英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

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触れる悪意

 野を駆ける狼のように背を伏せ疾駆するベートの短剣が閃く。寸分の狂いもなく、吸い込まれるようにウォーシャドウの心臓を抉り抜いた。

 情け容赦ないその一突きで魔石が砕け散る。魔石を失い灰となったウォーシャドウには目もくれず、ベートは太腿辺りから取り出した細長い物を投げた。

 一つ、二つ、三つ。全て別の方向へと向かったそれは、遠くで構えていたフロッグ・シューターの舌を貫き、悶絶させる。

 ――そこに、神速の居合が振るわれる。

 痛みで意識を保てなくなったフロッグ・シューターの体を、三匹纏めて真横に切断。更に抜刀した勢いのまま、前傾姿勢で影に隠れていたウォーシャドウの両手を切り飛ばし、最後に縦に一閃。パカリと、ウォーシャドウの体が二つに分かれ、影の中に消えていく。

 これで見える範囲のモンスターはいない。そう判断し、一応フロッグ・シューターの魔石を回収しようと、鈴が足を向けた時だ。

 「――鈴、上にいるぞ!」

 「何?」

 その言葉に、反射で刀を上へ。視線を向ける前に、ガチリと硬い物がぶつかる音と、それに比例するような重みが手にかかる。

 ――キラーアント!?

 驚く鈴は、至近距離で刀を食むモンスターの醜悪な顔に表情を歪ませる。気持ち悪い、ただそうとしか形容できない。

 真っ赤なその体を見ているのは目に悪い。鈴は刀に付着した唾液に嫌悪感を抱きつつ、キラーアントの腹を蹴り飛ばした。吹っ飛んだキラーアントはそのまま地面に倒れるかと思いきや、空中で体勢を整え、()()張り付いた。

 「な!?」

 そのまま天井へと移動していく。ありえない移動方法に硬直する鈴を尻目に、キラーアントは天井を這い、背中を向けて逃げ出した。

 勝てない、そう判断したのだろう。あの奇襲で倒せる可能性があったのは鈴だけ。それに失敗したら素直に逃げる。モンスターらしからぬ理性的な判断だ。

 逃げ切れるとは限らないが。

 「逃がすかよ」

 同時、キラーアントの体が止まる。体の中心に途方もない違和感。それは、痛みだ。ベートの投げた物が体を貫いた。それだけのこと。

 『ギィィィィイイイ!?』

 耐え切れずに悲鳴を上げる。四本の足が天井という床から離れ、落下。その途中で、ベートは四本追加で投げる。着地しようと足を広げていたキラーアントの四本足にそれぞれ命中。受身を取れずに地面へ叩きつけられたキラーアントは、如何に頑丈な甲殻を纏っていても無意味だった。

 衝撃が鎧を貫き、中身へと与えた。

 『ギ……ギィ……』

 比較的軽症な足と二本の腕を使って、まだ逃げようとする。その生存本能は驚嘆すべき事ではあるが、それで見逃すかどうかは別の話。

 ふっとキラーアントの頭上に影が差す。そこにいたのは、鈴。

 ベートの動きとキラーアントの異変で察していた鈴が、キラーアントの至近距離に移動していたのだ。

 スッと、刀の切っ先が、キラーアントの頭に差し込まれる。本来であれば頑丈な甲殻が守っているそこも、鈴の刀の前では紙切れと同じ。

 刀を引き抜き、絶命したキラーアントを眺める。それも一瞬で、すぐに頭を振るとその体を切り裂き魔石を回収する。

 「……大きさが、おかしい」

 鈴の知る限り、キラーアントの魔石はそこまで大きくない。だが、この魔石は中層に出てくるモンスターと同じように感じる。加えて色合いも、違う。

 「どうなっているのだ、一体」

 疑問には思うも、鈴には予想すらできない。こういった事は全てシオンに丸投げしてきたツケだろう。鈴は魔石と、それからキラーアントに投げられた物を回収すると、ベートのところへ戻る。

 ベートもベートでフロッグ・シューターの体から魔石を回収していた。

 「ベート」

 「お、あんがとよ」

 ベートに返されたその細長い物。注視しなければ見ることも難しいそれは、針だった。元々はデッドリー・ホーネットという巨大な鉢から射出された毒針なのだが、それを毒抜きし、使えるようにした物だ。

 前衛に特化したティオナや鈴はともかく、遊撃であるベートが遠距離攻撃を持たないのはどうなのか。かといってティオネのようにナイフを投げるのも厳しい。ナイフの重さが機動力を削ぐからだ。

 その結果生まれたのがこの針という武器。

 ――投擲系武器・針羅。

 中層程度なら十分に通用する針だ。意外と重宝している。

 ベートは太腿に巻いた剣帯ならぬ針帯に針を入れると、鈴の持つ魔石に目を向けた。

 「それ、キラーアントから出た奴か?」

 「そうなのだが、こんな魔石だったか、キラーアントから出るのは」

 そんなはずはない。……はず、なのだが。

 「これが、ダズの言っていた『強い個体』って事なのかもしれねぇな」

 「体内に宿す魔石の異常、か。外見の変化は無いせいで、全然気づけないってのに」

 正直なところ、そこが一番厄介だ。人にはモンスターの外見の違いがわからない。だから、いつも通りに戦おうとすれば思わぬ落とし穴にハマってしまう。

 「もしこんなのが溢れかえったら、しばらくダンジョンに入れねぇぞ」

 安全第一がシオン達の行動指針だ。18層に行くまでのモンスターでも、数層分力が上がればそれだけで厳しい。特に乱戦時が危ない。

 「……どうする? 戻るか?」

 「基本的は通常個体だけなんだろう? 異常個体が出ると警戒すればいいんだから、気にせず行こうじゃないか」

 念のため提案してみたが、鈴は笑って続行を望む。お気楽に見えるが、その瞳の奥に見えた焦燥感が、ベートに断るという選択肢を与えない。

 ――速く、【ランクアップ】したいのか。

 アイズと比べても早いくらい順調に【ステイタス】を伸ばしているというのに。しかし、気持ちはわかる。

 「しゃーねぇ。最悪ずっと走り続けることも覚悟しろよ?」

 「山の中を何時間も走った事があるからね。楽勝さ!」

 ハァ、とベートは息を吐き出しつつ下層へ向けて歩き出す。

 ――最悪俺が囮になってでも鈴を逃がす。

 少なくとも、そのくらいの覚悟は持つ。鈴の意見を採用し、続行すると決めたのだから、暫定リーダーとして必要なものだ。

 それは、重い。

 今更ながらに鈴という命を背負っているのを実感する。シオンはいつもこれを五人分背負っているのかと考えると、悪いなと思ってしまう。

 とりあえず。

 今は鈴を守る事だけに意識を傾けよう。

 「行くぞ」

 その後も出てきたモンスターを倒し続けたが、厳しい場面も多かった。壁や天井を這うキラーアント、怪音波の効果と範囲が増大したバットパット、全ての【ステイタス】が増大したシルバーバック。ハード・アーマードなんかは甲羅の継ぎ目すら硬くなっていたのには驚いた。

 大抵のモンスターはベートだけでどうにでもなるが、ハード・アーマードは短剣の切れ味の都合上、鈴に任せるハメになった。

 彼女の持つ刀はそれだけの斬れ味を持つ。ベートでも突破できなかった甲羅を、継ぎ目なんて気にせず真っ二つにしたのがその証拠だ。

 武器頼り、と言ってしまえばそれまでだが、それを使いこなし、当てたのは紛れもない鈴の持つ技術故。周りが何を言おうとベートは気にしない。

 そうして12層を超え、13層へ。11層に入ってから、まさかインファント・ドラゴンも強化されているんじゃと邪推したものの、そういう事はなかった。

 あるいは希少種だからか。数が少ない個体だから、偶然見なかっただけかもしれない。

 「鈴、ローブは着たか?」

 「ああ、大丈夫だよ。ベートは着ないのかい?」

 「俺は必要ないからな。ヘルハウンドの炎が来る前に切れば問題ない」

 本当のところは持ってこなかっただけだ。異変があるとは知らなかったし、ティオネの忠告を聞いてもここまでとは思っていなかった。

 ただ、どうしただろうか。

 ベートにはこの状況に、悪意を感じていた。

 ――モンスターの中に強いのが紛れ込むタイミングが、どうもな。

 作為を感じる。具体的にどこがと問われると答えられない。単なる勘だから。しかし、数年ダンジョンに潜ってきたベートの勘は、本人が思うより鋭い。

 警戒を強めるベートを他所に、そこから先は強化個体が出なくなった。そこに疑問を覚えたものの、出ないなら出ないで楽なので、深く気にしない事にした。

 実際のところ、彼等のところに強化個体が来なくなった理由は単純だった。

 二人が中層へ行ったのとほぼ同時に、ダンジョンへ来た集団がいるからだ。

 そしてそれは、彼等のよく知る者がいた――。

 

 

 

 

 

 「さて、全員準備はいいよな。ダメなら言ってくれ、ちゃんと待つから」

 シオンが笑ってそう言うも、アイズとリヴェリアを除いた全員が渋面を維持し続けたままだ。しかしシオンは反対意見が無かったという部分だけを抜き取り、

 「誰も言わないから、行こうか。とりあえず5層くらいまでは思い思いに戦ってくれ」

 身振りで先に行くよう示した。納得できていないと態度で示しても、シオンは気付いていないかのように振る舞う。それが一層不満を呼び起こしているとわかっていても、敢えてそうした。

 1層を歩く途中、方々から視線を感じた。それも仕方ない、十前後の子供が何十人と集まっているのだから。そんな視線も、リヴェリアに気付くと同時に納得し、消えていったが。

 最初の内は全くモンスターに出くわさない。これはいつも通りだ。本番は2層から。

 そして、2層でコボルトを見つける。その一体に、不満をぶつけるように一人が剣を振るい、その体を引き裂いた。

 ふぅと息を吐いたと同時、後ろから声が届いた。

 「剣を振るタイミングが速い。アレじゃ威力が十分に乗らない。何より周りに注意が向いていないぞ、横から奇襲されていたらどうするつもりだ」

 「うぐっ……いいだろ、どうせ2層なんだし」

 「そうか。中層に行ってからもそんな甘ったれた思考で生き残れるといいな」

 盛大な皮肉にイラッと来たのか、歯を食いしばってシオンを睨みつけてくるが、無視。

 「そこ、盾の構え方が下手だ。真正面から受け止めずに受け流せ。今は良くてもゴライアス辺りじゃ吹き飛ばされるぞ。前衛壁役(ウォール)になるつもりなら、盾を扱う技術を学べ」

 前に出てゴブリンの攻撃を受け止めていた盾を持った少年を注意しつつ、

 「常に壁役が前にいるとは限らないんだ、後ろでへっぴり腰のままチクチクやるな。一人でもモンスターを倒せるようにならなきゃ戦えないぞ」

 その後ろで、恐る恐る槍を突いていた少女に言う。

 「チッ……わかった。こうすればいいんだろ」

 「シ、シオンさん、怖い……」

 舌打ちしつつも従う少年に、へっぴり腰の原因であるシオンを怖がっている少女。それも無視してシオンは続けた。

 「短剣使い、狙うなら目と心臓、最悪体の真ん中を狙え。攻撃を食らうのを恐れて手足ばかり狙っている方がむしろ危険だ」

 「それができりゃ苦労しないっての!」

 「懐に飛び込む勇気を覚えるのが先決かもな」

 ベートと同じ短剣使いに、

 「剣士、もっと周りを見ろ。後ろの弓使いがいつ矢を射っていいのか悩んでいるぞ。一人で先行しすぎるな」

 まるでティオナのような特攻をかます剣士。

 「弓使い、声を出せ。前衛は必ず周囲を見れる訳じゃないんだ。全体を見渡せるお前が言ってあげないでどうする」

 ティオネと違い、引っ込み思案なのか中々声をかけられない弓使い。

 恐らく授業の一環でパーティを組んでいる者達がローテーションで前に出て戦っているらしいのだが、未熟な部分が目立つ。戦い慣れはしているし、確かに光るモノもあるが、シオンからするとまだまだだった。

 個々人の技術が不足している。連携もチグハグだ。気配りが足りない、声かけも足りない、足りない足りない足りない――……足りなすぎる。

 「それから」

 「おいシオン」

 それでも少しはマシになるようアドバイスしていると、声をかけられた。声をかけてきたのは、このクラスで一番強い奴。

 「何だ」

 「……名乗っておくか。クウェリアだ」

 シオンの口調に一瞬不快そうな顔をするも、それをすぐに押し隠して名乗るクウェリア。一応覚えておくが、それより本題に入ってくれと手振りで示す。

 その間も指摘は続ける。

 「さっきから言っているのは……」

 「改善点だけど。それ以外の何に見える?」

 「いや、見えない。だけど、どうしてそんなに言えるんだ? 基本的な事もそうだけど、技術的な部分も」

 シオンが言っているのは連携部分が目立つ。しかし、時折『どうやってその武器を扱うか』等も指摘している。そして、それが適当でないのは言われた当人達の顔を見ればわかる。

 「そりゃ多少学んだからだけど」

 「学んだって」

 「自分が使えるのは何なのか。それを知るために、全力で考え続けた。フィンやガレス相手に武器が使いこなせません、なんて泣き言は通用しないからな。死にたくなければ覚えるしかないだろう」

 流石にダンジョンでは使えない鎖鎌や大鎌といった特殊な武器までは把握していない。遠距離武器である弓も門外漢だ。

 逆を言えば、それ以外の武器はある程度アドバイスできる。

 「結局は片手剣に落ち着いたけどな。――と」

 横の通路から来たフロッグ・シューターを投げナイフで打ち落とす。ここはまだ4層だから、フロッグ・シューターが来るのは珍しい。

 「アドバイスが欲しければ言うぞ、クウェリア」

 アイズにナイフを回収してもらい、受け取って礼を言いながらクウェリアに顔を向ける。当のクウェリアは、愕然としていたが。

 不思議そうにするシオン。だが、クウェリアはそんなシオンを笑えなかった。

 ――違い、すぎる。

 努力の桁が。今に至るまでで流した血の量が。クウェリアがシオンに優っているとは思えない。事実、クウェリアはもう少しでLv.2になれるといったところ。シオンはLv.4になりかけているというのに、だ。

 リヴェリア・リヨス・アールヴという存在から指導を受けられると思っていたところを否定されたからこそシオンに反発してしまったが。

 確かに、彼に教わるのは、価値が有るのに気づいてしまった。

 クラスメイトに視線を向ければ、パーティ単位ではあるものの、真剣に言葉を交わしている様子が見えた。悪いところを指摘され、そこを起点にお互い言えなかった改善点を出し合っている。元来上昇志向の強い人間が集まったクラスだ、納得できれば従うことに否は無い。

 「シオン、私もいくつか教えられるところを教えてきたよ」

 「ありがとう。どんな対応だった?」

 「ちょっと辛そうだったけど、直そうって必死だった」

 「ならいい。頭ごなしに否定されなくなってきた――少しは認められてきたか」

 それがシオンの狙いだ。

 実力を疑われて不信感を持たれているのなら、示せばいい。今日一日従い、教えを請うだけの価値があるのだと、彼らを納得させる。無論失敗する可能性もあった――最初の対応を思い返せばその方がありえた――が、最悪が最悪になるだけだ。変わらない。

 空気を、流れを変える。そのために多少のリスクを負うことくらい、厭わない。

 けれど、それでも。

 やはり全員が納得するかといえば――そうじゃない。

 クラスのほぼ全員が、嫌々従ってくれたとしても。それすら拒む者は、必ずいる。

 少女、レフィーヤ・ウィリディスもそうだった。

 「あの、リヴェリア様! 今から魔法を撃つつもりなのですが、見ていただけませんか?」

 「む、ああ、構わないが」

 「ありがとうございます! まだ未熟な身、至らぬところがあればアドバイスを願います」

 シオンに、ではなくリヴェリアにお願いする。補佐しかしない、と言ったリヴェリアに頼んだのは、『シオンに従う気はない』というわかりやすい反発だった。

 簡素な杖を構える。生来からあるエルフの身に宿る魔力を燃やし、歌う。

 「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】」

 狙うは遠くから走り寄るゴブリン。まだ二十Mもの距離がある。

 「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】」

 それだけあれば、十分だった。 

 「【アルクス・レイ】!」

 レフィーヤの構える杖から、光が放たれる。

 完全な詠唱と十二分の魔力によって撃たれた閃光は、避けようとしたゴブリンを追うように曲がると、その頭を消し飛ばした。

 それを確認すると、レフィーヤは自信満々の表情で振り返ると、

 「どうでしょうか!?」

 リヴェリアだけを見つめて、聞いてきた。

 しばらく顎に手を添えていたリヴェリアだが、ふとシオンを見つめる。それに少し嫌な予感がしたが、時既に遅く。

 「シオン、お前はどう思った?」

 「ここでおれに投げるか」

 ドッと疲れを表すようにシオンの頭を下がる。何故なら、リヴェリアの言葉に超反応したレフィーヤが、シオンを鬼の形相で睨んでいるから。周囲の級友もドン引きである。

 「威力はかなり高い。ただ、他が無駄だな」

 それでもアドバイス――にしては辛辣な言葉を投げかけているが――するのは、シオンだからなのか。

 「さっきのは魔力の込めすぎ、どう見てもオーバーキルだ。本当に殺すだけなら相手の体を貫通できる程度にして、心臓を狙ったほうが効率いいし。誘導性能あるんだろ、そのくらいはできるはずなんだが」

 「う、うるさいですね!」

 小言に対して犬歯を剥き出しにして吠える子犬。に見えるレフィーヤ。シオンを無視してリヴェリアを見つめるも、

 「私から付け加えるとすれば、もう少し冷静に、くらいだろうな」

 魔道士であれば『大木の心』を得よ、が口癖のようなリヴェリアから見れば、精神修行がまだまだ未熟。他はシオンが大体指摘してくれたのだし。

 ガーンとショックを受けるレフィーヤは、何故か涙目になってシオンを睨むと、

 「シオン! そこまで言うなら参考として魔法を見せてください! 覚えてるなら!」

 「別にいいが」

 「え、本当に覚えてたんですか……?」

 無茶振りをして困らせようと思っていたのにあっさり頷かれてしまった。更なるショックで呆然とする彼女を尻目に、アイズに頼んで三体のゴブリンを連れてきてもらいながら、片手を前に。

 「【変化せよ】」

 ここまではいつもと変わらない。シオンの体内から感じられる大きな魔力に、レフィーヤが眉を潜めるのを見ると。

 レフィーヤを叩き落とすための言葉を口にした。

 「【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

 「え?」

 その詠唱は。

 レフィーヤ・ウィリディスの魔法だった。

 「【()()()()()()()()()穿()()()()()()】」

 よくよく見れば違うとわかる。何故なら、シオンの手に宿るのは光ではなく、稲妻だ。だが、その程度の違いなど関係ない。

 自分の魔法を、嫌悪感すら覚える相手に使われている。

 それ自体がショックだった。

 そして、詠唱が完了すると同時に三体のゴブリンの前に躍り出る。その横をアイズが通る。アイズの代わりに一番前に出てきたシオンを標的としたゴブリンが接近してくるところを誘導。

 弓なりながらに並んだゴブリンへ魔法を放つ。

 「――【アルクス・レイ】」

 バチンッと雷鳴と共に閃光が向かう。一体目のゴブリンの体を貫き、そこで少しだけ曲がる。途中いた二体目のゴブリンの首を吹き飛ばし、最後に三体目のゴブリンの頭を消し飛ばした。

 ――誘導性能を活かした使い方。

 本来単体魔法である『アルクス・レイ』をうまく使えば複数体を倒せる魔法となる。勿論貫通性能を高めるために多くの魔力を消費するが、いちいち詠唱するよりはマシだろう。

 この結果だけで、わかってしまう。

 レフィーヤ・ウィリディスよりも、シオンの方が自身の魔法を使いこなせている、と。

 「やはり手馴れてきているな」

 「無駄に色んな魔法に手を伸ばせばな。慣れだよ慣れ。それに、やっぱりレフィーヤが使った方が威力あるし」

 「そこは私も思った。後衛魔道士に特化すれば、恐らくは……」

 「リヴェリアがそこまで言うほどか」

 ――そんな会話がされているなど露知らず、己の世界にのめり込んだ少女は気付かない。

 自身の魔法は一体何だったのか。こんな物を憧れの存在に見せたのか。二人からの高評価に反して少女は己に低評価を下してしまう。

 

 

 

 

 

 「面白いことになってるなぁ」

 ――それを遠くから見つめる男がいた。

 ヘラヘラと酷薄な笑みを浮かべ、瞳に血を走らせながら見つめるその先にいるのは、白銀の髪を持った少年。

 「だ~れを殺せば、お前は苦しむ?」

 男の周囲に居るモンスター。

 バリバリと、硬い物を食む音がずっと、ずっと続いている。それを撫でながら、男はシオンが苦しむ姿を想像し、ヨダレすら流していた。




火力ではありませんが、ベートに遠距離攻撃武装を実装。デッドリー・ホーネットの毒は抜いてますが、十分に強い針。
研磨とかはやっぱり椿担当。



冒険者には実力で従わせる。脳筋思考だけど間違ってない現実。原作でもベル君がよく理不尽な暴力に襲われてるけど、相手の方が強いせいであっさり終わってるしね! 普通だったら命とか建物狙われて(壊されて)何も無いとかありえないのに。
それとこのシオンは未来と違ってフォローはあんまりしません。辛辣です。情け容赦無いので相手がうまく汲み取ってくれないとあっさり関係壊れます。
もうちょっと優しい言葉でアドバイスしようぜシオンさん。

後ベートの勘は正しかったり。
次回は――あんまり考えてない。ていうかこの話が結構難しかった。何度も腕が止まっちゃいましたし。
だから内容は未定。そういうことで。

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