英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

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アイズの出会い

 スッ、と手に握る刃を相手の体に差し込み、横へ通す。体の真ん中から真横へ振り抜かれた剣を負うように、人間にはありえない異色の血液が飛び出てくる。同時、アイズの耳に不愉快な響音が届いた。

 それでも相手は生きている。ホブ・ゴブリンの体長は二Mを超えていて、その分人間よりも血液は多い。出血死させるには、まだ軽いのだ。

 続けざまに両腕を切り飛ばし、反撃の手段を失わせる。身軽になった、あるいはさせた相手を風を纏う足で蹴り飛ばし、こちらを狙っていた毒針の盾にした。

 ――デッドリー・ホーネットは二体。

 これ以上増えると、乱戦が更に悪化する。何より、デッドリー・ホーネットを倒すのが難しくなってしまう。

 現在、シオンを除いたパーティメンバーでダンジョンに潜っているアイズ達。それはつまり、魔法を主体として戦える者がいないという事を示している。

 遠距離戦は不利、ならば、

 「今のうちに、仕掛ける……!」

 他のモンスターを無視して、アイズは壁に向けて走り出す。それを見たティオネは、湾短刀をリザードマンの魔石部分に突き刺しながら叫んだ。

 「ちょっとアイズ、無茶するんじゃないわよ!」

 「大丈夫、やれる!」

 「ああ、もう! ベート、少しフォローしてやって!」

 「俺の状況見てから言えや!?」

 ベートもベートで、アイズを狙わなかったもう一体から狙撃されつつ、ホブ・ゴブリン三体を相手取っていた。とはいえベートの双剣はこの三体に効果が薄い。ホブ・ゴブリンは体が大きく、また太っている。

 体積が大きい、という訳なので、刀身が短いと効果的なダメージが与えられないのだ。だから今のベートは、専らこの四体が他を狙わないようにちょっかいを出す事しかできない。

 相性の問題だ。こいつらを相手にするなら、それこそ、

 「せいやぁ!!」

 ティオナのような、大剣で頭から真っ二つにする方が手っ取り早い。相手を縦に真っ二つにしたティオナは、その勢いを維持したまま今度は横に振り抜く。それだけで彼女を周りから襲おうとしたホブ・ゴブリンとリザードマンが輪切りにされた。

 「鈴、お願いね!」

 「了解さ!」

 とはいえ、その回転した瞬間ティオナに大きな隙ができる。そこを狙ってデッドリー・ホーネットの狙撃を、鈴は手に持った刀を、鞘から引き抜き、()()()()()

 「ふぅ……」

 成功した事に残心したまま息を吐き、ベートの元へ走る。そして後ろを見ていないホブ・ゴブリンの一体を、飛び上がって首を落とす。ドサリと倒れ伏したホブ・ゴブリンに、やっと事態を理解した残り二体が慌てて鈴の方へ体を向けようとしたが、

 「アホか、敵から目を逸らしてんじゃねぇ」

 そんな忠告と共に、首に剣が生えた。ベートの双剣だ。

 「どんだけ体がデカかろうが、首をやられりゃ一発だろ」

 代わりに得物を失ったが、まぁベートは徒手空拳でも戦えるので問題はない。それに残りはリザードマンばかりだ。

 それにデッドリー・ホーネットは、

 「ッ、やぁ!」

 リザードマンの頭を足場にし、壁に着地したアイズが相手をするだろう。

 まずそこで体勢を整えたアイズは、一つ吠えてデッドリー・ホーネットへ向けて飛びかかる。無論それを黙って見ている馬鹿はいない。体の向きを変え、相手の位置から、必ず当たる状況にし、針を打ち出す。

 ――当たる。

 誰が思ったか、それは絶対の事実。しかし、忘れてはならない。アイズは風の申し子、空中だから何もできない、だなんていうのはありえない。

 「風よ」

 アイズの体に、突風が纏う。それによって、発射された針の勢いがわずかに薄れた。そして、その速さなら、十分対応できる。

 体を縦に回転させ、タイミングを見て、足の裏で毒針の中間を踏みつけた。そのまま体を戻し、針を足場に、もう一度跳ぶ。

 「吹いて!」

 それでも、蜂故にある口元の大顎で反撃しようとしたデッドリー・ホーネットを、風でもって揺らす。飛んでいる以上、風の影響はどうあがいても受ける。

 そして、死に体となった相手を斬る事など、造作も無かった。顎の少しした、人間でいう肩を横から剣をすり抜かせる。殺しきったかはわからないが、もうこいつは飛べない。後は下にいる誰かがやるだろう。

 そう判断し、アイズは今度はデッドリー・ホーネットの体を蹴って、近くにいたもう一体の個体を狙う。

 ただし、もう彼女にその距離を移動するための速度はない。でもそれでいい。元よりもう一体を斬るつもりはなかった。

 さっきの移動は、単に向きを変えるための物だ。

 アイズの体がしなる。剣を持った方が後ろを引き絞られ、体を捻ったそれは、投擲の姿勢。デッドリー・ホーネットも慌てて針を飛ばしたが、無駄だ。

 「この剣は、椿が作ったもの。……あなたに壊せる道理は無い」

 空中で激突した剣と針は、呆気なく砕かれた針を無視した剣がデッドリー・ホーネットの体を貫いて終わった。

 まだ生きているようだが、それもすぐに尽きる。足元に移動したティオナが、大剣を掲げて待っているのが見えたから。

 それに、残っていたリザードマンもほとんど狩り終わった。これで、一先ず息をつけるだろう。

 とりあえず、どうやってうまく着地するか。それが問題だった。

 結局風の力を地面に叩きつけて勢いを殺し、何とか着地したアイズ。無駄な怪我をせずに済んだ事にホッとしつつ、投げてしまった剣を取りに行く。念のため刃こぼれしたりしていないかの確認をしつつ、鞘へ仕舞う。

 と、そんなアイズの頭にコツンと軽く何かが乗った。

 「無茶をするな、って言ったはずなんだけど?」

 「あの程度なら、無茶じゃない」

 頭に乗せられたのは、鞘に入った湾短刀だった。正直ほとんど痛くないが、次いで言われた説教に少しムッとしてしまう。

 その反応に、ティオネは頭が痛い、と言いたげに額に手を当てた。

 「ダメね、やっぱアイツが悪い。何もかんもシオンが悪い」

 アイズがしたあの動きは、シオンの動きと似通っている。師匠と弟子、という立場があるから戦闘スタイルが似るのはわかるが、無茶するところまで真似しないで欲しい。

 「ちゃんと周りは見てるし、出来ない事と、出来ても不利になるならしない。その辺りの把握は戦う上での必須事項」

 「なまじ実践してるから反論しづらい」

 見ている方はハラハラ物なのだが。暫定的にシオンからリーダーを預かっているから、神経質になっているのだろうか。

 ――そもそもリーダーのアイツのせいなんだけど。やっぱりシオンが全部悪い!

 と、実は風評被害でも無い事実を再確認しつつ、ドロップアイテムと魔石を回収する。戦果は上々といったところか。

 いつもならまだ先へ――27層か28層までは行きたいところだが、シオンがいない現状、そこまで行くのは遠慮したい。

 「もう24層まで来たし、今回はここで終わりにする?」

 後少しで25層には行けるが、ここから先は出てくるモンスターの種類が増える。戻ることを考えるのも、長く冒険を続ける秘訣だ。

 「俺は戻るのに賛成だ。持てる量には限りがあるからな」

 ドロップアイテムは落ちる落ちないに差はあるものの、魔石はモンスターを倒せばほぼ確実に――魔石を砕いてモンスターを倒さない限り――手に入る。しかも魔石は石という性質上、そこそこ重い。

 そうなれば当然、荷物になる。必要以上に倒しても捨てるしかない。無理をして持てば、体力を削られて戦闘に支障が出るのだから、仕方ないが。

 「一応私はまだ持てるけど」

 「一人に負担ばっかさせるのは仲間として下の下だろうが」

 「ふーん……」

 と、どうでも良さそうな反応をしているが、髪を人差し指で遊ばせているので、少し照れているらしい。

 ティオネの反応に苦笑しつつ、ティオナも会話に加わった。

 「私も戻るのに賛成かなぁ。もう潜って二日目だし、そろそろ戻らないと三日目どころか四日目に行っちゃうよ」

 「あたいも戻る方がいいね。そっちは良くても、あたいはもう体力が……」

 と、この中で唯一Lv.2である鈴が辟易とした表情で言う。彼女は身体能力はともかく、剣術という一点では飛び抜けている。だからこそここまで着いてこれているが、精密さを要求されるせいで異様に疲れるのだ。

 「少し頭もボーッとするから、できれば18層で眠りたいね」

 「なら決まりね。さっさと戻るわよ」

 引き際を見極めたティオネの号令に従い、さっさと元来た道を歩き出す。道中モンスター、あるいは同業者と出くわすが、モンスターは殲滅、同業者はお互い通路の端と端を通り、必要以上の接触はしない。

 「……やっぱり、良い気はしないね」

 「仕方ないわ。見知らぬ相手は信用できない、それが正しいんだもの」

 ポツリと呟いたアイズに言葉を返す。

 同じ人間だとしても、ダンジョン内では警戒心が先立つ。色々と理由はあるが、最も大きな原因は、やはり『アレ』のせいだろう。

 「『闇派閥』のクソ野郎共だったらどうする、か」

 「一目で見抜けるわけじゃないから、面倒なんだよね。あ、鈴はわかるんだっけ?」

 「あたいにわかるのは、そいつが下心を持ってるかどうかってくらいだよ」

 そう、最近至る所でその話を聞く『闇派閥』という存在。ティオネ達が生まれる遥か過去から存在し、ギルドや多数の【ファミリア】が煮え湯を飲まされてきた者達。

 彼等が活発的に行動し始めたとあって、どの【ファミリア】、どの人間も、相手に疑惑の目を向けるようになってしまった。

 シオンと鈴は、過去の経験からそれぞれ『殺意を持つ相手』と『騙そうとしてくる相手』を見極められるようになっている。しかし、やはり専門的に学んできた訳ではないので、その道に通ずる相手は見抜けない。

 「……ギスギスしてて、何かヤだなぁ」

 ティオナのその言葉は、誰しもが思っていることだ。

 「でも、私達の身を守るためには、仕方のないことよ」

 それでも、騙され裏切られてから後悔しても遅い。ティオネの言葉を胸に刻みつつ、五人は19層を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 18層にたどり着くと、特に鈴が大きく肩を落とした。最低限の警戒心は残しているが、今にも寝落ちしてしまいそうだ。

 「鈴、あんた大丈夫なの?」

 「……、……ハッ。わ、悪い、何か言ったかい?」

 あ、これダメね、と瞬時に判断したティオネは、鈴の横に行くと自分の首に鈴の腕を回した。そのまま彼女の脇腹を持ち、

 「仕方ないわね、そのままこっちに体重預けて、そう、それでいいわ。ティオナは反対側をお願い。ベートは周囲の警戒。アイズは……ちょっと、お肉とか買ってきて貰っていい? 量は少なくてもいいから」

 そう指示を出した。ティオナは今にも崩れ落ちそうな鈴を反対側から支え、ベートは素直に頷いて周りに目を向けた。

 一方、買い出しを命じられたアイズは目を白黒させてしまう。

 「わ、私、値切りとかできないよ?」

 「今回は言い値でいいわ。あ、でも六桁以上はあの街でも相当吹っ掛けられてるから……大体八〇〇〇〇ヴァリスってとこかしら。それくらいでお願い」

 ちなみに、その値段は中層でも通じる武器が一つ買える値段である。食料の補充がほとんどできないダンジョンとはいえ、やはりぼったくりに思える。

 まぁ、嫌なら買わなければいい、と返されるのがオチだが。

 「値切りをしなくていいなら、何とか」

 「今回は私が自腹で出すから、気にしないで。最近使ってないしね」

 このパーティ、実は散財する者はほとんどいない。買い食いはするが、それだって大金を支払う訳ではない。

 武器や防具は椿から、回復薬はシオンの個人的な付き合いによって安く手に入るため、パーティ共同資産で十分事足りる。

 例外的にベートが『フロスヴィルト』や魔剣を手に入れるために金を吹き飛ばしたくらいだ。そのため、アイズ、ティオネ、ティオナは八桁ものお金を持っていた。

 だから、別に十万を超えてもいいといえばいいのだが……。

 ――値切りはもう性分になってしまったので、それはそれ、である。

 「ま、任せたわ」

 短く言って、ティオネ達は言ってしまった。

 アイズもアイズで腰にかけた剣を触って位置を調整すると、リヴィラの街へ歩き出した。

 道中モンスターと遭遇する事もないまま平原を抜け、相変わらず通りにくい岩肌を通り、見慣れたリヴィラ(ぼったくり)の街に入る。

 ここに来るまでに手に入れたドロップアイテムや魔石を売り、その安さに怒鳴る者、それに対し強気の姿勢を崩さない者、食料や回復薬、解毒薬を手に入れようと値切りする者、安い宿屋を探そうと駈けずり回る者、と様々だ。

 そんな中、キョロキョロと周囲を見るアイズはそれなりに目立っていた。彼女の年齢は未だ十そこらなので、何故子供が、と思われていたからだ。逆にアイズの年齢と身のこなしから、感心するような者もいた。

 そうして歩いていると、ふと一人の少女に目が行った。アイズと同じくらい、いや一つか二つくらい上の少女が、値切り交渉をしていた。

 その少女の隣には、年上の女性が苦笑しながら見守っている。少女が失敗する度に肩を落としたり慌てたりしているので、そのためかもしれない。値切られている側でさえ、仕方ないなぁという表情をしているくらいだったから。

 「えっと、えっと、ドロップアイテムは多めですし、魔石も、質は良い方です。戦闘で傷ついたりもしてないので、だから、その……うぅ」

 終いにはガックリと項垂れてしまった。しかしその少女はエルフだったので、どうにも同情を誘ってしまう。店主側も、髪を掻きながら、

 「……仕方ねぇ、野菜数人分と、肉二人分で手を打ってやらぁ」

 俺の負けだ、と手をあげて言った。その答えに、少女がパァァ、と表情を明るくする。

 「いや、すまない。わざわざ付き合ってもらったのに」

 「昔の自分を思い出しちまってな。すまないと思ってんならもうちょっと買ってくれ」

 「是非そうさせてもらおう。野菜を倍、肉は二倍追加で頼む。それから砥石を少量頼む」

 「了解した、回復薬とかは?」

 「生憎だがうちには回復魔道士がいてな。ある程度で十分なんだ」

 と、会話しつつ二人が物とお金のやり取りをしている。それを見て、アイズは今だ、と判断して横から割って入った。

 「あの」

 「ん? ……何だ、今日はちっちぇえのばっかりだな」

 「その女の人が買ったのと同じ値段で、お肉を売ってくれませんか」

 しみじみと呟いた店主が、思わず女性と顔を見合わせる。そして、ふいに二人揃って爆笑してしまった。

 「ハッハッハ! その値切りの仕方は斬新だ、だが間違っちゃいねぇな!」

 「ふ、確かにな。自分ではできないなら、他人が買っていった値段を見る。賢いやり方だ」

 クックック、と小さく笑う女性。その二人の間で、結局売ってもらえるのかわからなかったアイズはおろおろしてしまう。

 「あの、それで、売ってもらえますか……?」

 それでも聞くと、店主はおう、と威勢良く返事してくれた。ティオネの予想以下の六〇〇〇〇ヴァリスで買えたので、かなり浮いた計算になる。

 少しホッとしたアイズが感謝を述べると、二人共どこか複雑そうな顔をした。お互いぼったくられている、ぼったくっているという思いがあるからだろう。

 それがわからないアイズが首を捻っていると、

 「あ、あの!」

 「……? 何?」

 さっき交渉をしていた少女が、キラキラとした瞳でアイズを見ていた。アイズとしては彼女に見覚えがないので、そんな瞳を向けられる理由がわからない。

 「【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインさん……で、合ってますか!?」

 「確かに私はアイズ、だけど」

 「やっぱり! あの、私、数年前にあった『宴』に参加してたんです」

 その言葉で、何となくこの少女の瞳の理由がわかった。あの『宴』によって、アイズ達は同じLvの冒険者よりも一歩抜きん出た存在として知らしめられた。

 「Lv.6の『勇者』フィン・ディムナさんに一歩も劣らず戦い抜いた姿、私、とっても格好良かったと思いました!」

 「あ、うん。負けちゃったけど、ね」

 あの一戦はアイズとしては苦々しい記憶だ。あそこまで奇襲奇策奇手を用いたにも関わらず、勝てなかった。情けない、という思いしかない。

 「でも、私なら……いいえ、私以外の人でも、Lv.6の人と戦って勝てって言われて時点で無理だって諦めると思うんです。だから、やっぱり尊敬しちゃいました」

 そこは認識の差異と言う他無いだろう。そもそもアイズ達は日常的にフィン達から訓練を受けていたので、戦う事自体に忌避感は無いのだ。

 しかし口下手なアイズはそれを言えず、苦笑するしかない。

 「特に『魔法を使うぞ!』って場面でそれがブラフだった時には、驚かされました。まさか魔法を囮に使うなんて、想像もしてませんでしたから」

 『そんな魔法、あるわけないだろ』の事だろうか。確かにあれはフィンでさえ驚いていた。

 「対人戦でしか使えないけど、ね。ティオナ達が魔法を完成させるために必死に盾になればなるほど、シオンの囮が際立つって」

 『考える』人間だから引っかかる罠だ。これがモンスター相手であれば、まったくもって意味が無いのだし。

 「はい、だから本当にびっくりしましたよ。私は見ての通りエルフなので、魔法は持っていて当然、みたいな考えがありますから」

 あの戦法を見て、少し視野が広かったのだ、と少女は言う。

 「お陰でLv.2になれて、二つ名も――」

 「はい、ストップ」

 ゴツン、と少女の頭の上に拳骨が叩き落とされる。話が終わったらしい女性が、ヒートアップする少女を手っ取り早く落ち着かせようとしたのだ。

 「だ、団長、痛い、です……!」

 「アイズとやらが困っているのに全然気づかないのが悪い。その上名乗ってすらいないじゃないか、自分は聞いたくせに」

 「……あ」

 少女の動きが止まる。それから顔を上げて、苦笑をするアイズに顔を真っ赤にさせた。

 「フィ、フィルヴィス・シャリア、と、言います……」

 とても恥ずかしそうに言うフィルヴィス。そんな彼女に、アイズは苦笑したまま、よろしくね、フィルヴィスと言った。

 「悪いね、うちのファミリアじゃこの子の同年代がいなくて。街中で見かけたら、仲良くしてくれるとありがたいんだけど」

 「それくらいなら、大丈夫です」

 「そうか? なら私は信じて後はこの子に任せるかね」

 と、団長らしい女性はお節介を止めると、アイズに向き直る。その目は真剣で、世間話ではないと気づいたアイズも姿勢を正す。

 「アイズは来たばかりか? それとも戻ってきたのか?」

 「戻ってきた、方です」

 「潜ったのは?」

 「25層の階段前までになります。それ以降は、リーダー不在なのでやめておきました」

 「……なるほど、わかった。ありがとう、答えてくれて」

 「いえ、これくらいなら構いません。でも、何故そんな事を……?」

 その疑問に、女性は持っていた荷物をフィルヴィスに手渡し、先に戻るように告げる。フィルヴィスはアイズに名残惜しそうな目線を向けたが、ペコリと頭を下げて去って行った。

 「まだ噂程度なんだけど、27層でモンスターの動向がおかしいって話があるんだ」

 「27層……? 28層、ではなく?」

 「ああ、27層だ。28層ってのは?」

 「ウォーウルフの一体が、モンスターの背中に騎乗していたんです。そんな情報、今まで一度も聞いたことがなかったのに」

 「ふむ、なるほど。確かにモンスターの動向がおかしいね」

 実はそのモンスターの正体はベートが知っているのだが、ここにベートはいない。だから、二人の話はそのまま進んだ。

 「となると、27層だけを警戒する訳にもいかない、か。ありがとうアイズ、これで一緒に行く他の【ファミリア】にも面目が立つよ」

 「いえ、こちらも27層以降は気をつけなきゃいけない事がわかりましたから」

 ギブアンドテイクだ、とアイズは言う。その顔の冷徹さに、女性は、これがフィルヴィスより年下の少女がする顔か、と思ってしまった。

 「……まぁ、私達が動くにはまだ数日かかる。足並みを揃えなければならないから、な。もしそちらと出逢えば、よろしく頼むよ」

 「ええ、こちらも人手が多いのは助かりますので」

 最後に女性の名前――クリスタリア・フィエラを頭に刻み込んで、別れる。

 荷物を落とさないように抱えつつ、リヴィラの街を出る。ふと振り返ったアイズは、フィルヴィスという少女を思い出し、クスリと笑った。




久しぶりにアイズメイン?

そして原作のキャラからかけ放たれたというか、完全にぶっ壊れているフィルヴィス。まあこの年齢の彼女はこんなもんです。ていうかこれが普通です。

あの六人が子供離れしてるだけ何だ……!

次回の内容は未定。更新も若干未定。
できれば待っていてください(白目)。

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