英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

42 / 92
前回の続きです。一応後半にそうした理由があるので、TS関連が苦手、でも理由だけ知りたいって人は3分の1辺りまでスクロールして飛ばしてください。


マジカルメイクアップ

 イリンは途中途中で人助けをしつつも、一つの目的地を目指していた。

 それは冒険者ギルド。流石にイリンの姿では知り合いはいないという設定になるから、伝手は一切使えないが、それでも多少の調べ物はできるはず。

 そう、調べ物。それが目的だった。

 少なくともイリンはシオンであった時に変な薬は飲まなかった。それでもこのような体になったというなら、遠距離から影響を与えられる魔法くらいしか候補が出てこない。

 言っては悪いがこの女体化、不完全だ。表面上は女の体になってしまっているが、中身は恐らく男とそう変わらない。実際本気で拳を作って殴ろうとすると、シオンであった時とそう変わらない威力になった。

 つまり、これが仮に魔法であるとすれば『本人のイメージを投影する』類の魔法である可能性は高い。

 だから冒険者ギルドでそれと似たような魔法があれば、この推測はほぼ確信に変わる。というかなってくれなきゃ困る。

 「流石にいつまでもこの体は、嫌だもの」

 イリンが平静でいられるのは単に今までの経験からだ。下手に取り乱したって状況は改善なんてしてくれない。冷静に平静に動き、場を見極め、最善手を導き出す。

 しかしそれは、まだ『何とかなる』という確信があるからこそだ。もし何の手も無いとわかってしまえば、さしものシオンでも、耐えられるかどうか。

 嫌な想像をブンブンと頭を振って追い出し、冒険者ギルドへ辿り着く。日傘を閉じて、他の人の邪魔にはならないよう、端っこを通る。場に似合わぬ格好をしているが、冒険者依頼の発注を頼みに来たと思われたのか、ある程度の視線以上は何も感じられなかった。

 何とか中には入れたイリンだが、そこで固まる。受付嬢の前には大量の冒険者が並んでいて、すぐにはとても用事を告げられそうにない。

 仕方なしにそこから一度離れ、別の場所で仕事をしている人の元へ。幸いこの時間帯ならば、『彼女』がいるはずだ。

 歩くこと数分、ようやっとその見覚えある背中を見つけて安堵しながら声をかけた。

 「あの、すいません」

 「はい、何でしょう。ご用件がありました、ら――」

 振り返った彼女――エイナが、イリンの顔を見て固まる。それからすぐに再起動すると、イリンの体を上から下まで眺めた。

 「……? 何か?」

 「あ、いえ、申し訳ありません。貴方が私の友人にとてもよく似ていたもので、つい」

 ギクリとイリンの心臓が跳ねた。持ち前の精神で顔には決して出さず、どころか笑顔すら見せて応じる。

 「そうなの。あなたがそこまで驚くほどなのですから、よほど似ているのでしょうね。一度お会いしたいものです」

 まぁ、本人だからありえないのだけれど。

 「……そう、だよね。そもそも彼は男なんだし……。すいません、用事があるのに私用に突き合わせてしまって。それで、私に何の御用でしょうか」

 「ああ、実はここにある魔法に関した記述か何か、置いてあるのか知りたいの」

 「魔法に関した記述、ですか? それでしたら本屋等に置いてあると思われますが」

 不思議そうに聞いてくるエイナに、伝え忘れていたなと、イリンはより正確な情報を伝える。

 「私が知りたいのは、攻撃、防御、支援なんかの分類別された魔法。詠唱とかそういうのはわかんなくてもいいから、ある程度把握された効果が知りたいな、って」

 「……申し訳ありませんが、そういった物は厳重に秘匿されていまして、何の信用も、紹介状も持たない御方には見せられません」

 そうだろうとは思っていた。そこにある記述の中には、今を生きる冒険者の使う魔法の効果が記されている可能性がある。ギルドの一職員である彼女が、何の後ろ盾も無い、一般人の少女に見せる訳が無かった。

 それでも、諦める訳にはいかないのだ。

 「とても古い資料でも構わないの。それこそ百年、二百年――五百年、いっそ千年前のだって、文句は言わないわ」

 知らなければ、対策が取れない。

 イリンの予想では、これが魔法による効果なら、魔力による持続が切れた瞬間、元の姿に戻れる可能性は高い。

 だが、イリンが危惧しているのはそこではなかった。確かに戻る事も重要だが、何よりも恐ろしい事実が、イリンを待っているかもしれないからだ。

 そんな想いが気迫となって滲んでいたのだろう。イリナがたじろいだように一歩下がり、困ったように眼鏡の位置を正した。

 「確かに、古い資料の中には一般解放されているのも置いてありますが……そのような物を、一体何に使うのですか?」

 ギルドの規則に反しない範囲でなら、エイナとて鬼ではない、教えられる事は教えるし、手伝える事なら手伝おう。

 だが、こうまで鬼気迫る表情をしている人間を、理由も知らずに手伝うことは、エイナにはできそうになかった。

 だから聞いたのだ。

 「……。……もしかしたら、ちょっと危ない目に合うかもしれない人がいる。だけど、その危ない事は、私が少し頑張れば回避できるかもしれない。その理由じゃ、ダメ?」

 その危ない目に会う誰かまでは、予測できない。

 だが放置し続ければ、いつか後悔する可能性が高かった。恐らくこれは『彼女』も感づいているだろうけど、上から言われるのと、被害にあったイリンが言うのとでは、説得力が万倍に違うはずだ。

 故にイリンは、対策を考えて、伝える必要があった。

 笑い話で済めばそれでいい。でもそうならなかった時のために。そうやってシオンは命の危険を回避してきた。

 それはイリンであっても変わらない。

 何故ならシオンはイリンで、イリンはシオンだからだ。体が男だとか女だとか、そういった物が些細な事に成り下がるほど、シオン(イリン)にとって仲間が、友が大切だ。

 「……わかりました。こちらへついてきてください。ご案内致します」

 「っ、ありがとう、()()()!」

 ……あれ? とエイナは不自然な点を見つけた。

 ――私、彼女に名前を言ったかしら……?

 結局、どこかで名を聞いたのだろう、という思考に落ち着いた。当然だろう、この少女が友人であるシオンだなどと欠片も思っていないのだから。

 背を向け案内するエイナの背を申し訳なさそうに見るイリンの視線に、彼女は最後まで気づく事は無かった。

 

 

 

 

 

 それから二時間程の間、イリンはただひたすら本を読み込んでいた。その速度は普段活字を見慣れているエイナも驚かされるほどで、つい、

 「ど、どうやってそんな速さで……?」

 なんて聞いてしまった。

 明らかに職務を超えている発言だと気づいて慌てて口を噤んだが、幸いイリンことシオンは彼女を友人だと思っているので、特段気にしなかった。

 「あくまでこの資料は私が知りたいことを読んでいるだけだもの。いらない情報は流し読み程度で留めておけば、これくらいは誰にでもできるはずよ」

 若干おざなりな対応になったが、エイナは気にしなかったので、更に読み進める。

 ……本当は、調べたい範囲はもう調べ終えていた。今やっているのは、単に念のため程度の作業と、エイナの目を逸らすための行為でしかない。

 結論から言えば、そういった類の魔法は存在する。

 とはいえそれでもいくつか制限はあるような記述は見受けられたが、しかし、そんな物は使い方次第だ。

 「これは、なるべく速く動く必要がありそうね……」

 ふぅ、と一息吐いてイリンは手元の本を机の上に置く。それからエイナに感謝の言葉と共に、もうこれ以上は必要無いと告げた。

 「もう調べ物は大丈夫なのですか?」

 「ええ。わざわざ手伝ってもらってごめんなさいね。仕事の途中、だったのでしょう?」

 「仕事自体は余裕ができるようにこなしているので、問題はありません。むしろここまで熱心に資料を読み込む人は珍しいので、ちょっと新鮮で、嬉しかったです」

 「嬉、しい?」

 「はい。実はここの整理は私も行っているのですが、大体は無意味になってしまいまして」

 そういえば、エイナが資料を持ってくるとき、その動きにはほとんど淀みが無かった。その理由も常に自分が片付けていたのなら納得できる。

 こうして話している間にも、彼女はイリンが読み終わったと判断した資料をもう元の場所に戻していて、最初に来たときと変わらぬ状況を作り上げていた。

 「こうして誰かの役に立てるのなら、綺麗にしていた甲斐がありました」

 優しく微笑むエイナの表情は、いつもシオンが見ている者と変わらない。この少女の根底にある想いはきっと、とても優しいのだろう。それがわかる。

 「エイナ、これ、受け取ってくれない?」

 思わず手助けしてしまいたくなるが、イリンとなっている今、それはできない。しかし、できる事はちょっとだけある。

 エイナの手を取り、その中にチャリンという音が鳴る物を置いた。その感触と音で渡された物が何なのか察した彼女は困惑させられる。

 「あの、これを受け取ることはできません。私は職務をこなしているだけで、こういった物を受け取るためにやった訳では」

 「これは私があなたに個人的な感謝で渡す物。そう大した金額ではありませんし……帰りに何か甘い物を食べてくれるのにでも使ってくれれば嬉しいです」

 賄賂だとかそういうつもりは一切ない。純粋な感謝で渡すだけだ。本当なら自分でお菓子を買って渡すべきなのだろうが、そんな余裕はなかった。

 それでもしばらく戸惑っていたエイナだが、渡したお金の量もそう大した額ではないのが良かったのだろう。素直に受け取ってくれた。

 「わかりました。あなたの好意、受け取らせていただきますね」

 苦笑しながら、しかしその気遣いを嬉しそうにしているエイナに、イリンも小さく笑みを浮かべてみせた。

 まだ仕事がありますので――そう告げてエイナが立ち去ったあと、用事が無くなったイリンもギルドを後にした。けれどその横顔は鋭く尖っていて、シオンがダンジョンに潜っている時とそう変わらない顔となっている。

 ――これで、確信できた。

 これは魔法の類だ。細かい効果までは違うだろうが、確かに一つの魔法。イリンは己の腕に視線を落とし、見つめる。

 確かに自分の腕。だが、何故だか今は己の腕に『何か』が纏われているような錯覚がある。篭手をはめているかのような感覚だが、それとはちょっと違う感じだ。

 意識を集中し、己の五感を最大限にする。

 ――やっぱり、何かがおかしい。

 表面上自分の体が女になっていると言ったが、どうやらその表現は違ったらしい。

 何せ今のシオン(イリン)は『男の体』と『女の体』、両方の感覚を覚えているからだ。その奇妙な状態に眉を寄せつつ、これ以上はわからないと諦めた。

 ――鍍金か何かで覆われてるような感じなのは、わかるんだけど。

 普通に女になっているのとは少し違う。

 でもそれ以上は、この魔法を使う本人にでも問いただすしかないだろう。そう思って溜め息を一つすると、歩き出す。

 けれど、その足はすぐに止まる事となった。

 道を塞ぐように立つ男女。その二人の姿に、イリンは表情が固まるのを防ぐのに全身の力を集めなければいけなくなった。

 「な、やっぱりここにいたやろ?」

 「流石知恵を持つ神なだけはあるよ。本当に見つけるとは」

 そう会話している二人の視線は、しっかりと自分に向けられている。

 何とか平静を装い小首を傾げ、不思議そうな演技をしていると、男――フィンが、イリンに近づいてくる。その顔は何度か横に立つ女――ロキに向けられているが、ロキは一向に動かずにいるのを見て、意を決したように話しかけてきた。

 「すまない。今、時間は空いているかい?」

 断ることもできずフィンとロキの後ろをついて、イリンは飲み物が飲めて落ち着ける場所へと連れてこられた。カフェで各々飲み物を頼み、人目につきにくい席へ座る。

 コーヒーを頼んだフィンが一口含んだ後に、代表して口を開く。

 「悪いね、うちの神様は容姿の良い子を眷属にしたがるんだ。君の事も噂で聞いて追っかけていてね。僕は護衛と思ってくれていいよ」

 「はぁ……容姿が良い、ですか」

 「そう、その通り。流石に自覚はしているだろう?」

 「してはいますが、私は人を外見で判断するつもりはありません。どんなに見目麗しく見えたとしても、傲慢で、誰かを見下すのが当たり前な人とは関わろうとは思いませんよ」

 心底から思っている事を伝えると、フィンは感心しように頷き、次いでまたロキを見直した。しかしここでもロキが動かないのを見て、眉間に皺が寄る。

 付き合いの長いフィンは、ロキが行動しないのに不信感を募らせていたのだ。普通なら気に入れば一目散に抱きつきに行って確保してもおかしくはないのに、だ。

 だがロキが喋らないのなら代わりを務めるしかないフィンは、不信感を内心に押し留め、何事も無かったかのように振舞う。

 「そういう考えを持つ人が多ければ、いいんだけどね」

 小人族の容姿は総じて他種族の子供並、故に侮られる事の多いフィンだからこそ、その言葉には重みがあった。

 しかし動揺した様子を見せないイリンに苦笑し、

 「変な事を言ってしまったね。僕はフィンだ、こっちはロキ」

 「私はイリンと申します。それで、あなた方の用事とは、一体?」

 「【ファミリア】への勧誘が主。それがダメでも個人的な質問がいくつかってところかな」

 言い終えると、イリンは眉間に力を入れ、困ったような笑みをする。そうして片手をテーブルより上に出すと、横に振った。

 「その提案ですが、お断りさせていただきます。私は他の【ファミリア】へ所属するつもりはありませんので。ですが、個人的な質問なら、内容によりますがお受けします」

 「無理強いするつもりはないから、そう言われたら諦めるさ。それより、わざわざ受けてくれてありがとう」

 いいえと頭を振り、さて何を聞こうか、とフィンが思った瞬間、フィンの気配探知範囲内に見覚えのある者を感じた。

 思わずジト目になりながらフィンはそちらの方へ視線を向ける。

 「そこで何してるんだ? ティオナ」

 「……あ、あはは。やっぱりフィンにはわかっちゃうか」

 ひょこ、と顔を出してきたティオナに、話を聞かれていたのかと溜め息をする。ロキのあの騒々しさならさもありなん。

 が、そう思う程度で済んでいるフィンと違い、イリンことシオンは内心汗ダラッダラだった。

 ――知られたらマズい知られたらマズい知られたらマズいッッ!!!

 とにかく同じ事ばかりが内心でリピートされる。もし知られて嫌悪に塗れた目を向けられたら、心がポッキリ折れそうな気がした。

 ――バレなければ、いい。

 今の自分は外見上女で、そう見えるような言動をしている。

 それを貫き通せば――バレないはず!

 「同じ【ファミリア】の方ですか? それでしたら、是非同席してください」

 ニッコリと、含むところなど無いとばかりに満面の笑顔で勧める。フィンはちょっと申し訳なさそうにしていたが、逆にティオナは顔を輝かせて席に座った。

 「同席するのは構わないけど、僕達の会話の邪魔はしないでくれよ?」

 「わかってるから大丈夫!」

 テンション高めのティオナにやれやれと肩を竦めると、その間にティオナはジッとイリンを見つめて、

 「……シオン?」

 「――ッ!??」

 イリンは、体が動きそうになるのを押し留めるだけで失神しそうになった。恋する乙女の底力なのか、ティオナは一瞬で少女に見えるシオンを看破してきたのだ。

 しかし当のティオナは小難しそうに唸り、

 「……違う、ような気も……でもこの感じ、確かにシオンなはずなんだけど……」

 どうにも己の勘を信じきれず、迷っていた。それをどちらかはわからないが、後押しするようにフィンが言った。

 「僕も聞きたいんだ。イリン、だったね。君は余りにも僕の知り合いと友人に似過ぎている。もしかして血縁関係でもあるのかい?」

 「少なくとも私に兄弟姉妹はいませんよ。親も、兄弟姉妹がいるとは聞いたことがないので、従兄弟とかもいないと思います」

 「だ、そうだよティオナ」

 「うーん、それならシオンじゃないか。ごめんねイリン、勘違いしちゃった」

 「いえ、間違いは誰にもあるから、大丈夫」

 余裕そうに答えると、何故かティオナはショックを受けて固まり、次いでどこかに目を向けて更に落ち込んでいた。

 「えっと、あの?」

 「ううん、気にしないで。持ってる人はわからない気持ちだから」

 「は、はぁ……? なら、気にしませんが」

 ぶつぶつと小声で「女は胸で決まらないし。ティオネも大きくなってきてるけど、私には全然関係無いんだから」と聞こえてきたが、何となく地雷を踏みそうな気配がしたので努めてスルーしておいた。

 なお、弊害として「神であるうちなんて、そもそも……」とか言っていた神もいた。よくわからない連帯感が、そこにある。

 「……私は何も言いませんよ」

 「それが正しいと、僕は思うね」

 フィンとお互い顔を見合わせて、苦笑し合う。どんよりオーラを漂わせる二人は置いて、フィンは問答を続けた。

 「ここには何をしに来たんだ? たった一日で有名になるような人なんだし、外から来たと思ってるんだけど」

 「知りたいことを調べるために。それを知って、やる事が終わったら、私は消えますよ」

 「手伝える事があるなら手伝うよ。これでも僕は有名でね、融通は効く」

 「調べ物はもう終わってますし、やるべき事も目処がついています。大丈夫ですよ。しかし、何故初対面の相手にそこまで親切を?」

 イリンが言えたセリフではないが、思ったことを聞いてみると、フィンは答えに悩むような素振りを見せながら、ポツリと答えた。

 「僕の友人に似ているのが一つ。それと、ここで器の大きなところを見せれば、将来の布石になるかな、と思ったからかな」

 「……正直ですね」

 「君も嘘はついてないだろう? だから僕も本音を言わせてもらっているだけだよ」

 そうですか、とイリンは呟き、

 「申し訳ありませんが、私はそろそろ行かせてもらいます」

 「勘定は僕が済ませておくよ。ありがとう、わざわざ時間をくれて」

 「私も暇を潰せたので、お互い様です。それでは、ごちそうさまでした」

 席を立ち、背を向けるイリンに、フィンは小さく声をかけた。

 「また今夜、()()()

 確信を持って放たれた声音に、聞こえたシオンと、そしてティオナの肩が震える。最後に気が抜けるなんてまだまだかな、と内心で次回への課題を書き留めると、

 「演技は良かったし受け答えも良かった。そこは及第点かな」

 「……何の事かよくわからないけれど、そうですね。もしあなたの友人のエルフに出会ったら、ありがとう、と伝えてください」

 そう締めくくって、イリンと三人は別れる事になった。

 イリンが去った後、どんよりとしたオーラをどこかにやったティオナが、恐る恐ると言いたげにフィンに聞く。

 「あの、フィン? イリンって人がシオンっていうのは」

 「半信半疑だったけど、本当だったみたいだね。何がどうなってあんな姿になっているのか」

 「いやでも、瞳の色は」

 「リヴェリアが、シオンのLv.3到達と、誕生日の祝いに渡していたよ」

 シオンの髪と瞳はとても目立つ。だから人に頼み、途方もない額を渡して、目の色を変えるレンズを作成した。

 この世界でも瞳の色を変える技術というのは珍しい。だから、瞳の色を変えれば、疑問には思ってもシオンだと気づく可能性は低くなるだろう、そう思って。

 「でも、どうして気づいたんや?」

 敢えて聞いてきたロキに、フィンは睨みつける一歩手前の目線になってしまう。

 ――全て知っているんだろう。

 その瞳は、そう物語っていた。

 「そもそも、ロキが彼女を見つけて飛びかからなかった時点で不自然過ぎた。まるで『勧誘する必要も意味もない』って感じだったからね」

 「ありゃ、やっぱ誤魔化せんかったか」

 「それにシオンは他のところ所属するつもりはないと言ったけど、言い回しがおかしい。どこにも入らないと答えるべきだったんだ。つまり、彼女は既に誰かの眷属になっている」

 まぁ、それだけなら疑問には思っても、不自然ではなかった。オラリオ以外にも神というものは存在しているのだから、特段不思議ではない。

 「でも、シオンは僕の血縁関係があるのかという質問に、迂遠な回答をした。無い、と言えばそれですむのに、わざわざ親まで含めた兄弟関係まで説明したんだからね」

 だが、この質問に、シオンは中身の無い回答しかしなかった。その時点で疑問は疑惑に変わり、そうすると細かいところが気にかかってくる。

 Lv.6であるフィンは、当然Lv.3のシオンよりも五感が遥かに鋭い。

 だから、シオンが誤魔化せたと思っていた行動のいくつかは、フィンにとってわかりやすいサインになっていたのだ。

 「恐らくシオンが知りたかったのは『どうしてあんな姿になっていたのか』ということ。目処が立ったのは、その方法と解除の仕方なんじゃないかな。多分だけど」

 そこまで言って、フィンは勘定を済ませて店の外へ出る。ロキもティオナも、感心したようにフィンを見つめていたが、フィンはもう睨みつけると言いたげな目でロキを見ていた。

 ロキは元々、天界では神々を陥れ殺し合わせるように仕向けるような悪神。

 そんな彼女を一言で言い表すのなら、

 ――狡猾。

 フィンは察していた。

 この状況は、ロキがやったことなのを。

 思わず眉間に力がこもるのを、人差し指で解す。ふぅ、と息を吐いて精神状態を平常に戻すと、ふいにティオナが震えているのに気づいた。

 「あの人が、シオン……あのスタイル抜群な人……あのシオンが……女……!?」

 ガタガタと体を震わせるティオナは、恐ろしいものを見た、というように虚ろな瞳をしている。そこでやっと、フィンはティオナがシオンを好いているのを思い出した。

 好いた人が性別逆転していればショックだよな、と何も考えずベラベラとわかった事を述べていたのに後悔していると、

 「ねぇフィン! シオンって、お料理とかできたっけ!?」

 「は? いや、多分できないだろうけど……基本に忠実なシオンだから、レシピと材料と調理器具を渡せば、普通くらいなら作れるんじゃないかな」

 「そうだよね。……よし、決めた」

 両手にグッと握り拳を作ったティオナは、叫んだ。

 「私、今日からお料理の仕方覚える!」

 「何を言ってるんだいきなり!?」

 「だって私、気づいたんだもん! 今のまま甘えてたら、私は女の魅力が全然無いまま育つ事になるって! だからせめて、胃袋を掴んでおかないと……」

 何か、決定的な思い違いをしていると、フィンは気づいた。

 「えっと、シオンが女になっているのを見てショックを受けたんじゃ……?」

 「フィン、何言ってるの? 確かにそれには驚いたけど、理由があるみたいだし、それだけの事で嫌う意味がわからないよ。私がショックだったのは、女になったシオンはアレだけ魅力的だったこと。あのシオンに比べて今の私は――……って」

 杞憂、だったらしい。

 ティオナは一見子供に見えて、その愛情はとても深い。それを忘れていたフィンが一本取られた計算だった。

 フィンが改めてティオナの想いに圧倒されていると、いきなりロキが叫びだした。

 「うちの美少女発見センサーがビンッビンに叫んどる! こっちや!」

 「え、はぁ!? 今度はどこに行くんだ?」

 「ロキ? フィン!?」

 キラキラと満面の笑みを浮かべながら突撃するロキに引っ張られるフィン。そんな二人に置いてかれまいと、ティオナも走り出した。

 全速力で走ること数分、掴んでいたフィンの手を離すと、ロキはボロ布で全身、それこそ顔まで覆い隠す人間にいきなり抱きつく。

 それに驚いたのは、当然抱きつかれた側の方だ。

 「んな、誰だい!? あたいに何かするってなら、ぶった斬って」

 「なぁなぁなぁ! どこかの【ファミリア】に所属してるん? してないやろ? してないんやったらうちに来てくれへん!?」

 「や――る……?」

 ロキのあんまりな剣幕に、怒りの感情は形を潜め、戸惑いを顕にする、声からして少女が距離を取る。

 「……あんたは?」

 腰を落とし、ボロ布から微かに覗く柄頭に反応したフィンが、さり気なくロキを守れる位置に移動する。

 それだけで実力差を看破した少女が一歩下がるのを見ているのに、ロキはただただ笑って、

 「うちはロキ! 【ロキ・ファミリア】の主神をやらせてもらってるで」

 その後紆余曲折あって、少女は半ば強制、半ば納得して、彼女の眷属となった。

 「えっと、これ、良かったのかな?」

 「ロキの勧誘は大概強引だ。まぁ後悔してる人は、あんまりいないから、いいんじゃないかな」

 なんて会話があったとかないとか。

 

 

 

 

 

 ロキ達が新たな団員確保騒動を起こしている一方で、イリンはまた人助けをこなしていた。気がつけば日が沈むかもしれない時刻までそうしていて驚いたくらいだ。

 しかし、この体にかけられた魔法が解ける気配はない。いつまで待っていればいいだろう、と溜め息をしたとき、

 「随分面白い状況になっているのね」

 背後からかけられた、その声。

 気品さえ感じさせる声色に振り返ると、そこには女神フレイヤがいた。その視線はイリンの顔というよりも胸の中央――の、更に先を見透かしているようだ。

 「あ、あの、それはどういう……?」

 「見て知っているから、演技しなくてもいいのよ」

 彼女は、わかっている。

 それを悟り、イリンもつけたくない仮面を外し、シオンに戻った。

 「なんでわかったのかなんて、些細な事です。わざわざ来たのは、どうして?」

 「あら。面白い出来事に引き寄せられるのはどこの神様も同じこと。そんな質問はするだけ無駄だわ」

 煙に巻くようなセリフに若干思うところはあったが、続きがありそうなので、己の感情の動きを制して待った。

 「敢えて言うなら、あなたに変な物が見えたのよ。もう消えかかっているけど。だからちょっと気になったから来てみれば、この状況……ってわけ」

 もう見れたから帰るわ、そう一方的に告げてフレイヤはシオンの横を通っていく。

 「次に会うときは、どんなものを見せてくれるのかしら」

 シオンが振り返ったその時には、もう彼女の姿は消えていた。

 「……ハァ」

 重苦しい溜め息を一つすると、シオンも帰路についた。わざわざ『消えかかっている』なんてヒントを残してくれたのだ、無駄にしてはいけない。

 シオンは誰の目にも止まらない場所に移ると、手持ちの鞄に入れていた最初の服を取り出し、着替える。外で着替えるのに思うところはあったが、気配探知を十全に利用して、人が来る前にささっと着替えて終わりだ。

 それから一時間が経つと、まるでモザイクがかかったかのようにシオンの体がブレると、その一瞬後には元の体に戻って――いや、見えるようになっていた。

 『体の構造を変えるのではなく、周囲の風景を変える』、そんな魔法、だろうか。

 「……帰るか」

 面倒な目に合った一日は終わり、やっとホームに帰れる事に、安堵だけがあった。

 

 

 

 

 

 夜になり、もう寝るだけという時間帯。

 シオンはベッドの上で横になったフリをしていた。シオンの予想通りなら、今日も来る可能性が高いと踏んだから。

 十分、二十分、あるいは一時間。横になっているだけというのはとても暇だったが、ひたすら耐え続けていると、シオンは魔力が起こされるのを確かに感じた。

 ――今!

 物音一つ立てずにベッドから降り、部屋の扉を開ける。感じた魔力の発生源は、シオンのいる部屋の隣。流石に扉の開閉音は消せなかったので、気づかれたのだろう。犯人は慌てて移動しようとしていた。

 だが、遅い。もう既に外にいるシオンと、中にいる相手では、シオンの方が速い。窓から出れれば別だろうが、あらかじめ窓を開けていないのなら、逃げられない。

 シオンは隣の部屋をこじ開けるようにして入る。夜目に慣れていないせいで人影くらいしかわからないが、場所がわかればそれでよかった。

 全力で近づき、逃げようとする人影の首付近の服を掴み、持ち上げた。

 ――いや待て、首?

 ふいに、疑問が脳裏を過ぎる。シオンの身長は同年代に限定すればかなり高いが、だからといって相手の首を掴めるなどおかしい。ましてや持ち上げるなどと。

 思わず近くに相手の顔を寄せると、その全容が知れた。

 四、五歳くらいの少女。それが、恐怖に引きつった顔をして、シオンの前で震えていた。思わずシオンの顔が引き攣り、腕が震える。

 シオンはありとあらゆる言葉を思いついては消し、そして最後に残った言葉を放った。

 「……魔法の効果と、誰の指示か言ってくれれば、許す」

 「……ふぇ?」

 ぱちくりと目を瞬かせる少女を床に下ろすと、シオンは腰に手を当てて仕方ないと笑う。

 「おれより年が上とかなら殴るくらいはしてただろうけど、年下で、それも女の子をぶん殴るのはちょっと、な」

 それからしばらく、シオンも少女もただ黙っていた。シオンは待っていたから、少女は何と言えば良いのかわからなかったから。

 しかし、状況が変わらない、そう理解した少女が、おずおずと言った。

 「わ、わたしの魔法は【マジカルメイクアップ】って言うの。効果は、わたしの想像(イメージ)した事を相手に付与? できる。たしか魔力の量でかけられる時間が変わった、はず」

 「やっぱ、それか……」

 ほぼ予想通り。しかもデメリットはあまり無い。精々が、五感にまで干渉してくるので、自分の性別を変えると違和感が凄まじい事か。

 「指示したのは……いや、やっぱいいや。何となくわかるし」

 「は、はい。あの、えっと……ごめんなさい! 言われた事とはいえ、男の人を女の子の姿にしちゃうなんて」

 「思うところはあったけど、もういいよ。過ぎた事だし」

 シオンも少女も、ただ()()()()()だけだ。気づくのが遅すぎた自分が悪い、そう思って無理矢理納得しておく。

 それよりも、とシオンは少女と目線を合わせた。

 「もうその魔法は使わないほうがいい。使うとしても、自分一人だと確信できる時だけだ。効果も誰にも教えちゃいけない」

 「どうし、て?」

 「危険だからだ」

 この魔法の存在に気づいたとき、シオンは凄まじく危機感を煽られた。

 だってこの魔法は、想像した姿や物を投影できる。身長差や性差等で違和感は出るが、逆に言えばそれらをクリアすれば、とても使い勝手が良い。

 例えば、自分に仲の良い友達がいるとしよう。

 この魔法を使えば、その仲の良い友人のように見える他人が自分に近づける。そしてその他人に自分が何かされれば、当人はどう思うか。

 そうやって他人の関係を容赦なくぶち壊せるのが、この魔法だ。

 だが、恐ろしいのはそれだけじゃない。

 この魔法で、例えばフィンになりすました者がここに来るとしよう。団長である彼は基本的にどこにいても良いから、いろんな場所を見て回れる。加えて団長室にある資料なんかを漁って重要書類を盗むことだってできるだろう。

 つまり、これを悪用すれば潜入活動(スパイ)が容易に行えるという、恐ろしい魔法になる。

 「これはおれのためだけじゃない。お前が危険な目に合わないためでもある。人に連れ去られて痛い事をされながら、ただ魔法を唱える人形になんて、なりたくないだろ」

 脅し、ではない。

 『奴等』なら、やるだろう。それだけの狂気を抱えた集団だ。シオンだって……色々なものを奪われてきた。

 両肩に手を添えて、わかってくれという意思をこめて覗き込むと、彼女はどうしてか口を半開きにしていた。

 「本当に、言った」

 「え?」

 「『シオンならきっと、怒る前に魔法の内容と、わたしの心配をする』って、言われてたから」

 「……あの、アイツは……」

 結局、今に至るまで踊らされ続けているのに忸怩たる思いになりながら、それでも乗るしかない事に苛立つ。

 「その人にも言われたなら、絶対不用意には使わないでくれ。お願いだ」

 「うん。シオンの許可を貰ってから使うことにするね」

 「へ? いやそこまでする必要は」

 「それじゃわたし、もう行くから! 使わないのは約束! バイバイ!」

 え、いやあの、と予想していない自体に珍しく慌てているシオンを知らないまま、少女は扉を閉めて行ってしまった。

 伸ばされた手は虚しく空を抱き、シオンは項垂れる。けれど次の瞬間には立ち上がり、部屋の中に置いてあったクローゼットに手をかけた。

 そして、開ける。

 「それで? 何か言いたい事があるなら聞くよ?」

 「あ、あはは……堪忍してや」

 中にいたのは、今回の騒動の元凶。

 シオン達の主神である、ロキが入っていた。

 ロキはクローゼットで膝を抱えて横になっていたが、体勢的に辛かったのだろう。シオンが開けるとそそくさと出てきた。

 「なんで、気づいたん?」

 「薬を使われたのなら気づく。残ったのは魔法っていう線。だけど、ホームに他派閥が来たなんて話は知らない。だったら同じ【ファミリア】の誰かが使ったんだろう。そして、ロキは団員全ての【ステイタス】を知ってる。バカでもわかるわ、そんなこと」

 まぁその犯人があんな小さな子だったのは予想外だけれど。

 「それより、質問に答えてくれ。どうして、あんな事をしたんだ」

 「……確かめたいことがあったから、じゃあかん?」

 答えにはなっていない。

 だがシオンは、ジッと彼女の瞳を見つめた。その奥に邪な色が無いか、と。だがどれだけ見つめても、彼女の目から感じられるのは、心配の色だけ。

 「……今回だけ」

 「それって?」

 「次からはちゃんと言ってくれ。じゃないと付き合いきれない。手のひらの上で踊らされているのは、好きじゃないんだ」

 シオンは、信じた。

 ロキが何も考えず、ただ悪戯するためだけにこんな事をしたのではない、と。そう思えるくらいには、彼女との関係を持っていた。

 我知らず、ロキは胸をなで下ろしていた。その動作で、ロキは自分がシオンに嫌われているのを恐れていたのだと知ってしまう。

 けれど、表にはそれを見せず、

 「ならこの話はこれで終わりやな。あ、せや。シオン、明日会わせたい子がおるから、時間作っといて」

 「はいはい。それじゃ、お休み」

 「お休みや」

 呆れたように部屋を出るシオンに、軽く手を振って笑うロキ。だがシオンの姿が完全に見えなくなると、顔をしかめて外を見た。

 「やっぱり、誰かが……」

 シオンには言えなかった、『そうした』理由。

 それは、ずっと前から疑問に思っていた考えを確信に変えるためだ。そのために、わざわざシオンを女の外見へと変貌された。あんな、小さな子を使ってまで。

 それでもシオンがロキの考えた通りに動くとは限らなかったが、あのシオンが人助けをしない姿が思い浮かばなかったので、賭けた甲斐はあった。

 まぁあんな大々的に子供を助けるとは思わなかったが、そのお陰で『ロキの依頼した人間』以外の人が更に噂を広げてくれた。

 曰く、『困っている人を助ける、かつての聖女様のような女の子がいる』、と。

 そもそもたった一日で爆発的に噂が広まるなどありえない。桜を用意でもしなければ。必要無かったかもしれないが、確かに広まった噂を集め、そして吟味し、わかった。

 シオンとイリンの違いが。

 よくよく思い返してほしいが、シオンとイリンは性別が違うだけで、やっている事はほとんど同じと言っていい。なのに、どうしてかシオンの方には常に悪い噂が付き纏っているのか、本当に不思議だった。

 時にはその『悪い噂』のいくつかを揉み消したのに、だ。シオン自身知らないような、悍ましい噂を。

 消えない噂、ならばそれを流している者が必ず存在している。そして、ロキはその相手に少なからず心当たりがあった。

 闇派閥(イヴィルス)

 かつてシオンの両親の命を奪った者達の総称。一度聞いたときには単に運が悪かったのだと思っただけだが、シオンにまでその手を伸ばしているのなら、話は別だ。

 シオンの両親、【聖女(セイント)】と呼ばれた母と、【将軍(コマンダー)】と慕われた父。その二人に恨みを持ち、憎悪の刃を振るった相手が今、その子である【英雄(ブレイバー)】にまで手を伸ばしている。

 「個人ではなく、血縁まで恨むほどの憎しみ、か。一体何があればそうなるんや」

 どうしてか今は直接手を下していない。

 苦しませて、苦しませて苦しませて苦しませて――その果てに殺すのか。仲間を殺して、絶望に歪むシオンの顔を見たいのか。

 「そんなの、許さん」

 ロキにとって彼らは大事な【眷属()】だ。誰の許しを持ってその命を奪おうとしている。

 ――いっそ『根元』を毟り取るか……。

 そんな物騒な思考が思い浮かぶほどに両手を握り締めると、ふいに力を抜いた。そんな事はできないからだ。

 たった一つの【ファミリア】だけで壊滅状態になど、とても追い込めない。そもそもシオンは闇派閥が流した噂のせいで、同じ団員であるはずの者からも嫌われている有様だ。

 優遇しすぎれば、ロキの手でシオンを破滅させかねない。

 「もっと……もっと、強うなってや」

 ロキが手ずから守ろうとしても、誰も文句を言えないくらいに、強く。

 

 

 

 

 

 次の日、シオンはティオナから妙に強い視線を受けているのに困惑しながらも、フィンに案内されて客室へと入った。

 そこには、くすんだ色をした少女がいた。

 シオンよりも身長は高い。女の子にしては相当な物だろう。ざっくばらんに切られたショートの黒髪に、灰色に染まった花の髪飾りをつけている。

 そしてこれまた灰色のズボン。更に男物らしい着物まで灰色だ。一瞬見ただけなら男と勘違いしてもおかしくはない格好。だが微かながらに起伏に富んだ体が、目の前の人は確かに女性であると告げていた。

 しかし黒髪と褐色に近い肌は、まるでアマゾネスのようだ。シオンの直感では、アマゾネスではなくヒューマンのようだが。

 その彼女はつまらなそうに部屋を見回しては、手に持っている刀に触れては放すを繰り返す。そうしてからシオン達の損残に気づき、言った。

 「やっと来たのかい? 待たせすぎだよ」

 男勝りな口調だが、その目はシオンの体を上から下まで眺めている。それを終えると、フッと面白そうに笑った。

 「フィン、って言ったよね? これがあたいのリーダーになる人間か?」

 「そうだよ。その通りだ」

 「……おい、フィン。彼女の言葉が確かなら、まさか」

 頭の回転も悪くないね、と勝気に笑う少女。

 「見た目は女っぽいけど、体付きと動きを見ればわかるさ。あんた、相当鍛えてる人間だろ? そんな相手の下になら、ま、ついてもいいさ」

 何となく、シオンは悟った。

 会ったことがない少女。つまり彼女は、昨日、ロキに誘われ眷属となったのだろう、と。そしてフィンがわざわざパーティに入れようとするほど、強いのだろうとも。

 だから、敢えてシオンは自ら手を差し出した。

 「よろしく。おれはシオン、一応パーティリーダーだけど、気に食わない意見があったらどんどん言ってくれ。一理あるなら受け入れて修正するから」

 「ハッ、いいね。無能な頭だったらたたきつぶしてるとこだけど、使えるなら使ってやる。あたいはカザミ・鈴。刀使いの女さ!」




まずは謝辞を。唐突なTS展開に気分を害された方がいるようで、申し訳ありませんでした。

ただ弁解させてもらいますと、私は初期構想段階からこのシーンを考えていました。その内容が『ロキに無理矢理女装させられた』かどうかの違いくらいです。
なので、TSベート云々が無くてもこんな風にはなっていました、とだけ。
結局こうなったのは、作中で年単位、こちらで月単位先の展開で使えるから、というのが主な理由ですが、まぁ苦手な方には本当にすいませんでした。

後『唐突過ぎて置いてけぼりになる』と言われたので、シオンが朝起きる前にロキと会話してるシーン付け加えました。アレ入れるとロキがなんかしたってわかりやすいから、抜いちゃったんですよね、最初。

とりあえず今回は説明回的な感じ。
今回の目的は四つありまして。
・ティオナの世間一般が思い浮かべる『女の子らしい技術』の会得を決意させる。
・マジカルメイクアップという、特異な魔法の存在を知り、助けを得られるようにする。
・闇派閥の存在がシオンを狙っているのだという話を語る。
・オリキャラを登場させる。
こんな感じです。

あまりに唐突すぎて結構批判喰らいましたが、覚悟の上です。
やりすぎると物語がガッタガタになるんで、流石にもうやりませんが。

次回からは今まで通り、仲間と共に戦い、危険な目に合い、強敵を打ち倒すっていう感じに戻しますので、どうかこれからもお付き合い願います。

新たな仲間を得て、6人となったシオン達の冒険を待っていてください!





ところで素朴な疑問なんですが。
想像(イメージ)を押し付けられて女になったと自身も周囲も錯覚させられていた』状態って、TSっていうか女体化って言えるんですかね。
それ次第で『TS』か『ある意味TS』か、タグ無しかが変わるんですが。
わかる方いたら詳しい解説願います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。