ペルソナ4 正義のペルソナ使い    作:ユリヤ

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お久しぶりです
約10ヶ月以来の投稿です
覚えていてくれたら幸いです


第14話

 4月20日(水) 朝

 

 

「今日も母さん千枝と一緒に食べなさいってかなり多めの弁当だったな。今回は変な感じじゃないよな……」

 

 呟く明日香、他の男子からしたら女子とお昼なんて羨望の眼差しなのだが。

 モロキンに聞きたい事があったから職員室に行き、モロキンからお前は生徒の鏡だなんて行き成り褒め始め、次には最近の生徒はと愚痴りだした。ただ愚痴りたかっただけなんだなと明日香は正直どうでもよかった。

 職員室から出たら午前の授業が始まりそうになっていた。急いで戻ろうと思っていると、階段に悠と海老原の姿があった。

 何やら話しているが、悠と海老原は教室ではなく昇降口に向かっていた。

 

「悠、海老原さん、もうすぐ授業が始まるのに何処行くの?」

 

「あ、明日香」

 

「うッ日比野君……」

 

 明日香が呼び止めると海老原は目線を逸らした。

 

「悠、これから何処に行くんだ?」

 

「エビの付き添いでバスケ部の大切なモノを買いに行く」

 

「エビってあぁ海老原さんのエビね……それで本当なのか?海老原さん」

 

「えッえぇそうよ。一条君に頼まれて。ほッほら私マネージャーだから」

 

 怪しいと思いジーッと海老原を見つめていたが、今回は海老原の言う事を信じる。

 

「気を付けてね。悠も海老原さんに何かあわないような」

 

「あぁ」

 

「それじゃあ日比野君、私達はこれで!」

 

 海老原は悠を連れてそそくさと昇降口に向かって行った。

 

「海老原さん、見た目があれだからと思ったけど、ちゃんとマネージャーをすることもあるんだな」

 

 なんてことを思いながら明日香は教室に向かう。

 

 

 

 ―――――昼―――――――

 

 

「で海老原さんと鳴上君をそのまま行かせちゃったんだ」

 

「あぁ。何かヤバかったか?」

 

 昼休憩にて、明日香と千枝は2人だけで屋上でお弁当を箸でつついていた。

 明日香が朝にあった事を千枝に話すと、千枝は溜息を吐きながら

 

「明日香、もしかしてだけど海老原さんの噂を知らない」

 

「海老原さんの噂?どんなんだ?」

 

「やっぱり知らないか……実は海老原さん学校じゃ評判悪いんだよ。平気で授業をさぼったりするから。部活のマネージャーをやってるのも出席日数のためなんだって。これは噂なんだけど、夜に知らないおじさんと二人で歩いていたとかなんとか」

 

「海老原さんそんな事を。もしかして朝の事も嘘だったのか」

 

「うん……鳴上君、今頃海老原さんの荷物持ちやってるんじゃ。しかもアタシらの担任モロキンだし」

 

「転校早々授業なんかサボったら即ロックオンか。すまない悠。何かあったら俺がフォローするから」

 

 今はいない悠に謝罪をする明日香である。

 

「所で話変わるけどさ、海老原さんってすごく美人じゃん?それにお洒落大好きみたいだし、同じ女として憧れちゃうなぁ……」

 

「確かに綺麗だけど、俺にとっては千枝が一番だから」

 

「ちょっやだ明日香ったら」

 

「千枝……」

 

「明日香……」

 

 互いに見つめ合う2人。付き合いだしたらまるでバカップルのような雰囲気を出している2人であった。

 

 

 

 4月21日(木) 放課後

 

 

 特にやる事もない明日香は、悠のいるバスケ部に遊びに来ていた。

 千枝は雪子のお見舞いである。偶には女の子同士でゆっくりするといいと明日香は千枝にそう言った。自身の影との戦いの後、心に余裕が出来た明日香である。

 今日の練習は、相も変わらずパス練習を行っている。悠の相方は一条だ。

 

「上手いな。やっぱり鳴上は素質があるよ」

 

 悠の投げたボールをキャッチしながら、一条はそうほめた。

 明日香はまだ海老原が来てない事に気ずく。

 

「今日もマネージャーこねぇのか」

 

「バスケ部唯一の楽しみなんだけどな」

 

「あれだろ?放課後は男漁りに忙しいんだろ?遊んでいるらしいぜ?」

 

「パパとか居るんだってよ」

 

「あの顔であの体であの腰だろ?そりゃパパの1人や2人居ても可笑しくないって」

 

 明日香はバスケ部の部員の好き勝手な物言いにムッと来た。海老原が不在だからと言って、言っていい事と悪いことがある。

 部員を注意しようとしたが

 

「お前らいい加減にしろよ。あることないこと言われちゃかわいそうだろ!」

 

 一条が部員たちを注意した。言葉に怒気が入っているのを見て本気で怒っていると明日香は感じた。流石は一条と思った明日香

 

「いやこりゃマジなんだって……ッ!」

 

 まったく反省していない部員の一人がまた何か言おうとしたが、固まってしまう。

 明日香は固まった部員の方を見てみると、其処には海老原が立っていた。

 海老原は何も言わずに体育館を後にした。

 

「あッあの!」

 

 一条は海老原に何か言おうとしたが、海老原に睨まれてたじろいでしまった。

 海老原の去って行った後に、体育館が気まずい雰囲気となる。

 

「やっべぇ、今の絶対聞かれてたよな」

 

「すんげぇ睨んでた。どうしよう」

 

 自業自得だ。呆れて溜息が出る明日香。

 一条はどうすればいいのか立ちすくんでいて、悠が代わりに海老原を追いかけていた。

 

「どんまい、元気出せって一条」

 

「わりぃ日比野、なんかさ」

 

「一条は悪くないさ。本人が居ないからって平気で好き勝手言う奴を注意したんだからな」

 

 明日香は黙って部員たちを睨みつける。部員たちは気まずそうに逃げるように体育館を後にしていた。

 

「たく後片付けぐらいはして帰れっての」

 

 結局後片付けは明日香と一条でする事となった。

 本当にやる気が無いんだなとそう思っていると

 

「はぁ」

 

 一条は溜息を吐きながらボールを磨いていた。

 

「どうした一条、今日は何時もより元気が無いな」

 

「あぁゴメンな日比野」

 

 謝りながらボールを磨く一条、溜息を吐きながらボールを磨く姿を見ると何やら訳がみたいだ。

 

「本当に何かあったんだったら話相手になるぞ?」

 

「ありがとう。でも別に大したことはないからさ」

 

 それからは無言で作業をして、一条が後はやっておくと言ったのでお言葉に甘えて体育館を後にした。

 教室に忘れ物をした事に気づいて、忘れ物を取りに戻り家に帰ろうと思った矢先、屋上で何やら騒がしかった。

 見上げてみると、悠と海老原が何やらもめているのが見えた。

 最初は駆けつけた方がいいかと思ったが、悠に任せていれば大丈夫だろと、そんな軽い気持ちで判断してしまった明日香はそのまま帰ってしまった。

 だがこの後、悠が色々と大変な目にあう事を今の明日香は知らなかった。

 

 

 

 4月22日(金) 朝

 

 

 久しぶりに明日香・千枝・悠・陽介・の4人が集まったので一緒に学校に向かう事になった。

 

「どうよ悠、バスケ部にはもう慣れたのか?」

 

 陽介は悠のバスケ部はどうかと聞くと、何故か悠はビクッと大げさに反応した。

 そして明日香と千枝を交互に見て、えっと……と言葉を詰まらせていると

 

「ゆ~~~う~~~~!!」

 

 海老原がにこやかに笑いながら、悠と下の名を呼びながら走ってきた。

 明日香達の事なんか無視して、海老原は悠の手を握って

 

「悠!今日は学校なんかサボって2人で遊びに行こう!ね!」

 

 悠が何か言う前に海老原は悠の手を掴んで何処かへ行ってしまった。

 

「なんだアイツら?」

 

「さぁ?」

 

 陽介と千枝は首を傾げていたが、明日香だけはこれは何かあったなと直感で感じ取った。

 悠と海老原のサボりはかなりの生徒に見られており、結局……

 

 

 4月23日(土)午前

 

 

 悠と海老原のサボりはモロキンの耳にも入っており、悠と海老原はモロキンに説教を受けられていた。

 堂島にも報告がされており、これはおじさんも説教だなと思った悠である。教室に戻ってきた悠はぐったりしていた

 

「大丈夫か悠?」

 

「なッなんとか……」

 

「海老原さんと付き合うなんて、鳴上君も大変だね」

 

 陽介と千枝がぐったりしているから大丈夫かと聞くと、辛うじて答える悠。

 

「悠、疲れている所悪いが今日の放課後ジュネスのフードコートに集合するぞ。事件のまとめをしたいからな。海老原さんと何かないか?」

 

「あぁ今の所だいじょう『♪~♪』うぐッ!!」

 

 大丈夫だと言おうとした瞬間、悲劇の着信音が流れて、悠は息を詰まらせた。

 電話に出た悠だが、相手は海老原の様で明日香達にも聞こえるほど大きかったが、悠は電話を切ってしまった。

 

「おい悠、いいのか?電話に出ないで」

 

「……」

 

 明日香の呼びかけに悠は数秒黙っていたが、もう一度電話をかけて教室を去った。かなりの小声で……

 

 

 

 ――放課後――

 

「どう思う?あの2人」

 

 結局悠はジュネスにくる事は無く、明日香・千枝・陽介の3人で集まる事になった。

 話も事件の事ではなく、悠と海老原の関係の話となった。

 

「悠と海老原だろ?海老原問題児だし、俺としては以外って思った所もあるけど、何かお似合いじゃん?海老原ってこの町には居ない都会っぽい感じの女子だし、悠も元都会人だし」

 

「花村も元都会人じゃん。でも海老原さんとは……うん合わない」

 

「陽介は地雷を踏んで勝手に自滅しそうだ」

 

 明日香と千枝に言われてヒデェと落ち込む陽介である。

 話を悠と海老原の関係に戻そう。

 

「俺は悠は、海老原さんに仕方なく付き合ってる気がする。付き合うと言うのは普通は両者が楽しむものだと思ってるし、なんか悠は引っ張られて疲れているって感じだ」

 

「明日香もそう思うでしょ?鳴上君も嫌なら嫌っていっそのこと言えばいいのに。周りの人の事を気にしないでベタベタしたり、授業をサボるなんて鳴上君らしくないよ」

 

 まったくと呆れながら怒っている千枝を見て陽介は

 

「う~んそうだな……おっし閃いた!!」

 

「は?」

 

「いや!みなまで言うなって。泥船に乗ったつもりで、全部俺に任せておけって!」

 

 サムズアップをする陽介を見て2人は思った。あぁコイツ絶対面倒な事を起すつもりだなぁ……そう思ってしまい溜息が出て止まらなかった。

 

 

 

 4月26日(火) 放課後

 

 どうやらバスケ部は近いうちに他校のバスケ部と練習試合をすることになったらしい。

 てきとうに練習をしていたバスケ部のメンバーは大ブーイング。

 そこに明日香・陽介・千枝が部活に遊びに来た。

 

「よう少しいいか?」

 

「なんだ花村か。バスケ部に何かようか?」

 

 千枝を見て一瞬顔を赤くした一条が何の用か尋ねると

 

「里中がさ、バスケ部のマネージャーをしてみたいってさ」

 

「え゛!?」

 

「えッ!?」

 

 陽介の言った事に千枝はギョッと、一条は少し嬉しそうな声を上げた。

 

「仮入部って可能か?」

 

「そッそりゃあもちろん!」

 

 千枝の了承も得ずに話が勝手に進んでいく。

 

「ちょっと花村、どういうことよ?」

 

 陽介と明日香を体育館の端の方に連れて行き、小声で話し始める千枝

 

「いいから話を合わせてくれって。一条には悪いけど、一回ぐらいは失恋も大切だろ」

 

「失恋?」

 

 陽介の言った事に首を傾げていると陽介は

 

「知らなかったと思うけど一条の奴、里中が好きだったみたいなんだぜ」

 

「え?そうだったの?」

 

 知らなかった事を聞いて驚く千枝、確かに一条は偶に千枝の事を目で追っていたからもしやと思った明日香

 

「ほんとついさっき海老原のクラスの女子に聞いたんだけどな、海老原が悠と付き合う前によく話題にしてた男子が一条なんだってさ」

 

「えっとつまり何か?海老原さんは何処かで一条が千枝の事を好きだって言うのを聞いて、腹いせで悠と付き合っているのか?」

 

 明日香は思った事を口にする。もしそうだったなら悠はかなり迷惑な事になって事になる。じっさいかなり疲れていたし

 

「まぁそうなんじゃねぇのか?」

 

 そこでだと陽介は提案する。

 

「里中がマネージャーとして仮入部して、それで海老原に言うんだよ『アタシにはもう好きな人が居るから、自分の都合で鳴上君に迷惑をかけないで』ってな」

 

「アタシが言うの!?だって海老原さん……」

 

 千枝が海老原の事を見てみると、海老原は千枝の事を睨んでいた。

 

「うわッなんか海老原さん怖い。それに花村、アンタなんでアタシに好きな人が……」

 

 陽介は呆れながら

 

「あのな、明日香とのシャドウの戦いのときにお前ら大声で告白してたじゃねぇか。それにお前らが屋上で仲良さそうに昼飯食ってるの知ってる奴が居るんだぜ?」

 

「なんか視線があったような気がしてたんだけど、気のせいじゃなかったのか」

 

「え?それ本当なの明日香。やだ何か恥ずかしい」

 

「かえって堂々としてる方が良いのさ。俺と千枝の仲の良さを見せつければいい」

 

「はいはい御馳走様でしたと」

 

 明日香の堂々とした台詞に苦笑いをする陽介

 

「けど陽介、もし千枝に何かあったなら、たとえ陽介でも許さないからな」

 

「大丈夫だって、そうならない様に俺もちゃんとフォローするからよ」

 

 こうして千枝がバスケ部のマネージャーとして仮入部すると言う裏腹に、とある作戦が始まろうとしていたのであった……

 そして部活が終わり、悠は帰ろうと思っていたら校門に明日香が立っていた。

 

「お疲れ」

 

「あぁ。里中は?」

 

「先に帰ったよ。偶には悠と帰ろうと思ってさ。一緒に帰ろうぜ」

 

「そうだな」

 

 明日香と帰る事にした悠。

 暫く黙っていた悠だったが、ふと口を開いた。

 

「一条が今度の試合が終わった後に、バスケ部を止めるかもしれないそうだ」

 

「一条が?……若しかして一条の家の問題か?」

 

 明日香は一条の家の事情を知っている。明日香も友人としては助けてやりたいが、家の問題には流石に口出しは出来ない。

 

「……今度の試合に勝ったら里中に告白するみたいなんだ」

 

「そう……か」

 

 やっぱりか……そう思った明日香。一条は何かと真っ直ぐな性格だが、それが今回裏目に出るとは

 

「なぁ悠」

 

「なんだ?」

 

「そのなんだ、こんな時に言うのもなんだけどさ……俺と千枝な最近になって正式に付き合う事なったんだ」

 

 明日香が言った瞬間、悠は表情を硬くした。今の悠の頭の中はもう色々な事でいっぱいいっぱいなのだろう。

 明日香は悠の肩を軽く叩きながら

 

「俺が一条に話すさ。千枝には俺が居るお前には悪いけど諦めてくれってな。正直俺が言うのは嫌味でしかないかもしれない。でも俺がキッチリと話を付けなきゃいけない」

 

「明日香……」

 

 なぁ悠と明日香は悠の方を向きながら

 

「お前は海老原さんと一応付き合ってるけどさ、正直言って楽しいと思った事はあるか?それと海老原さんも本心から悠と付き合ってると思うか?」

 

 明日香の問いに悠は首を横に振りながら

 

「エビは正直言って無理をしてると思う。無理して俺の事を好きになろうとしているようだった」

 

 一条の事を本当に諦めたのなら、千枝の事を睨まないはずだ。

 

「やっぱり恋愛って言うのはさ、互いに好きじゃないといけないと思うんだよ俺は。確かに恋愛なんてそんなに簡単に上手くいくとは思ってないさ。けどな一方的に押し寄せるなんて結局はただの迷惑な行為に変わりはないと俺は思うんだ」

 

 俺の考えだからなと明日香は苦笑いをしながらそう言う。

 

「海老原さんも、ちゃんと自分の気持ちに正直になった方がいいんだ」

 

「ありがとう」

 

 悠がお礼を言うが

 

「何言ってんだよ。正直俺は悠に感謝してるんだ。悠のおかげで俺は自分の心に正直になれて千枝と結ばれる事が出来た。俺に出来る事があるんだったらなんでもするさ」

 

 そう言って明日香と悠はしっかりと握手をした。その瞬間、明日香と悠の間で何かが繋がったような気がしたのである。

 

「そう言えば里中とは付き合ってると言ったけど何かしたのか?」

 

「え?まぁ屋上で一緒に同じ弁当を食べたりかな」

 

「青春だな」

 

「久しぶりに聞いたな悠のそのセリフ」

 

 なんて談笑をしていると、2人の前に一人の少女が歩いてきた。

 白と青を強調としたファッションで、大きい青色のカバンが目立つ。いろんな意味で目立つため、稲羽に住んでいる子ではないと直ぐに分かった明日香

 

「あ……」

 

「知ってるのか悠?」

 

 どうやら彼女の事を知っているようだ。

 悠は彼女に近づいたので、明日香も近づいた。

 

「マリー」

 

 悠は彼女の名前を呼んだ。マリーとは珍しい名前だ。

 

「あッまた会えた……」

 

 マリーと呼ばれた少女は、無表情に近い感じで返事をした。

 とマリーは明日香にも気付いたのだが

 

「君はだれ?」

 

 かなり無愛想な感じで何者かと尋ねてきた。

 変わった子だなと明日香は思っていると

 

「明日香だ。俺の友達だ」

 

「日比野明日香と言います。よろしくマリーさん」

 

 マリーに自己紹介をする明日香だが、マリーは何かを考えていて

 

「こういうの聞いた事がある。確か堅物?それにマーガレットと何か似てる」

 

 初対面の相手に堅物とはよく言いきったなぁと思った明日香。マーガレットと言うのはマリーのお姉さんなのだろうか。堅物とは……

 とマリーはジッと明日香を見て

 

「君は……ふーん」

 

 特に何も言わずに、マリーは去って行った。

 

「不思議な女の子だったな。マリーさんとは何処で知り合ったんだ」

 

「稲羽の駅で最初に会った」

 

 不思議な女性もいるもんだ。途中で悠と別れて帰った時にそう思った明日香である。

 だがマリーが今後悠や明日香達、ペルソナ使いに大きくかかわる事になるとは、知る由も無かった。

 

 

 

 4月29日(金)祝日  午前

 

 

 波乱の展開へとなりそうなバスケ部の練習試合。

 メンバーは全員集まっているのだが、バスケ部で来ているのは悠と一条だけ、助っ人として明日香に陽介、そして長瀬が集まっただけであった。

 

「どんだけヤル気ないんだよ。大丈夫かバスケ部」

 

「まぁ何時もの事だ。気にするな」

 

 ユニフォームを着た陽介が呆れたような溜息を吐き、それを長瀬が慰めた。

 一方千枝は、練習試合の記録としてのビデオカメラを設置し終えた。ちゃんと映るかどうか試しに映していると、海老原が遮った。

 

「腰掛けでマネージャーされても迷惑なんだけど」

 

 敵意丸出しな海老原の態度にムッとする千枝であったが、怒りを飲み込みながら

 

「そっちこそ、最近部活に来てなかったらしいじゃない」

 

 それからは無言の睨み合いが続く

 

「今のあの2人には近づきたくない感じだなまったく」

 

「千枝大丈夫だろうか」

 

 明日香が心配している中、試合は始まるのであった。

 ジャンプボール、最初に制したのは相手のチームである。それを必死に追いかける明日香達であるが、相手の方が上手のようで先取点を決められてしまう。

 明日香達が点を取ったり取られたりの攻防をしている中、千枝と海老原による女の戦いも繰り広げられそうになった。

 

「そばで見てたら、ますますムカついてきた。何でこの私がアンタみたいなダサい娘に負けたなんて」

 

「ダサいって、あんまりお洒落とかしてないから言われても仕方ないけど、言われたらアタシでも傷付くなぁ」

 

 海老原に対して落ち着いた態度を見せている千枝。だが海老原にとってはますます気に入らない様子で

 

「アンタのせいで、私は大迷惑をこうむってんの!」

 

「ならアタシも言わせてもらうけど、海老原さんに振り回されている鳴上君が可哀そう」

 

 千枝の言った事に海老原は小ばかにしたように

 

「何アンタ、もしかしてアイツの事が好きなの?」

 

 ううんと千枝は首を横に振りながら

 

「鳴上君は友達だよ。それにアタシにはもう彼氏がいるから」

 

「……は?」

 

 海老原は千枝の言った事が信じられないと言った感じで呆けた声を出す。

 

「アンタみたいなだっさい女に彼氏?どうせアンタと同じようにだっさい男なんでしょ?」

 

「ううん。一条君や鳴上君と今一緒に試合をしてる明日香が、アタシの大切な彼氏だよ」

 

「なッ!?」

 

 海老原は信じられなかった。明日香はひそかに女子に人気があった。

 それなのに目の前の千枝が明日香の彼女とは信じられなかった。

 

「アタシダサいかもしれないけど、彼氏持ちって事で海老原さんよりは女としては上だよね」

 

 千枝の言った事に何かが切れた海老原は

 

「愛されている上に友達なんて持って……贅沢なんだよ!アンタ!」

 

 叫びながら千枝に平手打ちをしようとした。

 が海老原がそう言った行動に出るかもしれないと思った千枝は、海老原の腕を掴んで離さない。

 

「ッ!」

 

「悪いけどアタシはもう明日香の女なの。アタシの顔に傷でもつけたら私は怒るし、明日香も許さないと思うから」

 

 千枝の凄味のある目に思わずたじろぐ海老原

 

「おっある意味青春だなこれは」

 

「馬鹿言ってないでボールを追うぞ陽介!」

 

 千枝と海老原の遣り取りを見て、ニヤついている陽介を注意する明日香。

 そして千枝に任せたとアイコンタクトをして、明日香はボールを追いかける。

 

「ねぇ海老原さん、アタシもね、正直言って最近まで明日香との関係がなんか曖昧だった。明日香だけがアタシを見てくれるからそれでいいって思ってたんだ。鳴上君が来てくれたおかげでアタシや明日香は変わる事が出来た」

 

「鳴上君はいい人だよ。でもだからといって彼に甘えちゃいけないんだよ」

 

  千枝に言われて、黙る海老原。

  悠は海老原に近づき

 

「エビ、一条の最後の試合になるかもしれない。だからしっかりと見るんだ」

 

  悠の言ったことに海老原は目を見開いた。そんな事は一度も聞いていなかった。一条の家の事情はすこしだけ知っていたが、まさかバスケを辞めるかもしれないというのは、知らなかった。

 それなのに自分は、一条の好きなのが千枝なのを知って、自暴自棄になって悠の答えも聞かずに勝手に付き合って。一条が千枝と付き合っているわけではないのに、自分の想いを伝えずに……海老原は今更だが、自分の行いに後悔した。

 だったら今はしっかりと一条の試合を見守ろう。海老原は練習試合をしっかりと見続けることにした。

 何とか問題は解決した。明日香と千枝は頷きあい、悠と陽介にアイコンタクトを送った。

 試合は残す所数分、一条のためにもこの試合は絶対に勝つ。ボールに向かっていく悠と明日香はそう思った。

 

 

 

 

 ―午後―

 

「一条」

 

「おぉ日比野か」

 

 練習試合が終わり、一条は学校の屋上で下を見降ろしていた。

 

「試合、中途半端に終わったな」

 

「そうだなぁ」

 

 練習試合は、引き分けに終わった。

 最初は相手校が優勢であったが、試合終了間近になって明日香・悠そして一条が踏ん張り同点まで追い込んだ……なお陽介はそこまで目立ったプレーは見れなかった。

 

「やっぱ里中さんに告白する!……なんてことを宣言しっちゃたのがいけなかったのかなぁ」

 

「一条、あのさ……」

 

 明日香は自身がもう千枝と付き合っていることを言おうとしたが

 

「知ってるんだよ。日比野と里中さんが付き合っていること」

 

 一条は明日香と千枝が付き合っていることを知っていた。

 

「いつから知ってたんだ?」

 

「練習サボったバスケ部の一人がさ、偶然日比野と里中さんが告白しあってるのを見ちゃってさ」

 

 結構前からだった。

 

「……聞くのは悪いと思うけど、何で千枝に告白しようと思ったんだ?」

 

「けじめをつけようと思ったからかな。叶いもしない恋を引きずるよりも、いっそ告白して潔くフラレる方がよっぽどいいかなと思っただけだ」

 

「すごいよ一条。俺はそういうことは出来ないよ」

 

「よせよ。てかさ、里中さんと席近いし幼馴染なんて羨ましいんだよ!」

 

 このこのと肘で明日香の脇腹をつつく一条。

 じゃれあった直ぐに一条はため息をついて

 

「これで俺の初恋も終わりかぁ。合コンで新しい恋でも見つけるか」

 

「直ぐに見つかるさ。爽やかな一条ならお似合いの彼女がさ」

 

 その後直ぐに一条が千枝と付き合ってどうなんだ?と聞いてきたから、明日香は自然な感じでのろけ話をしたのであった。

 

 

 

 

 練習試合が終わった打ち上げとして、愛屋で皆で食べた。

 千枝がバスケ部のマネージャーはこれっきりと一条に伝え、海老原は自分はずっとバスケ部のマネージャーを続けるよと一条に熱心に伝えた。

 一条と海老原がいい雰囲気になったところでお開き。

 現在明日香と千枝は帰路についていた。

 

「そっか、一条君はアタシと明日香が付き合ってるのしってたんだ」

 

「あぁ。知っていてなおけじめとして、告白して潔くフラレようとしたんだ。同じ男として、大した奴だと本当に思うよ」

 

「本当。でもね……」

 

 千枝は明日香の目をしっかり見て言った。

 

「一条君が自分の気持ちを正直にぶつけるんだったら、アタシもしっかりとこう言うよ。アタシは明日香と付き合ってるんじゃなくて、明日香のことが本当に好きだって」

 

 面と向かって言われて、赤くなる明日香。

 

「そういうことを真顔で言われるのは、少し恥ずかしいな。でも俺も千枝のことが大好きだ」

 

「そっそのありが……とう」

 

 互いに赤くなる。

 

「そっそういえば、雪子そろそろ学校にこられるみたい」

 

「そっそっか。だったら少し落ち着いたらどこかに出掛けるか!」

 

 初々しい二人は改めて何処かへ出掛ける話をしながら帰っていったのであった

 

 

 

 

 




今度から文字数を減らしていこうと思っています

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