一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第15話 ナマエデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸ー!!」

 

 

C組の前の廊下。

そこに立っていた陸、小咲、るり。

 

その横を通ろうとした、たくさんのノートを抱えた千棘が陸を呼ぶ。

 

 

「この日誌、どこに持っていけばいいんだっけ?」

 

 

「ん?さっき先生が理科準備室に持ってけって言ってたじゃん」

 

 

陸が問いに答えると、千棘はそっかそっか、と言いながらどこか危なっかしくふらふらとしながら歩いていく。

 

 

「…?千棘、お前何してんだ?」

 

 

「見て分かんないの?ノートを運んでるのよ」

 

 

「ふーん。…手伝うよ、ほら」

 

 

「い、いいってば!」

 

 

「お前は良くても俺たちは良くないんだよ。お前に転ばれでもしたらノートが汚れるじゃねえか」

 

 

「何ですって!?」

 

 

「何だよ!」

 

 

千棘が歩き出すと、教室の中から楽が現れて千棘に話しかける。

結果、並んで歩きながら口論を始める。すぐに姿が見えなくなったため、その先どうなったかはわからない。

 

 

(…林間学校から、本当に距離が縮まったよなあの二人)

 

 

陸の思う通り、楽と千棘はあの林間学校の中で距離がかなり縮まった。

何がきっかけとなったかは大体予想が着く。あの大勢の男子たちの追跡を振り切って戻ったときに聞いたあれ。

 

千棘が森の中で迷い、楽が迎えに行ったという話。あれがきっかけとなったのは間違いないだろう。

 

それに、何より二人の距離が縮まった証拠ともいえる…

 

 

「名前…?」

 

 

「え?」

 

 

陸がいろいろ考え込んでいると、隣の小咲が陸に顔を向けて聞いてきた。

 

 

「ああ。あの二人が名前で呼び合うようになってさ。何がなんだかわかんないけど、俺も千棘と名前で呼び合うようになったんだ。普通に俺たちは名字で呼び合えばいいと思うんだけどな」

 

 

「っ!」

 

 

楽だけでなく、陸も千棘と名前で呼び合うようになったのだ。

そうなったのは、昨日千棘が楽の家に来た時だったのだが、言われた時、陸はきょとんとした。

 

ついでにという事でそう言う風になったのだ。

何がついでなのか、さっぱりわからないが。

 

それと、何故か楽が必死に千棘を止めようとしていた。

初め、千棘は不思議そうな顔で楽を見ていたが、いきなり何かを察したように目を見開いたが、その時にはすでに遅く、陸は千棘を名前で呼んでしまったのだ。

 

 

「…おふぅっ!」

 

 

「!?」

 

 

昨日のことを思い出していると、急に小咲のくぐもった声が聞こえてくる。

慌てて目を向けると、小咲は横腹を抑えて蹲っていた。

 

 

「い、痛いよるりちゃん…」

 

 

「うるさい、先越されたあんたが悪い。…あんたもいっそ、名前で呼びなさい」

 

 

「できないよ…」

 

 

「?」

 

 

こそこそ小咲とるりが話しているが、陸の耳にその言葉は届かない。

何を話しているのか、小咲に聞こうと口を開こうとした時、教室の扉が開いて中から鶫が現れた。

 

 

「おい、でぃ…一条陸。貴様、お嬢を見ていないか?」

 

 

「千棘なら、楽と一緒に理科準備室に行ったぞ?」(今、ディアナって呼びかけたな)

 

 

「そ…、貴様!いつの間にお嬢を呼び捨てに!?」(気にするな)

 

 

陸の答えを聞いた鶫は、そのまま自身の本題に入ろうとしたが寸での所で陸の千棘の名前呼びにツッコミを入れる。

あまりに自然に呼ぶものだから思わずスルーしかけた。

 

陸は、先程した説明を鶫にする。鶫は初め、般若のごとき表情をしていたが、説明を終えた頃にはいつもの表情に戻っていた。

 

 

「なるほど。…まあ、お嬢が良いと言うのなら私が口出しする権利などない。っと、それよりもだ」

 

 

陸から理由を聞いて納得した鶫は、本来の本題の話に入る。

 

 

「実は、皆さんにお嬢には内緒のお話があるのです。丁度お揃いのようですし、少しお時間を下さいませんか?」

 

 

「…集は?」

 

 

「それに、一条兄君もいないわ」

 

 

「…あの男はいらん。それと一条楽には、一条陸。貴様が伝えておいてくれ」

 

 

「何かわかんないが、わかった」

 

 

今この場にいない、千棘を除いたメンバー、集と楽については解決した。

…解決したのだ。

 

 

「実は今日、お嬢のお誕生日なのです!なので、私はお嬢を楽しませて差し上げるべく、サプライズバーティ等を計画中でして。ぜひそのパーティに皆さんをご招待したいのです」

 

 

「パーティ?」

 

 

「わー!もちろん行くよ!」

 

 

「誕生日か…。なら、プレゼント用意しなきゃな」

 

 

何と、今日は千棘の誕生日だったらしい。

それは何ともめでたい。陸たちは当たり前のごとく鶫の招待を受ける。

 

すると、るりが千棘の誕生日プレゼントについて話しを始めた陸と小咲を見て、何かを思いついたかのように掌をポン、と叩いた。

 

 

「小咲、一条弟君。二人でプレゼント選んできなよ」

 

 

「えっ!?」

 

 

「え?」

 

 

いきなりそんなことを言いだするりに、小咲は驚愕し、陸も小咲ほどではないが驚いて目を丸くする。

 

 

「るるる、るりちゃん!?」

 

 

「宮本、お前は来ないのか?」

 

 

小咲と陸がるりに問いかける。

だが、るりは何処かで聞いたことのあるような棒読みで二人を流す。

 

 

「あーじつはきょうずっとおなかいたくてさー」

 

 

「お昼、A定食二つも食べてたでしょ!?」

 

 

「ほら、二人で相談した方が早く決まるでしょ?」

 

 

「なら宮本も来た方が…」

 

 

「いいからとにかく行け」

 

 

「「え」」

 

 

変な言い訳をするるりに食い下がる小咲に、陸もるりも一緒に来た方が早いのでは、と聞くが最後には問答無用。

るりは二人に命令して黙らせる。

 

 

「よし。喫茶店に五時に集合。もちろん、二人とも私服でね」

 

 

「何でそこまで細かく!?」

 

 

「宮本は来ないのに…」

 

 

もうこれ以上、るりに口答えすることは許されなかった。

陸と小咲は強引に家へと帰される。

 

 

「あ、一条弟君。一条兄君には私が伝えておくから安心して」

 

 

あ、最後の退路が絶たれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、家で制服から私服に着替えて喫茶店にやってきた陸。

店の中の窓際のテーブルについて、コーヒーを飲んでいた。

 

店の中ではかなりのカップルが寛いでおり、どこか空気が色づいているような気がしてならない。

陸を除く、男一人で来ている客は居辛そうにしている。

 

 

(しかし、何か最近の宮本は強引な気がするな…。特に、俺と小野寺が関するときは)

 

 

そんなことを思いながら、陸は持っていたカップをテーブルに置く。

 

 

(…これ、何かデートっぽくね?)

 

 

本当に不意に、いきなりのこと。陸はそんなことを考えた。

今陸は気づいたのだが、店の中にはカップルがたくさんいる。

カップル専用のドリンクを飲んでいる強者もいる中、この席で自分と小咲が話していたら…、デートに見られるかもしれない。

 

 

(…て、そんなわけないか。俺と小野寺はただの友達だ)

 

 

そう。そんなはず、あるわけがない。そんなこと、許されるはずがない。

 

 

(俺が、小野寺みたいな素敵な人とデートとか、できるわけがない)

 

 

時間は、過ぎていく。

陸が店内の待つ中、ついに集合時間を過ぎてしまった。

 

 

(遅いな小野寺…。まさか、何か事故でも!?)

 

 

一瞬出かかった考えに、思わず立ち上がってしまいそうになる陸。

だがその直後、店の外に現れた人影にそれは止められる。

 

走ってきたのだろう、頬を紅潮させ、息が荒くなっている小咲が店の外で立っていた。

それだけではなく、小咲はきょろきょろと何かを探しているように辺りを見回している。

 

 

(…あ、これって俺を探してるんじゃ?そういえば、店内にいるって言ってなかったな)

 

 

そこでようやく陸は、店内で待ち合わせだと言っていないことに気が付く。

 

外に出て呼びに行くか、と思った時、小咲は店内に目を向ける。

 

気付いたか?目が合ったような気がしたため、そう思った陸だったがそれは違った。

 

小咲は窓に向かって深呼吸をすると、前髪を整えて…、ニコッと笑った。

まるで、デートの相手を待っている女の子が、身なりを整えて気合を入れているかのように。

 

 

「…」

 

 

ぽかん、と口を開ける陸。

その頬が、僅かに紅潮していることに本人は気づかない。

 

 

「…?」

 

 

すると、窓の向こうにいる小咲も陸が視線を向けていることに気づく。

座っている陸に目を向けて…、みるみる顔が赤くなっていった。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

少しの間見つめ合っていた二人だったが小咲が慌てて店内に入ってきたことでそれは途切れた。

小咲は陸が着いているテーブルまでやってくると、陸の向かいの席に座って、テーブルに崩れ落ちた。

 

その体勢で居続ける小咲。その間、何も話さない陸。

 

そして、不意に小咲が顔を横に向けて口を開いた。

 

 

「で…では早速、千棘ちゃんのプレゼントについて相談しようかな…?」

 

 

(…そうか。スルーしてほしいのか。わかった、任せろ)

 

 

心の中だけで、胸にとん、と拳をぶつける陸。

 

 

(しかし…。小野寺の私服姿って初めて見たけど、普通に可愛いな。今までは制服姿でしか話したことないから、何か新鮮だ)

 

 

店員にコーヒーを注文している小咲を見ながら思う陸。

…小咲は、去っていく店員に笑われたことにショックを受けている。

 

どうやら、先程の光景を見られていたようだ。

恥ずかしさに再び紅潮するが、小咲はすぐに気を取り直して陸の方を向いて問いかける。

 

 

「ねえ、誕生日ってどんなもの貰うと嬉しいかな?」

 

 

「ん、うーん…。俺は男だからな。千棘が好きそうなものは、同じ女子の小野寺の方がわかるんじゃないか?」

 

 

「んー…」

 

 

小咲の問いかけに、逆に聞き返す陸。

正直、答え方としては最低だがしかし陸は男だ。

さらに、女の子の誕生日プレゼントなど上げたことがない。何が欲しいかなど、わからないのだ。

 

 

「…よしっ。お店で見ながら考えようよ!きっとその方が早いと思う!」

 

 

「そう、だな。よし、そうしよう。じゃあさっさと飲み物飲んで店出ようぜ」

 

 

そう言ってから、陸はコーヒーを飲みほす。

だが、小咲はまだコーヒーを頼んだばかり。それもまだコーヒーが来ていないのだ。

 

 

「あ…、小野寺。慌てなくていい、ゆっくりでいいから」

 

 

頼んだアツアツのコーヒーを急いで飲もうとする小咲を、陸は慌てて止めた。

 

 

 

 

 

 

 

「良かったね~、良いものが見つかって。喜んでくれるかな?千棘ちゃん」

 

 

「そうだな。喜んでくれると思うぞ」

 

 

ホクホクとした表情で、それぞれ袋を持って歩く陸と小咲。

 

だが、小咲のホクホク顔は直後、収まってしまった。

どこか真剣そうな表情で陸のホクホク顔を見つめる小咲。

 

じっと見つめられれば、当然陸は気づく。

はっ、と我を戻して小咲に視線を向ける。

 

 

「どうした小野寺?俺の顔に何かついてるか?」

 

 

ぺたぺたと顔を触りながら聞いてくる陸に、小咲は体の前で両手を振りながら首を横に振る。

 

 

「ち、違う違う!えっと…」

 

 

どうしようか、小咲は心の中で悩む。

 

けど、知ってほしい。陸には、知ってほしい。

 

小咲は、決意した。

 

 

「ねえ一条君、ちょっと寄り道していいかな?」

 

 

「ん?」

 

 

そう言って、小咲は陸を先導する。

二人は住宅街の中を歩き、時には車道を横切って、長い階段を上って。

狭い路地を通ると、そこには絶景が存在していた。

 

 

「おおー…。こんな狭い路地の奥にこんな所が存在するとは…」

 

 

「昔、偶然見つけたの。私の秘密の場所なんだ」

 

 

景色に目を向けて感嘆の声を漏らす陸に、こちらも景色に目を向けながら説明する小咲。

 

良い所でしょ?と、聞いてくる小咲の顔は明るい。

 

何かやりきった、という感じを受ける表情をする小咲に目を向けて陸は問いかける。

 

 

「すごいなホントに…。他には誰が知ってるんだ?」

 

 

「知らないよ?」

 

 

自分なんかに教えてくれるのだから、他にも知っている人がいると思っていた陸。

だが、返ってきた言葉は予想していたものとかけ離れたものだった。

 

 

「…え?」

 

 

「誰にも教えてないよ?一条君に初めて教えたの」

 

 

無邪気な笑みを浮かべて言う小咲。

そんな小咲に、躊躇いがちに口を開く陸。

 

 

「え、いや…。いいのか?そんな秘密、俺なんかに教えちゃって?」

 

 

「一条君、だからだよ。私、一条君に知ってほしいって思ったから教えたんだよ?」

 

 

何だろう、今日の小咲はいつもより積極的な気がする。

まるで、消極的な彼女を持つ彼氏のような気持ちを感じる陸。

 

だが、誰にも教えていない秘密を自分に教えてくれた。

これは、誰にも言う訳にはいかないだろう。

 

 

「そう、か…。ありがとな小野寺。俺、ここのこと絶対言わないから。約束」

 

 

言いながら、陸は右手の小指を小咲に向ける。

小咲は一瞬、向けられた小指を見てきょとんとするが、すぐに何かを察して笑顔になる。

 

 

「うん!約束だよ?陸君」

 

 

そう言いながら、小咲も右手の小指を出して…、指切りをする。

 

 

「…小野寺。その…、名前」

 

 

「あ…、嫌だった、かな」

 

 

今までと違い、名前で呼ばれたことに驚く陸。

そんな陸を見て、嫌がっているのでは、と感じた小咲は手をさっ、と戻して不安げに視線を逸らす。

 

今日は何故だか積極的に行けたため、陸を名前で呼んでみたのだが…、まさか、嫌だった?

 

不安に感じる小咲。だが、すぐに陸がその不安を晴らす。

 

 

「いや…。嫌じゃないよ。…小咲」

 

 

「あ…」

 

 

名前…

 

呆然と陸に視線を向けて眺める小咲。

 

名前で、呼ばれた…

 

少しずつ、実感がわいてくる。

笑みが、止まらない。

 

 

「ありがとう…。陸君」

 

 

浮かんだ笑みを存分に陸に向ける小咲。

釣られて、陸もまた笑みを止められなくなる。

 

 

「じゃあそろそろ千棘んちに向かうか。時間もちょうどいいし」

 

 

「あ、そうだね。行こうか」

 

 

気付けば、そろそろ良い時間である。

陸と小咲は、その場を去って千棘の家へと向かう。

 

 

「そうだ。小咲の誕生日は何時なんだ?」

 

 

「え?私は…、実は、一週間後なんだ」

 

 

「は?もうすぐだったの?うわ、急いでプレゼント用意しなきゃな」

 

 

「い、いいよ!そんな無理しなくて!それより、陸君の誕生日は何時なの?」

 

 

「え?俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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