4月16日(土) 午前
テレビの世界での激闘があった翌日、明日香と千枝は何時も通りに学校へ登校していた。
千枝も明日香が肉丼をたらふくおごってあげたお蔭で、もう気にしてはいなかった。
何時も通りに雑談しながら登校していたが、千枝が今日は雪子も一緒に登校する約束をしていた。
雪子の名を聞いて、明日香は昨日のマヨナカテレビに映った雪子らしき女性を見て色々と心配していた。まさか雪子はもうテレビの中なのではないのかと色々と考えていた。
いやまさか…こうじゃないのか…と明日香がブツブツ呟いているのを千枝は首を傾げていた。
と雪子が何時も乗ってくるバスのバス停で雪子待つ明日香と千枝。
……が何時もの登校の時間になっても雪子が現れる気配が無かった。
千枝が雪子の携帯に電話しても繋がらなかった。これ以上待っていると明日香と千枝も遅刻してしまう。仕方なく2人だけで登校する事にした。
暫くの間千枝の表情がしずんでいたが、あのさ…と明日香に恐る恐る尋ねてきた。
「ねえ明日香、マヨナカテレビに映った人って絶対にテレビの中に入っちゃうんでしょ?」
「行き成り何を聞くんだ千枝?」
「だってアタシ見たんだよ。昨日のマヨナカテレビ、顔とかはハッキリしなかったけど…あの着物姿は間違いなく雪子だった」
「やっぱり千枝も見ていたのか…」
「ねぇもしかして雪子テレビの中にいるんじゃ…!」
「いや俺の考えではまだ雪子はテレビの中には入ってないはずだ」
明日香が言った事に千枝は如何して?と尋ねてきた。
つまり俺の考えはと明日香は指を立てながら
「小西先輩が自分の影に襲われたのを見た時は姿がハッキリしていた。だけど昨日は映像がハッキリしてなかった。それにまだ映っているのが雪子とハッキリしてなかった。ハッキリしてない時はまだテレビの中には入ってないだろう」
これは明日香の予想だがはっきりしていない。それが千枝を不安にさせる。
心配するなと明日香は千枝を安心させようとする。
「今日も学校に来れてないのは旅館の方が色々と忙しいんだろ?心配しすぎるとかえって千枝の体に悪いぞ」
「うん…」
千枝は不安が無くならずに学校に向かう。
明日香はそんな千枝を心配そうに眺めていた。
教室に到着した明日香と千枝は、荷物を置いて千枝は証拠口へと向かった。若しかしたら雪子が遅れて登校してくるのではと思っていたのだ。
部屋に残った明日香は悠と陽介に昨日の事を話していた。
「おいおいお詫びだからって、里中の奴に愛屋の肉丼をたらふくおごってやるって、凄いな明日香」
「まぁな、でも俺の財布から札のお金が数枚消えたよ。まぁ千枝が喜んでいる姿を見れれば満足だけどな」
「お疲れ様」
「いや悠全然疲れてもないって」
と談笑していると千枝が教室に戻ってきた。
「おッおう里中、昨日は悪かったな」
「そんな事より、雪子やっぱり教室に来てないよね?」
千枝の問いに明日香は首を横に振った。明日香が首を横に振った事に千枝は落胆する。
千枝の落胆を見て、陽介は何があったのか尋ねると明日香と千枝が、昨日マヨナカテレビにて雪子の様な女性がぼんやりと映った事を話した。
「おいおいそれってヤバくねぇか?天城の奴もうテレビの中に」
「やッ止めてよ!」
陽介の言った事に千枝は大声で遮った。教室に居た生徒達は千枝に視線を集中した。
落ち着けと明日香は千枝を宥めた。
「千枝、落ち着いてとりあえず雪子の携帯に電話だ」
「うッうん!」
千枝は携帯を出して、急いで雪子に電話をかけた。
しかし電話は何回かコールしても雪子が出る気配は無かった。
「どうしよ明日香、雪子出ないよ」
「諦めるな千枝、今度は天城屋旅館の方の電話番号にかけてみろ。若しかしたら雪子の奴旅館の方で忙しいかもしれないし」
「わッ分かった!」
明日香の言う通り千枝は今度は旅館の方の電話にかけてみた。
数回のコールで誰かが電話に出た。
「もしもし…雪子!よっかたぁ携帯に出なかったから心配したよぉ」
千枝は色々と雪子と話をした後に電話を切った。何でも団体客が急に入ってきたという事で手伝わないといけなかった様だ。
これで雪子はテレビの中の世界にはいないと言うのが分かった。
「しかし俺はマヨナカテレビに映った人間は、もうテレビの中に入れらているのだ思ってだぜいやよかったわ」
陽介もホッとした。流石に自分の知り合いである雪子がテレビの中と言うのは肝が冷える思いだ。
だがそれでもマヨナカテレビに雪子らしき人影が映ったのには何か関係があるのかもしれない。
「今日の帰りにクマに会ってみよう」
悠の提案に明日香、陽介に千枝は頷いた。4人は放課後にクマに会いにジュネスへ、そして今テレビの中では何が起こっているのか確かめることにしたのだ。
――放課後――
ジュネスの家電売り場へと来た明日香達は、悠が千枝に昨日起こった出来事を話していた。
「まッまぁ俺の痛い話はいいからさ、早くクマに話を聞きに行こうぜ」
陽介が誤魔化す様に言ったが、今日は周りでは家電売り場でのお客の数が多かった。
「何でよりによって今日は人が多いんだ?…そう言えば今日は家電はセールス中だっけか」
「どうすんの?これじゃテレビの中に入れないじゃん」
千枝の言う通り、人がいる前ではテレビの中に入る事は出来ない。
如何するかと考えていると悠が
「だったら腕、突っ込んでみるか?」
結構大胆な行動に出る事にした。
「お前結構大胆だな…でもまぁ、それしか手が無さそうだな…」
陽介は悠の提案を飲み、明日香と千枝と陽介が壁となり悠がテレビの中に腕を突っ込んだ。
暫くすると悠がテレビから腕を出した。見ると悠の手には大きな歯形があった。
「ちょ、それ大丈夫なの?」
千枝は歯形を見て大丈夫かと尋ねてみた。
「泣けてきた」
「いや泣いてないだろ」
悠が冷静に冗談を言ったので、明日香は思わずツッコミを入れてしまった。
しかしまぁこんな事をするのはクマしかいないだろう。
「クマ、其処に居るのかい?」
明日香が小声でテレビの向こうのクマに呼びかけてみると
『なになに?これ、何の遊び?』
クマがテレビ越しから悠が行き成り手を突っ込んできたので何かの遊びだと勘違いしたようだ。
「遊びじゃねえよ!今そっちに誰か入った気配はあるか?」
陽介がテレビの世界に誰か入っていないかと聞いてみると
『誰かって誰?クマは今日も一人で寂しん坊だけど。むしろ寂しんボーイだけど?』
クマはウケを狙おうとふざけで自分以外誰も居ない事を教えた。
「うっさい!…でも本当に誰も居ないの?」
千枝は再度クマに本当にいないのか尋ねてみたが
『うッウソなんかついてないクマよ!クマの鼻は今もビンビン物語クマ!』
クマが此処まで言うのだ、テレビの中には誰も居ないのだろう。
クマの気配がテレビ側から消え、千枝は少しの間考え込み
「アタシやっぱり雪子に気を付けるように言っとくよ」
今日は土曜日で明日は日曜、休日は旅館も忙しいはずだし、雪子も黙って出歩く事も無いだろうと言うのが千枝の考えだ。
千枝は明日香を連れてジュネスを後にした。今日も雨が降る予報だ。マヨナカテレビで何かが映るかもしれない。
今夜もテレビを見るという事で今日の所は解散する事になった。
ジュネスを後にした明日香と千枝はさっそく天城屋旅館へとやって来た。
土曜日という事でかなり忙しい様子だった。
「結構忙しそう…こんなんで雪子呼べるかな?」
「忙しそうだけど今は雪子の身の安全が第一だからな。仕方ないけど呼んでもらおう」
明日香は忙しそうにしている仲居さんを1人見つけ、雪子を呼んでほしいと頼んだ。
最初は明日香を怪訝な表情で見ていた仲居さんだが、雪子の友人だと話すと渋々と雪子を呼んできてくれた。
暫く待っていると、雪子が慌てた様子で早歩きでやって来た。
「あの、私の友人が呼んでるって言われてきたけど、明日香君に千枝…何しに来たの?」
「あッあのさ雪子えっとね…その…」
千枝は言葉に詰まって明日香と肩を寄せ合ってひそひそ話を始めた。
「どうしよ明日香、アタシさっきまで雪子がマヨナカテレビニに映って狙われるから気を付けてしか考えてなかった」
「いやそれじゃあ雪子が混乱するだけだろうが」
仕方なく明日香が雪子に話す事にした。
「いや最近さ色々と物騒だろ?雪子は旅館の娘だし色々と言い寄ってくる奴とかいるかもしれないから気を付けてってな」
「そうなんだ…ありがとうね。態々来てくれて」
雪子が静かに笑いながらそう言った。
「いやさ雪子が危ない目にあってほしくないしさ。友達だから当然だよ」
「まぁ俺も千枝も心配してるし、気を付けてな」
千枝と明日香の心配してると言った事に、ありがとうと笑う雪子
「でもいいなぁ千枝には明日香君がいて、私には明日香君みたいに一緒にいてくれる男の子がいないから…」
「そんな事無いよ。明日香は家が隣だし、ただの腐れ縁だから」
「肘で突くな痛いから」
明日香と千枝のふざけ合いを見て雪子は静かに笑い、明日香と千枝もつられて笑った。
だが2人は気づかなかった。雪子が笑っている中時々寂しい様な悲しい様な表情をしてる事に…
――夜――
雨が降る中、警察が事件現場周辺を捜査していた。
奇怪な殺しをする人間だ。まだこの町に潜伏していると警察の方でもその線で捜査をしていたがまるで進展が無かった。
堂島や未來が部下の警官に指示を出していると、傘をさした足立が戻ってきた。
「やっぱりこれ以上は出なさそうっすねぇ。犯人に直接つながる物証はなしかぁ」
周りの家で聞き込みをしていたが、情報は出てこなかった様だ。
「まだ殺しとは決まったわけじゃない」
堂島はそう言うが、足立はこんな事が事故なわけない。絶対殺しだと言い切っていた。
警察でも死の状況が掴めず、同じ格好の仏…これで殺しなら鉄板で同一人物による連続殺人である
「けど、だとすると…どういう事だこりゃ」
堂島は連続殺人だと考えるもこの状況が上手く説明できない。
「最初は三角関係のもつれだと署でもそんな話だったからねぇ」
未來はそういう事を話していた。最初の山野アナの事件は生田目、柊みすずによる三角関係だと思われたが、柊みすずにはちゃんとしたアリバイがあった。
「そもそも愛人問題がメディアに出たのは柊みすずが会見で暴露したからだ。これから殺そうっていうのに、わざわざ自分に疑いが向くような事を言う奴ぁいない」
「ですよねぇ」
「旦那の生田目にしても、いくら揺さぶっても何も出てこないからな。奴はここ半年中央で仕事をしていた。」
その生田目もつい最近のスキャンダルで町に戻ってきたようだが、事件当日は市外の議員事務所に詰めていたようだ。
山野アナの死んだ日も泊まり込みで作業をしていたと裏が取れているようだ。それに山野アナが失踪した時も生田目との接触した形跡はなかったようだ。
「この事件のせいで、生田目の奴秘書をクビになってますからねぇ。生き残った関係者の中じゃ、むしろの一番の被害者じゃないですか?」
そして2件目の被害者の小西先輩、遺体発見者としては口封じとしてはおかしい点が多い。小西先輩の死は1件目が出た後だし、あの遺体も隠すどころか見てほしいという感じだった。
他の繋がりとしては山野アナが死の前に滞在していたのが、天城屋旅館でその娘の雪子と同じ学校という所だけである。
「だが動機と全然絡まないし、こんな人の少ない田舎じゃ、そんな偶然なんていくらでもある」
「ですねぇ、ニュースで見たッスよその辺」
「なにぃ?もう宿の話出てるのか」
「あはは、マスコミは情報が早いねぇ」
未來はマスコミの早さに感心していたが、堂島は顔を顰めていた。
あ!こんなのは如何すか?と足立は自分の推理を話した。
「2件目の小西早紀は山野真由美の遺体の状況に僕達には分からない何かがあった。それを口封じしたかったんですよきっと」
足立の推理に堂島は唸っていた。
「とりあえずは、今はガイ者のまわりをしつこく洗うしかねえか…犯人は恐らく町の人間だな」
「おッ出ましたね刑事の勘」
足立は堂島の言った事に茶化す。
「足立!俺を茶化してる暇があったらもう一回周辺を見て回って来い!」
「わッわかりましたぁ」
堂島の剣幕に足立はすごすごともう一回周辺を見て回ってきた。
たくと足立の事で堂島が溜息を吐く
「あはは、足立君は若いから堂島君を色々と茶化してくるねぇ」
「未來さんも面白がんないで下さいよ…それで未來さんはこの事件の犯人は如何言った人間だと思いますか?」
堂島の問いに未來はそうだねぇと顎に指を当てながら
「僕も遼太郎君と同じでこの町の人間が犯人だと思うけど、僕としては犯人の犯行の動機は『目立つ奴なら誰でもよかった』って言うのが今の僕の推理かな?」
「誰でもよかった?」
「山野真由美は地元のアナウンサーではアイドルアナだった。そんな人気アナを勝手に妬んでいる人間がいた。番組を降板され、天城屋旅館に泊まっていると言う情報を何処からか掴んで、人知れず山野真由美を連れ去り殺害、そしてアンテナに吊るした。『不倫なんかしてるふしだらな女子アナを罰してやった』とかそんな勝手な事を考えてたんだろうね」
次の小西先輩は
「遺体を発見した小西早紀も言っちゃ失礼だけど、見た目が遊んでいるような容姿をしていた。それで犯人は『みだらな女も成敗』とかそんなくだらない考えで小西早紀を山野真由美と同じようなやり口で殺害し、電柱にぶら下げた…今考えた推理はこんな所かな」
「もしそうだったら、そんな下らない理由で人を殺したのか…人の命をなんだと思ってるんだ」
堂島は犯人に対して静かに怒りを燃やしていた。
「あまり気負うなよ遼太郎君。犯人を捕まえるのが僕達の役目だ。そんな僕達が先にまいってしまったら意味が無いからね」
そうですねと頷く堂島。
雨が降り続ける中、捜査を続ける警察であった。