一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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原作といつも以上に変わらない展開です。最後以外は。


第17話 シャシン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?俺が小咲と千棘に、小さい頃に会ったことがある?」

 

 

千棘の誕生日パーティが終わって次の日の朝。

学校へと向かう道の途中、陸は目を見開いて楽を見ながら聞き返した。

 

 

「ああ。千棘の親父さんが言うにはそうらしい」

 

 

「…ふ~ん」

 

 

何でも、楽が言うには、陸は小さい頃、楽と小咲と千棘と遊んでいた時期があったらしい。

楽他二人もそうだが、陸は全く覚えていない。今も思い出そうとしているのだが、全くその光景を映し出すことができない。

 

 

「でもお前は遊んでた、とは言えなかったらしいぞ?お前、川の流れをじっと見てただけらしいからな」

 

 

「は?何だそりゃ?」

 

 

楽の言葉に、表情を歪めながら問い返す。

 

陸自身、覚えてはいないのだが。

小さい頃、陸は今と違ってかなり寡黙な性格をしていた。

何を話しかけても、うんやらああやら、最低限の返事しか返ってこない。

今とは全く逆の性格をしていたのである。

 

 

「で?小咲と千棘が持っている鍵は、楽が10年前に会った女の子との約束に関係があるんじゃないかと、そう考えているわけだ」

 

 

「ああ…。悪いな、今まで黙ってて」

 

 

今、楽から聞いた話を整理して復唱する陸に、楽は申し訳なさそうに謝る。

だが陸は、笑いながら「いいよ別に」と返してからもう一度口を開く。

 

 

「それで?一番重要な楽のペンダントはどうなった?」

 

 

そう、話の中で考える限り、約束の真相を知るために一番重要なのは、楽が肌身離さず着けているペンダントである。

だが、今日の楽はそのペンダントを着けていない。

 

何でも昨日、千棘の持っていた鍵が本物かどうかを確かめるために、ペンダントに差し込んだのだが…、誤って千棘が折ってしまったのだ。

そして、折れた鍵の先端は、ペンダントの鍵穴の中で取れなくなってしまい…。

 

 

「ああ。集が知り合いに修理を頼んでくれたよ。ちょっと時間がかかりそうな感じだけど、まあすぐ戻ってくるだろうって」

 

 

楽のペンダントは、集の知り合いに預けてある。

腕は確かだから安心しろ、と集が言っていたため安心して大丈夫だろう。

 

 

「おお!楽、陸!おっはよーう!」

 

 

「ん、集」

 

 

「おはよ」

 

 

小さな交差点に出た所で、集が二人の右側の道から現れる。

 

そこからは集も加わって三人で、学校への道を歩き進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おはよう楽」

 

 

「おう…、おはよう…」

 

 

陸たちが校舎の中に入り、下駄箱で靴を履き替えようとすると、すでにそこには千棘の姿があった。

楽が立ち止まり、千棘が立ち止まった楽の姿に気づいて挨拶を交わす。

 

 

「…じゃあ楽。俺は先に行ってるわ」

 

 

「俺も、ちょっと飲み物買ってから行くから」

 

 

両側からポン、と肩を叩いてから楽を置いてそれぞれの目的の方向に進み始める陸と集。

陸は、靴を履き替えて階段を上り、楽よりも先に教室に到着する。

 

 

(…げっ、クロード)

 

 

扉を開け、教室に入ると向かいの木の枝の上でクロードが双眼鏡を構えてこちらを見張っていた。

陸の姿を見た瞬間、いきなりクロードは直立不動して、勢いよく腰を折って頭を下げる。

 

陸はうんざりした表情で横を向き、クロードを無視して席に着く。

 

教科書等を机の中に入れ、時計を見る。

まだ、ホームルームには少し時間がある。

 

 

(…寝るか)

 

 

そう思いながら、ぐったりと机に体重を任せ、目を瞑る。

 

すると、そこに陸と集に置いて行かれた楽と、千棘が並んで教室に入ってくる。

 

 

(あ、あの眼鏡…。なるほど、今日は監視ありの日か…)

 

 

クロードが双眼鏡を通してこちらを見ている。

今日は、気を引き締めて恋人の振りをしなければならない。

 

 

「よ~し…!今日も気合入れて恋人やるか…。いくぞハニー…!」

 

 

言いながら、楽は千棘の肩に手を置く。

同時、千棘の体がびくりと震え、聞きなれないか細い悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「きゃっ…」

 

 

(…きゃ?)

 

 

何だ、今の声は。

訝しく思い、楽は目を千棘に向ける。

 

そこには、顔を真っ赤に染め、俯かせている千棘の姿があった。

楽は、そんなしおらしい千棘の姿に、呆然とつぶやく。

 

 

「お…おい…。何で赤くなってんだよ…」

 

 

「なってない!テキトーなこと言わないでくれる!?」

 

 

声をかけてくる楽に、ムキになって言い返す千棘。

 

大丈夫、なのだろうか?

 

ともかく、今は信じるしかない。

クロードの目の前では、ほんの少しでも怪しいことなどできはしない。

 

 

「おっはよー、一条君に桐崎さん!今日も朝からアッツイね~!!」

 

 

「は、はっはっは!そうだろうそうだろう!!何てったって、俺たちはラブラブカップルなんだからな!!」

 

 

背後から声をかけてくる女子二人。

早速演技の見せ所だ。楽は振り返って、千棘とのラブラブっぷりをアピールする。

 

それに、千棘もつづ…

 

 

「ハハ、ソーネ」

 

 

かなかった。どこかの夢の住人のごとく言葉を発する千棘。

 

疑問符を浮かべるクラスメートたち。絶望に感情を落とす楽。

 

千棘は、どうしてしまったのだろうか。

 

 

 

 

「何やってんだ、あの二人…」

 

 

先程のやり取り、机に臥せながら陸も聞いていた。

 

大丈夫だろうか。あれでは、ただでさえ怪しんでいるクロードが確信を持ってしまう可能性だって出てくる。

 

楽はいつも通りだ。だが、問題は━━━━

 

 

「陸君、おはよう」

 

 

「ん…、小咲。おはよう」

 

 

何時の間に来ていたのか、小咲が陸の傍らに立って、笑みを浮かべながら挨拶をしてきた。

陸も、体を起こして笑みを浮かべて挨拶を返す。

 

 

「…ねえ陸君、千棘ちゃんと一条君。喧嘩でもしてるの?」

 

 

「あ?あぁ~…、そういうわけじゃないんだけど…。千棘がなんかな…」

 

 

小咲も違和感を覚えていたのだ。

そして、先程の続きだが、問題は千棘である。

つい昨日までは問題なかった。楽に触られたら、大体殴るか、演技の途中であれば密着し返すというやり取りを繰り広げていたはずなのに。

 

今日になって、急に変わってしまった。

今も、頬を染めながら楽と口論する千棘。二人は、クラスメートの視線が向けられていることにも気づいていない。

 

 

「…ホントに、どうしちゃったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の口論は、チャイムが鳴り響いたことにより強制的に終了させられる。

クラスの生徒たちは全員席に着き、少しするとキョーコ先生が教室の中に入ってくる。

 

キョーコ先生は教壇に両手を置いて、生徒たちを見ながら口を開く。

 

 

「はーい、皆ちゅーもーく」

 

 

どこか別の場所に視線を向けている生徒も、その言葉でキョーコ先生に視線を向ける。

全員がこちらを向いていることを確認したキョーコ先生は、伝えるべき情報を話し始める。

 

授業について、提出したノートについて。

そして、林間学校の写真が焼き上がったことを生徒たちに伝える。

 

 

「各自欲しい写真の番号を書いて提出すること。…後、恥ずかしくても好きな人の写真は手に入れとけよ?だいじょーぶ!先生、誰が誰の写真を購入したなんて野暮なこと言わないから」

 

 

何を言っているんだこの人は。

教室にいる生徒たちの心はシンクロする。

 

そして、一時間目二時間目と授業時間は過ぎていき、放課後。

陸たちは、林間学校の写真が張り出されている廊下へとやって来た。

すでに写真の前は大勢の人が殺到している。

 

これは、写真を選ぶのに苦労しそうだ。

 

 

「うわぁ~…。これ、好きなのを選んでいいの!?」

 

 

「そうだけど…。あんまり買いすぎるなよ?」

 

 

張り出されているたくさんの写真を見て、千棘が目を輝かせている。

 

陸は、そんな千棘の様子を横目で眺めていた。

 

 

(朝はどうしたのかと思ったけど…、大丈夫、なのか?)

 

 

陸がそう思った次の瞬間には、いつの間にか人の波を乗り越えて最前線へと行き、鶫と一緒にはしゃいでいる姿があった。

 

大丈夫なのだろう。ともかく、自分たちも写真を選ばなければ。

 

陸たちも千棘と鶫に続いて人の波を乗り越え、一番前の列へと辿り着く。

 

 

「私、るりちゃんと写ってる写真が欲しいなー」

 

 

「私は別に」

 

 

「え」

 

 

自分が写っている写真を探しながら、小咲とるりが言葉を交わす。

すると、不意にるりがある写真を見つけ出す。

 

 

「あ、これなんてどう?私と小咲が写ってるよ」

 

 

「え?どれどれ?」

 

 

るりが指差す写真、486番。

小咲はもちろん、陸たちもその写真に目を向ける。

 

確かにその写真には、小咲とるりの後姿が写っていた。…かなり小さいが。

その写真のほぼ全面に、陸の姿が写っていたが。

 

 

「え?これ?小さ…」

 

 

「これならもっと探せばいいのがあると思う…、ていうかこれ俺じゃん」

 

 

明らかに陸メインで写されている写真である。

これだったらもっと探せば良いものが見つかるだろう。

 

とりあえず、自分の姿が写っているという事で486番を申込用紙に書き込んで、再び写真を探し始める陸。

 

その間、小咲は顔を真っ赤にして、ポコポコとるりの頭を叩いていた。

 

 

「あ、これ。陸と小野寺が写ってるぞ?」

 

 

「え?」

 

 

「え!?」

 

 

すると、今度は楽がある写真を見つけた。

陸と小咲、そしてるりと千棘も楽の指さす方に目を向ける。

 

今度は、521番。陸と小咲が並んで写っている。

それも、肝試しのスタートする直前だったのだろう。二人は手を繋いでいた。

 

 

「おお…」

 

 

「…」(ど、どうしよう!欲しい!でも、こんな写真を買ったなんて誰かに知られたら…!)

 

 

見事に自分が写っている写真を見て陸は感嘆し、小咲は顔を真っ赤にして買おうかどうか全力で迷い始める。

 

そして、小咲が出した決断は…。

 

 

「な、中々ないね?欲しくなる写真って!」

 

 

今はこう言って誤魔化すことだった。

さすがにこの場ですぐに決断を下せるほどの勇気を、小咲は持っていなかった。

 

だが、この男は違ったのである。

 

 

「え?いらないの?俺は欲しいけど…」

 

 

「っ!…っ!」

 

 

小咲はさらに耳まで赤く染めて絶句する。

何と、陸は申込用紙に521番を書き込んでいたのだ。何のためらいもなく。

 

 

「え、あ…。ほ、欲しい!もちろん欲しいよ!?」

 

 

「だよなぁ~。俺と小咲が写ってるのなんて、珍しいんじゃないか?」

 

 

(((すげえよ…。あんた、マジですげえよ…)))

 

 

どこか悲しげに見える陸の表情を見て、慌てて小咲も申込用紙に番号を書き込む。

そして、笑みを浮かべながら言い放つ陸を見て、楽たち三人は心の中だけで声を揃え、つぶやくのだった。

 

陸はその後、楽たちから少し離れた所で写真を探し始めた。

まだ写真選びを始めたばかりの生徒が多いのだろう。奥の方の写真は、立っている生徒の姿がなく、楽に探せると判断したからだ。

 

何やら背後で集のくぐもった悲鳴が聞こえてきたが、無視して陸はそこで写真を探し始める。

 

 

「…ん?これ…」

 

 

そこで、陸は一枚の写真に目をつける。

一見、それは満面の笑みを浮かべる千棘の姿がメインの写真だ。

 

だが、陸が見つけたのはそこではない。

千棘の後ろ、少し開いた扉の向こうに映る小咲の姿。

 

それは、まさに着替えの途中という危ない光景だったのだ。

 

 

(…先生、ちゃんと検閲しろよ。さっさと持ってって、先生にデータを消してもらうか)

 

 

幸い、この写真を見た生徒はいないようだ。

陸はさっ、とその写真を取り出して職員室へと向かう。

 

そして、廊下の角を曲がろうとして、体の向きを変えた所で…。

 

 

「あ…。悪い」

 

 

「あ、ゴメンナサイ!」

 

 

誰かにぶつかってしまった。

さらにその拍子で写真が落ちてしまう。

 

陸は、落とした写真を拾うためにしゃがもうとしたところで、ぶつかった相手の顔を目にする。

 

 

「…あれ?小咲?」

 

 

「陸君?」

 

 

陸とぶつかった相手は小咲だった。

先程、写真を選んでいたのになぜこんな所にいるのか。だが、それを問うことは出来なかった。

 

 

「あ、これ…。陸君の写真?」

 

 

「あ!」

 

 

さすがの陸も焦る。

小咲が、床に落ちた写真を拾おうとする。

 

それは、先程取り出した小咲の着替え中の光景が写ってしまった写真なのだ。

そんな写真を見られたら…。

 

 

「…これ」

 

 

「っと、ありがとな拾ってくれて。じゃ、俺ちょっと用事あるから」

 

 

見られたか?いや、大丈夫だ。

 

内心で繰り返しながら小咲から写真を奪うような形で受け取り、改めて陸は職員室へと向かう。

 

呆然と、陸の背中を眺める小咲の視線に気も向けないで。

 

 

「今の写真…」

 

 

先程、陸が落とした写真を拾った小咲。

一瞬だけだが、その写真に写った満面の笑みを浮かべる女の子の顔を見てしまった。

 

 

「千棘ちゃん…」

 

 

可愛らしい赤いリボンを着けた女の子。この学年にはたった一人しかいない。

 

しかし、何故陸はそんな写真を持っているのか。

…いや、わかっている。わかっているが、認めたくないだけなのだ。

 

 

(陸君…、もしかして…)

 

 

小咲の心に、影が差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題の写真を届け、解決した陸は家へと帰ることにした。

まだ、写真を選ぶ期間は続く。無理して今日中に選びきる必要はないと考えた。

 

 

「おう、帰ったか陸」

 

 

「ん、珍しいな親父。今日はずいぶんお早いお帰りだな」

 

 

笑みを向けて迎える親父を、陸は皮肉を込めた言葉を浴びせる。

しかし、親父は全く気にすることなく、がっはっはと豪快な笑いを上げる。

 

だがその直後、浮かべていた笑みをすっ、と引いて、鋭い視線を陸に向ける親父。

 

 

「陸、話がある。俺の部屋に来い」

 

 

「…」

 

 

先程までの緩んだ空気はどこへ行ったのか。

すっかり冷え切った空気を残して親父はその場から歩き去っていく。

 

陸は、去っていく親父の後姿を少しだけ眺めてから視線を戻し、靴を脱いでから自分の部屋へと向かって荷物を置く。

そしてすぐに親父の部屋へと向かう陸は、先程の親父の表情を浮かべる。

 

あの表情を浮かべた親父が話すこと、大体予想が着く。

前回は中三の秋。いつもと比べて間隔は狭いが、妥当なラインだろう。

 

親父の部屋に入った陸に、何の脈絡もなく親父は言い放った。

 

 

「陸。てめえには明日から、香港に行ってもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から超オリジナル話です。陸君は香港へと向かいます。
香港で、陸君は何をするのか…。

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