一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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林間学校編2話目です


第13話 リンカン(2)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作り上げたカレーを満喫した陸たちは、その後宿舎の部屋へと移動した。

扉を開け、集を先頭に部屋の中へと入っていく陸たち。

 

 

「おお~、ここが俺たちの泊まる部屋か~」

 

 

「思ったより広いね~」

 

 

集と小咲が、部屋の広さに笑みを浮かべながら感嘆の声を上げる。

 

え?何で男子と女子が同じ部屋に入っているかだって?

知るか。知りたいならば、凡矢理高校の教師たちに聞けばいいじゃない。

 

とまあ、男子女子関係なくそれぞれの班に部屋が割り当てられているこの林間学校。

陸たちはそれぞれの荷物を部屋の中に置いて寛ぎ始める。

 

 

「襖越しとはいえ女子と同じ部屋に寝られるなんて…。なあ陸、ホントこの学校に入って良かったよな!」

 

 

「いや、俺はそういうのは別に…」

 

 

自分の気持ちを素直に言い、さらに陸まで巻き込んでいく集。

そんな集に陸もまた自分の気持ちを素直に言う。その際、小咲がぴくりと震えた気がしたのだが、気のせいだとすぐに結論付ける陸。

 

 

「ところで舞子君、あなたはベランダと廊下のどっちで寝るの?」

 

 

「え!?部屋で寝ちゃダメなの!?」

 

 

バスの中で激闘を繰り広げた集とるりが、今度は言い争いを始める。

というより、集が一方的に罵声を浴びせられているのだが、その愉快な会話を聞きながら陸は千棘をちらりと見る。

浮かない顔で俯き、何か迷っているように見える。

 

理由はわかっている。楽の額の古傷の原因を聞いたからだ。

だが、それが一体千棘と何の関係があるのだろうか。それが陸には分からない。

 

 

「そうだ。千棘ちゃんは温泉に入ったことってあるの?」

 

 

「この旅館、温泉があるんだってー」

 

 

「温泉!?私、一度温泉に入ってみたいって思ってたの!わー楽しみ~!」

 

 

「わ、私、大勢でお風呂なんて初めてで…」

 

 

俯いていた千棘は、小咲に話しかけられたのをきっかけとしたのか、明るいいつもの様子を取り戻し女子たちで話に花を咲かせ始める。

その様子を見た陸は、ふう、と息を吐いた。

 

今、千棘にあの時のことを聞くのは少しまずいかもしれない。

それに、そんなに大した問題でもないのかもしれない。今は置いておこうと陸は決めておく。

 

 

「さて、自由時間もまだあるし、せっかくだからトランプでもやろうぜ?普通にやってもつまんないし、負けたら罰ゲームで!」

 

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら集が不意にそんなことを言い始める。

小咲がそんな集に「罰ゲーム…?」と不安げな表情で問いかける。

 

 

「そうだな…。負けた人は自分のスリーサイズを…」

 

 

「舞子君?」

 

 

「冗談です!」

 

 

罰ゲームを自分の欲望のままに告げる集を、るりが威圧して止める。

とはいえ、このまま終わってはつまらない。集はめげずに欲望に従って罰ゲームの案を口にしていく。

 

 

「じゃあじゃあ、今日の下着の色を…」

 

 

どすっ

 

ボディーブロー

 

 

「自分のセクシャルポイントを…」

 

 

ばきっ がすっ

 

顔面への、右左のワンツー

 

 

「体を洗う時、まずはどこから…ぎゃあああああああああああ!!!」

 

 

べきっ

 

鼻への左ストレート

 

容赦ないるりの攻撃に、ぼろぼろになって倒れた集。

それでも、彼の精神力はまだ死んでいなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ…。初恋のエピソードとか…」

 

 

「…それくらいなら」

 

 

集が口を開いた瞬間、自身の拳をスタンバイさせていたるりは、集の口から出てきた意外にもまともな案を聞いて拳を止める。

 

 

(初恋か…。まだ来てないし、俺がやっていいものか?ま、デメリットはないし、純粋にトランプを楽しむとしますか)

 

 

罰ゲームが、初恋のエピソードを話すに決まったのだが、陸は今まで生きてきた中で恋というものをしたことがない。

つまり、陸には負けても罰ゲームなし。ただただ純粋にトランプゲームを楽しむことができるのである。

 

何故か、顔を真っ赤にしている楽に千棘、小咲に鶫には悪いが、自分は四人の反応などを見ながらゲームを楽しませてもらおう。

陸は心の中でそっとほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

そんな中、始まったトランプゲーム。種目は、集の一声で決まったババ抜きである。

 

順番は、陸、集、千棘、楽、小咲、るり、鶫の順で時計回りに円で並んでいる。

鶫から始まり、鶫は陸の手札から一枚カードを引き、次にるりが鶫の手札から一枚カードを引く。

そして、次は小咲がるりの手札からカードを一枚引くのだが…。

 

 

「…っ!!!!!?」

 

 

((((わかり易っ!!!))))

 

 

陸、楽、集、るりの四人が同時に心の中で叫ぶ。

それほど、小咲の態度はわかりやすかった。

顔を絶望に染め、汗をかきながら口をあわあわと開閉させている。

 

明らかに、ババを引いたことがわかる。

 

 

「は、はい。次、一条君」

 

 

「お、おう…」

 

 

そして、楽も小咲の手札から一枚カードを引こうとして、手をかける。

 

 

「…」

 

 

小咲の顔が、蕩けてしまいそうな笑みを浮かべる。

楽は疑問に思い、その隣のカードに手をかける。

 

 

「…」

 

 

しゅん、と小咲の顔がしぼむ。

楽は、再び先程手にかけたカードを触る。

 

 

「…」

 

 

また、小咲の顔が花開く。

 

 

(ジョーカー!?これ、絶対ジョーカーだろ!!)

 

 

内心、絶叫する楽。

 

楽がどちらを選ぶか、ドキドキしているのか、小咲は顔をきゅっ、と…引き締めているのかそうでないのかわからない表情になる。いや、本人は引き締めているつもりなのだろうが、その表情が猛烈に楽のツボをつつく。

 

 

(…あぁ~、俺のバカぁ~!)

 

 

ジョーカーがどれかわかっている。それと違うのを引けば得なのはわかっている。

だが、それでも。

 

楽は思わず、小咲の手札から一枚引く。

途端、小咲は蕩けたようにふぅ~、と息を吐いて落ち着き始める。

 

そう、楽はジョーカーを引いたのだ。

 

損なことをしているのだが、まだまだゲームは始まったばかり。

勝負はこれからである。

 

 

(あ、それ、ジョーカー…)

 

 

楽が、自分に言い聞かせている間に千棘が楽のジョーカーを引いてしまった。

途端━━━━

 

 

((((だから、わかり易いって!!!))))

 

 

千棘の顔が絶望に包まれた。

 

千棘が、沈んだ表情のまま手札を集に向けると、集はすっ、と一枚カードを引いて自分の手札に加える。

 

集は、自分の手札をランダムにシャッフルしてから陸に向ける。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

陸は、手を集の手札の前で止めて、集の目をじっと見つめる。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

動かない二人。

陸は鋭い視線で集を射抜くが、集は顔に笑みを張り付けてまったく動かない。

 

…二人の中では、すでに激しい戦闘が始まっているのだ。

 

 

(さっき、桐崎さんがジョーカーを引いたのは間違いない。後は、集がジョーカーを引いてるかどうかだが…)

 

 

(…やばい、見てる。さっさとカード引いちまったからなぁ…。楽みたいに反応を見てから引けばよかった)

 

 

千棘以外知らぬことだが、集は先程千棘の手札からジョーカーを引いてしまっている。

だから、内心は陸の視線にびくびくしているのだがさすがは集。それを外に全く出さない。

 

 

「…集、お前。ジョーカー引いたか?」

 

 

「さあ?どうだろうね?」

 

 

一言交わし、再び睨み合う二人。

だが、それも一瞬のこと。陸が口を開いた。

 

 

「集。お前、嘘を吐くとき目が揺れる癖があるぞ」

 

 

(((((え?そうなの?)))))

 

 

「そうか?」

 

 

「…ちっ、さすがに引っかからないか」

 

 

(((((嘘なのかよ!)))))

 

 

盛大に心の中でのツッコミを受けながらも、にらみ合いを続ける二人。

 

十秒、二十秒。…一分。

陸と集の頬を、一筋に汗が流れたその時だった。

 

 

「さっさと引け!」

 

 

「へぶっ」

 

 

隣のるりが、陸の頭にチョップを喰らわせる。

 

ずっとにらみ合いを続ける二人に、ついにるりの我慢の限界が来たのだった。

 

 

 

 

進むババ抜き。

そして、ついに残ったのは二人になった。

 

一人は、一条楽。そしてもう一人は、桐崎千棘。

 

あの後、再び小咲にジョーカーが回ってきたが、身を切る思いで非情となり、ジョーカーをスルーし続けた。

だが今日の小咲は相当の運を持っていた。手札の枚数、そして引いたカードの組み合わせによりどんどん手札の数を減らしていき、最後に残ったカード(ジョーカー)を楽に引かせて上がったのだ。

 

その結果、残ったのは楽と千棘の二人になったのである。

 

さあ、どちらが勝ち、どちらが負けるのか。

だが結果はわかり切っている。全員の予想は、楽の勝ち、だ。

 

今も、楽がクラブの2のカードに手をかけると千棘の表情がくわっ、と絶望に染まる。

これで楽はどちらがジョーカーかわかっただろう。後は、楽は自分が勝てるカードを引くだけだ。

 

 

「…」

 

 

「…あ」

 

 

楽がカードを引く。だがここで勝負は終わらない。

楽が引いたのはジョーカーだったのだ。

 

 

(…バカか。ホント、そんな性格してるよ楽は)

 

 

苦笑しながら内心つぶやく陸。

そんな中でも、勝負は続く。

 

千棘がゆっくりと手を差し出して…、カードを引く━━━━

 

 

「くぉらぁああああああ!!集合時間はとっくに過ぎてるぞおおおおおおおお!!!」

 

 

と思われた瞬間、襖が勢いよく開かれ、怒鳴りながら部屋の中に入ってくるキョーコ先生、

 

 

「とっとと準備して集合しろ!!!」

 

 

「うっは!早く行こうぜ!」

 

 

ふん、と勢いよく鼻から息を吐いてからキョーコ先生は去っていき、それに続いて陸たちも部屋を出て行く。

 

だが、皆が部屋を出て行く中、楽と千棘はそれぞれの手札を見ていた。

 

 

「…良かったな」

 

 

楽は、持っていたカードを放りながら部屋を出て行く。

座り込んでいた千棘が、そんな楽を不満げに見上げる。

 

千棘が持っていた二枚の手札。その手札の中には、ジョーカーが入っていたのだった。

 

 

 

 

 

部屋を出た陸たちは、クラスメートたちと共に食堂で夕食を取った。

基本、ここでの食事は食い放題で、店員に注文すれば用意してくれる。

 

男子も女子も、そのテンションのままに食べ進めていく。

その結果、腹は膨れ、食事を終えた全ての人たちは満足げな表情を浮かべる。

 

 

「さてと…。楽、陸。風呂に行こうぜー」

 

 

「…覗きしようなんて言わねえよな」

 

 

「言わない言わない!俺だってもうガキじゃねえんだから!」

 

 

不安だ。

集はそう言うが、やりかねないのが集である。

 

入浴時間は男女それぞれに振り当てられており、男子が先に入り、男子に当てられている入浴時間が終わると同時に女子の入浴時間が始まる。

何故そんな変な仕組みになっているのか。それは集みたいなやつを警戒してだろう。

要するに、覗き対策だ。

 

なので、基本覗きは不可能なのだが…、集なら何かをしでかしかねない。

 

 

「おーい一条兄ー。フロントに電話が来てるぞー」

 

 

三人で部屋に戻る途中、キョーコ先生が手招きしながら楽を呼ぶ。

 

誰からの電話か、楽は不思議に思いながらフロントへと向かっていく。

 

そんな楽を、物陰から睨みつける不審な影があった。

 

 

(ふふふ…。一条楽、貴様の社会的生命は…、今日で終わりだ!!)

 

 

(ん?あいつ、クロード?何でここにいるんだ?)

 

 

クロードの殺気に気が付いた陸は、振り返って彼の姿を見つける。

 

 

(…何かするつもりじゃないだろうな)

 

 

内心でつぶやきながらも、陸は無視して部屋へと向かう。

さすがに、こんな場所で騒ぎを起こせるわけがない。そんなことをすれば逆にクロードに被害が及ぶ。

 

そう考えながら、きっと大丈夫だろうと結論付けて部屋に戻った陸は、集と共に風呂場へと向かう。

 

そして、陸と集が男子の脱衣所へと入った直後だった。

 

 

(ふふふふ…。さて…)

 

 

クロードがあくどい笑みを浮かべながらその場で立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「おーい。もう男子の入浴時間は終わりだぞー。上がらねえのかー?」

 

 

「まだだ…。まだ俺たちの入浴時間は終わらんよ…!」

 

 

どこぞの赤い閃光のようなセリフを吐く集を、ため息をつきながら眺める。

いや、集だけではない。彼のまわりにはたくさんの男子が集まっており、付近の竹の柵に向けて耳を近づけている。

 

陸には、この先の集たちのなれの果てが見えている。だが、彼らにそれを言っても止まるとは思えない。

 

巻き添えは喰らいたくない。陸はさっさと風呂をあがって脱衣所に向かう。

 

 

「な、何やってんのよあんたはーーーーーーーー!!!」

 

 

「お前こそーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

その最中、千棘と楽の叫び声が聞こえた気がしたが、さすがにこればかりは本気で気のせいだと結論付ける。

楽が、女湯にいるはずがないだろう。そんなこと、できるような度胸もないし。

 

双子だからこそ、すぐにわかること。

陸はそんなはずはないと自分に言い聞かせながら、脱衣所で浴衣を着るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

結局、陸は部屋の中で寝転がりながらテレビを見ていると、まずぐったりしながら集が帰って来た。

聞くと、入浴時間を超えて風呂に入っていたことが教師たちにばれ、怒られたという。

 

はっきりと、集に自業自得だと告げてから、今度は二人でテレビを見る。

テレビで流れる漫才を聞いて爆笑していると、小咲とるり、鶫が部屋に帰って来た。

部屋に五人が帰ってきたところで、再びトランプを始める。

 

罰ゲームは、小咲と鶫の強い否定でなしになった。

先程と違い、大富豪で遊ぶ五人。

 

すると最後に、ぐったりとしながら、そして何故か頬を染めながら楽と千棘が部屋に帰って来た。

 

何かあったのかを二人に問いかける陸は、何故か二人によくわからない言い訳を聞かされる。

 

陸が疑問符を浮かべる中、ついに部屋メンバー全員でトランプゲームを始める。

勝った負けたで一喜一憂しながら、時間は過ぎていく。

 

遂に消灯時間となり、男子と女子のそれぞれの部屋に入り、布団に入りだす。

 

 

「…俺、トイレ」

 

 

陸はそう言って寝る前にトイレを済ませることにする。

 

だが、トイレに入っていると部屋の方から男二人の悲鳴が響き渡る。

手を洗い、トイレを出て男子の寝室に入る陸。

 

 

「…あれ?二人がいない」

 

 

しかし、布団の中に二人の姿がない。

どこへ行ったのか、ふと視線を横にやってベランダを見遣ると…。

 

 

「…何で二人は吊るされてるんだ?」

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛…」

 

 

「何で俺まで…」

 

 

屋根に縛られたロープで足を吊るされ、逆テルテル坊主の体勢でぶら下がっている楽と集の姿があった。

血が昇り、顔色が悪い(集は何故か出血している)を助けてから、三人並んで布団に入り、眠る。

 

騒ぎながらも過ぎていった一日。

そうして、林間学校一日目は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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