雪子を無事救助した明日香達、直ぐに雪子の家に連れて帰るのは体力的な面で無理をするのはいけないという事で、少し休もうと言う事となった。
雪子をジュネスのフードコートに連れ、テントがある大きめのテーブルとイスがある場所に座らせた。
「雪子……大丈夫?本当に怪我とか無い?」
千枝は再度、雪子が本当に大丈夫なのかを尋ねていた。
雪子もうん大丈夫だよ……とほほ笑みを浮かべながら自分は大丈夫だと伝える。
「大丈夫だけど……ちょっと疲れた……かな」
雪子は少し疲労を感じていた。ペルソナの力も無くほぼ丸一日テレビの中に入れば、かなり疲労も溜まるだろう。
雪子の心情は察しているが、雪子には聞きたい事があった。雪子をテレビに入れた犯人……恐らくは山野アナや小西先輩をテレビの中に放り込んだのと同一犯であろう。
「それで雪子、何か覚えてないか?犯人の特徴やら、最低でも男性か女性かは分かったかい?」
明日香が詳しい事を聞き出そうとしたが、雪子は申し訳なさそうに
「ごめんなさい……何も覚えて無くて、気が付いたらあのお城に居て……」
「いッいいっていいって!雪子が無事だったんだから!」
ね?と千枝がそう言い、明日香と悠と陽介はその通りだと頷いた。
だが陽介が直ぐに苦い顔になり
「けどよ、天城が前の2人と同じ手口でその……」
陽介は言葉を濁していたが、雪子が殺されそうになったのは確かだ。
「それと雪子がマヨナカテレビでドレス姿で写ってたけど、あれは雪子の影だった気がするな」
明日香は自身の推測を話し始める。雪子自身、旅館の後継ぎという事で色々と抑え込んでいる所があったのだろう。
そして現実の世界で抑え込んでいたものが、テレビの世界に入った事で現実となったのではないか……と
「そう言えばクマ君もそんな事を言っていたような……」
千枝もクマにテレビの世界について色々と聞いていた。こっちの世界での現実はあっちの世界の現実になると
「あ~駄目だ……全然わっかんねぇ」
陽介は色々と行き詰っているようでウンウンと唸っていた。
しかし3人もテレビの中に平気で放り込んでいるのだ。正気ではないだろう。
明日香達は犯人が如何言った人間なのかを考えていた。
「犯人の事もそうだが、今は天城の方が心配だ」
悠が雪子を心配してそう言った。確かに今は雪子を安全に旅館に送りに行くことを優先としよう。
「うん、難しい話はまた今度にしよう?」
「今は雪子を家に送り届けて、旅館の人達を安心させよう。俺と千枝で雪子を送って行くから」
千枝と明日香が雪子を家へと送り届ける事となり、今日は解散する事にした。
雪子を無事救出する事が出来た。だが事件自体は犯人の目星もつかず、深まるばかりであった……
「雪子!」
「雪ちゃん!」
明日香が天城屋旅館へ雪子が無事に見つかったと連絡をし、旅館に到着した途端、雪子の母親や仲居さんに板長と、全員が雪子のお出迎えをしてくれた。
「お母さん、皆……心配をかけてごめんなさい」
雪子は皆に心配をかけた事を謝った。
雪子の母親は雪子に怒鳴りづける事も無く、涙を流しながら優しく抱きしめてあげた。大事な娘が無事に戻ってきたのだ。
雪子の母親以外に仲居さんや、板長までもが雪子が無事に戻ってきたという事で、うれし涙を流した。
雪子は仲居さんに連れられ、雪子の部屋へと向かった。今の雪子は休養が必要だろう。
「雪子早く元気になってね!」
「今はゆっくり休んでほしい」
千枝と明日香は仲居さんに連れられて行く雪子にそう言った。
「うん……千枝に明日香君……本当にありがとう」
雪子はそれだけ言うと、旅館の奥へと行き見えなくなった。
「千枝ちゃん、明日香君……雪子を見つけてくれて、本当にありがとう」
雪子の母親は千枝と明日香にお礼を言った。
「雪子はアタシ達にとって大切な友達ですから、助けるのは当然ですよ」
「雪子が無事で、本当に良かった」
千枝や明日香も雪子が無事でよかったと雪子の母親に言った。
あぁそれと……と明日香は申し訳なさそうに
「俺の身勝手な言い分なんですが、少しでも雪子に自由な時間を設けてはどうでしょうか?雪子は女将を継ぐという事で、自分を抑え込んでいたみたいですが、最近も時々辛そうにしてたので……雪子ももっと自由になりたいと望んでいるはずです」
明日香の言った事に雪子の母親は黙ってい聞いていたが、分かったわと頷いた。
「雪子が我儘を言わずに旅館の手伝いをしてくれていた。山野さんの件で私が倒れて、雪子が代役をすることになってもあの子は文句を言わないでやってくれていた……あの子が辛そうだったと言うのも何処か分かってたつもりだったけど、甘えていたのかしら。私もそろそろ復帰するから、雪子には余り無理はさせないようにするわ」
それじゃあと雪子の母親は会釈をして、千枝と明日香から去って行った。
これ以上長居をする必要と無いという事で、旅館を後にするのであった。
帰路に着いている明日香と千枝は、互いに近すぎず離れすぎずの距離感で歩いていた。
「ねぇ明日香、雪子はこれから大丈夫かな?」
千枝は雪子の事が心配で、明日香に大丈夫かと聞いていた。
「雪子は無事に助けたんだ。後は無事に回復する事を待つだけさ」
それだけ言うと、明日香は黙って歩く。それを追いかける千枝。
何時もだったら肩がぶつかるほどの距離で歩き、もっといろいろと話しているものだが
「……」
「……」
明日香と千枝は黙りながら、目を合わせようとしない。
と言うのも原因は明日香の影の戦いのときに
――素直に好きだって言いなさいよ!!!――
――俺は千枝の事を……ずっと前から好きだったよこんチクショウ!!!――
戦いの勢いで千枝の事を好きだと大声で叫んだ明日香と、素直に好きと言えと言った千枝。今思い出すと、戦いの場で思い切った事を言ったなぁと思っている2人
簡単に言えば、恥ずかしくなり何を話せばいいのか分からないのだ。
「「あッあのさ!」」
明日香と千枝が何かを言おうとしたが、ちょうどハモッてしまい、またもや何も言えずに固まってしまった。
「あ明日香からどうぞ」
「いッいや千枝からで」
と互いにどうぞどうぞと言い合っているせいで話が全然進まなかった。
そんなやりとりがかれこれ30分ほど続き、2人は鮫河へと来た。
(そういえば……)
明日香は鮫川での出来事を思い出していた。
千枝と指切りをしたあの日の出来事を
「なぁ千枝、行き成りすぎて悪いけどさちょっと土手まで行かね?」
「え?うん……いいけど」
明日香に誘われ、一緒に土手へと降りた千枝。
土手に入り、川の水は静かに流れていた。
明日香と千枝は土手にある切り株に座り、此処であったことを話す事にした。
「此処で俺がいじめっ子たちと喧嘩したことあったよな。多勢に無勢で俺が泣かされた時の。それで千枝が俺を助けに来てくれた時の事を」
「あ~あったね。アタシが来ただけで逃げた事にはもうツッコまないつもりだけど、それで色々と話したよね。その……明日香の事が好きだって事も」
千枝はその当時の事を鮮明に思い出して、顔を赤くしながら。
「俺が強くなったら結婚してください。そう言って指切りしたっけな……俺はあの時から千枝の事を好きだって自覚したんだ」
そう言って明日香は、再度千枝が好きだと改めてそう思った。
「ねぇ明日香、なんでアタシなんか好きになったの?アタシって女の子っぽくないし、オシャレとかあんまりした事無いし、肉大好きだし……正直言ってアタシみたいなんかを好きになるなんて」
千枝が自分の事を下に見ていたが、明日香がそんな事無いと首を横に振りながら
「俺が最初は千枝の事は元気がいっぱいな女の子だと思ってた。千枝が気になってからは俺は千枝をいつも目で追っていた。笑顔を浮かべていた千枝を可愛いと思い始めていた……一目惚れだったんだ」
「俺が強くなったり、正義の味方紛いの事を続けていたのも……千枝に見てもうのと千枝に相応しい人間になりたいって思ったから。だから……その……」
明日香は何と言っていいか言葉が詰まっていたが、覚悟を決めて千枝の肩を掴んだ。行き成り肩を掴まれ赤くなる千枝。
「千枝、ハッキリ言って俺はまどろっこしい事は好きじゃない。だからハッキリと言う……里中千枝さん、俺は初めて会った時から貴女の事が好きでした。こんな俺で良かったら付き合って下さい」
明日香は人生で初めての告白をした。
そして告白された千枝の反応はと言うと……
「え……えと……本当にアタシなんかでいいのかな?」
未だに戸惑っており、本当に自分なんかでいいのかと聞いてきた。
千枝の反応に明日香は苦笑いを浮かべ
「何言ってんだよ。俺は千枝の事が好きなんだ。俺が千枝を護りたいんだ」
明日香は自身の思いを千枝にぶつけた。
明日香の気持ちが本物だという事に、千枝は赤くなりながら俯いて
「こッこんなアタシで良ければその……よろしくお願いしま……す」
千枝は明日香の告白にOKをした。
千枝がOKをしたのに明日香は何故か呆然としていた。
千枝があれ?と首を傾げていると明日香が
「いや、嬉しいはずなのに何というか……言葉が出ない」
「……ぷッ何よそれ」
明日香の言った事に千枝は吹き出した。明日香も千枝の笑っている所を見て、一緒に大笑いをした。
笑いあった明日香と千枝は互いに見つめ合いながら
「千枝、改めてだけど……これからもよろしく」
「うん、よろしくね」
明日香と千枝は笑いあいながら帰る事にした。恋人らしく手を繋いで……
――夜――
夜は未來が珍しく早く帰ってこれたので、3人で夕ご飯を食べていた。
「そう言えば雪子ちゃんが無事に見つかってね、雪子ちゃんの御母さんから連絡があったんだよ。明日香達が雪子ちゃんを見つけたって。雪子ちゃんを何処で発見したんだい?」
未來が明日香に何処で雪子を見つけたのかを尋ねていた。
「何処ってジュネスだよ。見つけた時はかなり疲れていたけど」
明日香の言った事に成程と未來は頷きながら
「ジュネスは何人かが見回っていたんだけどね、何処かですれ違ったのか……でも雪子ちゃんが無事に見つかってよかったよ」
未來はそれだけ言うとそれ以上は何も言わなかった。
「父さん俺を咎めたりはしないの?俺達は勝手に雪子を助けたんだよ?」
「確かに捜索をするのは警察の役目、でも明日香達が雪子ちゃんを助けようと言う気持ちは、遊びでもなんでもない事は分かっているつもりだよ。けどこれっきりにしてほしいな。遼太郎君だとお説教は長いはずだからね」
未來は笑いながらそう言った。明日香は未來の寛大な心に感謝した。
「あのさ父さん母さん、ちょっといいかな?大事な話があるんだ」
明日香の大事な話に未來と明野は首を傾げていると、明日香は千枝との関係について話した。
「こんな時期に不謹慎かもしれないけど……俺、千枝と正式に付き合う事になったんだ」
明日香の話に未來と明野は黙って聞いていたが、明野がまぁまぁまぁ!と顔を輝かせた。
「何時告白したの!?やだもぉ~もっと早く行ってくれたらお赤飯炊いたのに~!」
「まぁ明野さん落ち着いて、でも明日香が千枝ちゃんとか……漸くって感じだねぇ」
「何時か千枝ちゃんにお義母さん、なんて呼ばれちゃうときが来るのかしらぁ」
明野は興奮しながら明日香の両肩をグワシ!と掴むと
「明日香、絶対千枝ちゃんを泣かせるんじゃないわよ」
と強く言われ、明日香ももちろんだと頷いた。
こうして明日香が千枝との事について話した事で、軽いお祝いとなったのであった。
自分の部屋に戻った明日香は、今日は特に一日が長く感じた……とそう思っていた。
明日香はふと自分もペルソナの力を手に入れたから、もしかしてテレビに自力で入れるのでは?とそう思った。
試に自室のテレビに手を当ててみると、手がテレビに吸い込まれてしまった。成程テレビの世界に入るにはペルソナの力が必要のようだ。
「しかしシャドウやらペルソナやらと、有りえない事が続いてるな……」
と明日香は一瞬遠い目をしていたが、改めて事件の事について纏めてみた。
今のところは、殺された山野アナに関わった人間が襲われている。小西先輩は山野アナの遺体を見た第一発見者だし、雪子の家の天城屋旅館に山野アナが泊まってトラブルがあった。
今のところ襲われているのが、山野アナに関わったあるいは目撃した女性となっている。犯人が女性だけを狙っていると考えても少し疑問が残る。
小西先輩は酒屋の娘ではあるが、山野アナや雪子と言うより天城屋旅館のようなメディアに取り上げられるほど有名ではない。
「ん?メディア……?」
明日香はメディアと言う言葉で何かを思い出した。そう言えば山野アナや小西先輩、そして雪子もテレビの中に放り込まれる前に一度ニュースで顔が映っていた。小西先輩はモザイクがかかっていたが、稲羽であそこまで目立つ髪型は早々いないだろう。
「まさか、マヨナカテレビに映ったりテレビに放り込まれている人たちの共通点は、山野アナに関係してる訳でもなく、女性と言う訳でもない。メディアに取り上げられた人間が狙われているのか?」
山野アナに関わったり、襲われたのが3人とも女性という事で惑わされそうになるが、もし山野アナの遺体を最初に発見したのが男であったら?もしそうだったら狙われるのが女性と言う線は無くなる。
そしてもし次に襲われる人間が山野アナと関わりを持ってない人物がニュースに出て、マヨナカテレビに映ったらまさにメディアに取り上げられた人物が狙われるという事になる。
「まぁ次のマヨナカテレビに映れば分かるか……って人の命が危うい事になるって言うのに、不謹慎だな」
今日は疲れており、物事をマイナスで考えてしまいそうだ。もう今日は早く寝ようとベットに寝ようとしたら、電話が着信で震えた。
誰からだ?と見てみると千枝の名前が、明日香は直ぐに着信ボタンを押した。
「如何したんだ千枝?」
『あッゴメン明日香、若しかして寝ようとしてた?』
「いやまだ寝ないさ。それで如何したんだ?」
明日香は何か要件を聞いてみると
『いや、明日香の事だから事件の事をあれこれ考えすぎちゃって、頭の中がパンクしそうになってるんじゃないかって』
明日香は千枝がさっきまでの自分を見ていたのでは?と思ってしまった。
「凄いな千枝、分かったな。千枝は何でも分かるんだな」
と千枝に感心してると
『なんでも分かるわけじゃないよ。明日香が考えている事なら分かってるつもり。明日香もあんまり自分一人で考え込まないで。その……彼女のアタシが居るんだからさ、アタシをもっと頼ってほしいな』
「あぁ分かった。もし困った事があれば、千枝に助けてもらうよ」
明日香がそう言うと、千枝はよろしいとそう返した。
と千枝があッあのさ……と急にしおらしい雰囲気を出しながら
『こッ今度の休みの日にさ、2人でどっか行かない?』
「え?それって若しかしなくてもデート?」
『うッうん……ダメ?』
「いッいや駄目じゃない、寧ろどんと来い!って感じだよ」
友人同士でのお出かけではない。恋人同士の初めてのデートだ。此処で断ったら男が廃るというものだ。
電話越しの千枝もよかったとホッと一安心の様だ。
「それで、出掛ける場所は何処?」
『えっと……ジュネスでもいいかな?』
千枝の要望に、明日香はズッコケそうになった。
初めてのデートが地元で、店長が友人の父親で、そして友人がそこでバイトしてるのだ。もし2人きりの時を目撃されたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
『前にテレビを買い替えようって事でジュネスに言った時に、テレビの中に入ったりで大騒ぎだったじゃない。だから改めて見に行こうっと思って』
「うん、いいんじゃないか?それ位だったらお安い御用さ」
最初から遠目の場所に行っても千枝が戸惑うだろう。だったら最初は地元などで慣れさせて、遠くの場所に行くことにしよう。
『よかった。じゃあ今度の休みにジュネスでね?それじゃお休み。また明日ね』
「お休み千枝。今度の休み楽しみにしてるから」
互いにお休みと言って、電話を切った明日香。
その顔は笑みを浮かべていて、小躍りをしていた。
そしてベットに横になると、たった数分で寝息を立ててしまったのであった。
次回は学校生活回ですかねぇ
エビが出るかも