一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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Qこれは何の小説?

Aニセコイです


第20話 ホンコン(3)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、あの二人からまだ連絡が来ないのか?」

 

 

薄暗い、事務所の社長室の中で恰幅の良いスーツを着た男が傍らの秘書官の男に問いかける。

秘書官は、その手に携帯電話を持って画面を見るが、首を横に振ってこたえる。

 

 

「いえ。こちらのエサにはかかったと連絡は来たのですが、後の連絡はまだ」

 

 

表情を曇らせながら答える秘書官に、恰幅の良い男はにまりと笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「まあいい。どうせこの場所を特定することなどできまい。たとえ、特定することができたとしても…、こちらにも強力な味方がいるのだからな」

 

 

男は、言いながら背後の窓際に立つマントを纏った人物を一瞥する。

 

窓際に寄りかかって立っていた人物は、その男の言葉を聞きながらにやりと笑う。

 

 

「お任せ下さい。このレッドスネーク…、狙った獲物は逃しません」

 

 

唇を舌で舐めまわし、底冷えするような低い声でそう告げる。

 

この人物は、麻竹会のメンバーではない。

だが、麻竹会リーダーである恰幅の良い男が雇った傭兵である。

 

近頃、叉焼会のこちらを探る動きが活発になっているという情報を耳に入れ、念には念を入れ、強力な傭兵を雇ったのだ。

 

雇った人物が口にした、レッドスネークとはまさに、その人物の二つ名である。

 

この男が訪れる場所には、必ず血が流れる、

この男の眼光に捉えられた者は、生き永らえることは出来ない。

 

紅き蛇は、その目の奥で姿を思い浮かべながら、得物の到着を待つ。

 

 

「…何だ?」

 

 

そんな時、男のデスクにある内線の音が響く。

すぐに男は受話器を取って耳に当てて、かけてきた相手に用件を聞く。

 

 

「…何?何だと?」

 

 

男は、話を聞くごとにその目を見開いていきついには立ち上がる。

 

 

「叉焼会の奴らが乗り込んできた!?なら、早くそいつらをぶち殺せ!そうすれば本部の奴らへの威圧にもなる!ああ!早く行け!」

 

 

受話器を叩きつけるように戻した男は、背もたれに体を預けて大きく息を吐いた。

 

 

「…来ましたか」

 

 

天井を仰いでいる男に、マントの男が声をかける。

 

 

「ああ。まあ、貴様の出番はないとは思うが、一応準備はしておいてくれ」

 

 

声をかけられた男は、にやりと笑みを浮かべながらマントの男に言葉を返す。

 

 

「貴様、何をしている!早く貴様も行かんか!」

 

 

「は、は…、はいっ!」

 

 

恰幅の良い男は、この中でボーっとしている秘書に向かって指示を出す。

秘書は、返事を返してから慌てて部屋の外へと駆け出て行く。

 

 

「…来るさ」

 

 

その光景を眺めていたマントの男が、椅子に座って息を吐く男には聞こえない様にぽつりとつぶやいた。

 

 

「必ず来るさ…。月の女神はね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港で、二人の男を捕らえた陸たち。

銃を向けて脅し、上方を履くように聞けば、片方の男がすぐに吐いてくれた。

 

その男は、彼らの車内で運転をしていた方の男だったのだが、そんなことを露知らない陸。

すぐに吐いてしまった男を非難する男と、命が大事だと主張する男の言い争いをただ呆然と眺めることしかできない。

 

一まず、二人の男を落ち着かせた陸たちは、男たちを拘束し王が呼びだしたメンバーたちに身柄を引き渡す。

確かに身柄を引き渡したことを確認した陸たちは、すぐさま男から聞き出した麻竹会の拠点としているビルへと急ぐのだった。

 

 

「…これが、あいつらの言っていた拠点」

 

 

そして、男たちの言う通りの場所に着くと、眼前にそびえ立つのは小さいビル。

一目に憑かない場所に建てられた、如何にもなビル。

 

条件的には明らかにここだ。

 

だが、決めつけるわけにもいかない。まだ、それを裏付ける確証はない。

 

 

「王さん、俺が一人で行きます。離れた所で待機していてください」

 

 

見た所、前方入り口の警備は万全のようだ。

二人が配置されており、正面からの侵入は不可能に見える。

 

だが、陸は堂々と正面入り口まで足を進め、そして二人の警備員に針路を塞がれる。

 

 

「おい貴様。ここに何の用だ」

 

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

 

 

険しい顔で陸の進路を塞ぐ、二人の警備員を一瞥する。

 

そして陸はそっと口を開いた。

 

 

「ああ、ここに用があって来たんだ。…入らせてもらう」

 

 

長々と話をする気はない。話をしてわかってもらえるとは思っていない。

陸はすぐさま右手左手にいる警備員の顔面を両腕で殴って怯ませる。

 

 

「がっ!?」

 

 

「なっ…、なにっ…」

 

 

二人がひるんでいる間に、陸はそれぞれの背後に回り込んで首筋に手刀を入れて意識を刈り取る。

 

見張りを失った正面玄関を、陸は易々と侵していく。

 

 

「何だ!」

 

 

「誰だ貴様は!?警備員はどうした!?」

 

 

正面ゲートから堂々と入ってきた陸の姿を見て、ロビーにいた男たちが大声で喚きはじめる。

 

 

「お前たちに何も話す気はない。おとなしくここを通してくれるなら、お前たちには何もしない」

 

 

「はぁ!?何言ってんだこのガキが!!」

 

 

「舐めてんじゃねえぞクソガキ!」

 

 

強がりな戯言と取ったのだろう、男たちは警棒などそれぞれの獲物を手に取って陸に襲い掛かる。

それに対して、陸もまた腰に差した刀を抜き放つ。

 

陸の振るった刀は、陸に襲い掛かってきた三人の獲物を半ばから斬り落とす。

目にもとまらぬ速さで斬撃を入れてきた陸を、男たちは信じられないとばかりに目を瞠って見つめる。

 

 

「もう一度言う。黙って通してくれ。そうすれば、俺は何もしない」

 

 

鋭い目で辺り一帯を見回しながら告げる陸。

 

先程の陸の芸当、そして今現在伝わってくる強烈な殺気に後ずさる男たち。

 

 

「…」

 

 

陸はこれ以上何も言わず、ビルの奥へと駆け出して行った。

後方に注意を向けるが、銃などを使って背中を撃とうとするような輩は居ないようだ。

 

陸は足を進めながら、通信機に手をかける。

 

 

「王、正面ロビーは突破した。そこにいる男たちの拘束を」

 

 

そう言って、陸は通信機の電源を切って階段のある方へと足を進めていく。

先程、港で拘束した男の話によると、麻竹会ボスのいる部屋は三階にあるという。

 

陸は階段を上り、二階へと辿り着くのだが…。

 

 

「おらぁ!てめえ、何者だぁ!!」

 

 

「一階から連絡があったぞ!ガキが、生きて帰れると思うなよ!!」

 

 

いきり立って、やって来た陸に襲い掛かってくる男たち。

中には、拳銃を持っている男までいる。

 

一階の時の様に簡単にはいかなさそうだ。陸は気を引き締めてかかる。

 

鉄パイプや、刀を持った男たちが襲い掛かってくる。

陸も手に持っている刀を構えて、男たちを迎え撃つ体勢を整える。

 

陸は、刀を振るって男たちの鉄パイプ、刀を弾き飛ばした後、男たちの腹に峰打ちを入れて意識を奪っていく。

 

だが、突っ込んできた男たちだけでなく、後方で銃を構える男たちの二波がくる。

 

一方の陸もまた、服に隠れていた銃を取り出して男たちに向ける。

陸は、一度引き金を引くとすぐに前方に向かって跳びかかる。

前転して、前からの銃撃をかわし、体勢を整えて再び銃を向ける。

 

二度、引き金を引いてから陸は腰を上げて駆けだす。

陸は、後方から放たれる銃弾を、壁の陰に隠れてやり過ごしながら最後の階段を目指す。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

陸は、刀を手に立ちはだかろうとする者の集団を蹴散らし、最後の階段を上る。

 

三階へと辿り着くと、そこには一階、二階ほど多く人の気配は感じられなかった。

二階からは男たちの怒号が聞こえてくる。王たちが上手くやってくれているのだろう。

 

 

「…」

 

 

三階を探索し、一番奥。そこには、一瞥程度でしか見てきてはいないが、やけに豪華に思える大きな扉がある。

この先からは、確かな人の気配が感じられる。

 

間違いない。陸は迷わず、麻竹会元首がいる場所であろう部屋に足を踏み入れる。

 

 

「…ようこそ。歓迎するよ」

 

 

扉を開け、その正面。豪華なデスクに腰を下ろすふくよかな男が、笑みを浮かべながら陸を出迎える。

そんな男を、陸は目を細め、冷たい眼光を含んだ眼差しで睨みつける。

 

 

「まさか、こんな短時間で、それも単独でここまで来ようとは思わなかったよ。ディアナの力、侮っていたようだ」

 

 

「やはり、俺が叉焼会に手を貸していることを知っていたのか」

 

 

陸の眼光を見に受けながらも、余裕な態度を変えずに言葉を続ける男。

その男の言い方で、陸は麻竹会が自分が叉焼会の援助に参上していたことを知っていたのだと悟る。

 

 

「だから言ったでしょう?ディアナは必ず来る、と」

 

 

と、そこで男の影に隠れて姿が見えなかった。マントを被っていた男が姿を現す。

言いながら、マントの男は鋭い眼差しを陸に浴びせてくる。

 

瞬間、陸は目の前のマントの男が、相当の実力を持っていることを感じ取る。

冷たい殺気、隙の見当たらない立ち振る舞い。明らかに実戦慣れしている。

 

 

「っ!」

 

 

「ふっ…」

 

 

次の瞬間、マントの男、その直後に陸が拳銃を互いに向かって構える。

 

だが、そこで互いの動きは止まった。引き金に指をかけ、だが力は入れず。

牽制し合う陸とマントの男。

 

 

「やれ、ヘルスよ。この男を、殺せ」

 

 

笑みを浮かべたまま、ふくよかな男は告げ、椅子から立ち上がると陸の背後、扉へと駆け出す。

 

 

「っ!?」

 

 

「おっと、させないよ」

 

 

当然、陸は男の動きを止めるべく刀を抜こうとする。

だがその前に、ヘルスと呼ばれた男が銃を陸に向けて発砲する。

 

 

「ちっ!…くっ」

 

 

ヘルスの動きを横目で捉えた陸は、膝を曲げ、自身の顔面を狙った銃弾をかわす。

その間に、あの男は部屋を出て逃走を開始する。

 

陸も追いかけようとするが、ヘルスがこちらに接近しながら銃の引き金を引く。

すぐさま陸は体を翻しながら横へと駆ける。

 

 

「これでもあの人の護衛だからね。行かせないよ」

 

 

笑みを浮かべ、弾切れをした銃を投げ捨て、新しい銃を取り出したヘルスは陸を狙う。

陸も銃をヘルスに向けて発砲。

 

それぞれが、相手の指の動きを捉え、銃弾をかわし続ける。

 

しばらくこの状態で膠着を見せる。

 

 

「…この程度なのかい?」

 

 

ヘルスは、そう言いながら、もう一方の腕を振るう。

 

 

「!?」

 

 

そこから投げ出されたものを見て、陸は目を見開く。

すぐにその場から後退して、両手で耳を抑え、目を閉じる。

 

瞬間、部屋の中で弾ける閃光。先程ヘルスが投げたものは、スタングレネード。

爆発音と、爆発時の光で相手の五感を一時的、規模が大きいものとなれば永久に奪う事すら可能な兵器。

 

だが、その爆発も一瞬。陸はすぐに両耳から手を離し、同時に閉じていた瞼を開ける。

 

 

「ねえ、本当に?」

 

 

「しまっ…!」

 

 

直後、不機嫌そうな表情で陸の懐に飛び込むヘルス。

ヘルスは、マントの中から長剣を取り出し、陸に向かって振り下ろす。

 

陸も、持っていた刀でヘルスの斬撃を防ぐ。

 

 

「本当に、ディアナの強さはこんなものなの?」

 

 

ヘルスはさらに、持っていた銃を陸に向けようとする。

 

陸は持っていた銃を投げ捨て、空になった手で銃を握るヘルスの手首をつかんで抑える。

 

 

「違うよね?僕が見たディアナは…、こんなものじゃなかった」

 

 

「何を言っているのかは知らないが…、生憎、お前の要望通りにするつもりはない」

 

 

両手に力を込めて押し合う陸とヘルス。

歯を食い縛りながら力を込める陸と違い、ヘルスは明らかに余裕そうだ。

 

そして、それと同時に不機嫌そうに陸を睨む。

 

 

「…僕相手じゃ、本気になれないってことかな?まあ、それでもいいけど、ね!」

 

 

言いながら、ヘルスは陸の腹に蹴りを入れる。

堪らず、後退してしまう陸に向かって再び発砲。

 

 

「くっ」

 

 

陸はそれに対し、刀の腹に手を添えながら盾に構え、放たれた銃弾を防ぐ。

 

 

「でも、やっぱり嫌だなあ。本気のディアナと闘えずに、命を奪うなんて。どうやったら本気になってくれる?」

 

 

無邪気に問いかけながら、ヘルスは陸に向かってさらに銃弾を連射する。

陸は、すぐに横へとステップしてヘルスとの間合いを保つ。

 

こうして銃弾をかわし続ける陸だが、その間合いの限界はある。

これ以上近づかれれば、銃弾をかわすことは不可能だ。

 

陸は相手との間合いを保ちながら銃弾戦を繰り広げる。

その間、不機嫌そうなヘルスの表情は変わらない。

 

しかし次の瞬間、マントに隠れて良く見えなかった唇が、やけによく見えるようになる。

三日月形に歪んだヘルスの赤い唇が、陸の目に捉えられる。

 

 

「日本にいる…。君の大切なお友達を殺したら、本気になれる?」

 

 

「っ!」

 

 

まさか、知っていたというのか。

 

ディアナの強さに何故か執着を見せるこの男。自分のまわりを調べていたのだ。

 

それなのに、何故その間自分に襲い掛かってこなかったのかはわからない。

だが、自分の周辺の友人関係を知っている。

 

 

「たとえば…、小野寺小咲とかいう娘を殺したら、君は本気になれるのかな?」

 

 

この男は、ここで逃がすわけにはいかない。そう考えていた陸の耳に、そんな言葉が飛び込んでくる。

 

友人が…、小咲が、殺される?

 

この男は、小咲を殺すと言ったのか?

 

瞬間、陸の中で全てが嵌る。

見るのは相手の目、手、足の動きだけ。

今いる部屋の状況は全て頭の中に入っている。

それらの情報以外は、全てカット。

 

陸は、ヘルスが撃つ銃弾をかわすと、手に持っていた拳銃をヘルスに向かって投げつける。

 

 

「なっ!?」

 

 

まさか、武器を投げて来るとは思わなかったのだろう。目を見開いて驚愕するヘルスだが、顔を横に傾けて陸が投擲した拳銃を避ける。

 

だがその間に、陸はヘルスの懐へと飛び込んでいた。

刀を振り上げる陸。目を見開き、歯を食い縛りながら足を動かし後退しようとするヘルス。

 

陸の刃は、確かにヘルスの体を切り裂く。少なくない血がヘルスの体から噴き出す。

だが、浅い。ヘルスは、まだ動ける。

 

 

「これが、君の本気かい?」

 

 

追い込まれているのはヘルスの方だ。それなのに、ヘルスは笑みを浮かべる。

 

 

「これを待っていたんだよ、僕は!今の君を殺すことを…、僕はずっと待ち望んでいた!」

 

 

初めて見たのは、三年前。

恐るべき立ち回りで、襲いくる組織の一員たちを薙ぎ払っていたその姿。

 

憧れの念を覚えた自分に、怒りを抱いた。

彼を殺すことに、いつから執着していたのだろう。

それも、ただの彼じゃない。本気で、全力で自分に殺意を持った彼を。

 

どうすれば自分に本気で殺意を持ってくれるか。

日本に入国し、彼を観察し始めたのは、彼を見てから二年後。

 

たった一週間という短い期間ではあったが、彼の友人関係はあらかた洗い出した。

特に、小野寺小咲という娘と親しくしていることを知ったヘルス。

 

この女を殺して…、その犯人が自分だと知ったら、彼は殺意を覚えてくれるだろうか?

 

 

(まさか、言葉だけでこうなってくれるとはね)

 

 

眼前で、刀を振り下ろす陸を見ながら心の中でつぶやくヘルス。

陸に対し、ヘルスは剣を振り上げて対抗する。

 

先程とほとんど同じ展開。先程は、そこからヘルスが銃を向け、陸がそれを抑えた。

 

だが、今回は陸が先に動く。ヘルスから距離を取ったかと思うと、ヘルスの視界から陸の姿が消える。

 

 

「え…、きえっ!?」

 

 

陸の姿を見失った直後、右腕から衝撃が伝わる。

衝撃はヘルスの全身を襲い、大きく体を投げ出す。

 

投げ出されたヘルスの体は壁へと叩きつけられ、そして彼の眼前には刀の切っ先が突きつけられた。

 

 

「…やっぱり、強いね」

 

 

「…」

 

 

睨み合う二人。ヘルスが話しかけるが、陸からの返事はない。

 

 

「どうするの?僕を、殺す?」

 

 

この問いかけにも、陸は返事を返さない。

 

 

「僕は本気だよ。君が生かしてくれるのだったら、再び僕は君の前に現れる。その時は…、周りにも危害が及ぶかもね」

 

 

「…だろうな」

 

 

この言葉には、陸も反応した。だが、その反応は言葉だけではなく。

 

ヘルスの体から鮮血が噴き出す。噴き出した血は、陸の顔面から足まで飛び散ってかかる。

 

 

「迷いなし…か…。やっぱり…、きみ、は…」

 

 

ヘルスの体から力が抜けていくのが目に見えてわかる。

 

最後に、彼は何を言おうとしたのだろうか。わからないし、知るつもりもない。

 

陸は、最後にヘルスの死体を一瞥してから部屋を立ち去る。

麻竹会のボスがこの部屋から去っていったが、恐らく王が、叉焼会が対応しているだろう。

 

 

(…これが、俺のしていること)

 

 

まるで、自身に刻み付けるかのように心の中でつぶやいた陸は、すっかり静まり返ったビルの中を歩く。

 

陸の予感通り、一階に戻った陸は、縄で縛られ拘束された麻竹会のボスを含めた全てのメンバーの姿を目にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう。成功した、ね。お疲れね、王」

 

 

『労いのお言葉、感謝します。夜様』

 

 

国内の時間ではもう夜中。そんな中、北京にある叉焼会本部の一室で、夜は受話器を耳に当て王と話をしていた。

 

 

「それで、どうだった?ディアナの様子は」

 

 

そんな夜の口から出たのは、陸の異名でであるディアナ。

 

夜の問いに、王はすぐに答える。

 

 

『単独で、麻竹会のビルを突破。三階の社長室で、レッドスネークと戦闘、並びに撃破。その間、三十分とかかりませんでした』

 

 

「それはそれは…、恐ろしいほどの戦闘能力ね」

 

 

王の答えを聞き、歯をむき出しにしながら笑みを浮かべる。

 

今回の麻竹会とのいざこざ。本当ならば、陸の、ディアナの力など必要なかった。

あの程度で、他の組織から力を借りるほど叉焼会は柔くない。

 

陸を呼び出したのは、この夜の提案だった。

 

当然、昔馴染みが来るという事で羽は喜んで夜の案に賛成する。

 

夜の案の表側は、麻竹会の鎮圧のためにディアナの力を借りる。

だが、その裏側はディアナの能力がどれほどの物か、見極めるため。

 

 

『一条陸…。夜様の期待以上の力を持っているやもしれません』

 

 

「…謝謝。彼は、明日一日ゆっくり休んでから帰るのだろう?」

 

 

『いえ、何でも学校に早く復帰したいから明日には帰ると』

 

 

「おやおや…。そうか。じゃあ、お前も休むといいね」

 

 

夜は目を丸くしながら、王に言葉をかけてから電話を切る。

 

電話を切った後、夜は部屋を出て廊下を歩きながら考える。

 

 

(まさか、王があそこまで言うとは思わなかったね…。やっぱり、羽にはあいつがいいかもしれないね)

 

 

この、夜が心の中で浮かぶ一つの考え。

これが、後に陸のまわりで騒動を起こすこととなるなど、まだ誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のフラグを建てるために書いたこの香港編…。
ここまで長くなるとは思いませんでしたが、これにて終結です。
次回からはいつもの学校生活に戻ります。

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