どうぞ
4月13日(水) 放課後
モロキンの言った通り今日から通常授業が始まった。
放課後になると、殆どの生徒が学校を後にし遊びに出かけて行った。
明日香はトイレをし終わり、教室に戻ってみると悠と陽介が親しく話していた。
「ビフテキだぜ。すごいっしょ?野暮ったい響き。今朝助けてくれたお礼に奢るぜ?行ってみるか?」
と陽介が悠を誘っていた。
うーすと明日香が陽介と悠に近づいた。
「何か楽しそうな事話してるんじゃん。どっか行くのか?」
「あぁ明日香、今朝陽介を助けたお礼に奢ってくれるみたいなんだ」
「助けた?どうせまた陽介が自転車を飛ばし過ぎたんじゃないのか?」
「…もうお前の勘とかにはツッコまないよ俺は」
陽介は苦笑いをしながら明日香にそう言った。と陽介は何か閃いた感じだった。
「今日は悠のためにちょっとした歓迎会でもやんねえか?安いとこなら俺が奢るぜ」
と陽介が小さい歓迎会をしようとすると
「アタシにはそういうお詫びは無いわけ?成龍伝説」
と千枝がやって来た。
「食い物の話になると来るよな里中って」
「まぁでも千枝の言ってる事も一理あるぞ陽介、ここは悠の歓迎と千枝のお詫びを一緒にするって言うのはどうだ?」
「…それもそうだな。分かったよ、里中も一緒な」
陽介が折れるといよっしとガッツポーズをする千枝、と千枝は雪子の方を向いて
「雪子も来る?花村のおごりだよ」
と千枝に聞いてみるが、ゴメンねと雪子は首を横に振りながら
「今日は家の手伝いがあるから…」
雪子は天城屋旅館の手伝いで忙しい様だ。
「天城ってもう女将修行とかしてんの?」
「そんなんじゃないよ。ただ家の手伝いをしてるだけ」
それじゃあと雪子は教室を後にした。
「じゃあアタシ達もいこっか」
「え?マジで2人分奢る感じ?若しかして明日香もか?」
「いや俺は奢ってもらうつもりはないよ。陽介がヤバくなったら俺も出すからさ」
おぉサンキューと陽介は明日香にお礼を言った。
明日香達も悠を連れて、教室を後にしたのだった。
「安い店ってここかよ。ここビフテキないじゃん」
ジュネスのフードコートで千枝が不満そうな声を上げていた。
ジュースを運んできた陽介はジュースを明日香達に配って
「お前に奢るんだったらあっちのステーキハウスは高すぎるんだって」
「だからって自分ち連れてくることないじゃん」
「いや自分ちじゃないっての」
陽介と千枝が言い合ってジュネスが陽介の家という言葉に悠は首を傾げている
「あぁ悠は知らないよな。ここのジュネスって陽介の親父さんが店長をしてるんだ」
「まだ言ってなかったよな。俺も半年前に都会から引っ越してきたんだ。親父が此処の店長になるからってさ」
「成程」
明日香や陽介の説明に納得した悠
「んじゃま歓迎の印って事で」
陽介が乾杯の音頭を取って乾杯し、互いにジュースを飲みあった。
他愛の無い話で盛り上がって
「此処が出来て半年になるけどあんまり行かなくなったよね、地元の商店街とか。店とかどんどん潰れちゃうし…あ」
千枝は目の前に居る友人がこの店の店長の息子だと思いだし気まづくなってしまった。
「別にこの店だけのせいって事も無いだろ」
確かに陽介の言う通りである。近年では大型ショッピングモールが建ち、地元の商店街の店が次々と潰れてしまうなんてことはしょっちゅうである。
明日香達の間で気不味い空気が流れていると、一人のアルバイトの女性がベンチに座って休憩を取っていた。
「ん?小西先輩じゃん。悪いちょっと」
陽介は席を外し小西先輩の元へ行った。
「陽介の彼女?」
「ははは、そうだといいんだがなぁ」
「小西早紀先輩、家は商店街の酒屋さん。でもここでバイトしてたんだ」
陽介と小西先輩が何か話しており、小西先輩が悠に気が付くと此方にやって来た。
「君が転校生?私の事は聞いてる?都会っ子同士気があったりするのかな。花ちゃんが男友達連れてるなんて珍しいよね」
「別にそんな事無いよ。明日香だっているし」
小西先輩の言った事に、ふざけ半分で返す陽介
「こいつ友達少ないからさ、仲良くしてやってね。でも花ちゃんお節介いい奴だけど、ウザかったらウザいっていいなよ」
と小西先輩の冗談に
「そんな事無い。陽介はいい奴だ」
と悠はそう返した。悠の正直な反応に小西先輩は笑いながら
「ふふふ、分かってるわよ。面白い子ね君」
「先輩~変な心配しないでよ」
と小西先輩の茶化しに陽介も慌てながら返すと
「さてと休憩終わり、早く持ち場に戻らないと」
と小西先輩は自分の持ち場に戻ってしまった。
あ、先輩…陽介は腕を伸ばしたが、引っ込めてしまった。そして椅子に座ると
「ハハ、人の事ウザいとか先輩が一番お節介じゃんか」
と恍けたような笑みを浮かべる陽介。人と壁も無く接しようとするのが陽介の良い所なのだろう。
「あの人弟が居るから俺の扱いもそんな感じっていうか」
と陽介は悠にそう誤魔化していると
「弟扱いが不満なんだ。ふ~んそういう事なんだ」
千枝は花村の扱いをニヤニヤとしながら見ており
「地元の老舗酒屋の娘とデパート店長の息子。禁断の愛てきな?」
「ばッアホか!そんなんじゃねえよ」
千枝のからかいに陽介は顔を赤くした。
「そうだ、悩める花村に良い事教えよっか。マヨナカテレビって知ってる?」
千枝の言ったマヨナカテレビと言うモノに男子勢は?を浮かびあげた。
「雨の日の午前0時に消えてるテレビを1人で見るんだって。で画面に映る自分の顔を見つめ続けると別の人間が映るってヤツ、その映った人間が運命の相手なんだって」
千枝の言った事になんだそりゃと陽介が馬鹿にしたような顔で
「お前、一々こんな幼稚なネタで盛り上がれんのな」
「うっさい!幼稚って言うな!」
「いやどう見たって幼稚じゃねえか」
「だったらさ今日の夜は雨だし、皆でやってみようよ」
「やってみようってお前もやった事無いのかよ。久しぶりにアホくさい話を聞いたぞ」
千枝の言った事に対して、呆れた様な溜息を吐く陽介
「……そう言えば昨日の事件ってやっぱ殺人なのかね?」
昨日の事件と言うのはやはり山野アナの事だろう。
「実はその辺にまだ犯人とかいたりしてな。なんて」
「こら花村アンタの言ってる事の方が幼稚じゃない」
「そうだぞ陽介、人が1人死んでるんだ。面白がって言うもんじゃない」
「ととそうだったな。刑事の息子さんの前じゃ不謹慎だったなこりゃ」
とこの話は終わる事にした。
しかしマヨナカテレビか…と明日香はそんな事を考えていた。もしそのマヨナカテレビで映った者が運命の相手なのならば
「もし千枝が映ったら、俺の運命の相手は千枝なのかな」
「ちょ!行き成り何言ってんのよ明日香!?」
千枝は行き成り自分が運命の相手と言われ、赤くなりながら戸惑っていると
「な~んか俺ら蚊帳の外じゃね?」
「青春とはいいものだ」
「ちょ!鳴上君!?」
悠の歓迎会は楽しい時間を過ごした。
――夜――
未來は今日も仕事で遅いため2人で夕食を食べ終え、何時ものようにニュースを見ていると山野アナの事件について、遺体第1発見者の女子生徒に色々とインタビューをしていた。
インタビューされていた女子生徒は今日見た小西先輩に似ているなと明日香はそう思った。陽介と話している時に何で早退したんだろうと言う呟きが明日香の耳に入っていた。
小西先輩に似ている?女子生徒のインタビュー映像が終わると、コメンテーターが警察に対して上から目線で言いたい事を平気で言っていて、未來さんはそんな人じゃないわよ!と明野がテレビのコメンテーターに文句を言っていた。テレビに向かって文句を言っても意味ないだろと明日香は明野にツッコミを入れたが、明野はプリプリと怒っていた。
ニュースが終わると、明日香は千枝との約束でマヨナカテレビを見ることになっている。
自分の部屋のテレビで色々とゴロゴロし、12時になるのを待っていた。時折外では雷が鳴っており、今日は大荒れだなと明日香はそう思った。
そして11時59分とそろそろ時間だと思い、テレビを消し12時になるのを待った。
そしてカチリと時計が12時となって、明日香は消えたテレビをジッと見続けた。
するとテレビがズザザと言う音を出しながら砂嵐の映像が出て、しばらくすると時折だがぼやけた映像が見え、髪の長い女性が映ったり消えたりした。その女性はまるで踊っているかのように跳ねている映像であった。
暫くすると映像が消え、何も映らなくなった。最初は千枝が映らなくて残念だったと思っていたが、映像が終わった瞬間に明日香は色々と考え始めた。
(今の女性は恐らくだが小西先輩だ。あの長い髪やパーマーがソックリだ。父さんに鍛えて貰って洞察力は高いと自負してるし、でもなんで小西先輩が映ったんだ?俺と彼女は全く接点は無い。精々2、3回程度挨拶した程度だ。それに今思ったがこのマヨナカテレビって何なんだ?そう言えば昨日も千枝が隣のクラスの奴が運命の相手が山野アナだって騒いでいたと言っていた。という事は山野アナもマヨナカテレビに映ったのか…山野アナとマヨナカテレビのつながりは…そして今日は何故小西先輩が映ったのか…若しかして山野アナの事件とマヨナカテレビには何かが繋がっているのか?もしそうなら事件の繋がりになるような証拠が欲しい…)
だが決定的な証拠は今のところ出ていない。しょうがない…今日の推理はここまでにして、明日悠たちと話す事にしよう。
明日香はそう決めると直ぐにベットに入り、眠りに着く事にした…
4月14日(木) 朝
朝も雨が降っており、明日香は千枝と相合傘をしながら登校していた。
何故相合傘をしているのかと言うと、千枝がこの前カンフー映画の真似事で傘を使ったアクションがあったようでそれを真似て盛大に折ったようだ。
「ゴメンね明日香、アタシが馬鹿やって傘壊したのに」
「別に気にしてないさ。千枝のカンフー好きは今に始まった事じゃないしさ」
明日香の言う通り、千枝は小さい頃からカンフー映画が大好きだ。特に足技が大好きで、明日香は小さい頃から千枝の我流の特訓に付き合っていた。
今ではそこいらの不良には負けない程の足技を身に着けたのだ。
2人は何も話さずに歩いていると
「そう言えばマヨナカテレビ見た?もッ若しかして、アタシが映ってたり…とか?」
千枝は何処か期待したような眼差しを向けていたが明日香は首を横に振りながら
「残念ながら千枝は映らなかったよ」
と言うと千枝も少し残念そうな顔をした。
「逆に千枝が誰を見たか当てよっか?髪の長いパーマーの女の子」
明日香が言った事に千枝はビックリした顔をしていた。如何やら当たりの様だ。
「何で明日香が知ってるの?…まさかアタシの部屋を覗いた?」
「覗いてねーよ。俺もその女の子を見たんだよ。恐らくだが陽介や悠も同じ女の子を見たんじゃないのか?」
「でもそれじゃ可笑しくない?運命の相手が同じで、ましてやアタシは女だよ?アタシ自身そんな気は無いし」
恐らくだが、明日香は1つの仮説を話し始めた。
「マヨナカテレビで映った人間は運命の相手でもなんでもないんじゃないのか?」
「運命の相手じゃない?運命の相手じゃないんだったらなんだっての?」
「それが分からない。若しかしたら何か重大なメッセージがあるんじゃないかって」
「…う~ん、アタシ自身考えるのが苦手だからよく分からないよ」
「兎に角今は学校に急ごう。悠や陽介に話を聞いてみたら何か分かるかもしれない」
明日香と千枝は学校へと急いだ。
――放課後――
授業を一通り終え、明日香達はマヨナカテレビの事を話していた。
やはり明日香の推理通り、悠や陽介も見たのは同じ女の子であった。これでマヨナカテレビで映った人間が運命の相手ではないという事が分かった。
分かったのだが、悠が変な事を言っていた。
「しっかし変な声が聞こえたって言うのはともかく、テレビに吸い込まれたなんて…動揺しすぎじゃね?じゃなかったら寝落ちだな」
「でも夢にしてはおかしいよね。テレビに入れないのは小さいからって言うのも何かリアルだしさ」
陽介と千枝は悠の話を冗談だとしか思っていないようだ。しかし明日香は悠の言っていた事を色々と考えていた。
マヨナカテレビなんて都市伝説の様な物を目の当たりにしたんだ。若しかしたら自分もテレビに吸い込まれていたのではと考えていた。
「如何したんだよ明日香?まさか悠の言った事を信じてるのか?」
「あぁそのまさかだ。マヨナカテレビなんてものを見たんだ。悠の言ってる事も信じてみようと思う」
明日香の言った事にオイオイまじかよと陽介は呆れていた。
「そう言えばジュネスの家電売り場で巨大なテレビが売ってたな。それこそ人1人が軽く入れそうなテレビが」
「おい明日香…まさかだとは思うが」
「そのまさかだ。即行動、さっそくジュネスの家電売り場に行ってみよう」
「ったくお前のその即行動はものすごく疲れるんだけどなぁ…」
やれやれと肩を竦める陽介、まぁまぁいいじゃんと千枝が
「そう言えばアタシもテレビ買い換えたいと思ってるんだよね。大画面でカンフー映画とか見てみたい」
そう言いながら千枝は拳法家の構えをした。陽介はそんな千枝に呆れていたが
「まぁしゃあない、とりあえず行ってみるか。今品揃え強化月間だし」
という事で、帰りにジュネスに立ち寄る事に決めた。
と話に熱中していて気が付かなかったが、雪子の姿がもう無かった。
「なんか最近忙しいみたいだよ。如何したんだろう?」
「今日は何時もよりテンション低めだったしな」
千枝と陽介がそんな事を話していたが、恐らく山野アナが天城屋旅館に泊まっていたから、遺品の整理とかお祓いとかで忙しいのだろうと明日香はそう考えた。
帰る準備が整ったら、ジュネスによる事にした。
ジュネスの家電売り場、確かに人が楽々入りそうなテレビが1台置いてあった。
その大きなテレビの値段を見て千枝は
「うっわ高…こんなの誰が買うの?」
「そりゃ金持ちとかじゃね?」
千枝と陽介が目の前にある大きなテレビを見てそんな事を話していた。
「けどま、ウチでテレビ買う客もいなくてさ。ここらへん店員が居ないんだよね」
「それは商売としては成り立ってるのか?」
明日香の疑問もそうだが、売れない場所に店員を割っても意味が無いのだろう。
そんな事よりも本当にテレビに吸い込まるのか、明日香・陽介・千枝はテレビに触ってみても吸い込まれる気配は無かった。
「やっぱ入れないよな」
「はは寝落ち確定だね」
「…」
陽介と千枝は悠が寝落ちだと決めつけたが、明日香は無言であった。
「だいたい今のテレビって薄型だし、もし入っても突き抜けてって何の話をしてるんだ!?っと里中、お前どんなテレビが欲しいんだ?」
「取りあえず安いの。なんかお勧めとかある?」
と陽介と千枝は千枝の見たいテレビを見せて色々と話をし始めた。
残ったのは明日香と悠だけ。明日香は悠の方を見て
「悠、今度はお前がテレビに触ってくれないか?もしこれで何もなかったらそれでいい。でもなにか気になるんだ」
「分かった。やってみる」
そう言って悠はテレビに手を伸ばした。明日香には聞こえないで悠には聞こえた謎の声、その声が悠がテレビに吸い込まれたのと関係があるはずだ。
明日香の考えはドンピシャであった。悠の腕がまるで水の中に入ってるかのように、波紋を立てながら吸い込まれていた。
「そう言えばさ、おまえんちのテレビってどういう…!」
陽介は悠がテレビに手を突っ込んでいるのを見て固まってしまった。
「なに?どしたの花村?」
千枝も花村が見てる方を振り返り、陽介と同じように固まってしまった。
2人は急いで悠の元へ駆けよる。
「おおおいマジで腕が刺さってないか?」
「これって最新型のテレビ?新機能とか…どんな機能?」
「んな機能、あるわけねーだろ!」
千枝と陽介は自分達が見てる光景に目を疑っていた。
「本当に刺さってる…」
「マジかよ…どんなイリュージョンだよそれ!?」
陽介と千枝が混乱してる中、明日香と悠は落ち着いていた。
「悠、もっと奥とかは見えないか?テレビの中がどうなっているのか知りたい」
「分かった。やってみよう」
「「ちょ!?」」
陽介と千枝の制止を無視し、手を突っ込んでいた悠は今度は上半身をテレビに突っ込んだ。
「馬鹿!よせって!何やってんだお前!?」
「す…すげー」
陽介は慌て、千枝はもはや呆然とするしかなかった。
「悠どんな感じだ?」
「中は空間が広がってる」
悠は落ち着いた様子でテレビの中の状況を教えた。
「中って何だよ!?」
「空間って何!?」
「それに結構広そうだ」
空間が広い事も教えてくれた。
「広いって何!?」
「ていうか何!?」
千枝と陽介はもう混乱して何が何だか分からなかった。
そして…
「やっべぇビックリの連続で漏れそう…!」
「は?漏れる!?」
千枝は陽介の漏れると言う発言に引いてしまった。
「今まで行き時が無くて我慢してたけど…駄目だもれッ漏れるー!!」
そう言って陽介は股間を押さえながらトイレへ直行したが、直ぐに戻ってきた。
「客来た客客!」
「客って、此処にからだ半分テレビに刺さっている人が居るんですけど!?」
陽介と千枝は如何しようどうしようと!と慌てていると、明日香が陽介と千枝の腕を掴んで
「こうなったら…テレビの中へ入って客をやり過ごすぞ」
「は?ちょ明日香お前何言って…」
「うだうだ言ってないで行くぞ!」
そして明日香は飛び込むような形でテレビの中へ入っていき、悠を押す形でテレビの中へずぶずぶと入って行った。
明日香に腕を掴まれていた陽介と千枝は悲鳴を上げながらテレビに吸い込まれてしまった…
次回はあのキャラが出てきます。
戦闘パートはあと2.3話後ですかねぇ