5月14日(土)放課後
昨日の夜から雨が降っており、今日も雨はやまないようだ。つまり、今日の夜にマヨナカテレビが映ると言う事だ。
明日香は悠と陽介に雪子と、昨日千枝と話していた事を話す。
「昨日明日香と里中が話してた、その巽完二って奴が映るかもしれないんだな?」
「正直何も映らなきゃいいんだけど」
「それが一番だけど、犯人に繋がる何かのヒントが見えればいいんだけどな」
陽介が溜息を吐きながら言う。マヨナカテレビに誰も映らないのが一番いいのだが。
「んじゃ皆、今夜はテレビを欠かさずチェック。オーライ?」
千枝の確認に明日香達は頷き、下校する事にした。
帰り道の道中、雪子と途中で別れた明日香と千枝は、完二の事について話していた。
「でもさ明日香、その完二君ってさ明日香よりもおっきいんだよね?」
「そうだな、軽く180㎝はある」
ハッキリ言えば完二は学校の中で一番でかいかもしれない。だからこそ彼は結構目立つのだ。
「それに喧嘩も強いんだなんて。そんな男子を本当に誘拐なんて出来るのかな?」
「まぁ力技で完二に勝つのは難しいだろうな。誘拐でよく使われるクロロホルムとかは簡単に入手できないし、強力なスタンガンで気を失わせたりすれば、いくら完二でも無力だからな」
「そっか、誘拐も何も力技でやればいいってわけじゃないもんね」
「まぁ頭も使うのが大事って、誘拐についてべらべらと喋るのも可笑しいか」
などと喋りながら家に到着し、2人は夜になるのを待った。
―夜―
明日香は自分の部屋のテレビで、深夜になるのを待った。カチコチカチコチと時計の針の音が良く聞こえ、そして深夜の0時となった。
何も映ってないテレビに砂嵐が起こり、人影が映りだした。
人影はぼんやりとしているが、体つきは見るからにがっしりとしており、男が映っていた。
映像は数秒で消え、明日香はまず最初に陽介に電話をかけた。
『おう明日香か。電話をかけて来たって事はマヨナカテレビを見たって事でいいんだな?』
「あぁ映っていたのは男だったな。人影がぼやけて、誰なのか上手く認識できなかったけど、恐らく完二だと俺は思う」
『そうか、それじゃあ詳しい事は明日話そう。悠には俺が電話しておく』
「あぁ頼んだ」
通話を終え、明日香はベッドに腰掛けた。
「今度こそ、未然に防ぐんだ。皆で一緒に」
5月15日(日)昼間
早速明日香達はジュネスのフードコートに集合した。
「えーそれでは、稲羽市連続殺人誘拐事件、特別捜査会議を始めます」
陽介が司会進行役を務める。
「長っ!」
千枝が余りの長さにツッコミを入れていると
「あ、じゃあここは、特別捜査本部?」
雪子が顔を輝かせながら、そう言うと陽介は特別捜査本部の名を採用した。
千枝も名の響きに何処か惹かれるものがあるようだ。
「それじゃ昨日の夜についてだが」
「その前一つだけいいか?」
陽介が会議を再開しようとしたが、明日香が話の腰を折った。顔はいつにもまして真剣味がある。
「これは遊びじゃない。人の命に係わる重要な事。もうこれ以上、誰かが危険な目に会うのを止めるんだ。皆もう分かってると思うが、これだけは言って置きたかった」
「何言ってるんだよ明日香。俺はもう面白半分に首を突っ込むつもりはない。小西先輩みたいな犠牲者をこれ以上出すわけにもいかないしな」
「俺達で出来る事があるならやろう。それが全ての解決に繋がるのなら」
明日香の言った事に、陽介と悠がそう答えた。愚問だったよな……と心の内でそう思った明日香。
「話の腰を追ってすまない。陽介、続けてほしい」
「了解。今まで起きた事件の被害者は、山野アナ、小西先輩、そして天城。殺されたのと誘拐されたのは、山野アナ。山野アナの遺体を最初に目撃した小西先輩、山野アナが泊まった天城屋の娘である天城。ターゲットは全て女性となっていた。けど昨日のマヨナカテレビに映っていたのは男だった。それについて明日香から話がある」
陽介が明日香に話を振ってきた。明日香は持参したノートを開いて自身の考えを話す。
「俺も事件の最初は山野アナの事件に係わった小西先輩と雪子といった女性だけが狙われると思っていた。けど昨日映ったのは男性、しかも俺の知っている完二に見えた。完二と雪子そして小西先輩には共通点がある。それはメディアの一つであるニュースに出てた事。小西先輩は山野アナの遺体の第一目撃者として顔をぼかしながら出ている。雪子は天城屋の取材の時のインタビュー。完二も顔をぼかしながらもニュースの特番に出てる。山野アナも人気アイドルアナだからこそ毎回と言っていいほどメディアに出てた。だからこそマヨナカテレビに映るのはメディアに出てる人物だと俺は睨む。なんでメディアなのかが分からないが」
明日香の考えに、悠たちも納得したようだ。
「私がテレビに入ってから、テレビの内容が変わってたんだよね?」
「あぁ急にハッキリ映るようになって、内容もバラエティみたいになった」
「天城の中にため込んでいた気持ちが、あの番組を作ったと思う」
あの雪子の城について、陽介と悠が説明した。
「でもテレビに映っていた人、まだはっきりしてなかったよね」
「あぁ。まだテレビの中へ入っていないかもしれない」
「うん可能性高いよね」
雪子と悠がまだテレビに映った人はまだテレビの中に入っていないと話していた。
「誰が映っているのがハッキリと分かれば、犯人より先回りして被害に遭う事がなくなるかもしれない」
「完二だと言い切ったが、ハッキリと映る前に色々動くのは早計だな。自分の考えに絶対的な自信を持って、それがはずれだった時に取り返しのつかないことになったら遅いからな」
テレビの映像がハッキリしてから、動く事に話は進んでいく。千枝が難しい顔をしながら、今まで話していた事を復唱して、陽介にツッコまれて雪子が大爆笑すると言った変な感じで特別捜査本部の最初の会議は終わった。
―夜―
今日の夜も雨が降り続けており、明日香はマヨナカテレビを見る。
テレビは昨日と同じで人影しか映っていないが、仕草や動作がやはり完二と似ている。これで次に狙われるのが完二であると確信する。
明日から色々と動くことになるだろう。もう休もうとした瞬間、明日香の携帯が鳴った。見ると千枝からだった。
「もしもし千枝。どうしたんだ?」
『明日香、マヨナカテレビ見たよね?やっぱり映ってたの完二君だと思う。ニュースの特番と雰囲気が一緒だったし』
「あぁ。明日から完二の周りを迷惑がかからない範囲で張り込もうと思う」
明日香が明日の計画を話すと、うんと少し気の沈んだ千枝の返答が聞こえた。どうしたと尋ねると千枝は
『今日の特別捜査本部の会議で、アタシ全然役に立ってないって思ってさ。明日香は色々と考えたり調べたりしてたし、花村は司会進行で上手く纏めたりしてたし。鳴上君は冷静だし雪子も気づいたところを言ってたし。アタシはただ会議で話した事を繰り返しただけだし。アタシってお荷物なのかなって思っちゃてさ……』
「そんな事無いさ。適材適所と言う言葉だってあるんだし。それに俺は千枝が近くに居るから何時もの力が発揮できるんだ。千枝に何かあったら逆に俺が使えないお荷物になっちゃうよ」
『ありがと明日香。よっし!クヨクヨするのはアタシらしくないからね。気持ちを切り替えてもう寝るわ。お休み明日香』
「お休み。明日もよろしく」
通話を終え、自身も眠りにつく明日香である。
なお特別捜査本部で千枝が活躍する事になるのはまだ少し先の話である………