一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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お泊まり編最終話です

二週間にわたるテスト期間…。
更新が…更新がぁ…。


第24話 オフロニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごちそうさまでした」

 

 

「お粗末様でした」

 

 

陸の正面に座っている小咲が、手を合わせながら言う。

彼らの手元には、すっかり空になった食器が並んでいた。

 

 

「おいしかった…。すっごくおいしかったよ!」

 

 

「うん、そう言ってくれて嬉しいけど…。何か悔しそうに見えるけど、気のせいか?」

 

 

小咲の声の調子を聞いて、その言葉が素直に出たものだというのはわかる。

だが、小咲の表情は…、どこか引き攣っているように見えた。

 

 

(陸君が料理得意だってことは知ってたけど…、こんなにおいしいなんて…。すごくおいしかったけど…、でも、悔しいよ…)

 

 

陸の料理を食べられたことはとても嬉しく感じる小咲。

しかし、それと同時に女として負けた気がして悔しく感じる小咲。

 

そんな小咲の心中を露知らず、陸はただ首を傾げるだけ。

 

 

「…じゃあ、私は食器を片づけるね。陸君はソファでテレビでも見てて?」

 

 

「え、いや。俺も手伝うよ」

 

 

小咲が、陸の分の食器も重ねてキッチンへと持っていく。

陸も手伝うと言うが、小咲はそれを止める。

 

 

「ううん。さっきも、ほとんど陸君がやっちゃったし…、このくらいやらせてほしいな」

 

 

先程の調理、小咲も材料を切るなど手伝いはしたが、味付けなどほとんどは陸がこなした。

だから、食器洗いくらいは自分に任せてほしかった。

 

陸はそんな小咲の気持ちを悟り、キッチンに向けて踏み出そうとした足を戻す。

 

 

「…わかった。じゃ、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」

 

 

「うん。どうぞそちらでごゆっくり」

 

 

どこかお互いに悪戯めいた声で言い合った陸と小咲は、同時に笑う。

 

そして陸は小咲の言う通りにソファに座って、傍のテーブルの上にあったリモコンでテレビの電源を入れる。

まず、画面に映ったのはバラエティ番組。芸人たちが、色々な競技で優勝を争うという類の番組だった。

 

陸はチャンネルを回す。次に映ったのは、ある有名な医者を追ったドキュメンタリー番組。

ドキュメンタリーには全く興味がない陸は、すぐにチャンネルを回した。

 

すると、次に映った映像に陸は小さく「おっ」と声を漏らす。

 

画面に映るのは、球場。つまり、野球の試合である。

 

 

(そうか。確かにこっちでは台風だけど、北の方はまだ影響はないのか)

 

 

それも、画面に映る球場はドームである。外は雨が降っていても、試合に影響はないのだ。

 

陸はリモコンを置いて野球の試合を見ることにする。

 

すでにイニングは終盤七回に入っている。得点は3-4で、この球場を本拠地としているチームが負けている。

今は裏の攻撃、つまりこの球場を本拠地としているチームの攻撃中である。

 

相手のチームはすでに先発の投手を降ろして、リリーフの投手を登板させている。

 

と、ここで打席に入っていた打者がボールを引っ掛け、セカンドゴロに倒れた。

これでワンナウト、打席に入るのはチームの四番、それどころか日本の四番と呼ばれている超強打者。

 

 

(ランナーなし、一点差。一発狙いでいくかな?)

 

 

キッチンで小咲が食器を洗っている音など、今の陸には聞こえてこなかった。

目の前で繰り広げられる真剣勝負に陸は目を釘付けにしている。

 

 

(陸君って、野球が好きなんだ)

 

 

その光景を、小咲は食器を洗いながら眺める。

初め、ぽちぽちとチャンネルが回っていたテレビが急に止まったことが気になった小咲が目を向けると、テレビには野球中継が映っていた。

 

そして陸は、無言で集中し目を釘付けにしている。

誰もが簡単にわかる、陸は野球好きであるという事。

 

 

「…くすっ」

 

 

思わず笑みを零す小咲。

今まで見たことのない陸の姿が、そこにあるのだ。

想い人の新たな一面が、そこにあるのだ。

 

小咲は、食器を落とさないように視線を落として、その上でたまに、テレビに集中する陸の後姿に目を向けながら食器の片づけを続ける。

 

そして、時間は過ぎて二人が食事を終えてから三十分ほど経つ

 

野球の試合はすでに最終回、それも裏のツーアウトである。あの後、両チームが一点ずつ取り合ってスコアは4-5。

だが、裏のチームの攻撃は、二人ランナーを出している。つまり、一打サヨナラのチャンスなのだ。

そしてさらに、これは野球の神様の悪戯なのか、ここでチームの四番が打席に入る。

 

単打あり、長打あり、さらに選球眼もよしとまさに隙のないバッター。

 

これは敬遠もありか、と一瞬考える陸だったが、ランナー二人とはいえ塁は空いていない。

つまり、経験をすれば同点のランナーを三塁に置くことになる。

 

 

(…勝負!)

 

 

キャッチャーが座る。

 

点差は一点、緊迫する場面で四番と勝負というまさに野球好きにとってはこれ以上ないというほど心が躍る。

陸はますますテレビに目が奪われていく。

 

 

「…」

 

 

そんな陸は、気づかない。

小咲が、ソファに座って、テレビに集中する陸を笑みを浮かべながら見つめていることに。

 

最中、テレビの中の試合は一球で終わることとなる。

投手が投げた一球目を、積極的に打者が狙う。

 

しかし、振ったバットはボールの下を叩き、高く上がる。

上がったボールをレフトが捕り、ゲームセット。反撃虚しく、北のチームは試合に敗れた。

 

 

「む…」

 

 

それを見つめていた陸は、小さく一瞬だけ唸り声を漏らした。

特に、チームが好きという訳ではないのだが、今、打ち取られてしまった打者を陸は陰ながら応援していたのだ。

 

これ以上、野球中継を見続ける必要はない。

陸はチャンネルを回し、ニュースの天気予報が画面に映る。

 

 

「はぁ~…」

 

 

そして大きく息を吐きながら、陸はソファの背もたれに体を任せる。

 

 

「…ふふっ」

 

 

「こ、小咲?」

 

 

その光景を見ていた小咲が、耐えきれずに吹き出してしまう。

そこで陸は、ようやく小咲が洗いものを終えて戻ってきたことに気づいたと同時に、何故笑われてしまったのかがわからず戸惑ってしまう。

 

陸に戸惑いの視線を向けられる小咲だが、込み上がる笑いを抑えることができない。

想い人のどこか可愛らしくも思える一面を見て、込み上がる笑いを抑えることができない。

 

 

「ご、ごめんね…?あんな陸君、初めて見たから…」

 

 

「な、何か面白いことしたのか?」

 

 

「そ、そうじゃないけど…、ふふっ」

 

 

小咲は何を見たんだ?何を面白いと感じたんだ?

戸惑う陸だが、小咲が何を感じて何故笑っているのかがわからない。

 

そんな陸ができるのは、ただ笑い続ける小咲を眺めることだけ。

頭の上に疑問符を浮かべながら陸は小咲が笑いを抑えるのを待つのだった。

 

陸が何も言わずに待ち始めてから、小咲が笑いを収めたのはすぐだった。

ニュースで居間の台風の状況を中継されている画面の映像を見ながら小咲が口を開く。

 

 

「あ、陸君。その…、陸君の寝る所なんだけど…」

 

 

笑いを収め、二人でニュース中継に目を向け始めてから、小咲は皿洗いをしている最中に、洗い終えたら決めなければと思っていた要件を口にする。

 

それは、陸の寝る所である。

小咲の家には、三つの個人の部屋がある。

 

一つはもちろん、小咲の部屋。そして妹の部屋、夫婦の部屋の三つである。

 

空いている部屋などはない。

妹のベッドに寝かせるのは気が引けるし、夫婦の部屋は陸自身が嫌がるだろう。

 

 

「えっと…、私の部屋に布団を敷いて寝る?」

 

 

「っ、いや待て待て待て待て」

 

 

僅かに頬を染めて聞いてくる小咲に、陸は首をぶんぶんと横に振る。

 

 

「落ち着け。男と同じ部屋で二人で寝るなんて、小咲は嫌じゃないか?嫌だろ?」

 

 

「べ、別に、陸君とだったら…」

 

 

陸の問いかけに、細い声で答える小咲。

だが、最後に何を言ったのかは、陸の耳には届かなかった。

 

 

「いや、さすがにそれは駄目だ。布団を貸してくれるならここの居間まで俺が運んで敷く。ここに敷いちゃ駄目なら、俺はソファで寝る」

 

 

「そ、それは駄目だよ!」

 

 

ソファで寝ると言いだした陸を、小咲は慌てて止める。

 

 

「そうだね…。居間に布団を敷こうか…」

 

 

少し…、ほんの少しだけ残念だが、さすがに自分の部屋で二人で寝るのは駄目だろう。

小咲は陸の前者の案、居間に布団を敷くことに賛成する。

 

そこで小咲は、陸が寝られるスペースをどうやって作ろうかと考える。

家の居間は、ソファやテーブル、テレビなどでスペースが使われており、布団を敷けるほどのスペースは残っていない。

陸が寝られるスペースを作るには、先程上げたどれかの位置をずらすしかないだろう。

 

 

「ソファをテレビ側にずらしてスペースを作ろっか」

 

 

「了解。ありがとな、小咲」

 

 

小咲の言葉に返事を返した後、礼を言う陸。

 

二人はさっそく、廊下側にあるソファをテレビ側に寄せ、その後、押し入れから布団を出して作ったスペースに敷く。

 

 

「ふう…。じゃあ後は、お風呂だね」

 

 

「え…、いや、そんな。風呂なんて一日くらい入らなくたって…」

 

 

布団を敷き終えると、小咲がお風呂についてどうするかを話そうとする。

だが陸としては、今日に関しては風呂に入るつもりはなかった。

そこまで小咲に、小野寺家に迷惑をかけたくはなかった。

 

だが小咲は、そんな陸に少しだけ不機嫌そうな表情を向けて口を開く。

 

 

「ダメだよ。陸君、たくさん働いたから汗かいたでしょ?遠慮しないで、お風呂に入ってください」

 

 

「いや、でも…」

 

 

「じゃあ今からお湯を入れて来るね?少し時間かかるけど、待ってて」

 

 

何か言いかけた陸を遮って、小咲はパタパタとお風呂場へと小走りでいく。

陸は小咲を止めようと、一瞬手を伸ばしかけるがすぐにゆっくりと引っ込める。

 

迷惑を掛けたくないという思いもあるが、小咲の好意を断るのも気が引ける。

それに、もう迷惑ならとっくにかけている。それなら、とことん小咲に甘えよう。

 

お風呂場から戻ってきた小咲に、陸は「ありがとう」と礼を言う。

小咲も「どういたしまして」と返してから、陸の隣に腰を下ろす。

 

お風呂のお湯が沸いたという合図の曲が流れるまで、二人は並んでテレビを見続ける。

 

 

「陸君、先にお風呂行く?」

 

 

「いや、先に入れよ。男が入った後とか、女の子としたら嫌だろ」

 

 

お風呂にお湯が入れ終わると、小咲はお風呂場から戻って気ながら問いかけてくる。

 

お風呂に入る順番についてなのだが、男の入ったお湯に浸かるのは、女の子としては嫌なのでは?と考えた陸が、小咲に答える。

 

 

「いいの?」

 

 

「良いも何も、ここは小咲の家だろ。それに、レディファーストってことで」

 

 

小咲が許可を求めるように聞いてくるが、ここは小咲の家だ。陸の許可など必要ない。

 

そして小咲は、陸の悪戯っぽい笑みを浮かべながら口にしたレディファーストという言葉に、少しだけ笑いを漏らす。

 

 

「そっか。なら、お言葉に甘えさせてもらうね?」

 

 

「いや、甘えるもなにもここは小咲の家だから…」

 

 

笑顔を向けて言う小咲。

小咲の言葉に、陸はあきれ顔を浮かべながら返す。

 

小咲は、自室から着替えを持ってきてからお風呂場へと入っていった。

 

さて、小咲はお風呂へと入り、陸はソファに座ってテレビ番組を眺める。

時折、テレビに映るタレントの言葉に笑い声を上げながら小咲が上がるのを待つ陸。

 

そして、小咲がお風呂へと入ってから一時間ほどしただろうか、お風呂場からがらっ、と扉が開く音が聞こえてくる。

 

扉が開く音を聞いた陸は、お風呂場の方へと視線を向ける。

 

 

「っ」

 

 

そして、息を呑んだ。

 

 

「あ、陸君。お風呂空いたよー」

 

 

陸の視線の先にいたのは、お風呂上がりで、頬をやや紅潮させた小咲がいた。

 

小咲は陸に歩み寄りながら言う。

 

 

「あ…あぁ、わかった」

 

 

陸は、心の中の動揺を悟られないよう努めながら答え、ソファから立ち上がる。

 

お風呂場へと向かうために、陸は小咲とすれ違うのだがその瞬間、心地よいシャンプーの良いにおいが、小咲の女の子らしい良いにおいと合わさって陸の鼻をくすぐる。

 

陸の心臓の鼓動が加速する。そそくさとお風呂場へと逃げるようにして入っていく陸。

そんな陸を、小咲は首を傾げながら眺めていた。

 

 

「…俺は何も見てない。感じてない。確かに小咲は可愛かったが…、俺は何も見てない」

 

 

おふろ場にはいった陸は、壁に手を着きながら自分に言い聞かせるために必死につぶやいていた。

 

脳裏に過るのは、先程の小咲の姿。

どこかクールな印象を与える青色のパジャマ。だが、そんな青も小咲と重なれば可愛らしさを感じる。

そして、パジャマ姿だからなのだろう、小咲の胸元がいつもよりも開けていて…、陸にダイレクトにダメージを与えた。

 

 

「何もない何もない何もない何もない何もない何もない…」

 

 

陸が立ち直ったのは、つぶやき始めてから五分が経ってからであった。

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、何事もなく時間は過ぎていった。

立ち直った陸は風呂に入り、上がってもう一度小咲と並んでテレビを眺める。

 

先程、悟りを開いた陸は、もう小咲の姿に動揺を覚えることはなかった。

 

陸と小咲は会話を楽しんでいたが、気が付けば時計の短い針は0を差し、長い針は2を差していた。

ここまで時間が過ぎていたのかと驚きながらも、二人はそろそろ寝なければとテレビを消し、それぞれの寝る場所に分かれる。

 

小咲とおやすみと挨拶を交わしてから、陸は居間の灯りを消し、布団に潜って目を閉じた。

 

 

「じゃ、俺は帰るよ」

 

 

「朝ごはんくらい、うちで食べていっても良かったんだよ?」

 

 

そして今、陸と小咲は小野寺家の玄関にいた。

陸は昨日着ていた私服を身に着け、小咲もパジャマから部屋着へと着替えていた。

 

 

「いや、これ以上迷惑はかけられない。家に帰ってから食べることにするよ」

 

 

「…うん」

 

 

時刻は八時を回った所。陸は、朝ごはんを家で食べようという小咲の誘いを柔らかく断って、一条家へと帰宅することに決めたのだ。

 

 

「泊めてもらってありがとな。今度、何かお礼するよ」

 

 

「ううん。私も、陸君にお夕飯作ってもらったから気にしないで」

 

 

靴を履き終えた陸が振り返って、改めて泊めてもらったことに礼を言う。

小咲は、小さく手を振って陸に答える。

 

そんな小咲は、陸から視線を外すと床に落とす。

瞳を揺らし、何か考え込む。

 

 

「じゃあ、お邪魔した。ホントにありがとな」

 

 

「あ…」

 

 

陸が手を振りながら扉の取っ手に手をかける。

そんな陸を見て、小咲はわずかに声を漏らした。

 

まだ、帰ってほしくない。だが、そんなこと陸には言えない。

せめて、もう一言…、もう一言会話したい。

 

そんな思いが、小咲の足を一歩踏み出させた。

 

 

「あの、陸君!」

 

 

「ん?」

 

 

扉を開けて、外に出ようとした陸が小咲に呼び止められ再び振り返る。

振り返って視線を向けてくる陸にもう一度小咲は口を開く。

 

 

「あの…、あのね?私たち…、学校とかで良く話してるのに…、お互いメールアドレスとか知らないな…て…」

 

 

きょとん、とする陸。

小咲は顔を真っ赤に染めて、陸の顔を見れずに俯いてしまう。

 

 

(な、何言ってるの私!?一言だけ陸君に声をかけるだけのつもりだったのに…!)

 

 

心の中で絶叫する小咲。

何てことを言ってるんだ自分は。

ああ、見なくたって分かる。陸の戸惑った表情。

 

まさに、陸の浮かべている表情は小咲の思っていた通りだった。

だが、その次に起こした陸の行動は、小咲の思っているものとは全く違うものだった。

 

 

「そういえばそうだな。じゃあ交換しとくか」

 

 

「っ!!?」

 

 

陸の笑みを浮かべながらの言葉に、小咲はバッ、と勢いよく顔を上げる。

その時、陸はポケットの中から携帯を取り出していた。

 

 

(あ、え?本当に?)

 

 

混乱する小咲。だが、これだけはわかる。

 

陸と、メールアドレスと交換ができる。

それだけで、今の小咲には十分だった。

 

 

「ち、ちょっと待ってて?携帯持ってくるから!」

 

 

小咲は階段を駆け上がり、部屋に戻ると机の上に置いてあった携帯を手に取った。

そしてすぐに玄関へと戻ると、赤外線を準備し、すでに準備を終えた陸と携帯を向き合わせる。

 

ピロン、と二度、それぞれの携帯の受信音を聞いた後、陸は今度こそ、手を上げて小咲の家を去る。

 

 

「じゃあな小咲。また今度な」

 

 

「うん。またね、陸君」

 

 

扉が閉まり、陸の姿が見えなくなる。

 

いつもの小咲なら、ここで少しだけ表情を落として、少しだけ胸に悲しみが募る所だったのだが今は違った。

 

 

(…やった。やったーーーー!!)

 

 

携帯の画面に映る、陸の電話番号とメールアドレスを見つめながら小咲は小躍りする。

 

これで、いつでも陸と連絡が取れる。

そう思うと、心が跳ねて仕方ない。

 

小咲は、扉の錠を閉めてから階段を上がる。

きっと、もしその時の小咲の姿を見たものがいればこう言うだろう。

 

小咲の頭から、音符が出ていた、と。

 

 

「私、頑張ったなぁ…。陸君とたくさん話して、アドレスの交換もして…。…るりちゃん、褒めてくれるかも」

 

 

蕩けた微笑みを浮かべながら、小咲はソファに寝転がって携帯の画面を見る。

 

そこには、確かに陸の電話番号とアドレスが存在している。

 

それを確かめた小咲は、再びへにゃり、と蕩けた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「「「「「坊ちゃぁああああああああああああああああああああん!!!」」」」」

 

 

「うお!?何だ!?」

 

 

家に帰宅した陸を待っていたのは、玄関に仁王立ちしていた集英会の全てのメンバーだった。

そして、その全てのメンバーが例を盛れずにその両目から涙を流していた。

 

 

「え、何で泣いてる?」

 

 

「坊ちゃん…、坊ちゃんは、ついに大人の階段を昇ったんでやすね…」

 

 

「は?」

 

 

泣いてる理由を尋ねた竜の口から出た言葉は、陸を硬直させる。

 

 

「楽坊ちゃんから聴きやしたぜ…。昨日、陸ぼっちゃんは彼女の部屋に泊まってくるって…」

 

 

「…」

 

 

陸から、ピシィッ、と何かが凍り付く音と共にぶちぃっ、と何かが切れる音が響く。

それに気が付かずに、竜たちはおいおいと涙を流し続ける。

 

 

「坊ちゃん…、あっしたちは嬉しいですぜ~…」

 

 

「くぅ~…。これで、三代目も安泰だ…」

 

 

竜たちが何か言っているが、陸の耳にはまったく届かない。

陸の頭の中にあるのは…、竜たちにくだらない嘘を見つけた楽への怒りだけ。

 

 

「らぁぁぁくぅううううううううううううう!!!」

 

 

地の底から這い出てくるような、低くおどろおどろしい声が陸の口から出る。

その声に、楽はすぐに気づく。

 

 

「え?陸?どうした?」

 

 

「お前は…、お前はァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

「え?え?何だよ、は?」

 

 

恐ろしいスピードで迫る陸に、楽は戸惑いが隠せない。

 

何故、ここまで陸は怒りを自分に向けているのか。全く心当たりがない。

 

 

「お前は!お前は!お前はァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

「な、何だよ!う、うわぁあああああああああああああああ!!!」

 

 

陸と楽の、地獄の追いかけっこが始まるのだった。

 

 

 

 

 

「ごめんな、楽。飲み物奢るからさ」

 

 

「…ファンダ一週間分な」

 

 

陸と楽の傍らには大量の男たちの死体が並んでいた。

 

何が起こったのか、それは本人たちが知ることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




楽が竜たちに言ったセリフ
「今日、陸は台風で帰れないから。クラスメートの女の子の家に泊まってくるってよ」
悪戯っ気な気持ちが全くないわけではなかった楽でしたww

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