英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

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もう一つの悪感情

 サラサラ、と紙に何かを記す音。

 「ふん、ふんふふ~ん」

 一体何が楽しいのか、ロキは鼻歌をしながらその背中を見ては、内容を写していく。それはとても手馴れた物で、淀みない。

 わずか二分で全て書き写すと、ロキはいいで、と伝えて鈴の肩を叩いた。それに返事をしつつ、鈴は服を着なおす。

 「それで、今回はどうなったのだ?」

 二人が行っていたのは【ステイタス】の更新。ここしばらくはダンジョンと修行に忙しく、中々時間が取れなかったので、結構期待していたりする。

 その反応にからかえると判断したのか、ロキはニヤニヤ笑って答えない。

 「どーしようかなぁ。素直に教えるのもアレやし……裸踊りでも」

 「――そっくび、跳ねてもかまわぬのだが」

 「嘘嘘ちょっとオチャメなジョークやって!」

 裸踊り、そう言った瞬間喉元に添えられていた刀。しかも目がガチだった。嘘というのが少しでも遅れていたら、本当に振り抜かれていたかもしれない。

 刀が下ろされた後、思わず喉に手をやったロキは悪くないが、そもそも自業自得だ。同情の余地はない。

 「次はない。それで、どうなんだい?」

 「声のトーンが、怖すぎや。ま、後少しってとこや」

 今度はもったいぶらずに紙を渡してくるロキ。そこにはこう書かれていた。

 

 カザミ・鈴

 Lv.1

 力:B725→B751 耐久:G297→F306 器用:A889→S924 敏捷:A854→A882 魔力:I0

 《魔法》

 【 】

 《スキル》

 【反撃一閃(カウンターブレンデ)

 ・相手の攻撃を受け流した時のみ発動

 ・『力】に補正

 【回避閃光(アボイダンスライトニング)

 ・攻撃回避時効果発動

 ・『敏捷』に補正

 【魔力閃・解放(ディスチャージ・ブレイク)

 ・帯刀時、魔力を収束

 ・収束量により威力変動

 

 これが鈴の【ステイタス】だ。攻撃をほぼ喰らわないせいで耐久は紙。反面『刀』という、かなりの技術を要する武器を使っているため器用さはかなりの物。敏捷は回避に徹したらこうなり、力は相応に、だ。

 「今の【ステイタス】的に、何かきっかけがあれば【ランクアップ】やで」

 「やっとか……もう半年も経つってのに。いい加減上がって欲しいもんだよ」

 「むしろ半年でこうなるのが異常なんやけど」

 かつてのアイズ以上の成長速度。

 理屈はわかる。鈴は中層で、特定条件であればまともに戦える人間だ。シオン達のように上層や中層の浅いところで戦っていたわけじゃない。だから【ステイタス】も上がりやすかった。

 だが、何よりの理由は、彼女の努力。

 この半年、毎日毎日ダンジョンに行くか修行するか。折を見て休ませていたが、初期のシオン以上のダンジョン中毒(ホリック)状態だ。

 「後は、きっかけ……それさえあれば、やっとあたいも完全な足手纏い状態から」

 しかし、ロキ達はそれに文句を言えない。

 そもそも彼女がこうまで努力するのは、シオン達のためだ。彼女はよくわかっていた。シオン達が19層より先に行こうとしないのは、鈴がいるからだと。

 22層でシオンが落ちたとき、鈴がいなければ、もっと楽だったはずだ。誰が何と言おうと、鈴はそう思っている。思っているから、足手纏いは嫌だった。

 そのせいで死にかけた時もあったが、全員でフォローしているので何とかなっている。後は【ランクアップ】さえすれば、少しは落ち着いてくれるはず。

 「今日はもう遅いし、今からダンジョンに行こうなんて考えちゃダメやで」

 「そこまで無謀じゃあないよ、あたいは。死にたくないしね」

 今までの行動を振り返ってから言って欲しい。

 なんて言えるわけもなく、ロキは一瞬形容しがたい表情を浮かべ、すぐに消した。その後作ったのは、いつも通りの笑顔だ。

 「そう言われても不安やし? ぉ、そこにちょうどいい大きさのベッドが! できれば抱き枕が欲しいとこ」

 「あたいは抱き枕じゃなくて人間だから。それじゃ、更新感謝するよ」

 「こんのいけずぅ!」

 口ではそう言いながらも、ロキの顔は残念そうに見えない。元々冗談だったのだ、本気では無かった。了承されたらそれはそれ、であったが。

 「ほんま、シオン達は前途多難やな。だからこそ見守りがいがあるんやけど」

 思わずボヤいたのは、しょうがないだろう。

 

 

 

 

 

 「さて、どうしたもんかねぇ」

 鈴は自身の【ステイタス】が書かれた紙を見下ろす。

 ――スキルが、増えてる。

 鈴が覚えるスキルは刀に関連した物ばかり。それに違わずこのスキルも刀を前提とした物に見える。

 ――使いやすいのがいいんだけど。

 鈴のスキルはクセが強い。例えば『反撃一閃』なんかは上手く攻撃を受け流し、且つこちらは反撃できる体勢が整わなければ発動しない。発動しても、効果時間はかなり短い。

 その代わりなのかなんなのか、補正はかなりのものらしいが。多分、耐久値の高いミノタウロスでも真っ二つにできるんじゃないだろうか。

 ちなみに『回避閃光』も使いにくい。何せミリ単位で避ける必要がある。補正は高いが、どちらも条件が厳しい。狙ってやろうとは思わないし、やる必要はない。

 だから今あげた二つのスキルは無いも同然。今回のスキルには期待したい、のだが。

 「どう考えても、面倒なスキルにしか見えないねぇ」

 『帯刀時』と『魔力を収束』という文面。推測するに、居合抜きの威力を底上げするスキルなのだろうが、収束するために時間がかかると考えた方が良い。

 時間と魔力を必要とするスキル。――どう考えても扱いにくスキルだ。

 「どうしてこう、あたいのスキルはこんなのばっかりなんだい」

 『刀使いだから』とかティオナには言われそうだ。

 思わず溜め息を吐き出し、

 「どうした、そんな辛気臭い顔してよ」

 それを、ベートに見咎められた。どこかからの帰りらしいベートは、その両腕に大きな箱を持っていた。少し気にはなった物の、聞くほどの好奇心は無い。

 「新しくスキルを覚えたんだけど、まーた使いづらそうなのでね」

 「……Lv.1で三つもスキルを覚えるのは珍しいんだぜ。ったく、贅沢な発言だこって」

 「覚えられても使えなけりゃ、そんなの無いのと同じだよ」

 思わず肩を竦めると、ベートは確かになと苦笑した。それからん、と呟くと、鈴を見直し、それから告げた。

 「新しくスキルを覚えた、んだよな」

 「そうだけど。二度言わなくてもいいだろ?」

 「実は俺も新しい装備を作ったんだわ。試しにダンジョンに行く予定なんだが、どうせならそっちのも試しておくか?」

 ふむ、悪くない提案だ、と鈴は思う。魔力を使うと書かれている以上、最悪の状態である『精神疲弊(マインドダウン)』を想定した方がいい。

 ベートが手伝ってくれるのであれば、願ったり叶ったりだ。

 「それじゃ、こっちからもお願いしても?」

 「内容による」

 「そろそろ【ランクアップ】できるみたいなんだ。だから、18層まで行きたいんだよ」

 そういえば、ベートはちょっと驚いたらしい、目を開いた。その後素直に凄いなと賞賛してくれたのは、珍しい姿だった。

 「19層に行くつもりは無さそうだし、いいぜ。そっちの手伝いもしてやるよ」

 「よっし! 目指すは明日でLv.2って奴だね!」

 「おいやめろ。それトラブルを起こす言葉にしか思えねぇんだが」

 その時は笑って否定した鈴。冗談として言ったベート。まさか――本当にトラブルが起きるとは夢にも思っていなかった二人である。

 

 

 

 

 

 授業の終わりを告げる鐘の音が鳴る。それは今日最後の授業の終了の証だ。そのためか、生徒は疲れを宿しながらも笑顔だった。

 友達と話す者、本当に疲れきっていたのか机に体を突っ伏す者。先程の授業の内容の復習している者、一度教室の外へと出て行く者と行動は様々だ。

 そんな中で、彼女は一人、目を輝かせていた。

 「本当に――本当に明日、リヴェリア様が……!?」

 それは例年ある恒例行事。今までに何度もダンジョンへと潜っていた彼等が、ボランティアとして手伝いに来た先輩冒険者の手を借りて、行ったことのない階層へ行くというもの。

 勿論危険は相応なので、手伝いに来る先輩方は信用があり、尚且つ強者。最低でもLv.3が二人なのだから、お金をかけて学校に入った甲斐がある。

 先輩の戦う姿を見てどう思うかは生徒次第。得難い経験とするか、あるいは単なる一行事で終わりとするか。

 そして、この生徒――レフィーヤ・ウィリディスは、無駄にするつもりなど無かった。

 何せ噂では、このクラス。つまり特待生、優等生の集まるここには()()【九魔姫】と呼ばれるリヴェリア・リヨス・アールヴが来てくれるという。

 魔道士にとっては憧れの存在。教えを受けられるのであれば、土下座をしてでも頼み込むべき相手だ。当然、期待は上がりに上がる。

 しかし現時点ではあくまで噂。

 この後の担任の先生からの話次第だ。そこで、噂の成否が問われる。

 ちなみに期待しているのはレフィーヤだけではない。だから、教室の雰囲気はいつもとちょっとだけ違った。

 そして時間となり、先生が教室に入ってくる。一目見て全員そわそわしているのを悟り、その理由を察して苦笑した。

 「さて、今日の連絡事項はいくつかあるんだが――勿体ぶらずに教えるのと、最後に教えるの。どちらがいい?」

 『先でお願いします!!』

 全員の息が合っているのにもう一度苦笑。ここまで目をキラキラさせている姿を見ると、頑張った甲斐があるというものだ。

 子供好きな先生は片手をあげて生徒を抑える。全員静かになったのを確認すると、

 「喜んでくれ。噂通り――明日はリヴェリア様が来てくださるぞ!」

 流れる噂。それを肯定する言葉を投げかけた。

 同時、爆発する歓声。普段であれば怒るしかない状況だが、今この時に限っては黙認した。先生の方も、まさか了承されるとは思ってなかったのだから。

 一通りして騒ぎがおさまり――興奮が、ではなく、単に今の状況を思い出しただけだが――全員が着席する。

 そこで、先生はもう一つ伝えた。

 「ただし、来るのはリヴェリア様だけではない。何でももう二人程、来るようだ」

 「え? 別にリヴェリア様だけでもいいんだけど」

 「思っていても口にはするな。特に本人方には絶対にだ。それで、来る人達だが……同じ【ファミリア】所属の【英雄】殿と、【風姫】殿の二人らしい」

 その言葉に、再度教室がザワついた。

 【風姫】については少しだけだが知っている。輝く金の髪をなびかせ、風を操る華麗な乙女。あの宴を見に行った者達から聞いた話だ。

 だが、【英雄】については良くも悪くも知っている。

 曰く、優しすぎる人。

 曰く、最低最悪な人格破綻者。

 曰く、誰よりも上を目指す人。

 曰く、そのために仲間を使い捨てる人。

 ありえないくらい彼に関しては噂が錯綜しすぎている。そのせいで、実際の姿を知る者以外はその実態を知らない。

 期待の中に出た微かな不安。

 『悪い噂が流れるのなら、根拠があるはず』という思考により、折角の喜びに横槍を入れられた気分だった。

 「次の連絡事項だが、明日はダンジョンに行く。自分の装備があれば持ってくるように――」

 続きを言う先生だが、もう彼女にはその言葉が届いていない。

 「【英雄】、シオン……」

 レフィーヤにとって、シオンはリヴェリアにくっついてきた金魚のフン。その程度の認識。

 「余計なことを……ッ!」

 有り体に言えば邪魔者。

 未だ姿すら知らぬその人間に、レフィーヤは憤怒の念を送った。

 

 

 

 

 

 ゾクリ、とまたしても背筋に悪寒が走る。

 「……本当に何なんだ、これは」

 本日二度目――本格的に風邪でも引いたかと思う。けれど自分で把握できる部分でおかしなところはない。病気の兆候にしては局所過ぎるし。

 まぁいいか、とあっさり割り切る。風邪を引いたらそれはそれ、病気になるのはいつも突然なんだからと。

 「大丈夫ですか、シオン」

 そんなシオンを見つめ、心配そうに目尻を下げたのはアミッドだ。今日も一日受付をこなしていた彼女は、最後の客であるシオンに回復薬を差し出した。

 「よくわからないんだが、背中にこう、氷を突っ込まれた感じ? そんなよくわかんない悪寒がしてな」

 「背中に氷……そんな病気、ありましたっけ」

 治癒に関わる者として一通りの勉強をしているアミッド。その彼女をして、そんな病気、聞いた事が無かった。

 後で調べ直そうかな、と悩んでいると、プレシスが現れた。

 「それは多分、嫌な予感だと思いますよ」

 「嫌な予感?」

 「ええ。恐らく、ですが。シオンに因縁を持つ相手、または近々接する人の中に悪意を持っている人がいるか」

 どちらにしても最悪だ。

 思わずゲンナリするシオンに、プレシスは小さく笑うと、

 「それを何とかするにも、一人じゃ難しいですよね」

 「そう、だな」

 「ですので、ちゃんと誰かに頼んでみましょう。例えば、アイズとか」

 さりげなくアイズを押していく。協力すると決めてから、こうやってちょこちょことアイズに協力を頼むよう仕向けているのだが、一向に恋心を抱く様子は見えない。

 むしろ頼まれた側のアイズが張り切って終わりだけだ。

 長い時間を過ごせばいつかは恋という想いに昇華する。そう思っていたのだが、元から長い時間一緒にいたから、あまり効果がない。

 加えて恐怖の体験を一緒にするのも、ダンジョンに一緒に行っているから無意味。……ある意味詰んでいる。

 「明日は一日アイズと一緒にいる予定だけど?」

 「あ、そうですか。なら『ずっと』一緒にいるのがよろしいかと」

 敢えて一部分を強調しておく。シオンは不可解そうにしながらも、うんと一つ頷いた。そんな彼に薬を一つ渡しておく。

 「……これは?」

 「最近作ってみた物です。一時的に【ステイタス】を上昇させる――と言えば聞こえは言いんですが、まだ試作品ですから。五つの物のうち、どれか一つしか上がらないんです」

 それだけでも随分凄いと思うのだが、

 「これでもダメなのか?」

 「ダメですよ。どれに補正がかかるのか完全にランダム、効果時間も短く、連続で飲むと体に負担がかかる――商品にするにはまだまだ改良がいります」

 「おれに渡した理由は」

 「シオンでしたら、問題ないかと。……ユリのアレに耐えてるシオンですし」

 「それが本音か!?」

 しかしありがたいのも事実。たった一本だけなので奥の手にもならない奥の手だが――無いよりはマシ。

 実験体も手馴れたもの。ユリの毒物というなの薬品を飲みまくって『耐異常』も上がりに上がっている。死にはしないだろう。

 礼を言って頭を下げ、薬を受け取りつつそこから去る。

 その背中に笑顔でありがとうございましたと告げ、完全に見えなくなると、

 「……良かったんですか?」

 「何が、良かったのかな」

 アミッドだけになったからか、普段の口調が崩れている。心を許されている事にちょっと嬉しさを感じながらも、アミッドは言った。

 「あの薬は試作品等ではなく、二本しかない完成品の一つでは――」

 彼女の言葉を、指を当てて止める。

 そこから先は蛇足だ。例えバレていても、黙っているのが女の度量。それを笑顔で伝える。それでわかってくれたのか、アミッドは小さく頷いた。

 「彼が来てから、私とユリは、また競い合えるようになった。だから、彼に死なれてしまっては困る――そういう事にしておいてください」

 流石にディアンケヒトには怒られるだろうが、知ったことではない。

 その薬の性質上、誰かに実験体になってもらわなければならないユリの研究は進みにくい。自他共に認めるライバルがそんななので、プレシスの研究にも身が入っていなかった。

 当たり前だ、ライバルが進んでいるからこそ競争心が湧くというのに、そのライバルが止まっていればそんなもの消えてしまう。

 それをまた進ませてくれたのがシオン。

 アイズを応援する気持ちは本当。プレシスは彼に恋をしていないのだから。だけど、生きていて欲しい――そう思うのも、本当だった。

 大切な友人、なのだから。

 「全【ステイタス】に超補正――副作用はわかりませんが、それでもあなたは使うのでしょう」

 ――無駄にだけは、しないでくださいね、シオン。

 

 

 

 

 

 プレシスのところへ向かったその足で、シオンはユリのところへ行く。

 「やっほ、いらっしゃいシオン」

 もう日も暮れている時間だ。表は開いておらず、裏から入るのもどうかと悩んでいた時に、何とユリは窓を開くとそのまま入って来いと指示してきた。

 「……盗人の気分を味わえたよ」

 そう言いつつ窓から部屋に侵入。荷物を置いて椅子に座る。

 「どっちかって言うと間男なんじゃないかな? なーんちゃって」

 「ユリ、彼氏いるの?」

 「それはわかっていても言わないお約束なんだぜ……」

 グサリと矢尻がユリの胸の中心を抉る。年齢イコール彼氏無しなユリには効果絶大だった。口から吐血――わざわざ赤い薬品を飲んで――しているユリに、シオンは冷めた目を向けた。

 「見た目は良いんだから適当に引っ掛ければ? それで年齢イコールは消えるだろ」

 「そんなのヤだよ!? こんなだけど私だって女なんだし、夢みたいじゃんか! そんな体だけが目当てですーな男は願い下げだからね!?」

 冗談に冗談を返せばガチトーンで叫び返された。結構ヤバ目なところを突っ込んでしまったようである。

 この世界では、早めな結婚が推奨されている。どれだけ魔法や回復薬があろうと、死ぬときは死ぬからだ。ちなみにこの『早め』はオラリオから遠ければ遠いほど早くなる。

 ユリはまだ大丈夫だが――後数年すれば、所謂行き遅れになるだろう。一度くらいは彼氏を作らないと、後々面倒になる。

 「それで、今日の薬は?」

 そう思いはしたものの、なんでかユリは将来独身で終わりそうな気がしたので、言うのはやめておいた。反応が面倒だし。

 「そ、そうだね! うん、そっちの話をしようか!」

 そうとは知らず、話題が逸れたからか自ら乗ってくるユリ。どちらも幸せになれないから、これでいいのだろう。

 ユリは咳払いをすると、シオンの前に座って真っ直ぐに目を見つめる。先程までのふざけた様子は一切ない。

 「その前に、シオンは『耐異常』が上がった、んだよね?」

 「ああ。気付いたらFになってた……おかしいだろ、おい」

 『発展アビリティ』、【ランクアップ】時に一つだけ覚えられるそれにも、【ステイタス】と同じく十段階の評価がある。

 Sが最高、そこからA、Bと降りて行き、Iが最低。そこは変わらない。

 変わるのは、上がりやすさ。【ステイタス】にある五つの値と違い、『発展アビリティ』は凄まじくあがりにくい。とんでもない時間をかけて、ようやっと一つ上がる、というものだ。

 そしてシオンは、その一つである『耐異常』をわずか一年程度でFにまであげた。これを見た時のロキやフィンは顔を引きつらせ、そしてひっそり涙した。

 どれだけ毒を飲まされたのだろう――と。

 要するにユリの薬を飲まされ続けた結果、『耐異常』に経験値が貯まりまくってどんどん評価が上がっていったという事だ。

 泣いていいと思う。

 当のユリはといえば、

 「そっか、また上がったんだね! ならもうちょっと効果の強い薬を使っちゃってもいいかな」

 シオンがまた便利な実験体になってくれた――その程度の認識である。

 「ア、アハ、アハハハハハハ……」

 乾いた笑みを浮かべるシオン。

 だが、何故だろう――そこまで苦に思えないのは。色んな意味で毒されまくっている。その事実に、シオンはまた変な笑みが浮かぶのだった。

 

 

 

 

 

 次の日。

 「シオン、大丈夫? 顔が青白いけど……生きてる、よね?」

 「生きてる生きてる。だーいじょうぶだって。軽い地獄を見てきただけだから」

 「シオン? 戻ってきてシオ――ン!?」

 アハ、アハハハハアハと狂ったように笑うシオンをがっくんがっくんと揺らして正気に戻す。それを見ながら、リヴェリアは額に手を当てた。

 「ユリエラ・アスフィーテ……なんという娘だ」




レフィーヤの怒りは、わかりやすく言うと原作ベルと同じものだと思ってください。

アイズ→リヴェリア
ベル→シオン

って感じ。上が尊敬対象、下が怒り・嫉妬を向ける対象。
何もしてないのにいきなり怒りや嫉妬を向けられるシオンまじカワイソス(鬼)。

ちなみにこの話は長い閑話と思ってください。そのためあんまり話数使わずに次の章に行くんじゃないかな。

次回はシオン・アイズ・リヴェリアは学校へ。ベート・鈴はダンジョンへ。

ティオナとティオネは料理の練習とかの花嫁修行でもしてるって事で(どうするか思いつかなかっただなんて言えない)。
あいでぃあぷりぃず(丸投げ)。

それとあの原作突入話は消すの惜しいという人がいたのと、また何かしらの記念で一話ずつ投稿しようかなと思ったので、一番最初に別枠で置いときます。

それじゃ、次回もお楽しみに。

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