ということで投稿です。
後、受験生の方は申し訳ありません。
このタイトルの理由は、最後にわかると思います。
例年と比べて圧倒的な盛り上がりを見せた文化祭が終わり、本日から通常の授業日程になる凡矢理高校。
圧倒的な盛り上がりの一つの要因となった劇、ロミオとジュリエットのロミオ役を務めた陸も、いつも通りの時間に起きていつも通りの時間に家を出て、いつも通りの時間に学校へ着いていた。
別に文化祭で劇をしたからといって特に変わったことなどなく、自分の席に着いて、荷物を整理したら朝の友人との雑談にのめり込む。
陸が学校に着いてから十分もすれば、人が少なく寂しい教室も一気に騒がしくなる。
「楽様~!おはようございますですわ~!!」
ほら、早速教室に入ってきた楽に万里花が元気よくいつも通り抱き付いていった。
抱き付かれた楽はやめろ、と口にしながらも顔を赤くして万里花を引き剥がそうとはしない。
そして、隣の千棘もいつも通り、楽の胸に頬をすり寄せる万里花を見て怒りのオーラを…。
(…ん?)
友人の話で浮かべていた陸の笑みが、一瞬にして引く。
陸の視線の先にいるのは、楽と万里花を見て明らかにムカついている千棘の姿。
いつも通りならば、怒っている千棘を見ても特に何とも思わなかったのだが…、今は違った。
(な、何でそんなに…)
今、陸は恐怖を感じている。
千棘の怒りを見て、初めて恐怖を感じている。
それ程までに千棘の怒気は凄まじいものがあった。
しかし、つい先日までは万里花が楽に猛アタックしている所を見てもここまで怒ることはなかったはずなのだが。
(ど、どうした?楽、お前なんかしたのか?)
千棘が明らかにいつも以上に怒っている原因がわからない。
まあ、自分には心当たりもなく、それに千棘をここまで怒らせることなどできるはずもないので自分が原因という可能性を一瞬にして消す。
というか、楽が原因と考えるべきだろう。楽が原因しかあり得ない。
「さ、ホームルーム始めるわよー」
そうこう考えている内にチャイムが鳴り、キョーコ先生も教室に入ってきてホームルームが始まった。
これもまたいつも通りで、学年の枠を通り越して学校の中で一番早くホームルームが終わる一年C組。
一時間目が始まるまで約二十分の空白がある。
「おーい、一条きゅーん」
「気持ち悪い呼び方すんなっ」
すると、ホームルームが終わった直後、集が楽を呼び、楽が席から離れた。
その様子を見ていると、席から離れた楽を千棘が目で追っているではないか。
いや、別にそれは特段不思議ではないのかもしれないが…、問題はその後。
集と話している楽を、見つめているかと思えば、急に頭を抱えてグルグル回り始める。
明らかに千棘の様子がおかしい。
(…今朝の異常なまでの怒りに何か関係があるのだろうか)
何度も言うが、今日の千棘はいつもと様子が違う。
楽と千棘の関係上、土日含めてほぼ毎日の様に二人と顔を合わせ、その上客観的に様子を見れる陸だからこそ気づける僅かな千棘の変化。
楽でも気づけないほどの小さな変化。
そのはずなのに
(何でだ?千棘がすっごく変わった、て思えてならないのは、何でなんだ?)
「おーい、陸ー!」
「ん?」
頭に浮かんだ疑問について思考する暇もなく、陸は誰かに呼ばれる。
自分を呼んだ方へ顔を向けると、そこでペンダントを手に握りしめた楽がこちらに向かって手招きしていた。
楽の他にも、小咲、千棘。万里花が周りに立っている。
「ちょっと来てくれ!」
「…?」
断る理由もなく、断る気もない。
楽に来いと言われた陸は、何で?と疑問符を浮かべながら席から立ち上がるのだった。
「え…!?ペンダント返ってきたの!?」
千棘の驚愕の声が屋上に響く。
その言葉を聞いて、そういえば楽のペンダントを近頃見てなかったなと思い出す陸。
どうやらペンダントは何らかの理由で壊れ、修理に出していたようだ。
「おう、まあ一応な。この四人には伝えておいた方が良いと思ってよ…」
「ん?何で?」
陸が楽に聞き返す。
楽がそのペンダントをずっと大事に持っていることを陸は知っている。
だがかといって、別にペンダントが壊れようが無くなろうが、気の毒には思うものの結局陸には関係ないのだ。
それに、自分だけでなく小咲、千棘、万里花にも伝えた方が良いと楽は言った。
今ここにいる五人に一体何の共通点があるのか、陸には分からない。
「ああ、そうか。そういえば陸は知らないんだったよな…」
「…?」
首を傾げる陸に、楽は説明した。
この五人は、十年前に出会い、そして仲良くなったことがあると。
そして楽のペンダントはこの三人の中の誰かにもらい、結婚の約束をしたのだと。
ペンダントの錠は、三人の中の誰かの鍵と合う。そしてその錠が合った鍵を持っていた女性が、楽の約束の相手なのだと。
「…その約束の話、与太話じゃなかったんだ。すまん楽、今までずっと疑ってた」
「おい!え!?約束の相手見つかるといいなって言ってたのに!?疑ってたの!?」
十年前に楽がした約束の話は何度か聞いたことがあるのだが、陸は内心で、んなわけないだろまったく、夢見る乙男かお前は、とツッコみまくっていた。
「そうか…。橘は覚えてたんだけどな…。小咲たちとも会ってたのか…」
「陸様は小さい頃とても寡黙な方でしたから。それに、初めて私の言葉を聞いたとき、方言が珍しかったのか驚いていました」
「あぁ…。あの時、陸は滅多に表情動かさなかったから俺も陸がびっくりしてるところ見て驚いたぜ…」
何か楽と万里花が話しているが、陸の記憶にはまったくない。
いや、万里花のことを覚えていた時点で記憶にないという事はないのだろうが、記憶の奥からその思い出を引き出すことができない。
「え…。あんた、昔はそんなに不愛想だったの?」
「知るか」
千棘が昔の陸について問いかけてくるが、正直そんなことはないと思う。
「確かに、二人の言う通り今よりは寡黙だったとは思うけど…、そこまでひどくは…」
「ひどかったぞ」
「鉄仮面とはまさにあのことでしたわ」
「そ、そこまで…?」
言うほど寡黙ではないと否定しようとした陸だったが、言い切る前に楽と万里花がさらに釘を刺してくる。
陸がショックを受けている中、小咲が苦笑を浮かべながらつぶやく。
「あ~…、でも怒った時はわかりやすかったな…。小学生の頃なんて、こいついじめっ子をぼこぼこにしてたんだぜ」
「あら、そのようなことがあったのですか…。そういえば、初めて私の病室に来た時も強引に引っ張られた楽様に怒っていらっしゃったのかしばらく楽様にも一言も話しませんでしたわね」
「おいお前ら。人が覚えてないのを良い事に好き勝手言ってんじゃねえ」
「「でも事実だし(ですし)」」
「…」
自分の過去を好き勝手口にする楽と万里花。
明らかに、自分が覚えてないことを利用して色々こちらに口撃しているようにしか見えない二人を止めようとする陸だが、二人の容赦ない反撃に口を閉じてしまう。
「…て、そうじゃないでしょ!陸の昔のことも聞きたいけど、今はあんたのペンダントよ!」
「え?聞きたいの?やめてくれ」
「あ、すっかり忘れてた…」
「え、俺は無視?」
と、ここで話が脱線していることに千棘が気が付いて元のペンダントについてに話題を戻す。
陸が何か言っているが、こちらは無視していく。
「ペンダントは直ったのですね?なら早速、どれが本物の鍵か確かめましょう!」
「いや、待て待て!」
ともかく、屋上に来て最初に楽が言った通りペンダントは返ってきた。
ならばと、万里花が我が先にとペンダントの鍵穴に自分の鍵を挿し込もうとする。
だが勢いよく突っ込んでくる万里花を、楽は両掌を横に振って必死に止める。
「まだこれ、壊れてるんだよ!」
「「「え?」」」
(そういや、返って来たとは言ったけど直ったとは言ってないな)
楽の言葉に、小咲と千棘、万里花が呆けた声を漏らしている中陸は楽の言葉を思い返していた。
確かに、帰って来たとは口にした楽だが、直ったとは言っていない。
その後、楽が説明してくれた。
鍵穴に入り込んだ千棘の鍵の先は取り出すことは出来たのだが、どうやらペンダントの鍵穴には他に何かが入り込んでいるようなのだ。
それも厄介なことに取り出すことが難しいらしく、中を開くにはペンダント自体を叩き割るしかないらしい。
「「「「…」」」」
ここまできて、結局ペンダントの中身はおあずけか。
楽死ね、と心の中でつぶやく陸。
そして…
「…」
「うぉおおおおおお!待ってくれ!俺にとっては大事なものなんだよコレ!?」
一体どこにそこまでの量が入っていたのか、万里花の懐から様々なピッキングやらに使う器具やハンマーが取り出される。
すぐに楽は万里花がペンダントの中身を取り出そうとしていることを悟り、必死にペンダントを守り通そうとする。
「でもよ楽。ペンダントを壊すってことも頭の隅に入れておけよ?いくら小さい時のこととはいえ、ここまで複雑になってる約束の真相、知りたいだろ?」
「…まあ、うん」
ペンダントを壊すことに楽は断固反対らしいが、どうしても約束の真相を知りたいのならペンダントを壊すことも選択肢として入れて置けと楽に忠告する陸。
「…で、楽。話は終わりか?終わりなら、そろそろ教室に戻りたいんだが」
「あ、ああ。悪かったな陸、事情も説明しないで呼び出して」
「いや。昔、ここにいるみんなと会ったことがあるって知っただけでも十分来た価値はあるよ。…ただ楽、橘。後で覚えて置けよ」
「「ひぃっ」」
まだ一時間目授業開始には少し早いが、一時間目は移動教室のため少し早めに行っておいた方が良い。
最後に楽と万里花を睨み脅してから、校舎の中に入って階段を降りる。
「陸君!」
「?」
すると、背後から階段を駆け下りてくる足音と共に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返ると、小咲が少し息を切らしながら階段を降りてきて…
「え?」
「なっ」
足を滑らせた。
重力に従って落ちる小咲に向かって陸は両腕を伸ばし、つかむ。
小咲の体重と共に床へと流れようとする体を両足で踏ん張って止め、小咲を片腕で抱え込み、もう一方の手で手すりを掴む。
「あ…あ…」
「ふぅ…」
今、小咲の体は床の方を向いており表情を窺い知ることは出来ない。
だが陸には分かる。下手をすれば、自分は床に叩きつけられて重傷を負っていただろうという恐怖に小咲は襲われている。その証拠に、小咲の声は震えている。
「危ねえ…。気を付けろよ、小咲」
「ふぁ…ふぁぁ…」
恐怖で力が入らないのだろうか、ぐったりとしている小咲をぐいっ、と引き上げてしっかり彼女の足で立たせる。
両手を離し、小咲は自分の足で立っているのだが…全く動かない。
何故?
不思議に思った陸は、小咲の顔を覗き込む。
「…小咲?」
「ふぁぁぁ…、ふぇぇぇ…」
「顔、赤いぞ?おい?」
良くわからないが、小咲の顔は真っ赤に染まり頭の天辺からしゅぅ~と煙が上がっている。
焦点が合っていない目が、ふと陸の方を向く。
「…」
「…」
何拍かの空白。そして────
「わぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「え?こ、小咲?おい!走るなって!また落ちるぞ!?」
「ひゃわぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
急に大声を上げながら駆けだした小咲。
だがさっきの今だ。また小咲が足を滑らせたり段差を踏み外すかもしれない。
それに、今の小咲は明らかに異常である。慌てている。危険性は大だ。
陸は小咲を追いかける。
「…良かったな、ここで転んで」
「ふゅぅ~…」
そして、廊下で前のめりに倒れ込んでいる小咲を見て陸はほっ、と息を吐くのだった。
予定ではペンダントの話で終わらせるつもりだったのですが、文字数が少なかったので階段云々の話を追加しました。
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