ペルソナ4 正義のペルソナ使い    作:ユリヤ

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第21話

 度重なる戦いや痴話喧嘩(明日香と千枝の)を潜り抜け、明日香達は漸く銭湯の奥へと到着した。

 大きな扉には『おいでませ!熱帯天国』と豪快に書かれていた。この奥に完二と完二の影が居る事は間違いないのだが、扉を前にして誰も開けようとしない。

 

 

「何で開けようとしないクマ?」

 

「いや何つうか、この先の光景が分かりきってるっつうか、正直言って開けたくないっつうか……」

 

 

 渋って開けようとしない陽介。悠も正直言えば開けたくなかった。ここは男子が先陣を切る所なのだが

 

 

「俺が開ける。俺達は完二を救出するために此処まで来たんだから。行くぞ」

 

 

 明日香が重い扉を開け、扉の先の光景は

 

 

「このっ大人しくしやがれ!」

 

『あんっ!すっごい!逞しい!!』

 

 

 完二が自分の影を押し倒している光景であった。流石の光景に一行はドン引きしている。

 

 

「なっテメェ等!それに明日香さん!?如何してこんな所に!?」

 

「いや、そのな……」

 

「助けに来たんだ完二。お前を」

 

「あぁっ!?言うならハッキリ言いやがれ!明日香さんは何で目ぇ逸らしてんスか!?」

 

 

 がたいの良い男同士が押して押し倒された光景を好きで見たいと思えなかった。

 完二が影から目を逸らしたすきを突いて、影が完二を突き飛ばした。

 

 

『邪魔はさせないよ!フンっ!』

 

 

 と影の掛け声を合図に湯船のお湯が溢れだし、床が濡れだす。

 

 

「何これ?こんなので足止めのつもり?って!うわぁ!滑る!」

 

「千枝!」

 

 

 お湯と言うよりローションに足をとられ、滑りそうになった千枝の手を雪子が取った瞬間、2人そろって床に倒れてしまった。

 

 

「何やってんだよお前ら……っておぉ!」

 

 

 最初は転んだ千枝と雪子を見て飽きれた様子を見せている陽介だったが、ローションまみれになった千枝と雪子が動けない光景がいやらしく見える。さらに先程ジャージを脱いで下着が透けて見える千枝によっていやらしさが増している。

 

 

「悠!何か録画できるもの持ってないか!?」

 

「くっない……!」

 

「何言ってんだそこっ!」

 

 

 どうにかして目の前の光景を残そうとした悠と陽介の背後から強い殺気を感じた。後ろを振り返ると鞘から模擬刀を抜いた明日香が立っており

 

 

「お前ら、千枝をいやらしい目で見たら……斬る」

 

「わっ分かったよ!俺らも命かけてみたいわけじゃないし」

 

「これが彼女を独占したい男」

 

「悠も納得してんなよ!」

 

 

 などと言った遣り取りをしていたが、完二もローションによって立てないでいた。立つことに苦戦している完二に影がゆっくりと近づいてくる。

 

 

『もぉ止めようよ無理するの。やりたい事やりたい言って何が悪い?ボクは君のやりたい事だよ』

 

「何ふざけた事言ってんだテメェ……!んなわけねぇだろ!!」

 

 

 影の言った事を強く否定する完二。

 

 

「よせ!ジライってどわぁ!?」

 

 

 陽介がジライヤを出して影を止めようとしたが、ローションで足を滑らせ、ジライヤを出す事が出来ない。

 

 

「陽介!」

 

「って俺も!?」

 

 

 陽介を助けようとした悠も足を滑らせ、思わず明日香の肩を掴んでしまい、3人も転倒してしまった。さらに悠を助けようとしたクマも滑ってしまい、まともに動けるものが誰一人居なくなってしまった。

 

 

『女は嫌いだ。ボクが裁縫したり絵を描いたりすると、皆が気持ち悪い男のくせにって馬鹿にする』

 

「テメェ!いい加減にしねぇと……!あぐっ」

 

 

 見るからに辛そうな完二に影が更に畳み掛けるように言い続ける。

 

 

『男のくせに!男のくせに!ってじゃあ男らしいって何なの?女は怖いよなぁ』

 

「怖くなんか……ねぇ……!」

 

 

 影の言った事を必死に否定し続ける完二。でも……と影は不意に明日香を見た。

 

 

『男がいい。男のくせにって言わないから。だから男がいいんだ。それに明日香さんはボクのやった裁縫や絵を凄いって褒めてくれる。明日香さんだけがボクの事を理解してくれた。強くて優しくてカッコイイ明日香さん……明日香さんだけいれば僕は女なんかいらない』

 

 

 銭湯の入り口の男子専用と言うのが、自分を理解しない女はいらないと言った所なのだろう。

 さらに完二は明日香に対して一種の憧れが強いようだが、影のせいで酷く歪んでいる。

 

 

『けど、その明日香さんに女が出来た。口ではおめでとうなんて言ったけど、明日香さんを女に盗られる事が許せなかった。そうでしょ?僕から明日香さんを奪う女、最低だよね?』

 

「うるせぇ!俺の目の前で明日香さんを語るんじゃねぇ!!」

 

『んもぉつよがっちゃって。ボクは君なんだから、素直になっちゃいなよ』

 

「黙れ!」

 

「よせ!」

 

「ダメだ完二!」

 

「言うんじゃない完二!!」

 

 

 悠や明日香達が完二に言うなと叫んだが、完二は叫ぶ。

 

 

「テメェなんかが俺なわけねぇだろ!!」

 

 

 否定の言葉を叫んだ瞬間、影は高笑いした。

 

 

『ウフフフっ!ボクは君、君さぁ!!』

 

 

 影を大量の薔薇が包み込み、薔薇が無くなると、巨大な黒い肉体と手には男性のマークが握られており、体の中心に薔薇に包まれた影が佇んでいると言った、見るからに巨大な影が現れた。更に取り巻きに2体のボディービルダーの様な筋骨隆々のシャドウも現れた。

 

 

『我は影、真なる我』

 

「クソっやっぱり駄目だったか……」

 

 

 苦々しい表情を浮かべる明日香。

 

「クソが……勝手な事ほざいてんじゃねぇぞ!」

 

 

 苦しそうな完二は影に立ち向かおうとするが、相手との体格差は歴然である。

 

 

『ふふふ。邪魔はイヤン!!』

 

 

 完二の影がボディービルダーのポージングをした瞬間、電撃が完二を襲い、完二が吹き飛ばされる。ローションが無くなり、完二に駆け寄る明日香達。

 

 

『ボクは自分がやりたい事に正直になりたいんだ。だから君達には消えてもらうよ。例え明日香さんでも』

 

 

 完二の影は明日香達を殺す気満々の様だ。

 

 

「こんなのが完二君の本音だなんて」

 

「こんなのが本音なわけあるか!たち悪く暴走してるだけだ!」

 

「一刻も早く暴走を止めるんだ!」

 

 

 明日香達は各々のペルソナを出した。影に突撃しようとしたが、2体の取り巻きが行く手を遮る。

 

 

「この!邪魔!」

 

 

 トモエが1体に蹴りを入れるが、蹴りを厚みのある尻の肉で防がれる。

 

 

『ヘイ!カモンベイベー!』

 

「なにこいつ!?」

 

 

 蹴られても涼しげな表情のマッチョシャドウに千枝は引き気味である。コノハナサクヤがもう1体のマッチョシャドウに炎攻撃を喰らわせても

 

 

『あぁ~きくぅ~!!』

 

「うそっ……」

 

 

 効いているどころか、むしろ熱さに感じているのか頬を赤くするマッチョシャドウに全身に鳥肌が立った雪子。

 

 

「何だコレ」

 

「おいクマ!完二の影に交じってるあの変なのは何なんだよ!?」

 

「たぶんあれは完二の影の一部クマ!!」

 

 

 引いている陽介にクマが答えるが、明日香は何故千枝と雪子の攻撃に対して余り効いているような素振りを見せないのかが分かった。

 

 

「若しかして2人は女の子だから、心のどこかで女性に対して抵抗感を持っている完二に連動して攻撃が聞きにくいのか……」

 

「マジかよ!戦力半減じゃねぇか!」

 

「取りあえず天城と里中は援護を頼む」

 

「わっ分かった!」

 

「何か私達今回余り役に立たないみたい……」

 

 

 今度はイザナギ、ジライヤとヨシナカが影に攻め込むが、イザナギがマッチョシャドウに捕まる。

 

 

『あ~らいい男!』

 

「ちぇっチェンジで!」

 

 

 急いでイザナギをカードへ戻し、悠は別のペルソナを出す。

 

 

「ラクシャーサ!!」

 

 

 新たに出てきたペルソナは2本の曲刀を持った2本角の鬼のような鎧武者だった。マッチョシャドウの拘束から逃れ、再度突撃しようとするが、もう一体のマッチョシャドウにまた捕まってしまう。今度はジライヤも一緒だ。

 

 

「チェンジ!」

 

 

 すぐさまペルソナをチェンジしようとした悠だが、背後にマッチョシャドウが立ちそして

 

 

『うふっ食べちゃいたい』

 

「あっ……」

 

『こっちの坊やも』

 

「あうっ……」

 

 

 尻を優しくタッチされた悠と陽介。まさにゴリラの様な男に触られたことに精神的なダメージを受けた2人は床に沈んだ。

 

 

「これが俺の初体験……」

 

「もうお嫁にいけねぇ……」

 

「毒だクマー!心が折れたクマー!」

 

 

 精神的ダメージで戦闘不能になってしまった悠と陽介。実質戦えるのが明日香だけになってしまった。

 

 

「こうなったら完二の影を直接叩くしか……ヨシナカ!!」

 

『ウフっ来て明日香さん。ボクの想いを受け取ってぇ!』

 

 

 明日香に応じるかのようにヨシナカが2刀を振るい、完二の影が持っている2つの男性のマークとぶつかり合う。

 

 

「マズイ!明日香だけしか戦ってない!でも此奴らが……」

 

「大丈夫だよ千枝。私達には興味ないはず……」

 

 

 2体のマッチョマンが千枝と雪子の行く手を遮っていたが、赤パンツをはいたマッチョマンが雪子をジッと見た後、鼻で笑い

 

 

「下品な赤ね!」

 

「はぁっ!?」

 

 

 挑発に乗ってしまった雪子は連続で炎攻撃を浴びせるが、効いている様子が全くない。

 

 

「ちょっと雪子落ち着いて!」

 

 

 千枝が矢鱈目鱈に炎攻撃を繰り出す雪子を落ち着かせようとすると、今度は白パンツをはいたマッチョマンが近づく。そして千枝をジッと見ている。

 

 

「なっ何よ?」

 

 

 何も答えなかった白パンツのマッチョマンは、千枝の肩を優しく掴むとうんうんと頷いた。『何も言わなくても分かってる』とでも言いたいのだろうか。

 

 

「何か言えっーーーー!!」

 

 

 千枝もトモエを使って氷で包み込んだがこれも全く無傷。挑発され哀れまれ、自分達の攻撃が全く効いていないために、女性がやってはいけない憤怒の表情を浮かべる千枝と雪子。

 まともに戦えるのが明日香だけのこの状況、ハッキリ言って不利である。

 

 

『フフ。てんで大したことない……笑っちゃうよ!!』

 

 

 影がまた電撃を繰り出し、ペルソナたちのダメージがそのままフィードバックで来る。

 電撃で痺れて動けない明日香を、影が捕まえる。

 

 

『明日香さん、捕まえたぁ。もう離さない。貴方はボクのものだよ』

 

「くっ!このっ離せ!!」

 

 

 影がゆっくりと明日香を自分の元へと近づかせる。しかもその先が影の、完二の影の唇である。

 明日香は抵抗するためにヨシナカを使おうとするが、そのヨシナカもあの2体に捕まって身動きが取れないでいた。

 ならば自分の力で脱出を試みる明日香だが、いくら暴れてもビクともしない。

 そしてゆっくり、ゆっくりと明日香の唇が影に奪われそうだ。

 

 

「おいおい!ヤベェだろ!?男に唇を奪われるなんて!しかも彼女の前だぞ!!」

 

「一生モノのトラウマものに……」

 

「いやっ明日香君!」

 

「アスカが行けない道に走っちゃうクマーー!!」

 

 

 そして明日香の彼女である千枝は目の前の光景を呆然と見ていた。

 

 

(えっ何これ……明日香のファーストキスの相手がアタシじゃなくて完二君の影……?それもアタシが見てる前でやるって言うの?そんなの……そんなの……)

 

 ―――だったら今度の試験で2桁だったらご褒美にほっぺにキスを――――

 

 

 千枝の中で中にかがキレた。

 

 

「アタシの……アタシの彼氏に……何しようとしとんのじゃボケェェェェェっ!!」

 

 

 キレた余りに口調が荒くなり、赤いオーラが見えそうな千枝はトモエで2体のマッチョシャドウを蹴り飛ばした。さっきまで攻撃が効かなかったのが嘘のように、蹴り飛ばされた2体は勢いのあまり、壁にめり込んでしまった。

 トモエの勢いは止まらずに、明日香を掴んでいる腕に踵落としを浴びせた。あまりの威力に影は明日香を手放し、明日香は床に尻餅をついた。

 

 

「つつ……何とか助かった」

 

「大丈夫明日香!?唇奪われてないよね?ないよね!?もうこうなったら誰かに奪われる前にアタシが明日香の唇を奪う!!」

 

「落ち着け千枝!何かお前目がいっちゃってるぞ!それにこんな形で千枝との初めてをしたくない!!」

 

 

 目をグルグルと回し、明らかに正気じゃない状態で唇を近づけようとする千枝を落ち着かせようと踏ん張る明日香。陽介はもう他所でやってくれとさっきまでの戦いを忘れ呆れかえっていた。

 

 

『ボク明日香さんを返せ!下品な女め!!』

 

「誰が下品だ!それに明日香はアタシの彼氏だ!!」

 

 

 遂には千枝と影による激しい攻防戦が繰り広げられた。千枝の無双状態を見て、明日香は助太刀する事が出来ない状態だった。

 

 

「明日香!ここはアタシが何とかするから、完二君をお願い!!」

 

「わっ分かった!千枝!無理だけはするなよ!」

 

 

 本当は助太刀したかった明日香だが、千枝の勢いが凄まじくかえって邪魔になってしまいそうだ。

 だがこのまま千枝に任せても勢いがなくなってしまえばまた戻ってしまう。一刻も早く完二に自身の心の内を認めさせなければならない。明日香達は完二の元へ向かう。

 

 

「完二大丈夫か?」

 

「明日香さん……すいません。みっともない所見せちまって」

 

 

 自分一人で立とうとするが、足に力が入らないのかまた座り込んでしまう完二。

 しかしどうしたものかと考える明日香。今此処でお前の才能は素晴らしいと言っても俺の事を分かってくれるのは結局明日香さんだけだとまた影が暴走すると言ったいたちごっこになりかねない。

 こうなったらと、明日香は悠の方を向いた。

 

 

「悠、お前が完二に言ってくれ。ウサギを見せた時にお前が言った感想を。完二の目の前でもう一度」

 

「分かった」

 

 

 悠は少年から借りたウサギのストラップを取り出すと、完二に見せた。完二はどこでそれをと悠を問い詰め、悠は少年から借りた事を話す。

 それを聞いた完二は自嘲するかのように笑い

 

 

「こんな図体のデカイ野郎がそんなモン作るなんて、気持ち悪いだろ。俺みたいな男が編み物なんてダセーよな……」

 

「いや可愛いと思う……可愛いよ」

 

 

 悠が完二と面と向かって可愛いと答えると、顔を赤くしながら悠を見る完二。そして影にも影響が出ているのか影の体にノイズが走る。

 

 

「シャドウの奴が弱ってきてる!これならいけるぞ!」

 

 

 陽介がガッツポーズを見せ、それと同時に千枝がフラフラとなる。それを優しく抱きかかえる明日香。

 

 

「えへへ。無理しすぎたみたい」

 

「ありがとう千枝。後は俺達がやるから少しでも休んでくれ」

 

 

 弱体化している影達を一掃しようとしたが、悠が何故か立ったまま呆然としていた。

 

 

「おっおい悠どうしたんだ?」

 

 

 明日香が声をかけると、悠は一度目を閉じた。そしてカッと目を見開くと、悠の周りに2枚のペルソナのカードと魔法陣が現れた。

 そして2枚のカードが魔法陣の中で1つに溶け合おうとしている。

 

 

「ヤマタノオロチ!!」

 

 

 1つのカードから現れたのは、日本の神話に出てくる伝説の生き物、8つの首を持つ蛇ヤマタノオロチであった。

 

 

「すっすげぇ」

 

 

 ペルソナが合体したことに呆然と見ている陽介。その間にも8本の内2本の首がマッチョシャドウに巻き付く。首に強く巻きつけられているのに恍惚な表情を浮かべているマッチョシャドウを見て呆れかえる明日香達。

 

 

『もう!邪魔しないでよ!!』

 

 

 影が男性のマークを持って反撃しようとする。

 

 

「今までいい所見せてないからな。ここいらで挽回するぜ!ジライヤ!」

 

「俺も続くぜヨシナカ!」

 

『スラッシュ』

 

『二連牙』

 

 

 ジライヤの手裏剣とヨシナカの2刀が男性マークの武器を弾き飛ばす。

 

 

『んもう!酷いじゃない!!』

 

「ヤマタノオロチ!」

 

『ブフーラ』

 

 

 悠が反撃を許さず、影を巨大な氷で閉じ込めた。だが直ぐに氷を破壊しなおも向かってこようとする。

 それを見て、悠はウサギのストラップを完二に渡した。

 

 

「後はお前の問題だ」

 

「……」

 

 

 悠の言った事が分かったのか、ストラップを優しく握りしめた完二はゆっくりと影に向かっていく。

 

 

「あぁそうだよ……」

 

『何よぉっ!?』

 

「俺はっ俺は……可愛いものが好きなんだよ!!」

 

 

 そして駆けだした完二は、自身の影を殴り飛ばしてしまった。殴り飛ばされた瞬間、2体のマッチョシャドウも消滅する。

 

 

『あぁそんな!僕を優しく受け止めてぇ~!!』

 

「マジかよ……!」

 

「自分で自分のシャドウを倒しちゃった」

 

 

 完二が自分の影を倒した事に陽介や雪子は驚愕する。

 

 

「そのっ嬉しかったぜ。かわいいって言ってくれて。明日香さん以外に俺の事を受け入れてくれた事なんて初めてだから」

 

「あぁ」

 

 

 完二の言った事に悠は大きく頷いた。だが、まだ終わっていなかった。巨体の影から褌姿の完二の影がまだ残っていた。よほど強く拒絶されたのだろうか。

 

 

『もう誰でもいい。僕を受け入れて……受け入れてよぉぉぉ!!』

 

 

 こっちに向かって来る影。まだ戦わなければならないのかと明日香達は構えるが

 

 

「いい加減にしろ馬鹿野郎!!」

 

 

 完二の一声に影は歩みを止めた。

 

 

「情けねぇぜ。こんなんが俺の中に居ると思うとよぉ……男とか女とか関係ねぇ。ただ拒絶されるのが怖かっただけだ。自分から嫌われようとしているチキン野郎だ。だけどな、そんな俺を受け入れてくれる人もいるんだよ。もう分かってんだよ。俺がお前で、お前が俺だっていう事はな。だからとっとと戻って来いクソッタレが」

 

『……うん』

 

 

 影は満足そうに頷いて姿を変えた。先程と同じような黒くて力強そうなペルソナ『タケミカヅチ』へと

 

 

「アレが完二君のペルソナ」

 

「男らしくていいじゃん」

 

「あぁ完二らしい、立派なペルソナだ」

 

 

 タケミカヅチが完二の中へ入るのを見届けた明日香達。限界が来たのか、膝から崩れ落ちる完二。

 

 

「完二君!」

 

「大丈夫か!?」

 

 

 完二に駆け寄る明日香達。けど完二の表情は苦しそうだが、どこかスッキリとした表情を浮かべている。

 そんな完二の肩を担いであげている明日香。

 

 

「よく頑張ったな完二」

 

「明日香さん……すいません。迷惑かけて」

 

「そんな事無いさ。お前が無事で本当に何よりだ……さぁ帰るとするか」

 

 

 完二を担ぎ、湯気の立ち上る銭湯を後にする明日香達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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