ペルソナ4 正義のペルソナ使い    作:ユリヤ

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第1話

 4月12日(火) 午前

 

 明日香と千枝は自分達のクラスである2-2の教室に入ると自分達の席に座る。

 

「お早う千枝」

 

「お早う雪子。アタシらの担任がモロキンなんてついてないよね」

 

 千枝は赤い上着を着た生徒、天城雪子に挨拶をした。雪子とは小学生からの親友であり、明日香も雪子と友人である。

 因みに雪子の隣の席は明日香である。

 

「お早う明日香君」

 

「お早う雪子。聞いてくれよ千枝の奴、新学期早々にやらかしてさ朝っぱらから大騒ぎだったんだぜ」

 

「ちょ明日香!その話は止めてよ!」

 

「ふふ…千枝ったらあわてんぼうだね」

 

 雪子の微笑みで、千枝は顔を赤くし頬を膨らませた。

 と千枝は自分の後ろの席の男子が机に突っ伏してるを見た。

 

「あれ?花村さっきからそんなんだけど何かあったの?」

 

「や…里中、今は話し掛けないで。マジで今結構最悪な気分」

 

「ほっとけよ千枝。陽介の事だし、どうせ登校中調子に乗って自転車飛ばし過ぎてゴミ捨て場に突っ込んだとかそんな感じだろ」

 

「いや明日香、なんでお前はあたかも見たような感じに俺のヘマを的確に当てるんだよ」

 

 突っ伏して顔を上げた茶髪でクビにヘッドフォンをかけた少年、花村陽介が疲れた様な溜息を吐いて明日香を見た。

 

「簡単な推理だ。陽介、お前の左足にゴミが附着してるぞ。それにさっきから足を押さえたりしてるのは飛ばし過ぎて足をぶつけた…そんな所だろ?」

 

「…マジでお前の推理能力には舌を巻くよほんと」

 

 明日香の推理力に呆れを通り越して感心する陽介。

 とクラスメイト達の話が耳に入り、大抵がモロキンのクラスになって最悪だとか、転校生は男か女かという話題でもちきりであった。

 と騒がしかったクラスが教室のドアが開いた事で自分の席へと戻って行った。

 教卓に出っ歯で七三分けにした男性教師、諸岡先生こと通称モロキンとそのモロキンの隣に銀髪の少年が立っていた。おそらく彼が転校生なのだろう。

 

「静かにしろー!」

 

 モロキンの一声でざわついていた教室が静かになった。

 

「今日から貴様等の担任になる諸岡だ。いいか春だからといって恋愛だ異性交遊だと浮かれてるんじゃないぞ」

 

 モロキンは新学期から『学生とはなんぞや』と自分の考えを延々と話し始めた。モロキンの話をほとんどの生徒が嫌そうに聞いている。

 明日香はモロキンの話も一理あると聞いているが、考えが偏り過ぎでは?とも考えている。

 しかしモロキンに対して反抗的な態度を取った生徒に対しては

 

「このワシに対して反抗の態度を見せた生徒に対しては腐ったミカン帳に記載しておくからな!」

 

 腐ったミカン帳とは違反行為をした生徒をそのミカン帳と呼ばれる手帳に記載し、目をつけ停学や最悪退学などもされるそうだ。明日香はよくは知らないが、前にモロキンに対して反抗的な生徒が居て、退学にさせられたそうだ。

 

「あぁそれと、不本意ながら転校生を紹介する」

 

 銀髪の転校生はチョークで黒板に自分の名を書きはじめた。

 名は鳴上悠、変わった名字だと明日香は思った。

 

「ただれた都会から、へんぴな田舎に飛ばされた哀れな奴だ。いわば落ち武者だ。女子は間違っても色目なんか使うんじゃないぞ」

 

 行き成り転校生が酷い言われ様だな…と明日香は哀れみの視線を転校生の鳴上に向けた。

 しかし鳴上もここまで来て分かっただろう。モロキンに逆らっても碌な事が起きないと

 だが明日香の予想は裏切られた。

 

「では簡単に自己紹介をしなさい」

 

「だれが落ち武者だ」

 

 鳴上の発言に生徒達、そしてモロキンまでもが目を丸くした。

 転校初日でモロキンに反抗するとは中々の度胸だと明日香は鳴上をそう評価した。

 

「貴様は腐ったミカン帳に書いておくから覚悟しておけよ!」

 

 案の定モロキンにさっそく目を付けられた鳴上、だが明日香は鳴上に対してお見事とそう評価していた。

 

「いいかね、ここは貴様がいままで居たいかがわしい街とは違うからな。いい気になって女子生徒に手を出したりイタズラしたりするんじゃないぞ。まぁ最近の子供もませてるからねぇ。どうせ暇さえあれば出会い系とかなんだとか…」

 

 とモロキンの話が延々と長くなりそうであった。

 明日香と千枝はアイコンタクトをした。これ以上長くなるのは嫌だから話を逸らそうと。

 千枝が先生!と手を上げながら

 

「アタシの隣の席空いてるんで、転校生の席は此処でもいいですか?」

 

 と上手く話を逸らした。

 

「む、そうか…貴様の席はそこだ。隣の女子生徒にちょっかいを出すんじゃないぞ」

 

 モロキンに言われながらも分かりましたと鳴上は頭を下げながら千枝の隣の席に座った。

 

「アイツ最悪でしょ?まぁ担任になったのが運のつき、1年間頑張ろ」

 

「でもま、モロキン相手にあそこまで言うなんて流石は都会から来たって所か?」

 

 千枝が同情し、明日香はモロキンに啖呵切った鳴上に流石と称した。

 

「よろしく」

 

 鳴上も千枝と明日香によろしくとそう言った。

 

 

 ――放課後――

 

 今日は新学期初日という事で、授業は早めに終わった。

 

「では今日の授業はこれまで、明日からは通常授業が始まるからな」

 

 授業が終わり生徒達も大きく伸びをした。

 そしていざ帰ろうとした瞬間放送スピーカーが鳴りだした。

 

『先生方に連絡します。ただ今より緊急職員会議を行いますので、至急職員室まで集り下さい。また全校生徒は各教室に戻り、指示があるまで下校をしないでください』

 

 新学期初日から緊急職員会議とは何事か?明日香がそんな事を考えていると、モロキンがブツブツと言いながら教室を出て行った。

 暫くすると、外の方からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 

「なんだ事件か?」

 

「くそッこの霧のせいで全然見えねえ。なんだよこの霧」

 

「最近雨が上がったら霧が出るよな」

 

「そう言えば聞いたか例の女子アナ。パパラッチとかも出たらしいぜ」

 

「あぁ山野真由美だろ?」

 

「そうそう。でさその女子アナなんだけどな」

 

 と2人の男子生徒が小声で話したと思ったらマジかよ!?と1人の生徒が驚いたような声を出した。

 そしてそのまま雪子の方へ近づくと

 

「なッなぁ天城、ちょっと聞きたいんだけどな。天城の旅館に山野アナが泊まってるってマジ?」

 

「そういうの…答えられない」

 

 雪子の目線を逸らした回答に、質問をした男子生徒はだよなぁと言いながら退散して行った。

 天城の旅館と言う単語に鳴上が首を傾げていると

 

「雪子は旅館を経営してるんだよ。この稲羽の一番の名所かもな」

 

 と明日香がそう説明した。明日香が鳴上に説明していると、千枝と雪子が何かを話していた。

 

「ねぇ雪子、この前話した事もうやった?真夜中のやつ」

 

「ううんちょっと家の方が忙しくて」

 

「そっかでも何か隣のクラスで『俺の運命の相手は山野アナだー』って騒いでたんだって」

 

 とそんな事を話しているとまたスピーカーが鳴りだし

 

『全校生徒に連絡します。学区内にて事件が起こりました。通学路に警察官が動員されています。出来るだけ保護者の方と連絡を取って、落ち着いて下校をしてください。警察官の邪魔をせずに、寄り道をしない様に下校してください』

 

 再度同じ放送が流れ始めるが、生徒達は事件と言う言葉に過剰に反応していた。大抵の生徒が事件現場に行こうと騒ぎ出した。

 明日香は事件などを面白半分に見るわけもなく、さっさと帰る事にした。

 後ろの席の鳴上も帰る準備をしており、如何やら1人で帰るようだ。

 

「あれ?帰り1人?」

 

 千枝が鳴上に声をかけると鳴上はまあねと肯定した。

 

「よかったらアタシらと一緒に帰らない?アタシは里中千枝、隣の席だけど知ってるよね?」

 

「知ってるよ。宜しく里中さん」

 

 千枝と鳴上が自己紹介をし、今度は明日香である。

 

「俺は日比野明日香、お前の前の席の奴だ…ってさっき話したから知ってるよな」

 

「いや知らない」

 

 鳴上の知らない発言に明日香は肩に掛けていたカバンを思わずズリおとしてしまった。

 

「もしかして鳴上って冗談を真顔で言うタイプか?」

 

「?」

 

 首を傾げるとは無自覚ときたもんだ。

 

「まッまぁいいや。明日香や日比野って呼びやすい方でいいから呼んでくれ。因みに千枝と雪子とは小さい頃からの幼なじみだ」

 

「宜しく明日香」

 

「おう、俺も悠って呼ばせてもらうぜ。今日から仲良くしような」

 

 明日香と悠が握手をし、いざ帰ろうとすると陽介が申し訳なさそうに近づいて。

 

「あッあの里中さん、この前借りたDVDよかったですはい。アクションもまさに本場ってもので…」

 

 陽介が色々と言って千枝の気をそらそうとしたが、やっぱり無理だったようで

 

「ゴメン!今度の給料でお詫びするから許してくれ!」

 

 そう言って千枝にDVDのパッケージを渡して逃げ帰るように教室を出ようとした。

 が陽介が余りにも余所余所しかったので

 

「まてこら、貸したDVDになにした」

 

 逃げようとする陽介に千枝が飛び蹴りをし、陽介のひざに机の角をぶつけた。

 余りの痛さにうごごと悶絶する陽介。そんな陽介を無視し、DVDのパッケージを開いた千枝は憤慨した。

 

「何これ!?ヒビはいってんじゃん!アタシの成龍伝説がぁぁぁ…」

 

「俺のも割れそう…机の角が…直に…」

 

 ひざがダイレクトに当たったのか未だに悶絶している陽介

 

「だ、大丈夫?」

 

 雪子が悶絶している陽介に大丈夫かと声をかけたが

 

「いいよ雪子!花村何かほっといてかえろ」

 

 千枝はお冠の様で、痛がっている陽介を無視して教室を出てしまった。

 まぁ陽介の自業自得だな…と明日香も呟いて教室を後にした。

 

「そっとしておこう…」

 

 最後にでた悠の一言を聞いて、意外とドライなのか?とそう思ってしまった明日香であった。

 

 

 

 昇降口をでてこれからどうしようかと明日香達が話していると学校の門に他校の高校生がゆっくりと近づいてきた。

 

「君さ、雪子だよね?こ、これから何処かに遊びに行かない?」

 

「え?だッだれ?」

 

 雪子は戸惑った。目は濁ったように虚ろで、まるで生きてるのか死んでいるのか存在感が無かった。

 それに初対面のはずなのに行き成り雪子と下の名で呼ぶなんてかなり危ない。

 周りの生徒達は天城越えとか面白がっていたが、明日香は全然面白くもなんともない。

 

「いくのいかないの?どっち?」

 

「何が行くかだよ。行き成り雪子とかよんで雪子を困らせるなよ。あんまりしつこい様だと先生を呼ぶぞ」

 

 明日香の睨みに幽鬼のような少年は、たじろぎながらクソッと吐き捨てて逃げるようにはしりさっていった。

 

「何だったんだろ彼…」

 

「そりゃデートのお誘いだったんじゃん?」

 

「え?だったら私悪い事したんじゃ…」

 

「いや構わねぇよ。今の男なんかヤバそうな感じだったからな。生きてるのがやっとって感じだ」

 

「だよね。行き成り雪子は無いと思ったわ」

 

 明日香と千枝がさっきの男は危ないと話していた。

 

「天城さんは何時もこうなのか?」

 

 悠の問いに明日香が

 

「まぁ雪子には1日1回ぐらいはデートのお誘いがあるが、あんな奴は初めてだな」

 

 と答えていると陽介が自転車を押しながらやって来た。

 

「よう天城、また悩める男子高校生を振ったのか?」

 

「まぁな。今回も雪子にデートのお誘いをした男子生徒は哀れに玉砕。でもなんか暗いやばそうな奴だったけどな」

 

 明日香の報告にふーんと言った様子の陽介

 

「ま俺も去年バッサリ切られたけどな」

 

「え?そんな事してないよ?」

 

 陽介を振った覚えは無いと雪子は顔を横に振る。

 

「マジ?んじゃ今度どっか遊びに行かね?」

 

「…それは…いやだけど…」

 

 あっさり陽介も粉砕された。少しでも期待した俺が馬鹿だったよと肩を落とす陽介。

 雪子はごらんの通り恋愛に対してすこし天然の所があるのだ。

 

「てかあんま転校生を虐めんなよ?」

 

 それだけ言うと陽介は自転車に跨り、行ってしまった。

 何か生徒達も増えて来たので、これ以上注目の的になるのは御免だ。明日香達は学校を後にした。

 

 

 

 帰る道中、明日香や千枝に雪子は悠にこの稲羽の事を色々と教え、悠から如何して稲羽にやって来たのかと訳も聞いた。

 何でも悠は親の都合で転校を色々としているようだ。親の都合で転校と言うのも大変なものだ。

 稲羽の事については染物や焼き物が有名な所と雪子の家の天城屋旅館は1番の名所である。雪子はその旅館の次期女将なのだ。

 そんな事を話していると前方が何やら騒がしかった。

 ブルーシートが敷かれておりパトカーが数台停まっていたり、普通ではなかった。野次馬達も何があったのかと騒いでいた。

 アンテナに引っ掛かっていたやら警官や消防が先程降ろしたと色々と騒がれていたが、一つの単語が嫌に耳に入った。死体言う言葉が…

 

「いッ今死体って聞こえたよね?」

 

「あぁ聞こえた。さっき言ってた事件って若しかしてこれの事か?」

 

 千枝と明日香がそんな事を話しているとスーツの上着を手に持った刑事が此方に近づいてきた。

 

「おい、此処で何してる」

 

 明日香はやって来た刑事とは顔見知りで

 

「堂島さん!」

 

 と挨拶をしていた。

 

「おぉ明日香か。久しぶりだな。コイツとは知り合いなのか?」

 

「コイツ?」

 

 千枝が首を傾げていると

 

「そこに居る鳴上悠は俺の姉貴の息子なんだ。今俺の家で預かってるんだ…それで、何で此処に居るんだ?」

 

「偶然通りかかったんだ」

 

 悠の正直な答えに、堂島は舌打ちをしながらあの校長は…と文句を言っていた。

 何か事件なのかと明日香は効こうとしたら明日香達の前を1人の若い刑事が走って行って

 

「うぉぉ…うおえぇぇぇぇ」

 

 我慢できなくなったのか、道中で吐いてしまっていた。

 吐いてる若手の刑事を見て、たくっと舌打ちをする堂島は

 

「おい足立!何時まで新人気取りだ!?さっさと顔洗って戻って来い!!」

 

「はッはいぃ」

 

 堂島の怒鳴り声に若手の刑事足立は慌てて現場に戻って行った。

 あぁそうだと明日香は何かを思い出して

 

「堂島さん、俺の父さんは?」

 

 と聞こうとしたら

 

「明日香、僕の事を呼んだかな?」

 

 明日香の背後から男性の声が聞こえ、バッと後ろを振り返ると其処には明日香によく似た男性が立っていた。

 

「ちょ!何時も背後に立つなって言ったじゃん父さん!」

 

「はははごめんごめん。いつもの癖でね」

 

 男性は明日香に平謝りをした。彼の名は日比野未來、堂島と同じ刑事である。

 

「おじさん、こんにちわ」

 

「あぁこんにちわ千枝ちゃん。今年も明日香の事を宜しくね」

 

 と未來は千枝とにこやかに話していた。

 

「未來さん、他の目撃者は?」

 

 堂島が聞いてみると、未來はにこやかな顔から真剣な顔になり

 

「…やっぱりこの霧のせいで目撃者はほぼゼロ。早退したと言うその女子生徒が唯一の目撃者らしいよ」

 

 未來の報告にそうですか…と顔を歪める堂島

 と明日香達の事を見た未來は

 

「大丈夫。此処は僕達警察に任せて早く帰りなさい。明日香、明野さんには若しかしたら今日は帰れないかもしれないから戸締りはしといてと言っておいて」

 

 妻の名は明野だが、心配しないでと伝え解いてと明日香にお願いした。

 

「分かった。父さんも気を付けてよ」

 

 そう言うと、堂島足立に未來は現場に戻ってしまった。

 と明日香は先程の野次馬の会話を思い出していた。アンテナに吊るされた死体、どう考えても事故だとは思えない。

 

(仮に殺人だと決めつけたら何で態々アンテナに引っ掛けたんだ?なんかのアピールかそれとも…駄目だわかんねぇ)

 

 と色々と考えていると

 

「ねぇ雪子、ジュネスに行くのまた今度にしよっか」

 

「そうだね。今日はもう帰ろう」

 

 千枝と雪子は元々ジュネスによるつもりだったが、今はそんな気分ではなさそうだ。

 

「じゃアタシ達は此処でね。それじゃ明日ね鳴上君」

 

「また明日」

 

「気を付けろよ悠」

 

「分かった。3人も気を付けて」

 

 明日香と千枝と雪子は悠と挨拶をし、それぞれの帰路に着いた。

 

 

 

 途中雪子とバス停で別れ、明日香と千枝は同じ道なので一緒に歩いていた。

 しかし道中無言であった。自分達が住んでいる稲羽で奇妙な事故が起こるなんて思ってもみなかった。

 重い空気であったが、千枝が話し掛けて来た。

 

「あの…さ、さっきのおじさんと話したけどさ、あれって絶対事故じゃないよね?アンテナに死体だなんて」

 

「あぁ俺もさっきからそれを考えていた。死体をアンテナに引っ掛けるなんて普通じゃない。何かのアピールとかそんなだろ」

 

 と明日香の考えを話していると、ねぇと千枝が明日香の制服を掴んで

 

「あれがもし殺人だとしたらさ、あんな殺し方するんだし…若しかしたらまだこの辺に犯人とかがいるんじゃ…」

 

 千枝は自分で言って怖くなったのか少し顔を青くしていた。

 不安なのだろう。だからこそ明日香は千枝の頭を優しく撫でながら

 

「大丈夫だよ。何があっても俺が千枝を護るから」

 

「あッ明日香…」

 

 千枝は思わず顔を赤くしてしまったが、そんな事をしてる間に互いの家に到着してしまった。

 

「じゃあな千枝、何かあったら連絡するから」

 

「うん明日香も気を付けてね」

 

 バイバイといって千枝も自分の家に入っていった。

 千枝が家に入った事を確認すると、明日香も自分の家へと入って行った。

 

 

 ――夜――

 

 未來の妻であり明日香の母親である日比野明野に、今日は未來が帰ってこない事を告げるとしょんぼりとしてしまった。

 明野は明日香の母でありながら若々しく見えて大学生と見間違えてしまうほどである。

 夕食は明日香と明野の2人で食べ、夕食を食べ終えると明日香は欠かさずニュースを見ている。刑事の息子たる者毎日の情報は見逃さないのだ。

 とニュースは丁度稲羽の事についてであった。

 遺体で発見されたのは山野真由美と最近不倫騒動で騒がれていたアナウンサーである。確か議員秘書の生田目太郎と不倫関係であったそうだ。

 そんな山野アナが今日遺体で発見された。堂島や未來が働いている稲羽警察署の調べでは死因は今のところ不明で、事故と事件の両方で調べて言うとのことだ。

 だが事故はどうやって説明するのだ?巨大なトラックなどが山野アナを轢いて偶然アンテナに引っ掛かるなんて確率は零に等しい。それに轢かれたり何ならかの事故であるなら死因がはっきりするはずだ。そもそもアンテナに死体を吊るす意味が分からない。

 そんな事を考えていると明野が不安そうな表情をしていた。それはそうだろう。原因不明の死体が発見されたら不安がるのはしょうがない。それに未來が家に居ないと言うのも不安の原因の一つだろう。

 

「心配しないでよ母さん。父さんが家に居ない時は、俺が母さんを護るからさ」

 

 と明日香がそう言うと、幾らか安心したのか明野は笑顔を見せた。

 

「ありがとうね明日香。お母さん明日香がそんな事言ってくれるなんて嬉しいわ」

 

 とギュッと抱きしめてくる明野。明日香は思わず赤面しながら明野を押し返した。

 幾ら若く見えても母親は母親だ。かなり気恥ずかしい。

 

「ばッバカな事やってないで早く寝なよ!俺ももう寝るから、お休み!」

 

 そう言ってリビングを後にした明日香。明野はそんな明日香を見てクスクスと笑っていた。我が子が可愛くてついからかってしまうのだった。

 

「全く母さんったら…」

 

 部屋に戻った明日香は先程の明野のやった事に溜息を吐いていた。

 しかしやはり先程のニュースことが頭から離れない。何故山野アナが遺体で発見されたのか?

 ただの不倫疑惑で殺されたりするのはおかしい。それと今日の放課後の山野アナが天城屋旅館に泊まっていたかと言う噂については雪子が言葉を濁したのは恐らく山野アナが天城屋旅館で泊まっていたのだろう。

 では天城屋の人達が山野アナとトラブルがあって殺した?なんてそんなサスペンスドラマじゃあるまいし、天城屋の人達はいい人たちだ。人殺しなんかするはずもない。

 

「…色々と考えてもしょうがない。もう今日は早く寝ちまおう」

 

 明日香は寝巻きに着替えて寝てしまった。

 何故こんな事が起きたのかを考えるのも大事だが、それよりも大事なのは千枝にどんなことがあっても護るという事である。

 願わくば、もうこんな事が起こらない事を祈りながら、静かな寝息を立て始めた明日香であった。

 

 

 

 

 

 




鳴上悠ってこんな感じだっけ…
次回も楽しみに待ってくれたら幸いです

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