憂。
(…何か恥ずかしいな)
勝手に考えて勝手に思い込んで、そして勝手に行動して全てが空回りである。
軽い黒歴史になってしまった。
「そ、そうか…。なら良かったんだけど…、でも。落ち込んでないってのは嘘だろ」
「っ」
ともかく、自分が何か悪い事をしたわけではないことはわかった。それに関しては安心した。
だが、小咲が言った落ち込んでいないという言葉は間違いなく嘘だ。それだけはわかる。
もし落ち込んでいないというのが本当ならば、何で小咲の瞳が揺れているんだろう。
何で、小咲は泣きそうになっているんだろう。
「…言いたくないなら無理には聞かない。でも、助けが欲しい時は遠慮なく言えよ?」
「…うん。ありがとう」
ずっとどこか影が差していた小咲の表情に笑顔が灯る。
それを見た陸も笑みを浮かべて、ぐん、と体を伸ばした。
「いや、しかし良かった。今日の小咲の態度がおかしいから、昨日のことで怒ってるんだとばかり…」
「そんなことで怒らないよ…、もう」
小咲は、小さく頬を膨らませて、でもすぐに笑顔を浮かべて陸に言い返す。
言い返した小咲に笑みを返した後、陸は中庭の自販機に歩み寄って小銭を入れる。
コーラのボタンを押し、自販機から出てきた缶を手に取る。
「じゃあ、もう教室に戻ろうぜ。弁当食う前に昼休み終わったら堪ったもんじゃねえ」
「うん、そうだね」
陸が言って、小咲が頷いて返す。
そして喉が渇いてしまった陸はコーラの缶のタブを引く。
その、瞬間
「────────」
「きゃあああああああっ!り、陸君っ!」
缶の口からコーラが噴き出す。
噴き出したコーラは陸の顔面を濡らし、陸の着ている制服を濡らす。
缶を振ったりしていないのに、何で?
呆然と疑問に思う陸だが、している場合ではない。
陸は着替えるべく保健室に行く。小咲もついて来てくれた。
その後、陸は小咲から何で態度がおかしかったのかを聞いた。
何でも小咲は朝に陸と同じ占い番組を見ていたらしい。
小咲の血液型はOなのだが、運勢最悪という結果が出たらしい。
朝から気分最悪、そしてその占いの結果を裏付けるかのように次々に襲い来る不運の数々。
さらにその不運は周りの人を巻き込みそうだったため、今日は陸に近づかないと決めていたらしい。
まあ、その決意も陸の前には無駄だったのだが。
「…アホ」
「あうっ」
小咲から今日の態度の原因を聞いた陸は、小咲の額にチョップを入れた。
こちとら小咲に嫌われたのかと思ってはらはらしたというのに…、まあそのことは口にしないが。
「そんなくだらない理由だったとは…」
ため息交じりにつぶやく陸。
「で、でも!実験の時に陸君火傷しちゃったし、さっきも私が近くにいたせいで…」
「んなわけねえだろ。てか、もし占い結果が本当だとしても友達にさけられたら悲しい」
「っ」
たとえどんな理由があったとしても、小咲に避けられて悲しかった。
友達に避けられて、悲しくないはずがない。
(…悲しい、よな?)
陸の目の前で、小咲が俯いている。
少し言い過ぎただろうか?いやでも、全部本当のことだし、まさか占いを真に受けて避けられていたなんて下らなすぎるし。
「ごめんなさい…」
「分かればいい。今度からは気を付けてくれよ」
小咲の頭を掌でポンポン、と叩いた後、陸は小咲の腕を掴む。
「ほら、早く教室に戻るぞ。いつまでも落ち込んでんな。俺はもう許したんだ。いつまでも落ち込んでると…」
「は、はい!教室に戻ります!落ち込んでもいません!」
きらん、と怪しく陸の目が光ったのを見て小咲は慌てて立ち上がる。
それを見た陸は、腕から手を離して、保健室の扉を開ける。
「じゃあ行くぞ。もう昼休み終わっちまう」
小咲のあまりの変わり身の早さに思わずといった笑みを浮かべた陸。
何はともあれ、仲直り(?)できた二人は並んで教室へと戻っていった。
ちなみに、昼食は食べ損ねました。
二人で次の授業でお腹を鳴らし、顔を真っ赤にさせました。
これも、小咲の占いが悪かったせいなのでしょうかね?
雨降って地固まる
これがサブタイトルの由来です。
あーこれホントに諺通りになってんのか…。
久々の解説コーナー
ものまんたの朝バシッ!
朝の人気ニュース番組。人気の司会者であるものまんたが出てニュースを伝えるという事で視聴率もかなりのもの。
ちなみに、来週を最後にものまんたはこの番組から去るらしい。
お目覚めテレビ
これもものまんたの朝バシッ!同様朝のニュース番組である。
ニュースだけでなく、最近のトレンドや占い等々面白い企画が多くあり、かなりの視聴率を獲得している。