5月17日(火)
―夜―
狙われているのが完二だと分かった明日香達。さっそく完二の周りに怪しい人物が来ないか、完二を放課後に尾行する事にした。
が今回は明日香は待機する事になった。理由は陽介が『昨日お前だけに完二の相手をさせて、自分達は何もしていないのは申し訳ないから、今日は自分達だけにまかせてほしい』と懇願してきたからだ。
ふざけも無く、真剣な表情で陽介が言ったので、明日香は今回は何かあった時のための悠と雪子と一緒に待機する事にした。
しかし尾行は失敗した。陽介と千枝(千枝は嫌々と)が彼氏彼女役で完二と完二の家の店に来た少年の後をついて行ったのだが、バレバレな尾行であっさりと完二にばれてしまった。
千枝が完二と少年の仲がとてもいいと言って誤魔化そうとしたが、完二は仲がいいと言ったのを別の意味で捉えたらしく、顔を赤くしどもりながら陽介と千枝を追いかけ始めた。
明日香達が居るところまで戻ってきて、そのまま一緒に撤退する形で完二から逃げて行った。
尾行が失敗し、また明日仕切り直しにしようとした矢先に
『あぁ~ん。熱い、熱いよぉ~。こんなに熱くなっちゃったボクの体、どうしたらいいのん~。んもぉこうなったら、もっとおくまで……あっ突・入!しちゃいま~す!』
「……まじかよ」
完二が無事かどうか確かめるために、マヨナカテレビを見た明日香は2重の意味で呟いた。
1つは完二がもうテレビの中に入れられてしまった事。もう1つは全裸に褌一丁の一部の人間には喜びそうな完二の影の姿を見てだ。
と千枝から電話が来たので出る。
『明日香……』
電話越しの千枝の声だが、覇気がまったく感じられない。
「その様子だとテレビ見たみたいだな」
『うん……今色々とショックで。ゴメンアタシらが尾行で失敗したばっかりに』
「いや千枝や陽介だって頑張ってたし、攻めないさ。それよりも完二がテレビに入れられたって言う事は急がないとな」
『アタシらの本領発揮だね。明日も直ぐ動けるようにもう寝るわ。お休み』
「お休み」
直ぐに電話が切れ、次は陽介だった。
『明日香、テレビ見たか?』
「あぁ見た」
『すまねぇ俺がヘマしたばっかりに』
「いやさっき千枝から電話が来たが、まだチャンスはあるんだ。あまり気負うと完二救出に支障が出るかもしれないからな」
『ありがとう。そう言われると幾段か楽になったぜ。でもあの完二がなぁ……昼とのギャップが、うぇ何か吐き気が戻ってきた』
それだけ言い残して陽介は電話を切った。どうして完二の影はあんな恰好をしたのだろうか。そう思いながら明日香も寝ることにした。
5月18(水)
―放課後―
完二を救出するために、早速テレビの中に入ったが問題が発生した。クマの鼻である。
「はぁ!?巽完二がどこに居るのか分からないって?」
「うぅ~誰か居る匂いはするのに、それが誰で何処に居るのかさっぱりなのクマよ~」
頭を抱え、どうしたらいいのか分からない様子のクマである。
なんでもクマは最近自分が何者で何処から来たのかを改めて考えており、寝る時間も考えることに割ったようだ。
「でも雪子の時はすんなり分かったのに、何で行き成り」
「恐らくだが、テレビに人を放り込んだために、この世界が段々と可笑しくなったんじゃないか?料理に色々といれてしまった事で何の匂いか分からなくなったとか」
「悠の言った事もある意味正解かもしれない。だからクマの鼻の効き目が弱いのかもな」
しかしこれでは完二を探す事が難しくなってしまう。
「何かヒントが欲しいクマ!その人の匂いがする物を持っていれば大丈夫クマよ!」
とクマがそう提案するが、あいにく今完二の匂いがついているものは持っていない。とりあえず完二の家に向かう事にした。
完二の家に向かってみると、完二の母親も完二が帰ってこない事を心配して警察に届け出を出したようだ。一応完二は母親が心配するといけないために喧嘩をしてもちゃんと帰ってきていたと母親はそう教えてくれた。
と店の前で少年が立っていた。なんでも友達の女の子に借りたウサギのストラップを何処かへ落としてしまったらしく、困って泣いている所で完二が現れた。
完二は少年に女の子と男の子のためにおそろいのウサギのストラップを編んでくれたようだ。売り物で出せるほどの精巧さに陽介や千枝は驚いていた。
明日香は困ってる少年のために編んでくれた完二の優しさに小さく笑い、ウサギのストラップを見た。ウサギのストラップには完二の匂いが残ってるだろう。
少年にお願いしてウサギのストラップを借りてジュネスに戻ってくると、完二と一緒に居た少年がエレベーターの前で立っていた。
陽介が昨日完二と何を話していたのか聞いてみると、少年は世間話を答え、もう一つ加えた。
「彼が変な態度を取っていたのでハッキリ言ってあげたんです。変な人だと。そうしたら彼、行き成り顔色を変えたんです」
「なんだぁ?それ位気にしねえと思ったんだけどな」
「人は見かけで判断する事は出来ません。彼は彼なりにコンプレックスを抱えてたみたいですね」
(コンプレックス……成程な)
少年のコンプレックスの発言で、明日香は何か分かったようだ。
少年はジュネスを後にして、明日香達はエレベーターに乗った。
「明日香、何か分かったのか?顔にそう出てたが」
「あぁ悠。ところで完二が作ったこのストラップ。これが完二から作られた事にたしてどう思う?素直に答えてほしい。因みに俺は素晴らしい才能だと思う」
「どうって意外?」
「俺も意外って感想しかねぇな」
「素敵だと思う」
「可愛い」
明日香の問いに千枝、陽介、雪子、悠の順番に答えた。明日香は悠の可愛いと言った答えを聞いて嬉しそうに頷いた。
「しかし、心の無い奴はこう答えるだろうな。気持ち悪い、男らしくないとかな」
「完二から生まれた世界はコンプレックスから生まれた世界?」
悠の言った事に恐らくと頷く明日香。
「行って見たら分かるさ」
借りたストラップをクマに嗅がせて、漸く完二の匂いと何処に居るのか分かった。明日香達はその場所に向かってみると、そこは銭湯のようだった。男子専用の暖簾が目立つ。
「ここに完二が……」
「何かここの霧、今までと違くない?」
「霧と言うより湯気?」
「眼鏡くもっちゃった」
「にしてもあっちーな」
陽介が制服を仰いでいると、銭湯の方から2人の男の艶めかしいと言うか、男同士が出してはいけなさそうな、一部の女子は喜びそうな声が聞こえてきて、明日香悠陽介3人に鳥肌が立った。
「やっヤバいだろこれ!俺行きたくねーよ!!」
「行ったらヤバい……」
「嫌な感じの寒気が来たぞ……」
「ねぇクマさん。ここに完二君いるの?」
「クマの鼻センサーなめたらアカンぜよ!」
「はぁ……んじゃ行くしかないか」
腹を括った千枝が入ろうとするが、陽介は拒否って入ろうとしない。終いには千枝に耳を引っ張られ、強引に入って行った。
それに続く形で、悠と雪子、明日香とクマが銭湯へと入って行った。
湯気が立ちこもるロッカールームを何とかして抜け出そうとする陽介と悠を千枝が叱り、ロッカールームを抜けると
『うっほっほ~!』
褌姿の完二……の影がお出迎えしてきた。
「「「「「……」」」」」
「?」
余りにも酷い光景に、流石の明日香も入れて苦い顔をする。クマは何となく分かっていない様子で首を傾げていた。
『これはこれは、ご清聴ありがとうございま~す!ボク完・二ぃ』
「「ペルソナ!!」」
完二の影がウィンクをした瞬間、悠と陽介がイザナギとジライヤを出した。
「ちょちょっと!早いって!」
「気持ちは分からなくもないが、落ち着け二人とも!」
「うるせぇ!早くなんとかしねぇともたねぇんだよ!精神的に!」
「あぁこれは不味い……」
精神的ダメージを受け続けている悠と陽介を何とか止めようとする明日香と千枝だが
『うふふふ。あ・や・し・い熱帯天国からお送りしてまぁす。熱い湯気のせいで胸がビンビンしちゃぁう!』
「「ペルソナ!!」」
今度は千枝と明日香がトモエとヨシナカを出した。明日香は今回が初のペルソナお披露目で刀を上段から振り下ろすアクションもした。
「クマァっ!千枝ちゃんとアスカまでーっ!!」
「いや、ムカついて体が勝手に……」
「だよな」
「俺は防衛本能が働いて……俺の初ペルソナがこんな形でだなんて……」
『うふふ。皆も熱くなってきた所で、このコーナーいっちゃうよぉっ!』
と空間から『女人禁制!突☆入!?愛の汗だく熱帯天国!』と雪子と同じようなロゴが現れた。
「やばい。色々な意味でやばいぞ……」
「確か雪子の時もノリはこんな感じだったよね」
「うっ嘘!こんなんじゃないよ!」
「あぁ雪子の時も色々とヤバかったなぁ」
「あっ明日香君まで!?」
「やっぱりこの世界にテレビの中に入った奴が生み出してるんだな……」
場面が混沌としている間も完二の影の勢いは止まらない。
『それでは更なる愛の高みを目指して、もっと奥まで……あっ突・入!いくぞごらぁぁぁ!』
1人で暴走して、奥へと突っ走って行った完二の影。慌てて追いかけようとしたら、警官の制服を着たお腹に大きな風穴を開けたシャドウが向かってきた。
「きやがった!」
「構えろ皆!」
迫りくるシャドウへ臨戦態勢を整えた明日香達。
「こんなのと一緒……私の時も……そんな、そんなの……何かムカつく!!」
さっきまでこんなのと違うと呟いていた雪子がカッと目を見開き、扇子を構えた。
「ペルソナ!」
『マハラギ』
そして舞いを踊るように雪子はコノハナサクヤを出し、炎で警官シャドウを攻撃する。
「いっけぇジライヤ!」
更に陽介が炎で攻撃されている警官シャドウにジライヤで追撃するが
「あっち!あっちぃよ!熱い所で熱いの出してんじゃねぇよ!!」
ジライヤのダメージがフィードバックしたのか、突如陽介の背中が燃え上がる。
「まったく何やってんのよ!明日香行くよ!」
「ああ。ペルソナ戦の初陣、ヘマはしない。ヨシナカ!」
「トモエ!」
『ブフ』
『ブフ』
トモエは薙刀から、ヨシナカは双刀から氷を出し、燃え盛る警官シャドウ達を大きな氷の塊へと変えた。
「さみぃよぉ。限度ってもんがあるだろ……」
と今度は背中が凍りついて、寒さで震えている陽介。最後は氷の塊となった警官シャドウをイザナギが蹴り飛ばして破壊する。
「何か花村の言っている事も分かってきた。ここに居たら可笑しくなりそう」
「あぁそれに完二も心配だ。昨日から今日までこんな熱い所に居たら熱さで倒れてるかもしれない」
「これ以上気持ち悪い事したら、灰にしてやる!」
「いいんじゃないか?」
「よくない!」
「雪子も早まるなって!」
雪子が変な決意をして、それに賛成する悠にツッコミを入れる明日香と千枝である。
「兎に角、此処で立ち止まっててもしょうがない。先を急ごう」
完二の影を追いかける形で、銭湯の奥へと向かう明日香達である。
―おまけ―
銭湯の中もダンジョンの様な形状になっており、道中でも戦闘が続いた。おかげで全員が汗だくとなってしまった。
「あぁ~熱い!もう我慢できない!脱いじゃお!!」
ジャージを着ていた千枝は我慢できなくなり、ジャージを脱いで袖を腰へと巻いた。
「ふぅ~幾段か楽になった!」
制服姿になった千枝が少し伸びをしていたが、何故か明日香は千枝を見ずに銭湯の壁を見ていた。
「?どうしたの明日香?」
「いやっそのだなっ目のやり場に困ると言うか……」
明日香の遠回しな言い方に首を傾げていた千枝だが、自分の上半身を見て漸くわかった。制服が汗で透けており、ジャージを同じ色の緑の下着が見えていた。
顔を赤くし、すぐさま腕で隠す千枝。そして明日香を見た。
「見た?」
「……少し」
「エッチ」
「えっエッチって!見えちゃったんだからしょうがないだろ!」
と明日香と千枝の他愛も無い痴話喧嘩を、ご馳走さまと思いながら見ている悠達であった。