英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

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風の正体

 とりあえず、という事で服を着直して、あらためて彼女を見つめる。

 彼女は本当に小さい。お人形という表現が適切か。多分十五Cから二十Cくらい。ただ、そんな身長だけれど、彼女の年齢はおれと同じか少し下くらいだった。

 目に付くのは、アイズと同じ鮮やかな金髪。陽光を反射するそれは、彼女の纏う風に揺れ、つい目で追ってしまうくらい眩い。その瞳はすぐ傍に流れる川よりも澄み渡った青。じっと見つめられたら心の奥底まで見透かされてしまいそうだ。

 少しだけ紅潮した頬と、緩く弧を描く口元が彼女の可憐さを助長させる。

 服装は、少し露出過多だ。肩やお腹が丸見え、なのだけれど、彼女の方は特に恥ずかしいと思っている様子は無かった。

 まぁ、風が彼女の姿を半ば隠しているので、肌色成分は控えめだから、いい、のかもしれないけども。

 「うんうん、これでやっとまともに話せるネ」

 と、どこか満足気に頷く彼女が、シオンに近づいてくる。そのままシオンの鼻先に触れ、撫でてきた。

 「えっと、何、してるんだ?」

 「ん? 慰めてあげてるんだヨ」

 彼女が何を言っているのか、シオンには最初、よくわからなかった。

 しかし外見に不釣合いな程の慈愛を宿した瞳には、彼女が本心からこの行動を取っているのだと理解させられる。

 だからシオンは、一度理解する事を放り投げて、川辺に移動し、素足を川に浸した。冷たい水に身震いしながら、彼女が撫でるに身を任せた。

 そしてふと思ったことを、口にした。

 「その喋り方、なんか胡散臭いからやめない?」

 ピクリ、と彼女の肩が跳ねる。

 「えー? 折角励まそうと道化(ピエロ)になってあげたのにー!」

 つまんないつまんない、と先程までの姿をかなぐり捨てて手足をジタバタさせる彼女に、少しでも神秘さを感じた自分を殴りたくなってきた。

 「不自然さが目立つし、そもそも容姿に合ってないんだけど」

 「そ、そうなの……?」

 ガーン、とショックを受ける彼女は、どうしてかティオナによく似ていた。コロコロと変わる表情の快活さが、彼女を想起させるのだろうか。

 ふと思った。

 ――思い描いてた精霊らしくないな、と。

 しばらくドンヨリした雰囲気を漂わせていた彼女だが、本題から逸れていると思ったのか、シオンをキッと睨みつける。

 「と、とにかく、シオンは私に感謝するべきなんだよ!」

 「感謝はしてるけど。あの風のお陰で命を救われた事が二度もあったんだし。ありがとう」

 「あ、うん、どういたしまして……」

 何となくわかった。

 彼女、押しに弱いらしい。それも純粋な感情を向けられると、恥ずかしがって顔を動かしまくっている。

 だけど、このままでは本題に入れない。彼女しかその内容を知らないのだから、純粋な感謝以外のこと、からかいなんかはしないでおこう。

 「それで、どうして今、おれの前に姿を見せてきたんだ?」

 なのでシオンの方から本題に入る。

 内容はわからないが、疑問点の提示くらいはシオンにだって可能だ。これを足がかりにしてくれれば、彼女は自分の言いたい事を伝えてくれるだろう。

 「そ、そーだった。もう、シオンが変な事言うから! ……コホン、まず、私がシオンの前に姿を見せれたのは、私が成長できたからだよ」

 「成長……?」

 シオンが上から下まで彼女の姿を眺めると、何故か引かれた上に手足で体を隠された。それでもシオンの視線に邪気が無いのはわかっているのか、すぐに元の体勢に戻ったが。

 「それを説明するには、まず私がどうしてシオンの傍にいたのかっていうのから始めないといけないかな。……一番最初の出会いは、私がまだ自我の無い頃の事なんだけど」

 「それって」

 『アリア』という女性が、シオンの額に口付けた時の事を思い出す。

 あの時シオンは、強烈なまでの『熱』を感じた。もしアレが、彼女をシオンの体に宿すための行為なのだとすれば……。

 「――『祝福』っていうのは、リヴェリアを騙すための嘘?」

 「それは早計過ぎるかな。実際にシオンにも『祝福』は渡してたよ。ただそれが、私をあなたに託すついでだったってだけだよ」

 段々、訳がわからなくなってきた。

 アリアが渡した祝福とは、一体何なのか。そもそも彼女は何を願って、シオンにこの精霊を託してきたのか。

 普通に考えて、悪用するとは考えなかったのかと思ってしまう。

 それとも信じたのか。

 こんな、我を忘れて人を殺そうとした人間を。

 そう自問していたせいか、シオンは、彼女が心配そうに見つめているのに終ぞ気づかなかった。

 「なら、そもそもあの人がおれに渡した祝福ってのは何なんだ……」

 「教えて欲しい?」

 精霊が、シオンの瞳を覗き込んでくる。その表情は悪戯気味だったが、シオンにはどうしてか、それが何かを隠すためだとわかってしまう。

 だが、しかし。知りたいと思ったのは、事実だ。

 「……教えてくれ。じゃないとおれは、アリア……さんを、アイズの母親を、疑ってしまうかもしれないから」

 「……シオンは優しいね、ホントにさ。よし、ならば教えてしんぜよう!」

 最初は呟くように、最後は大声で。

 その勢いのまま、彼女は言った。

 「アリアが渡したのは、()()()()。シオンにもわかりやすくいえば――自分の『魔力』を、シオンの体に受け入れさせた」

 「……?」

 また訳のわからない単語。

 シオンが首を傾げているのをむしろ当然だと思っているのか、彼女は説明を続ける。

 「私達精霊が本来自然と共にある存在だっていうのは、シオンも知ってるよね? そこにはきちんとした理由……摂理があるの」

 それは、知っている。

 義姉や、ティオナと同じく物語――英雄譚の好きなシオンは、当然、そこに出てくる精霊の事も知っていて、それ故精霊という存在が自然の多くある場所に好んで住む、という事くらいは。

 「生まれたばかりの子供に『自分』って認識が無いみたいに、私達精霊も自我を持たない。その上私達が『生じた』ばかりの頃は、本当に何もできないの」

 精霊なんて物は名ばかりだと、彼女は言う。

 もちろん時を経れば力は増すし、それに伴ってそう呼ばれるだけの存在になる。とても俗物的な言い方になるが、彼女達は『才能』と『潜在能力』が飛び抜けて高いだけ。

 だから――生まれた瞬間を狙われれば、彼女達は狩られる。

 「……待て」

 ここまでの話を聞いて、シオンは一つの仮説を脳内で組み立てた。組み立てることができてしまった。

 まず、アリアの件は後回しにしよう。

 重要なのは三点。

 精霊は、最初は人と同じくとてもか弱い存在だということ。

 もう一つは、自然を好む……恐らく『誰の手も届きにくい』ような場所に住むということ。

 そして、最後。

 この二つが前提に来るのなら。

 ――どうして彼女は、『シオンという人間』の内部に潜んでいられるのか?

 つまり二つ目の項目は、さして重要じゃない、という事になる。あくまで強くなるまでの過程としてそこにいるだけ。そこにいれば、生き残れる可能性が高いだけ。

 か弱いが勝手に強くなっていく。その間は隠れ潜む。自然、人、精霊。これらに共通する物の中で、精霊に必要な物。

 そんなの――さっき、彼女自身が言っていたではないか。

 「『魔力』……」

 そう、それだ。それこそが精霊に必要な物で、だからこそ、時間を置かなければ自らが強くなれない理由。

 魔力は自然に湧き出る物だが、無尽蔵に集めるのは不可能。特に多くの精霊が集まれば、それだけの時をかけなければならない。

 逆に言えば、自然でなくとも魔力の生じる存在――人であっても、それは変わらない。

 「それって、ほとんど『寄生』に近いんじゃないのか……」

 呻くように言うシオン。だがほとんど間違っていない。実際弱い状態の精霊を身に宿していたところで恩恵等無い上に、下手にそれがバレればシオンの体を解体しようとする愚か者まで現れるかもしれない。

 そんなリスクを知らず与えられていたことに頭を抱えかけたが、しかし同時に、この力が無ければ死んでいたのも事実。

 結局のところ、シオンに彼女やアリアを責める事などできはしない、という結論に落ち着いてしまった。

 が、それは言葉にしなければ伝わらないわけで。

 「そんなのと一緒にしないでっ! 『寄生』っていうのは宿主に一方的に取り付いて、害だけ与えて自分が得する存在だけど、私は違う!」

 彼女は、怒る。

 だがそれは、憤りと、そして悲しみが大部分だった。

 「私は君を『ヤドリギ』にしてるけど、でも、ちゃんと力を貸してる。奪うだけの『寄生』なんかじゃない、一緒に生きるために『共存』してるんだからっ」

 切実な声に、シオンは、言い方を間違えたのだと知った。

 「……だから、そんな酷い事を、言わないで……」

 手の中で泣いてしまった彼女に、シオンはただ、自分の疎さを殴りたかった。だけどそれは後にする。

 「……ごめん。そもそも今より幼くて弱いおれに、風の精霊を宿して無事でいられるような魔力なんて、無かったのに」

 「そうだよっ。だからアリアは、シオンが死なないように自分の魔力を君に渡したんだから」

 少しだけ落ち着いてきたのか、ぐずりながらも彼女は言う。

 ――そう考えれば、辻褄は合う。

 どうして今になって彼女が目覚めたのか。

 そんな物、今『自分』という物を得たからでしかない。

 その結果に至るまで、アリアと、そして自分の魔力を微量ながら受け取っていたのだ。

 「それが答え。……最初にシオンが死にかけた時に発動したのはアリアの魔力を使った風の力だけど、でも、二回目からは私の力だったんだよ。覚えてる? 微睡みの中で、恐れを抱いた君を励ましたのを」

 ――諦めないで。

 ――ほら、頑張ってっ!

 そんな意思をこめて、彼女は風をシオンにぶつけた。

 「そもそも、シオンの願いを聞き届けて形にしたのは私だよ? 君の想いを成すために、君が描いた事を作る手助けをしたんだからね」

 バラバラになった鉄の欠片を、ツギハギだらけの剣にしたこと。

 薄刃陽炎を噴出させるために、風の出力を少しずつ調整できるようにしたこと。

 『魔法』ではなく、精霊そのものの力を借りたからこそ、魔法なんてお呼びじゃないくらいの力を発揮できたのだ。

 それを理解して、シオンの中で罪悪感が募っていく。

 「本当に、ごめん。助けてくれた相手に『寄生』だなんて。むしろおれと、おれの大切な人の命を救ってくれた恩人なのに」

 「……いいんだよ。シオンがいなきゃ、私だってこうしてここにいられない。私は私のために、君が生きるための力を貸した。そして願った想いを実現させるために手助けした」

 先程思ったことを全て撤回する。

 まさしく彼女は精霊だった。優しく、力を貸す相手には、献身的に尽くしてくれる存在だ。

 そして、だからこそ――彼女は、容赦しなかった。

 「でもそれは、君が『誰かの為に』力を使った時にだけ、対価を求めない契約」

 「は? け、契約? そんなの、いつ」

 「『誰かを助けて、みんなを笑顔にできる、そんな『英雄』になりたい』――」

 「んな――っ」

 その、言葉は。

 シオンがアリアに伝えた、今でも思い出すと頭を抱えるくらい小っ恥ずかしい願いで。

 だがその羞恥心は、一瞬で冷やされた。

 「――さっきのシオンは、アリアに言った言葉通りの行動をしてたと、心から思える?」

 「――それはっ」

 心臓を、掴まれたような気がした。

 答えは一つ。

 全然思わない、だ。

 シオンが望んだ姿は、あんな我を忘れて暴走して、死と破滅と涙しか残さないような、そんな物じゃない。

 「私が力を貸したいと思ったのは、あの時の君であって、あんなのじゃない。……あくまで君が君の力で成したのなら、文句は言えなかったけど」

 人は、変わる。

 それでも彼女は、それがシオンの力によって成し遂げたのであれば、内心どうあれ、シオンの傍に居続けただろう。

 だが先程のアレは違う。

 完全に彼女の力を前提に行動し、事を成そうとした。

 「アレは完全な契約違反。そして、違反したのなら、君は罰を受けなきゃいけない」

 契約通りにシオンが行動し、願い、彼女を頼ったのなら、アリアの『祝福』が、風を扱うだけの魔力を肩代わりしてくれた。

 ならば、それに違反した行動でもって力を行使したのなら、どうなるか。

 「内容の一部は私に託されてるから、ある程度の裁量はある。……どんな風に、してほしい?」

 敢えて、彼女は問うた。

 軽い物にしてほしいと涙ながらに訴えるか、自責に耐え切れず重い物にしてほしいと頼むか。どちらも選んで欲しくないな、なんて勝手な事を考えながら、彼女はシオンを見た。

 シオンは、どうしてか――笑っていた。

 一瞬気でも狂ったのかと思ったが、違う。

 「……『離れる』とは、言わないんだね」

 「え?」

 「普通、30人って人を殺そうとして、後悔はしてても、特に後を引きずってないような人間なんかと、まだ一緒にいてくれるの?」

 ティオナ達は、信じてくれるだけの年月を過ごした。

 だがその過程において、彼等の間にあったのは、お互いの命を懸けるというレベルの濃密なやり取り。日常生活で育まれる友情とは、密度が違う。

 例え絶体絶命の状態に陥っても――あの時のインファント・ドラゴンとの戦いのように、誰かを死なせないために自分の全てを懸けられる。

 そう言い切れるのだ。

 けれど、この精霊はどうなのだろう。

 シオンの事を夢で見た、という彼女だが、実際の顔合わせは今日が初めて。そんな相手があんな行動をしていたのに、恐怖は感じなかったのだろうか。

 「お前はおれに力を貸してくれているけど、それはただの契約……アリアからの頼みっていうだけで、強制されているものじゃない。その気になれば、簡単におれとの縁なんて切れるんじゃないのか?」

 「…………………………」

 「その沈黙が、答えなんだよね」

 シオンは知っている。

 一度失った信用や信頼は、そう簡単には戻ってこないことを。いっそ自分の事を何も知らない初対面の相手の方が容易だとわかってしまうくらいに、難しいのだということを。

 「それでもお前は、まだ、おれを信じてくれるの?」

 「……正直言うと、迷ってる」

 彼女は、その端整な顔を少し歪めながら、答えた。

 「君は間違えなかった。だけど、もし同じ事が起きて止まる保証はないし、その時は今よりもっと強くなってるはず。被害が、想定できないの」

 本当に、彼を信じ続けていいのか。

 精霊であり、力を貸す側である彼女は、無責任な行動ができない。それで同胞を、同胞の住む自然を破壊されたら、傷つくのはシオンだけでは済まないからだ。

 「それじゃあ、さ」

 「……?」

 「お前との『契約』の内容を、もっと厳しくすればいいんじゃないかな」

 「厳しく、する?」

 「そう。例えばだけど、『同意無しに風を引き出せない』……とか。それならおれが暴走しても力は渡せないだろ?」

 確かにそれなら、安心ではある。

 だがそれだと、もし彼女の機嫌が悪かった時には力を借りられない事を意味する。シオンはそれでいいと思っているのか。

 そう聞くと、シオンはむしろ不思議そうにしていた。

 「元々この風はおれの力じゃないんだ。貸してくれるだけありがたいくらいだし、無いなら無いで別の方法を模索するよ」

 シオンは一つに事象に固執しない。

 だから、借りられないのならスッパリ諦めるだけだ。あればいいとは思うけど、それに頼りきりになれば堕落するから。

 「わかった。私はシオンを信じるよ。その言葉、嘘にしないでね?」

 「ああ。だからお前も、おれに甘えを見せないでくれ」

 そうして2人は手を握る。

 大きな手と小さな手が交わった。

 ――ここに新たな【契約(コントラクト)】を結ぶ。人の子よ、どうか我の信を裏切りたもうな――。

 そんな、厳かな声がどこかから聞こえた気がした。

 シオンと彼女の手が離れ、そして彼女は言った。

 「契約は更新したけど、それ以前の罰は残ったままだから、これも行うよ」

 「うん。拒否するつもりはないから、やっちゃって」

 そう答えると思った、そう言って苦笑し、彼女は告げる。

 「汝契約破りし者よ。我は契約を紡ぎし風の精霊として、その誓いに背いた罰を与えよう」

 彼女がシオンの額に触れた瞬間、シオンの中から何かが抜き取られていった。最初はちょっとした違和感だったそれは、果てにはシオンの心臓が荒れ狂う程の物となる。

 「う……づっ……!」

 「風の精霊としての裁定を告げる。汝の魔力、規定に届かなければ体力で補い、我が身に進呈せよ」

 ……気づけばシオンは、横に倒れていた。

 霞む視界の中で、彼女はシオンの頬を撫でるのを見る。

 「……今回はシオンが魔力も体力も全然消費してなかったらこの程度で済んだけど……もしどっちも足りないまま契約を破れば、今度奪われるのは君の寿命になる。これだけは、覚えていて」

 彼女は一度風を起こし、シオンの髪を顔から払う。

 ――それでも、おれは。

 本当に必要になったら、例えそれが契約破りになろうとも――死に体の状態でも、使おうとすると思う。

 彼女もわかっているのか、必要以上の言葉を重ねず、シオンの髪を束ね終える。

 それを確認すると、少しずつ、彼女の体は半透明になって消えていった。

 「まっ……最後、お前の、名前くらいは……!」

 『名前……かぁ』

 もうエコーのかかった声は、どこか寂しそうな物に聞こえてしまった。その意味を問いかける間も無く、彼女は消えてしまう。

 最後に、こんな言葉を残して。

 ――私に名前をちょうだい?

 名無しの精霊。

 つまり彼女は、アリアに名を貰っていなかった事になる。だからこそ、シオンにその役目を頼んだのだ。

 今はまだ、思いつかないけれど。

 「次、会う時には……必ずっ」

 それだけを約束して、シオンの意識は、闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 一方で、もう寝る準備を整えていたティオナ達は、シオンが帰ってこない事に、少し危機感を覚えつつあった。

 ベートは胡座をかいた膝が揺れているし、腕を組んだティオネは人差し指をトントン跳ねさせている。アイズの視線は落ち着きなく動き、ティオナはもう、耐え切れなかった。

 「~~~~! 私、シオンを探してくるねっ!」

 「あ、ちょっとティオナ! ……ったくもう、勝手に」

 とはいえそろそろ探しに行こうかと考えていた時なので、見逃してあげた。ティオネは未だ座ったままの2人に目を向ける。

 「で、あんた達はどうすんの?」

 「シオンはそこらの子供じゃねぇ。勝手に帰ってくんだろ」

 「……体洗ってるところに出くわしたら、気まずいし」

 「あっそ」

 何とも極端な答えに呆れつつ、ティオネも待つ事にした。

 どうせティオナが何とかするでしょう、とか思いつつ。

 そしてシオンを探していたティオナは、最も近くにある川にまでもう移動していた。どちらかというと『敏捷』は低い方である彼女からは考えられない速度だ。

 それ程までに心配なのだろう。

 息を荒げながらも川にたどり着き、

 「っ、シオン!」

 そこで、倒れ伏すシオンを見つけて、心臓が止まるかと思った。顔を真っ青にしながらシオンの元へ駆け寄り、胸が正常に上下している事から、生きているのだとわかってホッとする。

 「もう、こんなに心配させてっ」

 と怒りつつ、モンスターに襲われてなくてよかったと思う。

 シオンもティオナもほぼ武装を持っていないので、モンスターが近くにいない今の内に移動するべきだと、感慨にふける間も惜しんでシオンを背負い、ティオネ達のところへ戻る。

 最初、シオンを背負って戻った時にはかなり驚かれたが、同時にどうしてシオンが戻ってこなかったのかを理解して、溜息を吐いてしまうティオネ達。

 結局シオンは、ティオナ達が寝るまで起きる事はなかった。

 「……で、おれとティオネで警戒をしろ、と?」

 「私はあんたが起きるまでの繋ぎの予定だったんだけどね。ちょうどいいから、少しくらい話しましょ?」

 そして、夜。

 空と表現できる水晶。その中心から輝きが消え、黒く染まった天井を見上げながら、シオンとティオネは背中合わせになってお互いの体温を確かめていた。

 他の3人は、布を適当にかけ合わせ、武器を傍に置いた状態で木に寄りかかりながら眠りについている。多分、一言声をかければ飛び起きれる状態だ。

 そんな事態にはならないでほしいんだけど、と思いつつ、ティオネの言葉を待った。

 「……何でもないように振る舞ってるけど、私だって、思うところはあるのよ?」

 一体何の話だ、と言いかけて、それが暴走していた時の事だと気付いた。ほんのちょっとだけ、微かに震える彼女に、シオンはかける言葉を見つけられない。

 「……ごめん」

 ありきたりな言葉。物語でよく使われる言葉だが、こんな時に使うと、訳もなく責められているような気がしてくる。

 「別に責めてはないの。話は変わるけど、シオンは私にとっての一番は団長で、それは絶対に変わらないってこと、知ってるでしょ」

 「ああ、よく知ってる。見てればわかるよ、それが嘘偽り無い……どころか、自分よりもフィン優先! ってのがすぐわかるくらいだし」

 ――……なんで他人の恋愛事情はわかって自分の事はわからないのか。

 場違いにも言いかけたが、ティオネは意志の力でそれをねじ伏せ、それから少し考え、行動に移した。

 「……でもね、シオン」

 ティオネの背に一瞬力が溜まり、シオンから体を離す。温かな体温が離れていく事にどうしてか寂しさを感じたが、すぐにそれは帰ってきた。

 「あんただって、私にとって大切な人なのよ」

 「え……」

 ふわりと、ティオネの両腕がシオンの首へと回される。一体何をしているのかと振り返りかけたが、両腕でガッチリと固定されていて動かせない。その体勢で、ティオネは頬をシオンのそれに押し付けてきた。

 「死んだら泣くわ。いなくなってなんてほしくない。一緒にバカやって、笑って、そんな日々を失いたくなんてない。だから、死んでほしくない」

 耳元で囁くように言われた言葉は、ともすれば泣きそうなくらいに濡れていた。ティオネの手が拳を作り、シオンの胸元に皺を作る。

 震える拳に手を当てて、シオンはそっと目を閉じた。

 それからどれくらいこうしていただろう。気付けばティオネは両腕を離していた。

 「私がこうしたって事は内緒にしてね? いくら仲間だからって、男にこんな事したなんて団長に知られたくないし」

 「そりゃまあ、好んで広めようとは思わないけどさ」

 ティオネにとっても恥ずかしい事だが、シオンにとっても恥ずかしいのだ。

 正直、色々あって混乱させられた頭が落ち着いてしまうくらい、嬉しかった、だなんて言えるわけがない。

 「あ、そうだ。明日起きたらこのネタでアイツをからかってやろうかしら。いつもはあんだけ言ってるクセにシオンを抱きしめるとか、男好きなの? って」

 湿っぽくなった雰囲気を変えるため、だというのはすぐにわかったが、だからといってその表現はシオンにとっても嬉しくない。

 「それは、やめてほしいな。ベートにそのつもりはないだろうし、おれのせいであんな行動を取ったんだから、からかうならせめておれだけにしてくれ」

 「わかってるわよ、それくらい。八割方冗談よ」

 できれば全部冗談にしてほしかった。

 シオンもベートも男好きではない。

 「言っておくけど、おれもベートも、普通に女の子が好きなんだからな……?」

 「だったらもうちょっと女に気があるようにしなさいよ。あんたら、揃いも揃ってストイックすぎ」

 「……努力するよ」

 現状興味がない、とは口が裂けても言えなかった。

 まぁ、ティオネもシオンが言わなかった部分を察したのだろう、小さく息を吐くと、寝ている3人に近づき、布を少し奪って潜り込む。

 「私も寝るわ。後は任せたから」

 「ああ、そうしてくれ。ありがと、ティオネ」

 「ま、お姉ちゃんだし? これくらいなんてことないわ」

 ひらひらと手だけを出して表現する彼女に、シオンは届くか届かないかくらいの声音で言った。

 「おやすみ、おねーちゃん」

 言ってから、違和感が凄い事に気付く。

 良くも悪くもシオンにとっての『姉』は、義姉さん1人だけなのだろう。多分、冗談でもティオネを姉と呼ぶのは今回が最後になりそうだ。

 「……寝はしないけど、混ざるくらいはいいよね?」

 ティオネが寝入ってから少し、心細くなってきたシオンは、寝ないから寝ないからと言い訳しつつ、4人のところへ入り込む。

 流石にギュウギュウ詰めなせいで狭いし暑苦しい。いい迷惑だろう。それでも、こうして5人一緒にいたかった。

 

 

 

 

 

 翌朝――とは少し違うが、水晶に光が戻って目覚めると、外に出る。流石に安全圏ではあってもダンジョン内部にいる事は変わらないため、疲労はあまり取れていなかったが、ズルズルと潜っている訳にもいかない。

 ベートが取ってきた果物を食べて、栄養を補給してから17層へ向かった。

 昨日の疲れの影響で、最初の方は苦労したが、12層に潜ってからは楽になる。一気に最短ルートを通って地上へ出た。

 「……時差は、よくわかんないな」

 まだ明朝が出たばかりの時間。人もまばらで、活動的になるにはまだまだな頃。

 シオン達の年齢でこうもゾロゾロと移動していたら人目につくが、仕方がないと割り切ってホームへ歩く。

 「くそっ、インファント・ドラゴンと殺し合った時くらいに疲れたぞ」

 「いやぁ、まだマシなんじゃないかな。喋る余裕だってあるんだし」

 「疲れたって事だけは同じだけどね!」

 イヤになる、という共通点だけを抱えながら、彼等は門を潜り抜け、玄関扉のドアノブに手をかける。

 ……そう、忘れていたのだ、彼等は。

 『()()()()()』は、ここからなのだという事をっ。

 「ただいまー……ぁ?」

 「……シオン、どうした、の……」

 最初に入ったシオンと、その肩から除き見たアイズの顔が強張り、固まった。そして、一斉にガタガタと震えだす。

 一体何が起こった!? と戦慄する3人は、内から伸びてきた白い腕が扉を押し開けたのを目撃した。

 「さ~て……? ちょっと確認したいんだが、今何時か、お前達は把握してるのかな……?」

 「「「「「ひぃ!?」」」」」

 修羅だ。

 阿修羅がいた。

 普段温厚で理知的なはずのリヴェリアの頭に角が生え、鬼の形相でシオン達を見下ろしている。その手に握られた杖からミシリと嫌な音が響いた。

 リヴェリアの持つ杖は第一線で使える、数千、あるいは億を越える値段をしている。そんな杖にそれだけの負荷をかけるだなんて、尋常な怪力じゃない。

 黙って泊まった結果がこれだ――正直過去の自分を殴り飛ばしたい。

 「覚悟は、いいな?」

 もうこれは魔法の一発くらいはぶっぱなされると思ったほうがいいかもしれない。そんな風に考えたシオン達の視界が黒く染まり、そして首に腕を回された。

 「……心配させるなっ、この愚か者……!」

 5人全員を抱きしめる事なんてできない。それでも精一杯に腕を伸ばし、全員の体を少しでも感じようとしているリヴェリア。

 一番前にいたせいで胸の中に抱きしめられながらも必死に顔をあげる。

 リヴェリアの顔には、隈ができていた。

 「もしかして、一晩中、ここで?」

 「当たり前だ。何かトラブルがあって帰れないんじゃないかと思って、飛び出したいのを我慢していたんだぞ。全く、本当に……本、当に……!」

 肩を震わせるリヴェリアに、ごめんなさいという気持ちを抱きつつ、でも、だからこそ、体から力が抜けた。

 やっと、帰って来れた――と。

 「……お説教は、体を休ませてからだ。今は疲れを取って来い」

 体を離したリヴェリアが、そう言う。

 実際シオン達の体は、回復薬で癒したとは言えボロボロもいいところ。彼女の配慮に感謝し、素直に自室へ戻る。

 その途中、

 「そうだ、アイズ。ロキのところに行って【ステイタス】の更新してきなよ」

 と伝えておいたので、今頃更新の真っ最中――

 『キタキタキッタ――――! アイズたんLv.2! 【ランクアップ】したでイヤッホオオオオオオオォォォォ――イ!』

 「……前より酷くなってないか?」

 響いてきた声に顔を顰める。

 まぁ、内容が内容なので当然か。

 所要期間、七ヶ月。

 シオン達の出した世界記録の九ヶ月を大幅に更新している。わからなくもなかった。

 それを喜ぶべきで、アイズに伝えに行くのが正しいのだろう。だがシオンは、そうするだけの気力が残っていない。

 暴走してしまったこと。

 シギルの語った失敗と、その果てである魂の抜けたような姿。

 そして――風の精霊が宿っていたという、事実。

 いくら精神的に大人びていても、強靭そうに見えていても、中身はまだまだ子供なのだ。表には決して出さなかったが、もう疲れ果てていた。

 ――少し、疲れた、な……。

 ちょっと休んで、また頑張ろう。

 そう思いながら、シオンは息を整えた。




インファント・ドラゴンの時同様ラストはリヴェリアの出迎えとロキの奇声で終わるのは最早テンプレなのだろうか。
まぁリヴェリアの怒りとロキの奇行はランクアップしちゃってるけど。
でも『お母さん』っぷりも増してるんだよな。でもこれはこれでいいとか思ったり。

で、なんか感想で『胡散臭い』とか言われていた彼女ですが、実はシオンを励ますために敢えてあんな風に振舞っていただけなんです。
彼女が実際に話をしたのはシオンが初めてなので、どう励ませばいいのかわかんなくて、結果空回りしたことになります。

彼女の性格についてですが、基本的に『周囲の人間を観察して』得た物を元にして形作られているので、シオンとティオナが基礎になります。

要するにティオナの『天真爛漫』というか、コロコロ変わる表情を見たから彼女もそれに影響されていて。
シオンを近くで見ていたから、やる時にはやる子になりました。
普段は皆のムードメーカー、ピンチの時は皆を引き連れるリーダー。

……あれ、ぶっちゃけこれ2人の子供みたいなもんじゃゲフンゲフン。

とか思ってません。考えてません。
彼女についての詳しい解説は後でになります。
ただ、彼女を話すに辺り原作オラトリアの盛大なネタバレをしてしまうんで、それが嫌な人は飛ばしてください。また後でこの事は記述しますので。

それから、ちょっと謝罪です。
本編最後の方に「あれ、こんなシーンあったか?」って感じの文章あるんですけど、これ前回思いっきり書き忘れてた部分があったからです。
感想全部返信してから思い出しました、本当にすいません。
今回の終わりに納得できてない方が指摘してくれなければ話の再確認せず気づかないままだったので、本当感謝です。
もう終わったから言いますが、今回のイベントで重要なのは、
・シオンの暴走によって、彼の危険性を自身とティオナ達4人、それから読者様方に見せつけること。
・シギルという大人が失敗し、大切な人も家族も失った姿を見せること。シオンにありえるかもしれない可能性を指摘し、内心焦らせます。
・風の精霊の登場。
この3点です。これがしたかったからイベントを起こしたかった。
ただ、BAD END√を見る通り、シオンは不用意に人を殺すと『違和感メーター』的な物が溜まっていって、あんな感じにぶっ壊れます。
だから、しばらくの間シオンは人を殺しません。ていうか殺せません。
単純に『殺しに来たから殺した』って理由なら、モンスターを殺すのと同様特に問題無いんですけどとか呟いてみたり。

話は変わりますが、感想について。
BAD END√を希望する方が多かったですが、まだ書けません。
理由はどうしても本編より先に未来へ進んでしまうため、本編のネタバレをなるべく避けるのが無理だからです。多分無意識に書きます。
ぶっちゃけますと皆さんから『書いて書いて』みたいに言われたせいで、

『27階層の悪夢』の始まりから過程、その終わりまでと、

BAD END√の中でも、

『誰もが救われない本当のBAD END』
『ほんの少しの救済があるNormal END』

とかこれまた5日で考えてるくらいなんで、気長に待っていてください。

それで、次の感想なんですけど。

『闇シオンの番外編来たから、次はベート女体化の番外編かな?
楽しみだなぁ|ω・`)チラッ』

……正直色んな意味で笑いが出てきました。
先に言っておきますと困惑の笑みではありません。

話変わるんですけど、原作ベートって細身ながら筋肉質の高身長のイケメンですよね?

――ボサボサの髪を肩口まで伸ばし、サラサラな髪質に変更。程良く引き締まった体躯、上半身を魅せる大きな胸、刺青によって怖さを与えつつも、絶妙なバランスで保たれ雰囲気を崩さない、狼の耳と尻尾を生やした美女が――。

ここまで一瞬でした。
ええそうです。こんな想像をした自分に色んな意味で笑いが止まりませんでしたよ。

付け加えると、

 朝早く、俺はホームの廊下を歩いている。理由は単純で、今日は調整しないか、とベートに誘われたためだ。
 確かに最近武器を新調したばかりだし、細かな部分に慣れるためにも、と了承したのが昨日の事だった。
 流石に時間が時間なので、人を起こさないよう慎重に歩く。
 だからだろうか、俺は誰にも――それこそベートにも気づかれないまま、彼の部屋のドアノブを回していた。
 「っ、シオンか!? 待て、まだ扉を開けるな!」
 「え? って言われても」
 既に回していて、腕に力を入れてしまっている。後はただ押されるだけだ。
 ――って、あれ? 今、ベートの声が妙に……。
 疑問に思ったのは一瞬、俺は目の前に飛び込んできた光景に、動きを止めた。いいや違う、止めさせられた。
 「だ、れ……?」
 ここは確かにベートの部屋のはずだ。
 なのに、ここにいるのは狼人の美女だけ。
 多分俺と同じくらいの身長。かなりラフな格好をしていたせいか、短パンから伸びる引き締まった両足の白さが眩しい。上半身もシャツ一枚だけのせいで、大きく盛られた胸が丸わかりだった。
 その動きに気づかれたのか、彼女はベッドの上にあった布で体を隠してしまう。だが、隠れていない部分はあった。
 サラサラと肩口で揺れる髪に目を奪われ、その後すぐ、鋭い目と、恥ずかしさからか紅潮している顔を見つめ直した。
 そうしたというのに、何故か彼女は体を抱きしめると、
 「み、見るな!」
 犬歯を剥き出しにして叫ぶ彼女が、どうしても子犬にしか見えない。体を真っ赤に染め上げながら、必死に吠える美女(こいぬ)だ。
 その可憐さに、シオンは一瞬、ドキッと胸を高鳴らせた。
 だが、しかし。
 今までの動作を思い出して、シオンは再び固まった。
 「まさか……ベー、ト?」

――はい終了。
ベートの女体化想像した刹那の内にこのシーン想像して、その後文字にしていた。
ちなみに2人の年齢は十五歳を想定しています。
私個人はBLだとか百合だとかには一切興味がないんですけど、何でか『男が女体化してヒロインなるのは嫌いじゃない、むしろいい』とかいうアホみたいな思考が存在しているんですよね。
やばい、冗談で言われたベート(女体化のみ)√を考えてしまいそうな自分が怖い。

続きは感想にて『総合評価5000PT超えたらやる』とか言ったんでその時に。
流石に5000PTは超えないでしょうけどね(笑)

これ以上続けると(色んな意味で)ヤバいんで、そろそろ解説移ります。

今回はいつもと違って後半部分からの説明です。

ティオネの動き
彼女がシオンのヒロインになる事は絶対無いです。ティオネは団長を好き、その状態こそが一番『らしい』と思っているので。
しかし、シオンを始め大切な人に対する愛情はあります。普段はティオナやアイズにしか『姉』というところを見せませんが、ふとした時にシオンにもそうした振る舞いをしたりするんです。
ちなみに私の中だと、
妹弟に手を焼かされながらしっかり面倒を見る長男ベート。
そんな兄をからかいつつ、妹弟を支える長女ティオネ。
2人を頼りにしつつ、真ん中故に気苦労の多い次男シオン。
一番年の近いシオンが大好きな次女ティオナ。
4人から愛され続ける末っ子アイズ。
って感じです。年齢は上から順番になります。実際の年齢は知りませんけど。

久しぶりのリヴェリア
説教シーンも考えたんですけど、長くなりますし、折角の登場なんだからと思っていたらああなった。後悔はしていない。
リヴェリアはお母さん、はっきりわかんだね。
ロキの奇行はいつも通りなんで、特に何も言いません。

アイズの【ランクアップ】
まぁゴライアス討伐の時に触れていたので大体察してくれたでしょう。
所要期間は本編で述べた通り。
原作アイズが一年かかったのを考えるに、五ヶ月という期間の短縮。バケモンか。
二つ名についてはもう考えてます。少なくとも原作通り【剣姫】ではない、とだけ。

さて、次が本編の7割方持っていった精霊についての解説(登場人物2人だけでこの文字数ってのも久しぶりだなと感慨に耽けつつ)になります。
先にも述べましたがネタバレ含まれますので、

『オラトリア読んだから別にいいよ』って方か、
『ネタバレなんて気にしない』って方だけ読んでください。

くどいと思われるでしょうが、ネタバレすんなと怒られそうなんで先回り。これで感想書いてきたら知りません、私はちゃんと書きました、と言い返せる!

OK?

では解説
 そもそもどうして精霊をこんな設定にしたのかというと、原作で散発的に置かれていた情報を纏めた結果です。
 原作4巻の初代グロッゾの話において、精霊がモンスターに襲われていた、という話があります。もしそれが成熟した精霊なら、返り討ちにしていてもおかしくないのに。
 つまり精霊は、その特異性を除けば人とあんまり変わらないんじゃないか、という事。
 生まれる条件なんかは違うでしょうけど、最初は弱く、襲われれば消えてしまうような儚い存在。だから、それを恐れて自然の中で生きる。
 で、作中における『魔力』が精霊が強くなるための絶対条件なのは、オラトリア4巻が理由になります。
 これは風の精霊が『寄生』という言葉を嫌がり『共存』という言葉を使った理由です。
 オラトリアでは1巻の頃から『女性のようなモンスター』が出現します。彼女等は本来宝玉のような物に封じられていますが、モンスターに『寄生』する事で一気に強大な力を持つようになります。
 そして、配下となるモンスターを生み出し、他のモンスターから魔石を奪い魔力を蓄え、配下が貯めた魔力のこもった魔石を献上させるのです。
 それによって自らの力を更に向上させるのです。
 その正体は『堕ちた精霊』。
 そう、彼女達も闇側とはいえ精霊。ならば、本来の精霊達も同じく魔力によって強くなるのではないか、と推測できます。
 更にモンスターにとはいえ他者の中に存在できる、というのも何となくわかります。
 風の精霊はシオンの中に宿り、堕ちた精霊は宿主を食い殺して体を奪う。
 これが『寄生』という言葉を嫌がった理由なのですが、アリアが彼女に堕ちた精霊の事を伝えたかどうかは、定かではありません。
 正直彼女を登場させる事は悩みました。原作の設定次第では、この作品における致命的な欠陥が生まれますから。
 しかし、風の精霊は初期の構想からいたこと、またここまで書いてきて張ってきた伏線のこと、更には『ハーフエルフさん』みたいにもうミスっちゃってるんだから今更なんじゃないか? って事でご登場になりました。
 原作次第ですがその時はその時、オリジナルで通します。
 っていうか現状キャラクターや設定除けば、話はほぼオリジナルなんで色々吹っ切れました。

 わざわざインファント・ドラゴン戦ではアリアの魔力によって一瞬見えた女性で祝福の事を強調し。
 オッタル戦では登場せず、風に意思をこめて応援する事でミスリードさせて。
 んで今回シオンが契約を破ったことでやっとこさ登場! なんですからね。

 ちなみに名前は色々考えているのにまだ決まってません。考えておかないと。

今回は色々ハッちゃけちゃったせいで、あとがきなのに文字数4000文字……もうちょっと自重した方がいいのだろうか。
なんて思いつつ、どうせ自重しないんだろうな、と考えながら次回のこと。

次回からダンジョンには行きません。日常回を一回挟んだらまたイベント。18層行く前に作っておいた伏線回収ですね。
タイトルは思い浮かんでないので未定です、お楽しみに。

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